世界経済の成長はそこそこ順調

9月に行ったミーティング以降にかなり多くの展開が発生した。主なものは地政学的材料を主因とする原油価格の予想外の急落、米中貿易とブレグジット(英国のEU離脱)における衝突のさらなる悪化、世界経済に散見された減速の兆しであった。市場では、様々な国の第3四半期GDPに見られた弱さが概ね一時的な要因によるものなのか、それとも本格的な景気悪化の兆候なのかが主な論争となっている。もちろん、2019年は2018年のかなり早いペースよりも成長が鈍化するであろうこと、また中央銀行が金融政策を徐々に正常化させつつあることは誰もが以前から知るところであったが、その明らかな兆候が顕在化すると市場心理は直ちに拠り所を失った。実際、景気サイクルの最終段階にあるのではないかとの懸念が一般化しているが、我々誰もが知っているように、今回のサイクルはこれまでのあらゆるケースと大きく異なっているため、予測するのが非常に難しい。しかし、当社では、経済が2019年に低迷することはなく、市場は過剰反応しているとの立場をとる。当社のグローバル投資委員会(GIC)メンバーの多くは、潜在的リスクのバランスは下方サイドに傾いているが、大幅に悲観的な見方を打ち出すほど強く傾斜しているわけではないと考えている。その潜在的リスクのなかでも大きな役割を果たすのがブレグジットで、どういう結果になるか真に確信を持っている者は誰もいないが、その結果は世界的に大きな影響を及ぼすと見られる。しかし、ブレグジットが大きな混乱なく進むと仮定すれば、日米欧(G3)および中国の経済は2019年12月にかけて主要エコノミストの予想におおよそ沿ってそこそこの成長を遂げると想定され、また当社ではコンセンサス予想と同様に中央銀行が金融緩和を縮小すると予想している。そのような背景の下、当社では債券利回りが緩やかに上昇するとともに、米ドルは年の前半は横這いとなるも後半に下落し、また特に他の地政学的リスクの多くは抑制され続けるとも見ていることから、株式市場は一段と上昇すると予想する。大きな下方リスクが存在するのは間違いないが、一方で明らかに上方リスクもある。

9月のGICミーティングの日から11月30日にかけてのグローバル株式の市場リターンは、当社予想の+6.9%(予想対象期間は12月末なので、どうなるかは向こう数週間に出てくるニュースによるが)に対して-5%となり、当時の当社の強気なスタンスに反する結果となった。当社が政治および経済面の不安の展開を正確に予測できなかったのは明らかだ。これまでのところ、すべての地域のリターンが米ドル・ベースでマイナスとなり、当該期間の当社予想を下回っている。ドイツ国債と日本国債の10年物利回りは当社の12月末予想の水準をやや下回ったが、米国債はほぼ予想通りとなった。当社の為替予想は基本的に的中し、ユーロと日本円のみが当社予想を僅かに下回った。

市場は荒れた展開となっているものの、2018年第4四半期~2019年第1四半期のGDPは、日本の場合は自然災害、欧州の場合はドイツの自動車生産停滞の悪影響を受けた第3四半期との比較においてだが、比較的好調な推移を予想する。米国については当社予想と現在のコンセンサス予想が一致、欧州と日本については、2018年第4四半期~2019年第1四半期では現在のコンセンサス予想が当社予想をやや下回る水準となっているが、2019年第2~3四半期では当社予想と現在のコンセンサス予想が一致している。中国については、現在のコンセンサス予想が当社予想を僅かに下回っている。先に目を向けると、米国のGDP成長率は2019年上期を前期比2.5%(季節調整済み年率換算値)、下期を同2.0%と予想しており、これらはエコノミストのコンセンサス予想と一致するだろう。個人消費や固定資産投資の増加が成長にプラス寄与すると考えられる一方、純貿易はかなり不安定に推移する可能性が高く、特に第1四半期にはその傾向が強まるだろう。ユーロ圏と日本のGDP成長率については、2019年上期がともに前期比1.7%(季節調整済み年率換算値)、下期は前者が同1.8%、後者が同0.6%となる見通しであり、いずれもコンセンサス予想に近似するだろう。日本の下期低迷予想の要因は、10月に予定されている消費増税だ。中国の政府が公式発表するGDP成長率は、2019年上期が前期比約6.0%(季節調整済み年率換算値)、下期が同約6.4%になると見られる。中国の場合も個人消費が牽引役となる見通しであるが、財政出動による下支え効果も強まり始めるだろう。総じて、こうした展開はリスク資産市場に安心をもたらすものと考えられ、また、企業収益予想は2019年を通して好調な増益を示していくものと見られる。

地政学上の問題については、主要国が総じて景気を重視する姿勢を強めていることから、危機に発展することなく対処されるだろうとの見方を維持しているが、中国、中東、ブレグジットをはじめとして注視を要する状況が多々存在する。米国の通商問題は欧州やカナダ、メキシコとの間では沈静化したが、中国との間ではかなりこじれている。当社の想定では、米国が2019年上期中に中国からの輸入品2,000億ドル相当に25%の関税を適用開始するが、世界経済はそれほど混乱することなく乗り切ることができると見ている。しかし、米中の対立は国家安全保障に関連する制裁や逮捕へと広がりを見せており、サプライチェーンの混乱やテクノロジー関連の標準規格の分断を招く可能性が現実味を帯びている。それが現実化すれば世界経済の大きな混乱を招くことになるだろう。また、こうしたなか北朝鮮問題が再燃する可能性も高まっている。欧州に目を向けると、イタリアの予算問題は今のところ沈静化しているが、いずれも解消の見込みがない景気低迷、貧困、移民問題などに対する国民の怒りを背景に、今後も折に触れて混乱を招く要因となるのは確実だろう。フランスも今やこれらと同様の問題や暴動に苦しんでおり、欧州各国の政府は大きな不安を募らせていることだろう。最後に、米国国内の政治情勢は予測するのがあまりにも困難であり、弾劾や両サイドによる非難の応酬をめぐって市場の先行き不透明感が時折高まるかもしれないが、政治が大規模な混乱に陥る確率は依然低い。

中央銀行:日本以外は金融政策の正常化へ

当社では、FRB(米国連邦準備制度理事会)が9月と12月に0.25%ずつ利上げを行うと予想しており、これが正しいことは間違いなさそうだ。一方で、2019年は第1四半期の金利据え置きを経て、第2四半期と第3四半期に利上げが実施されると予想していたが、これはエコノミストによる現在のコンセンサス予想からそれほど離れていないものの、可能性が低くなっている。現在では、2018年第4四半期、2019年第1四半期、そして第2四半期に利上げを実施したのちに一時休止すると予想する。ECB(欧州中央銀行)については、当社の予想通り、依然として12月にQEを終了する意向だ。2019年第3四半期に初回利上げを実施し、四半期毎に0.20%の利上げを実施していくとの予想を維持するが、それが2020年までずれ込む可能性も十分ある。また、2019年上期に中規模のTLTRO発行が実施されるだろう。日銀については、9月に現行の政策を維持しつつもETF買いの段階的縮小に動くと予想していたが、足元では当面それが議論に上らないだろうことは明らかだ。2019年10月に消費増税を控えており、向こう4四半期において日銀が利上げに転じることはないとの予想を維持する。物価動向については、米国のコアCPIを2019年6月時点で前年比2.2%、12月時点で同2.1%と予想する。ブレント原油価格を6月時点で1バレル=66ドル、12月時点で68ドルと予想しており、総合CPIは6月時点で前年比2.2%、12月時点で同2.3%と予想する。これは基本的にFRBの目標通りの展開だ。また、OPECの市場統制力が再び強まることによる原油価格の持ち直しが主な牽引役となり、2019年にはコモディティ価格全般も緩やかに上昇すると考えられる。世界経済の成長を受けてコモディティ需要はかなり堅調な推移を続ける見通しだが、投機筋によるコモディティ投資は減少すると見られる。

米ドルは上期に横ばいで推移し、下期に下落へ、G3の国債利回りは低位で推移

当社のシナリオに基づき、G3の国債利回りは向こう数四半期で小幅な上昇が続くと予想する。国債10年利回りの3月末時点のターゲットは、米国債が3.15%、日本国債が0.15%、ドイツ国債が0.40%である。6月末時点では、それぞれ3.15%、0.15%、0.50%と予想する。2019年下期には、米国債利回りが3.0%まで低下する一方、日本国債は引き続き横ばい、ドイツ国債は小幅に上昇すると見られる。これにより(当社の目標為替レートも加味)、クーポン収入を含むCitigroup WGBI(グローバル債券インデックス)の米ドル・ベースのリターン(非年率換算値)は、基準日(2018年11月30日)から2019年6月末までの期間が-1.2%、12月末までの期間が-1.3%となる。したがって、米ドル・ベースの投資家の場合、グローバル債券に対する慎重な姿勢を引き続き維持している。円ベースの投資家の場合、WGBIインデックスの円ベースのリターンは6月末までの期間が0.1%、12月末までの期間が-3.5%となる。また、日本国債10年物の円ベースのトータルリターン(非年率換算値)は、6月末までの期間が-0.6%、12月末までの期間も同様と予想する。

通貨については、FRBの金融引き締めが日銀やECBよりも速いペースで進むなかでも、世界中が注目する米国の連邦予算や貿易赤字をめぐる懸念の強まりに加え、米国政治の先行き不透明感が足かせとなり、米ドルに対する強気な見方が抑えられると見られ、日本円とユーロは6月末時点では当社基準日時点の1米ドル=114円、1ユーロ=1.13米ドルから概ね横ばいと予想しているが、12月末時点では1米ドル=111円、1ユーロ=1.16米ドルへと上昇すると見られる。一方、豪ドルは6月末時点で1豪ドル=0.72米ドル、12月末時点で1豪ドル=0.74米ドルと予想する。

グローバル株式に対してはまずまず強気な見方

当社の新しいシナリオでは、良好な経済成長を受けて企業収益が好調な伸びを示す一方、緩やかな金利上昇によって株価バリュエーションが大きくは損なわれないと見ており、グローバル株式に対して強気な見方をしている(世界金融危機以降のほぼ全期間における当社の見解と整合的)。FRBが2019年下期に利上げサイクルを終了しないまでも一時休止するとの見方が強まっていることは、株式市場全体の追い風になると考えられる。また、ブレグジットや米中間の貿易戦争に関する懸念が和らげば、市場にとって大きなプラス材料になるだろう。当社では、11月30日を基準日とする各国市場の予想リターンを総計し、MSCI World Total Return Indexの米ドル・ベースのリターン(非年率換算値)を6月末までの期間が6.6%、12月末までの期間が11.6%と予想する。したがって、米ドル・ベースの投資家の場合は(日本円ベースの投資家の場合も)、グローバル株式に対するスタンスを相応に強気とする。

米国では、良好な世界経済成長に加え、企業による事業運営効率化の加速によって、緩やかな金利上昇や政治の先行き不透明感といった逆風が十二分に相殺される見通しであり、米国株式を取り巻く環境は良好である。特に、SPXの2018年(暦年)および2019年(同)の予想EPSはGICの9月会合以降でさらに1%上昇しており、12ヶ月先予想EPSに基づく予想PERは16.8倍から15.8倍へと低下している。また、企業による自社株買いが高水準で継続していることも市場の下支えに寄与するだろう。これらを総合的に勘案し、SPXは6月末時点で2884(基準日の11月末からのトータルリターン(非年率換算値)は5.6%)、12月末時点で2957(同リターンは9.2%)に達すると予想する。

欧州株式は過去3四半期にわたってかなり低調なパフォーマンスを示してきたが、米ドル・ベースのリターンではそれが特に顕著だった。欧州のマクロ経済指標は、輸出や自動車生産などの一部に引き続き減速の兆しが見られるが、今後は特に成熟国の基準からすればGDPが相応に堅調に推移していくだろう。市場は政治的リスクに悩まされ続けたが、イタリア危機懸念は足元で大幅に後退しており、また、ブレグジットをめぐる状況が改善すれば投資家センチメントが大きく押し上げられるだろう。低金利の継続や、世界経済成長を受けた企業収益の好調な伸びは、欧州株式市場の反発を後押しすると考えられる。注目すべきは、原油などのコモディティ価格(多国籍企業の存在を通じて英国や欧州の企業収益に影響を及ぼしやすい)の上昇も、第3四半期に大きく低迷した英国および欧州企業の収益を押し上げると見られることだ。さらに、12ヶ月先予想EPSに基づく欧州株式の予想PERは12.8倍と低水準にあり、ある程度上昇する可能性が高いことから、Euro Stoxxは6月末に375へ、12月末に380へ上昇、FTSEは6月末に7500へ、12月末に7800へ上昇すると見ている。したがって、MSCI Europeの米ドル・ベースのリターン(非年率換算値)は6月末までの期間が10.7%、12月末までの期間が16.8%と予想する。2018年(暦年)および2019年(同)のEPSのコンセンサス予想は、GICの9月会合以降で2%低下しているが、2019年(同)のEPSの前年比伸び率は10%と依然堅調であるほか、配当利回りも3.5%と高水準にある。

日本株式も低調なパフォーマンスに終わり、報告期間中の米ドル・ベースのリターンは大幅なマイナスとなったが、12ヶ月先予想PERが12.5倍と、足元のバリュエーションは非常に低い水準にあり、この先もEPSは好調な伸びを維持すると見られる。実際、2018年(暦年)および2019年(同)のEPSのコンセンサス予想はGICの9月会合以降で2%低下しているが、2019年(同)のEPSの前年比伸び率は9%と依然非常に良好であるほか、配当利回りは2.3%となっている。世界的な通商問題は、日本の設備投資財に対する中国需要の著しい減少を招くなど、日本に対する投資家センチメントの悪化に大きな影響を及ぼしたと見られる。また、日本の国内経済も第3四半期には自然災害に苦しめられたが、第4四半期には大幅に持ち直す見通しだ。日本企業の業績は依然として世界経済の継続的成長との連動性が高いため、当社が予想するように世界の経済成長をめぐるセンチメントが改善すれば、日本株式に対する投資家の関心が高まるものと考えられる。また、(いくつかの不祥事があったものの)コーポレートガバナンスが引き続き向上しており、自社株買いも大きな支援材料となり続けている。したがって、TOPIXは6月末に1752、12月末に1862に達し、米ドル・ベースのトータルリターンは6月末までの期間が5.1%、12月末までの期間が16.8%と予想する。2019年10月に予定されている消費増税が近づくにつれて、景況感がどれほど不安定化するかはやや不透明だ。前回の消費増税は景況感の大幅な悪化を招いた。しかし、足元の日本経済は以前に比べて土台がかなり強固になっているとともに、消費者は前回時の反応が過剰だったことを自覚しており、今回は影響がかなり軽微にとどまると考える。

アジア太平洋先進国株式(日本除く)についても、貿易をめぐる懸念を背景にパフォーマンスが低迷したが、今後は香港およびオーストラリア株式の堅調なパフォーマンスに牽引され、米ドル・ベースのリターン(非年率換算値)は6月末までの期間が8.4%、12月末までの期間が18.3%に達すると予想する。世界経済成長に対する信頼感の改善、割安な株価バリュエーション、良好な企業収益成長、世界的な低金利継続はみな、こうした予想リターンに対する大きな寄与要因となっている。香港の不動産価格は下落する可能性が高いものの、これはすでに株価に相当織り込まれている。FRBの利上げ一時休止が迫っている感が少しでも出てくれば、特に香港不動産市場に対するセンチメントにとって追い風になると思われる。アジア太平洋先進国株式においても、通商問題、特に米中間の通商問題が主なリスク要因となっているが、このリスクはこれまでに市場に相当織り込まれており、もし米国の対中国制裁が2,000億ドル相当の中国製品への25%の輸入関税適用で打ち止めとなれば、これらの市場にとって大きなプラス要因となるだろう。

投資戦略のまとめ

地政学面のテールリスクが依然としてかなり大きいことに疑いはないが、総じて世界の経済成長や企業利益の勢いは引き続き改善していることから、グローバル投資委員会は相当に強気な見方を維持している。したがって、過去10年間と同様、グローバル株式に対するスタンスを強気とする。一方で、世界的に債券利回りが小幅に上昇すると見られることから、特に米国の短期債券に比べ、グローバル債券に対しては慎重なスタンスを維持する。2019年は世界のリスク資産市場に大きな下方リスクが存在するのは間違いないが、多数の上方リスクも存在する。