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無人島にひとつだけ音楽アルバムを持ってゆくとして……何を持ってゆくか?
この質問への回答は常に決まっている。 『J.S.バッハ・平均律クラヴィーア曲集』
私がクラシック音楽を好きになったきっかけが、平均律クラヴィーアだった。 中学生のときにFMから流れてきたリヒテル演奏の第一巻・第八番を聴いて衝撃を受けて以来、バッハの音楽は自分の生活になくてはならないものになってしまった。 自宅のCD棚のクラシックは作曲家別に整理をしてあるが、バッハのアルバム数は群を抜いている。 バッハの音楽は、壮麗な教会建築に見られる一分の隙も無い完璧な構造美を思わせるが、実は凄く演奏する者や聴く者も自由にさせる「お釈迦様の掌」のような存在でもある。 そこに音楽と云う抽象の奥深さがあるのだと……いつも思ってしまう。
日本でバッハと言うと真っ先に出てくるのがグレン・グールドのピアノによる演奏。 間違いなくこの国で最も売れているクラシック・アルバムが彼の『ゴールドベルク変奏曲』。1955年この演奏で衝撃のレコード・デビューを飾り、1981年に再び録音を行ない……まるで一つの環を閉じるように、翌年50歳で亡くなってしまう。 以前も書いたことがあるが、この二つの演奏を聴き比べると(どちらの演奏が良いかと云ったレベルの話ではなく)いかにバッハの音楽が無限ともいえる自由度を持っているかがわかる。
欧米で絶大な人気を誇るピアニスト、アンジェラ・ヒューイット。(昨年来日の折、不肖ワタクシがインタビューをしたことは『投資の余白Vol.88 ヒューイットのバッハ』をお読み下さい。) 彼女が10年ぶりに再録音した『平均律クラヴィーア』が今年リリースされた。 聴いて……ビックリ! 以前の録音よりもずっと人間味に満ち溢れたバッハに仕上がっており、改めてバッハの創造した音楽の度量の大きさを感じさせられた。 こんな作曲家は……空前絶後だろう。
バッハの音楽の自由度を示す別の例として、ジャズの演奏家がバッハをよく採りあげていると云う事実がある。
私のお気に入りは、MJQの名ピアニストとして有名なジョン・ルイスによる『平均律……』で、バッハの旋律が徐々にジャズに溶け込んでゆく様が……なんとも快い名演で聴き飽きることがない。 そして、極めて面白いものでは夭折の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスによる『半音階的幻想曲』。本来、チェンバロによる超高速演奏を伴なう難曲なのだが、それをエレクトリック・ベースで楽々と旋律を紡いでゆくジャコ独特の音楽空間にはいつ聴いてもしびれてしまう。
バッハ音楽のもつ宇宙の如き自由。 それが自分の心の基礎を支えてくれているのだと……思っている。 バッハの音楽がない人生など考えられない。
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