2018年の振り返り

第1四半期は好調だった新興国市場債券だが、残りの2018年は厳しい時期となった。この資産クラスのすべての主要なセグメントが年末には米ドル建てでマイナスの領域に突入する可能性は大きい。この見通しを執筆している時点においては、新興国債券のセグメントでは、対内債券のパフォーマンスが最も悪く8.7%減(JPモルガンGBI-EMグローバル・ディバーシファイド)、次に対外債券の4.8%減(JPモルガンEMBIグローバル・ディバーシファイド)、最後に社債の2.0%減(JPモルガン CEMBIブロード・ディバーシファイド)となっている。

つまり、2018年以前の2年間力強いパフォーマンスを見せた新興国債券が急激な転換点を迎えたことになる。では、新興国債券が1年の大半で下落し続けた原因はなんだったのか?

すべては米国経済の疲れを知らない強さから始まった。当社の2018年の市場見通では新興国債券を楽観していたが、FRBの利上げがこの資産クラスに対するリスクであることは指摘した。そして、まったくその通りのことが起こってしまった。トランプ大統領の減税と政府支出増が功を成し、米国経済が世界のほかの経済圏より力強く成長していることが明確になったことで、市場はFRBによるさらなる利上げを織り込み、米ドル高と新興国通貨の下落をもたらした。

付け加えれば、シリアの内戦、イランの核交渉、ベネズエラ危機を含む地政学的リスクの高まりと、力強い米国の需要の組み合わせが、10月に一時1バレル85米ドルとブレント原油の4年ぶりの急騰を招いた。また、石油価格の高騰が2018年の総合インフレ指数の上昇を再加速させた。さらに、主要な石油純輸入新興市場の交易条件が大幅に悪化すると共に、国債収支の悪化から新興国市場通貨のさらなる押し下げ圧力となってしまった。最も問題の多いいくつかの新興国経済においては、対外債務需要増に資金調達コスト増と供給減が重なり、「三重苦」となった。

新興国市場の多くの中央銀行は対応策として利上げを強いられることとなった。(金利が60%に達した)アルゼンチンや(リラが過去最安値まで暴落した)トルコを含む最も脆弱な国々は、最後には本格的な通貨危機に見舞われることになった。同様の危機が他の新興国でも発生するという懸念が広がった。投資家は、突如、ジャンク級へと滑り落ちる南アフリカ、期待外れな経済成長と財政赤字への対応を迫られるブラジル、新たな経済制裁の懸念が渦巻くロシアといったリスクに再び目を向けざるを得なくなった。これらすべてが悪化するセンチメントと資産の流出、全体的な市場の弱さを生み出した。

いくつかの特異な事象以外にも、新興国市場は、1年を通して、その他様々な外的ショックに見舞われた。G4中央銀行のバランスシートの縮小が遂に始まり、大量に行われていた国債買いの段階的な削減が影響を及ぼし始めた。新興市場は、高い経済成長率と相対的に高い金利でホットマネーの魅力的な流入先となり、量的緩和から多大な恩恵を受けてきた。だが、世界的に流動性の縮小が進む中、新興国市場は資金の流出に対して脆弱となった。トランプ大統領の貿易問題における攻撃的で大げさな物言いもこの資産クラスの逆風となっている。事実、本格的な中国との貿易戦争はどんなものでも新興国ユニバースの成長に影響を及ぼす。また、トランプ大統領は中国だけを標的にしている訳ではなく、トランプ大統領が言うところの「不公平な」貿易慣行を行う国として、メキシコや韓国を含むその他の多くの新興諸国が名指しされている。

2019年に向けて

2019年の新興国市場に対する市場コンセンサスの見通しは、2018年初と比べて楽観的ではなくなっている。一般的な見方は、利上げ及び/もしくはバランスシートの圧縮により、主要な中央銀行が2019年いっぱい流動性の引き締めを行うというものである。流動性の引き締めが新興市場の資産に対する主な逆風であると述べたが、新興市場の政府の債務が1990年代以来最高水準であるためなおさらである。さらに言えば、中国の民間部門のクレジットは依然として懸念材料である。

しかしながら、先進国経済の緩やかな成長鈍化によってもたらされる微かな希望が見える。実際、より中国に依存する新興国経済の成長は、相対的により魅力的に映り始める可能性がある。さらに、他の新興諸国にゆっくりと波及しはじめた中国の成長減退は、既に市場で織り込み済みである。さらに、長引く貿易戦争がもたらす結末も考慮しなければならない。しかし、中国は、一定の範囲で関税の影響を埋め合わせる金融・財政刺激策を織り交ぜることで当初は影響を緩和することができるだろう。

また、配慮すべき国特有の課題もある。2018年に起こった問題の結果、アルゼンチンは現在国際通貨基金(IMF)の支援を受けており、政府は積極的な財政政策を条件付けられている。政府は合意内容を実行する構えのようであるが、アルゼンチンでは特に2019年10月末に総選挙を控えていることから、市場はIMFの融資プログラムの持続性に懐疑的である。当社では、アルゼンチン経済を支えるIMFからの融資を今後も受けるため、アルゼンチンはプログラムの合意内容を守ると考えている。

トルコにも、非常に不安定な政治背景、通貨安、2桁のインフレ率といった懸念がある。多くの投資家が2018年に直面した危機に対するトルコ中央銀行の対応は遅過ぎただけでなく、トルコ中銀が取った対策は不十分だったと憂慮している。当社では、経済の低迷による企業と銀行部門への影響をトルコはコントロールできると考えている。

一方、南アフリカでは、より企業寄りの新しい大統領が就任し、投資適格級への完全なる復活を目指している。ブラジルには、 物議の的ではあるが、ようやく強いリーダーが誕生した。しかし、財政赤字の削減に向けた改革を実施するための圧力は高まっており、もう時間がなくなってきている。

最後に、2019年も重要な選挙の日程が目白押しである。こうした選挙は常に一定程度の不安定要因となる。注目すべき選挙は、インドネシア、インド、フィリピン、(軍が約束を守るとすれば)タイ、アルゼンチン、南アフリカである。全体的に当社では、継続性を予測しているが、事態が混乱する可能性も常に排除することはできない。

より建設的な見解

2019年の市場コンセンサスは、ベア(弱気)であるものの、当社では、個別の新興市場ではよりうまく対処できるものと考えている。最も重要であるのは、2019年は時が経つにつれて、米国の2020年の景気後退の可能性が注目され、米国での利上げの回数が予想よりも少なくなるだろうと当社が考えている点である。より少ない利上げ回数は、新興国債券にとってかなりの好材料である。 さらに結論から言うと中国と米国の間に本格的な貿易戦争が起こるとは考えていない。2018年のトランプ大統領は、好戦的な態度を見せていたが、11月のG20サミットでは、 習近平国家主席と一時的な休戦に合意し、歩み寄りの姿勢を見せた。合意に至ることができれば、両国、さらにはその他の世界の国々にとってプラスとなる。経済成長が減速する中国には、米国と戦争する余裕はなく、譲歩すると見られる。もちろん、新興国債券は均一の資産クラスではないことを忘れないようにしたい。 国によっては、厳しい2019年となるところもあるだろうが、それがこの資産クラス全体に反映されるという訳ではない。ボラティリティを乗り越えるためには、以前にも増してアクティブな運用が重要になってくるだろう。

微かな希望:トルコの経常収支の強制的な是正

微かな希望:トルコの経常収支の強制的な是正

出所:ブルームバーグ、IMF