調整後の一年

グローバル・クレジット市場は、2018年年初の予想通りにはパフォームせず、多くの投資家を落胆させた。過去数ヶ月間を徹底的にレビューし、2019年に進むべき道筋を示す。

超過リターンについては、2018年は過去10年間において3番目に 悪い年だった。2018年より悪かったのは、2008年と2011年しかない。この両年において、主要な先進国経済は既に景気後退に陥っているか、陥る手前だった。さらに、これらの年にはデフォルト率が増加したため、投資家にとっては、クレジット・エクスポージャーを減らし、より高いプレミアムを要求するに足る理由があったのである。

2018年、そして、2019年はどうだろう?過去数ヶ月において世界の主要な経済指標に弱含みが見られるものの、ヨーロッパも米国経済も景気後退からはほど遠い。また、下半期の弱含みな状況も企業のファンダメンタルズにまだ影響を及ぼしていない。例えば、2018年第4四半期に大幅な価格下落となった米ハイイールド債セクターでは、引き続きレバレッジの低下とインタレストカバレッジレシオの上昇のトレンドが過去数年間続いてい(図表1)。

図表 1:

図表 1:

出所:クレディ・スイス(2018年9月30日現在)

米国のマクロとミクロのファンダメンタルズ両方の健全性を考えれば、2018年に起きたバリュエーションの調整は正当化し難いものである。とは言え、市場が現在割安だと結論付けるのは、安易過ぎるだろう。つまり、調整の原因を深く、よりきめ細かく分析することが必要だ。2018年のクレジット市場の変動を見れば、原因は1つではなく、異なるイベントによって引き起こされたことが明白となる。それらの要因の重要性はむろん同等ではない。

(これらのイベントのリストの中で)真っ先に思いつくのは、2018年の間ほぼ絶え間なく話題となった貿易戦争である。トランプ政権が火付け役となったこの問題は、今ではほぼ将来的な米中貿易関係のみに焦点が当てられている。しかし、米国の輸入自動車に対する関税の導入は、ヨーロッパにとってもダメージとなり得る。さらに、重要度では劣るが、政治的要因として忘れてはならないのが、2018年に市場を不安定にさせたイタリアと英国の不確実性である。

貿易戦争と政治的要因がさらなる問題を生み出し、2018年のクレジット市場における脆弱性を高める要因がさらに増した。その1つがシクリカル・セクターの弱体化である。特に自動車生産やゼネラル・エレクトリック(GE)のような工業セクターが脆弱になっている。

その他の波及効果がクレジット市場からの資金流出である。ユーロクレジットや米ハイイールド債のような市場が他のクレジット市場よりも強く影響を受けた。資金流出に加えて、中央銀行による金融引き締め政策が追い打ちをかけ、クレジット市場の流動性に重くのしかかった。さらに、最近の石油価格の下落がエネルギー・セクターのスプレッドに対する圧力となった。

今後数カ月において投資家にとって重要な課題は、未だに堅調なファンダメンタルズと、これらのクレジット市場における数々のマイナス要因との間で、いかに折り合いをつければ良いかということだろう。当社の答えは、重要性の順に要因をランク付けし、それらがどのようにつながり合っているか評価すること、さらには、当社の投資テーマと、それらのテーマがどう要因と関連しているかを勘案することである。

今後のクレジット市場において最も重要な要因は、貿易戦争の影響にあるというのが、当社の見解である。12月のG20首脳会議で米中が合意した停戦はクレジット市場にプラスとなるものの、両国の一貫性のない言動は、今後もボラティリティを上昇させ続けるだろう。貿易市場に起因するボラティリティに対抗するために最も費用効率の高いツールとして、デリバティブの利用増を勧めると共に、貿易戦争からより影響を受けやすい自動車と工業セクターをアンダーウェイトとすることを推奨する。

さらに、流動性の喪失も大きな問題だと見ている。世界中の中央銀行が流動性の引き締めを行い、投資家はクレジット市場から資金を引き上げた(図表2)。しかし、中央銀行の動向は既に織り込み済みであると考える。クレジット市場からの資金の流出については、資金がどこに行ったのかがよく分からない。米国の投資家にとっては、マネーマーケットが魅力的な選択肢となっている。しかし、この選択肢はユーロや日本円の投資家にはない。そのため、2019年には流出した資金が部分的にクレジット市場に戻ってくると見ている。

図表2:

図表2:

出所:クレディ・スイス、ICI

最後に今後も高まる政治的リスクにハイライトを当てたい。イタリア政府がEU(欧州連合)の財政規律に順守する意向を示したため、イタリアの状況は改善しているが、英国の状況は依然非常に不安定である。当社では、しばらくの間これら両国における大きなエクスポージャーは避ける。

市場要因

上記で触れたように、市場要因だけでなく、今後の戦略を定義するためには、これらの要因を当社の投資テーマと擦り合わせる必要がある。このためにも、常に変化し続けるグローバル・クレジット市場に焦点を合わせ、関連性を保つためにも、2018年の投資テーマを徐々に差し替えていく。

今後は、クレジット市場のボラティリティの高まりと流動性の低下に対応するため、ポートフォリオ構築とリスク管理において、CDS指数の活用を重視していく。また、ライジングスター銘柄とハイイールド債のポジションを減らす。そのため、自動車と工業セクターをアンダーウェイトとする。さらに、イタリアと英国のクレジット・エクスポージャーに対しては慎重姿勢を保つ。

過去7年間において、2016年を除いた6年間、フォーリン・エンジェル銘柄よりも、ライジングスター銘柄の方が多かったが、ライジングスターよりも、フォーリン・エンジェルの識別に集中し、利益を得る方が堅実であると考える。さらに、ファンダメンタルズは未だに堅調であることからハイイールド債から完全に手を引く訳ではないものの、エクスポージャーを減らす。近年、より多くの伝統的な投資適格債の投資家がリターン強化のためにハイイールド債に触手を伸ばす傾向があったが、クレジット・サイクルの終盤に近づき、2019年には、こうした投資家が資金を引き上げるリスクがあると思われる。このテーマは2018年に始まり、おそらく2019年も続くだろう。両方での削減がより保守的なセクターへの資金の流入につながると見込まれ、自動車や工業等のシクリカル銘柄のエクスポージャーの縮小を暗示させる。

いくつかの投資テーマを変えるつもりだが、据え置くテーマもある。米短期債の3.6%を超えるイールドは引き続き充分な対価であり、引き続き選好する。さらに、ヨーロッパのハイブリッド債と金融債の優先順位も高く据え置く。また、A格からBBB格の中国の国有企業(SOE)の短期債が魅力的となっている。

投資テーマ

2019年には、1桁台前半か半ばのリターンを期待する。FRBの利上げサイクルが最終局面に近づいてきていることから、2018年のような利回りの下落はなく、より穏やかな相場となるとみている。さらに、2018年に大きく上昇したクレジット市場のスプレッドは、リスク対比で十分な対価をもたらし、2019年に向けて小幅な超過リターンを期待させる。

2019年に対する穏当な期待の一方、クレジット市場にはその他にどのようなリスクがあるのだろうか?主なものは貿易戦争である。ヨーロッパと中国の休戦が長く続かず、米国が関税を課し続けるのなら、インフレへの影響は明らかだ。FRBは利上げを加速せざるを得なくなるかもしれず、これが民間セクターの調達コストを上げる可能性がある。同時に関税による輸入価格の上昇は、企業の損益に打撃を与えるだろう。財務コストとより高い輸入コストは、クレジットが引き続き強気になると当社が考える主な理由の1つである企業のファンダメンタルズの悪化につながる。その他のリスク要因としては、市場の流動性がある。特にECBの債券購入プログラムの終了とFRBのバランスシートの縮小に市場がどのように対処するかに注目が集まる。

2019年に向けて確かな一歩を踏み出すため、投資ホライズンを12ヶ月から3ヶ月に縮め、FRBに倣ってデータへの依存度を増やす。その結果、市場流動性に加えて、資金調達と仕入れ価格指数に着目する。