本レポートは、英語による2018年1月発行「MSCI Inclusion of Domestic A Share s is China's Grand Entrance onto World Stage」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

2017年6月、MSCIは新興国関連および世界関連の主要指数に中国A株を採用することを発表した。2018年8月になると、中国A株は象徴的に両インデックスの0.7%と0.1%をそれぞれ占めることとなる。当社では、この構成比率は中国国内株式市場の実際の規模と比べると非常に小さいと考えている。現在、中国の構成比率が実際の規模に比べて小さくなっている理由、そしてその規模が構成比率に適正に反映された場合の同国のポテンシャルについて解説する。

1. MSCIは、当初222銘柄の採用を予定しており、その時価総額は外国人投資家組入れ係数(FIF)およびインデックス組入れ係数(IIF)調整後で348.5億米ドルである。一方、調整前では、時価総額の合計は3.8兆米ドルとなる。

2. インデックス構成比率の引上げにつながり得る4つの要因として、MSCIによるIIFの引上げ、中国中型株のインデックスへの採用、金融改革の順調な実施によるFIF押し上げの可能性、上海および深セン取引所全体のその他銘柄のMSCIインデックスへの追加が挙げられる。

3. 上記の要因を考慮すると、MSCIインデックスに採用される中国株式の時価総額の拡大余地は、6,970億米ドルから6.4兆米ドルということになる。中国は、インデックスの構成比率においていずれ第2位に浮上する可能性がある。

概観

今日の投資家は、日本を除くアジア株式、または日本を除くアジア太平洋株式のポートフォリオの設計や運用に馴染みがある。しかし、「中国を除くアジア」というポートフォリオが一般的になる日のことを想像してみて欲しい。当社では、これはそれほど現実離れしたアイデアではないと考えている。

MSCI Emerging Marketsインデックスやより広範なMSCI AC World インデックスへの中国A株の採用に対し、投資家はベンチマークにおける中国の構成比率の低さを指摘して冷ややかな反応を示した。しかし、当社ではこの反応は的外れであると考えており、中国のMSCIへの採用は世界的な経済大国としての中国の信用を高めるだけでなく、中国国内市場へ流入する世界の投資資金の増大を促すものと見ている。

また、投資家にとっては、今や世界第2位の経済大国となった中国について、投資戦略を再考するきっかけにもなっている。中国は過去10年にわたって大幅な経済成長を見せてきたものの、中国の投資比率がこれまで低位にとどまってきたことは、世界の投資家が中国の付加価値を考慮してこなかったことを意味している。しかし、当社では、中国はいずれ、しかもかなり早い段階で、運用ベンチマークにおいて投資家がもはや無視できないほど高い構成比率を占めるようになると見ている。

MSCIがインデックス算出において中国A株を含める際の計算方法

MSCIの主要指数への中国A株の採用にあたっては、大型株222銘柄が組み入れられ、その時価総額は合計3.8兆米ドルにのぼる1。しかし、実際にインデックスの算出に反映されるのは、「外国人投資家組入れ係数(FIF)調整後」の時価総額である6,970億米ドルにすぎない。これはある意味、中国が一部の経済セクターや株式に課している外国人投資家保有制限などの問題に対するディスカウントのようなものだ。その上、また別のディスカウントが適用される。部分的「インデックス組入れ係数(IIF)」と呼ばれるもので、インデックスに組み入れられるのは6,970億米ドルの時価総額の5%のみとなる。これが適用される名目上の理由は、中国が金融改革や厳格な資本規制、外国人投資家が市場へのアクセスにおいて依然直面している障壁への対応において、未だ道半ばであるという事実だ。組入れが完了する2018年8月には、中国A株の構成比率はMSCI EMインデックスで0.7%、より広範なMSCI AC Worldインデックスで0.1%となる見込みである2

1. MSCI、2017年6月時点

2.中国A株は中国H株とは異なります。中国H株は香港に上場する中国企業で、海外の投資家が自由にアクセスでき、すでにEMインデックスに採用されています。

図表1: MSCIの各インデックスにおける中国の構成比率

MSCIの各インデックスにおける中国の構成比率

出所: MSCI(2017年6月19日時点のデータ)

構成比率拡大に向けた中国のロードマップ

当社では、中国に課された2重のディスカウントは不当ペナルティーであり、中国国内市場がインデックスに十分に反映されない結果となっていると考えている。中国A株の5%という組入れ係数については、台湾、韓国、日本、シンガポール、そして香港や米国で上場している中国企業の大半でさえ現在既にそうなっているように、中国もMSCIによって迅速に100%に引き上げられる可能性があり、それが実現するとの見解を強く持っている。韓国と台湾の両国は、経済や株式市場が中国よりも小規模でありながら、MSCI EMインデックスにおいてそれぞれ15%、12%と大きな構成比率を占めているが、7年以内にインデックス組入れ係数が100%となることを目指した。中国のインデックス組入れ係数が5%から100%に引き上げられるだけで、A株の構成比率は20倍、MSCI EMインデックスで言うと0.7%から14%に拡大するポテンシャルがある。

これまでのところ、MSCIは、上記のディスカウントを解消するための改善点として、以下のようないくつかのポイントを挙げてきた。

  • 中国A株市場が国際的な市場アクセス基準により近づくこと
  • ストックコネクト・プログラムの強化
  • 日次取引制限の緩和
  • 取引停止に対する取り組みの継続的な進展
  • インデックス連動運用商品の組成に対する規制のさらなる緩和

今後、中国A株の将来的な構成比率拡大へのロードマップにおいては、以下の論点が中心になると考えられる。①インデックス組入れ係数の引上げ。5%という超低水準は、これまでMSCIのインデックスに初めて採用された国に適用されてきたなかで最も低い。②中国中型株のインデックスへの組入れ。当社の試算では、MSCIの厳格なスクリーニング基準を用いても、中型株を追加するだけで組入れ銘柄数が現在の222銘柄の倍近くになる。③金融改革のポジティブな進展が続いた場合、FIFが引き上げられる可能性がある。④中国市場の膨大なポテンシャルは、現在のMSCIのユニバースにとどまらないと考える。同ユニバースに採用されている銘柄の時価総額は、国内の上海および深セン取引所に上場されている株式ユニバース(上場銘柄数3,500、時価総額合計8.6兆米ドル)のごく一部に過ぎない。

韓国と台湾のケース・スタディー- 韓国が6年近く、台湾が8年かかった道のり

韓国の場合、MSCI EMインデックスにおける組入れ係数が100%となるまでの道のりは7年(1991~1998年)を要した。韓国証券取引所(KSE)が全認定証券会社を外国人に開放した1992年に20%であったIIFは、市場が金融自由化や市場開放に向けた継続的な進展を見せるなか、1996年には50%になった。1998年にはIIFがついに100%となったが、この時は外国人による投資の上限が撤廃されただけであった。韓国市場の自由化に拍車をかけたのはアジア金融危機で、同国は国際通貨基金(IMF)から資金援助を受ける代わりに金融セクターを対外開放することを要請された。

台湾の場合は、MSCI

EMインデックスに100%組み入れられるまでに8年(1996~2004年)近くかかった。同国のIIFは、すべての外国人投資家による投資が合計で10%を上限として認められた1996年半ばに50%でスタートしたが、外資規制が完全に撤廃された2000年には80%に、そしてQFII(適格外国機関投資家)制度の規制が緩和された2004年にはついに100%に引き上げられた。アジア金融危機は台湾の株式市場に大きな打撃をもたらしたが、輸出主導型の同国経済は米ドルの大量流入が追い風となって繁栄した。市場自由化を後押ししたのは、世界の金融市場という舞台への進出を熱望する台湾政府の革新的で積極的な姿勢であった。

当社では、過去3年で金融市場開放の進展が加速している中国も、これに似た戦略をとるのではないかと考えている。

100%のインデックス組入れに向けた中国の戦略

当社では、100%のインデックス組入れに向けた中国の戦略は、韓国や台湾がとってきた措置をすべて含むが、より早期に達成されるだろうと見ている。市場の自由化は加速的に進んでおり、準備はすでに整っている。

近年、中国が市場自由化に向けて行った最初の措置は、外資出資比率上限の20%から30%への引上げと上海・香港ストックコネクト・プログラムの実施で、2014年に開始された。中国は、人民元のオフショア取引プログラムを通じて、自国通貨の自由化の実施にもすでに一部着手している。同プログラムは香港を中心に様々な国で2004年から行われているが、近年になって動きが加速している。

IMFは、2016年に人民元を特別引出権(SDR)の構成通貨に追加した。これは、中国の金融市場が世界の金融に融合された証左である。中国の自由化へのコミットメントは、2016年12月に深セン・香港ストックコネクト、そして2017年7月にはノースバウンド・ボンドコネクトの開始につながった。ストックコネクト・プログラムは最近拡大され、海外の機関投資家が制約の多いQFIIやRQFII(人民元適格外国機関投資家)制度よりも自由にアクセスできるようになり、中国A株の市場開放におけるゲーム・チェンジャーと言われた。2016年11月には、金融セクター解放のさらなるステップが発表され、金融機関の外資出資規制が大幅に緩和されるとともに、資産運用会社といった一部のサブセクターについては完全に撤廃された。

当社では、中国の自由化の次のステップは、許認可ベースのIPO(新規株式公開)プロセス、完全双方向のボンドコネクト・プログラム、人民元のさらなる国際化、外資出資規制の完全撤廃などになると見ている。また、「超業態監督機関」の役割を務める金融安定発展委員会が設立されたことから、より一貫性があり統合された政策も制定されるだろう。

改革のスピードから判断して、中国のMSCIインデックス100%組入れへの動きは、台湾や韓国のケースよりも速いペースで進むと考えている。これを支えるのは、巨大な市場規模、および物事を迅速に決断し実行することができる統制経済という、中国独自の2つの要因だ。市場規模が巨大であることは、その破壊的な影響を世界の投資家が不安視していることから、組入れ比率の引上げにおいて足かせになってきたが、当社では、2018年の組入れ開始が最終的にスムーズに実施されることで、100%組入れへの動きが加速すると考えている。出だしはゆっくりでも、その重要性の高さからスピードアップしていくものと思われる。

100%のインデックス組入れに向けた中国のロードマップ

図表2: 100%のインデックス組入れに向けた中国のロードマップ

100%のインデックス組入れに向けた中国のロードマップ

出所: MSC I、ゴールドマン・サックス・インベストメント・リサーチ(2017年)

中型株の組入れによりユニバースはさらに拡大

インデックス組入れ係数の引上げでMSCI EMインデックスにおける中国A株の構成比率は容易に20倍に拡大するが、それ以外では、中型株の追加というのが、今後のMSCIの組入れ行程において取られそうな次のステップだと当社は考える。これによって、EMインデックスに含まれる銘柄数は直ちに2倍になる。

MSCIには現在、459銘柄で構成されるChina A Internationalインデックスがあるが、そのうちの195銘柄が中型株である。これらの中型株の時価総額はフルに計算すると1兆米ドルに上るが、MSCIの厳格なスクリーニング基準を用いると、「外国人投資家組入れ係数(FIF)」調整後の時価総額で2,800億米ドルに低減する。これらの中型A株195銘柄がEMインデックスに加えられると想定すると、ユニバースは大型株の222銘柄から417銘柄に拡大することになる。同様に、(MSCIが現在適用している5%の代わりに)100%のインデックス組入れ係数を用いると、調整後の時価総額は大型株のみの場合の6,970億米ドルから(中型株を含めると)9,770億米ドルに拡大する。

中国の実際の時価総額と適用されている時価総額のギャップを縮める

株式の時価総額が1兆米ドル近くなる可能性をもってしても投資家が強い関心を示さないとしたら、この数字がその中に含まれている株式の実際の総時価総額のほんの一部に過ぎないという点を指摘したい。MSCI EMインデックスは浮動株調整後の時価総額で加重平均されたインデックスであるが、国または株式市場が特定のセクターの株式に課す外資出資規制に基づいてFIFが適用される。例えば、EMインデックスに組み入れられる222銘柄はFIF適用後の時価総額が6,970億米ドルとなるが、これは浮動株に基づく総時価総額3.8兆米ドルの20%にすら満たない。

2017年11月、中国は金融セクターを解放する計画を発表さし、証券会社や資産運用会社、先物取引合弁企業に対する外資出資比率の上限を51%に引き上げ、3年後には制限を完全に撤廃するとした。中国の銀行および資産運用会社における20%の外資出資比率上限、同分野における25%の外資保有合計の上限も撤廃される見込みとなっている。保険事業の合弁会社の外資出資比率上限は3年後に51%に引き上げられ、5年後には完全に撤廃される予定となっている。

中国がすでに中国国内企業への外資出資規制を撤廃する方針を明らかにしていることから、当社では、30%の外資出資上限を想定しているMSCIのFIFもやがて適用除外となり、組入れ株式の時価総額が完全に反映されると考えている。中国では国有企業(SOE)の割合が高いことや浮動株の割合が低いことも認識しているが、やがてはシンガポールと同様の展開を辿り、浮動株が増えていくと見ている。このように、FIF適用除外の影響として、大型株および中型株ともに組入れに適格な中国A株の時価総額は1兆米ドル近くから4.8兆米ドルに引き上がると試算している。

図表3: 中国の実際の時価総額と適用されている時価総額のギャップは非常に大きい

中国の実際の時価総額と適用されている時価総額のギャップは非常に大きい

出所: MSCI(2017年)

A株ユニバース以外のポテンシャル

当社では、既存のChina A Internationalインデックスに含まれている大型株および中型株のMSCIユニバース以外にも、国内市場投資のポテンシャルはまださらにあると考えている。深センおよび上海の2つの国内取引所には3,500を超える銘柄が上場されており、両取引所の時価総額は合計で8.6兆米ドルとなっている。正確に言うと、これらの株式の中には、時価総額規模の小ささ、流動性の低さ、取引の一時停止やその他の望ましくない要因によって、機関投資家は投資することができないものもある。

ストックコネクトにおいて取引可能であり、時価総額が30億米ドル超で、暫定のMSCIインデックスにまだ入っていない国内上場企業を当社でスクリーニングしたところ、潜在的な組入れ候補がさらに283銘柄浮かび上がった。これらの企業の時価総額は合計1.6兆米ドルで、外資出資上限の30%または浮動株比率の低い方を適用すると、インデックスに追加され得る調整後時価総額は少なくとも4,000億米ドルとなる。

図表4: MSCI China A Internationalインデックスのユニバース以外のポテンシャル

MSCI China A Internationalインデックスのユニバース以外のポテンシャル

出所: MSCI(2017年)

中国A株は国内動向を直接反映するエクスポージャーの拡大を提供

世界の投資家は、オフショア中国株式である中国H株には馴染みがあり直接アクセスすることができる一方で、国内要因で独自の動きをするA株市場については、大半が限定的な理解にとどまっている。中国H株は香港に上場しており自由にアクセスすることができる中国企業で、現在MSCI EMインデックスの約28%を占めている。

国内株式市場は中国経済の変化をより反映していることから、中国A株が加わることによってEMインデックスのセクター構成は変化すると考えられる。例えば、中国A株のインデックスでは、消費関連や金融、資本財・サービス、ヘルスケアといったその他の内需主導型企業がより大きな部分を占めている一方、エネルギーやテクノロジー・ハードウェアといったセクターは構成比率がより低くなっている。

このことは、経済指標と市場への反映の間の食い違いを嘆いてきた投資家の長期にわたるフラストレーションに対し、解決策を提供するだろう。急拡大している中間所得層は、その消費パワーをますます見せつけながら、経済の推進力となってきている。しかし、オフショア市場のパフォーマンスにはこれがほとんど反映されていない。したがって、中国A株を組入れることにより、中国国内の構造的動向を直接反映するエクスポージャー拡大させられる。

図表5: 中国A株のセクター別内訳

中国A株のセクター別内訳

出所: MSCI(2017年)

インデックス構成比率で中国は日本を上回り得る

中国国内市場は当社の試算で合計6.4兆米ドル(深センおよび上海証券取引所のみを含み、香港証券取引所上場の中国企業は除外)となるが、この規模の大きさを考えると、グローバルなMSCI AC World インデックスに占める中国の総比率(現在は2.9%に相当)は、いずれ日本を追い越すと見ている。同インデックスに占める日本の比率は7.8%だが、時価総額の合計は5兆米ドルに満たず中国より小さい。

このように、「日本および中国を除くアジア・インデックス」というものがやがて一般的となる可能性は考えられない話ではなく、中国市場の厚みや重要性を考えると、同市場に特化した投資戦略や運用チームを持っておくことは妥当と言える。中国の市場自由化は構造的な強みでありスピードを増すものと見られ、またMSCIの新興国関連および世界関連の主要指数への採用は、膨大な投資機会がもたらされる予兆である。中国は世界の投資家の大半から重要視されてこず、ポートフォリオにおいてアンダーウェイトされる傾向にあったことから、投資家はこうした動向を活かす中国のエクスポージャーや戦略、あるいは乗り遅れるリスクを再考する必要がある。