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自分にとっての名著とは、何度も読み返す本と云うことになるだろう。 岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』 コンラッド『闇の奥』 松岡正剛『日本数寄』 スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』 村上龍『テニスボーイの憂鬱』……等々。 ことある毎に読み返す本は数あるが、中でも『茶の本』は特別な存在になっている。
『茶の本』岡倉天心著。 私は読んでいる本に感心したり気になったりしたりする箇所があると鉛筆で線を引き付箋を貼る。付箋だらけの本が沢山書棚に並んでいるが、『茶の本』のその数は群を抜いている。 明治三十九年に英語で出版されたこの本は、欧米人に対して西洋文化への警鐘を込めての日本文化紹介……などと云った類型を超えて、毅然としたオーラをいつまでも放つ精神の書となっている。
西洋人は、日本が平和のおだやかな技芸に耽っていたとき、野蛮国とみなしていたものである。(中略)「サムライの掟」―わが兵士が勇躍して身命を捨てる「死の術」についての多くの論評を聞くけれども、茶道についてはほとんど注意が惹かれていない。茶道こそ、わが「生の術」を大いに表しているのである。 (第一章 人情の碗)
型にはまった日常の些事は、哲学や詩の最高峯と同じ程度に民族の理想を説明する。 葡萄酒の好みのちがいさえ、ヨーロッパのさまざまな時代と民即のここの特異性を特徴づけている様に、茶の理想は東洋文化のさまざまな気分の特色をあらわしている。 (第二章 茶の流派)
その細部の仕上げに払われた配慮は、どんな立派な宮殿寺院の建造に払われた配慮よりも周到であることを忘れてはならない。よい茶室は普通の邸宅よりも費用がかかっている。
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茶室の素朴と純粋主義は禅林の競争から起った。
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利休のような茶人は寂寥の極をこころざした。
真の美は、不完全を心の中で完全なものにする人だけが発見できる。人生と芸術の力強さは、伸びようとする可能性の中にある。 (第三章 茶室)
私は、お茶が好きだ。 休日の朝には煎茶を入れ、午後には抹茶を点てる。 そのときに、自分の中にあり自分を貫いているものを……確実に感じている。 それを今風にDNAと呼んでしまうのは身も蓋もないが、言葉ではどうにも言い表せないものを悦びと共に感じる。 その心を、その茶の本質を、言葉によって教えてくれる『茶の本』 名著の中の名著だと思う。
その間に、一服のお茶をすすろうではないか。午後の要綱は竹林を照らし、泉はよろこびに泡立ち、松籟はわが茶釜にきこえる。はかないことを夢み、美しくおろかしいことへの想いに耽ろうではないか。 (第一章 人情の碗)
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