一昨年からの金融・経済危機への対応として、中央銀行による資金供給方法の変更や株式市場での空売り規制、また金融機関のみならず民間事業会社への公的資金注入など、極めて異例の制度・規制の変更が実施されてきました。それらの政策を通じて、民間では取れないリスクを政府や中央銀行などの公的部門が取った結果、危機的な状況は改善されてきています。
そして、金融・経済環境は依然リスクを抱えているものの、政策については現在、危機的状況への対応から正常化・経済回復ステージを睨んだ対応への移行が検討され始めています。なお、景気循環面に関する政策としては、通常、景気刺激策、つまり政府が景気刺激に向けてどのようにお金を使うかが注目されます。しかし、金融・経済環境が正常化した後の状況を想定すると、制度や規制の変更こそ、経済や産業の本来的成長にとって重要な役割を持っていると考えます。
規制の変更を自由と制約の軸でみると、規制緩和による自由度の拡大はプラス要因のように見えますが、必ずしもプラスだけではなく、競争激化などのマイナス要因になることもあります。一方で、規制強化は、制約の拡大によりマイナス要因と捉えられやすいですが、環境関連に見られるような規制強化は、省エネに関連する製品の需要増加や新たな製品の創出などの効果を持つ場合があります。もっとも規制は、目的を達成する効果と同時に副作用としてのマイナスの影響も無視できません。また、規制は企業行動にとっての重要な枠組みでもあるため、規制の変更は、モノやカネの流れに大きな影響を与えます。
政府の介入としては、規制の変更だけでなく特定の産業に対する補助金政策も、投資の促進や産業の育成・競争力強化などを通じて実体経済に大きな影響を与えます。例えばドイツでは、厳しい環境規制が実施されているのに加え、補助金政策の効果もあり、太陽光発電が日本を抜く発電量にまで拡大し、産業としての競争力も強化されてきました。こうした例に見られるように、規制や補助金による政策は、一産業の競争力強化だけでなく、新たな製品や技術に対するグローバルな需要を創出する重要な役割も持っていると考えます。そして、そうした役割は、世界経済が低成長を続ける状況下では特に重要と言えるでしょう。
なお、産業界での規制の変更は、特定の政策と結果との因果関係が比較的わかりやすいと考えられます。一方で金融関連の規制の変更は、関係がより複雑であることと効果が現れるまでに時間がかかる場合があるため、その影響が計りにくく、特定の政策に対する評価が定まりにくいという特徴をもっています。このように、原因と結果の関係が単純でない金融関連の規制については、非常時ということで採用されていた政策の緩和・解除の方法(出口戦略)と、金融システムの安定性を一段と高めるための新たな政策導入の動きが今後注目されてくると考えています。
金融システムの安定性を監督する方法として、従来は、個別金融機関の監視が重視されていました。しかし、金融問題が経済全体に大きな影響を及ぼすという今回の金融危機を受けて、金融システムという集合体の安定性を高めるために、個別金融機関の監視にとどまらず、個別の金融機関の健全性やリスクのとり方を従来以上に管理する方法が検討されています。
金融危機が発生する以前の世界の資金循環を見ると、米英の金融センターが、国債投資や預金などの形で世界から集まった低リスク選好の資金を、金融機関が自らリスクを取って株式投資や融資などのリスクマネーに転換することで、世界の投資資金の仲介機能を果たしてきました。つまり、米英の金融機関は、民間企業への投融資や新興国のインフラ関連への投資といった、相対的にリスクが高い分野への資金供給を通じて、世界経済の成長に不可欠な役割を果たしていました。
新しい規制の変更は、世界経済の成長を支えるための金融システム全体の安定性向上と引き換えに、上述のような個別金融機関のリスクのとり方や金融商品に対するお金の流れにも影響を与える可能性があります。さらには、金融環境が正常化した後に、金融産業や経済全体の成長性にも影響を及ぼす可能性があるため、金融に関する政策は、短期的な効果だけでなく将来への影響も考慮して評価する必要があると考えています。
金融のみならずあらゆる産業・企業は、儲ける仕組みを繰り返し作り出して成長してきました。規制や補助金政策は、この仕組み作りに大きな影響を与えます。また、グローバル化した世界においては、モノやカネが移動しやすくなっていると同時に、比較もされやすくなっているため、各国の政策は他国の政策との比較で評価されると考えます。こうした環境下、危機対応としての政策が世界各国で出揃った後に、内需拡大に向けて日本の政策がどのように変わっていくかが、日本株投資において重要であると考えています。