ゴールデンウィークの前後は、3月期決算企業の決算発表が集中します。決算の結果や、業績予想の内容などを受けて、個別企業の株価が大きく変動する時期にあたるため、ファンドマネージャーは、決算内容の分析や株価変動への対応などで忙しくなる時期です。3月期決算ほど多くはありませんが、4月前半には、2月期決算企業が多い小売関連の決算が発表されました。私は、この時期に行なわれる小売関連企業の決算説明会や、個別取材を通じて、経営陣から個人消費のトレンドや、現場の景況感を聞くことが国内の景気動向を見極める上で非常に重要な情報であると考え、できるだけ多くの企業と対話をするようにしています。今回は、小売関連企業の決算から見えてきた、消費動向の変化についてお話ししたいと思います。

 今回の小売関連企業の決算説明会では、多くの経営者から、「1~3月に消費の潮目が変わった」というコメントがありました。この間に起こった、円高・株安の動きや、マイナス金利の導入などが、消費者心理に影響した可能性、そして、天候不順などが背景にあるとみられています。消費全体にやや減速感が出始める中で、4月前半に行なった小売関連企業との対話からは、2つの大きな消費動向の変化を感じることが出来ました。

 一つは、消費者の価格に対する意識の変化です。アベノミクスが始まった2013年以降、小売各社は、円安や人件費の高騰などを背景としたコスト上昇を受け、販売価格への転嫁を徐々に進めてきました。このような中でも、昨年までは所得環境に改善がみられたことから、値上げを実施した場合でも客数が落ち辛く、販売価格の上昇による利益率改善が各社の業績の牽引役となっていました。ところが、今年に入り値上げを進めてきた大手カジュアル衣料チェーンが業績を下方修正したほか、比較的高価格のメニューが好調だった大手外食チェーンの売上に減速感が出始めるなど、消費者の節約志向が再び強まっているとみられ、各社とも一部商品を値下げするなど、価格政策の見直しを迫られています。一方、機能性などで差別化された商品については、高めの価格でも販売が好調な傾向もあり、消費の二極化傾向が強まっていることを感じます。

 もう一つの変化は、訪日観光客によるインバウンド消費の中身が大きく変わってきたことです。昨年までは、初めて日本を訪れる観光客が多かったことや、為替の円安傾向などを受けて、「爆買い」と言われるほど、炊飯器などの家電製品や、高級時計、ブランド品などが飛ぶように売れていました。しかしながら、最近では円安傾向が一巡したことや、二回目以降の訪日客が増えたことで、買い物の中身が大きく変わってきているようです。

 訪日客数の増加基調は足元でも続いているため、小売店のインバウンド客数は大幅な伸びを続けています。ただし、購入する商品は、日常的に使われる化粧品、そしてドライヤーなどの理美容機器といった比較的単価の低いものへシフトしているとみられ、百貨店などでは売上の伸びに大幅な鈍化がみられるケースが増えています。インバウンド関連で売上を伸ばしてきた企業の中でも、取り扱う商品やサービスの内容によって、差があらわれ始める局面に入ったと考えています。

 ジパングでは、賃上げの動きやインバウンド消費に注目し、小売、サービス関連企業に重点を置いた投資を行なってきました。賃上げの効果が徐々にあらわれ始めるとみられることや、女性の就労が増加していることなどを背景に、消費が大きく落ち込む可能性は低く、小売、サービス関連企業の多くは増益基調を維持できると考えていることから、今後もこれらのセクターに重点を置いた運用を継続する方針です。ただし、銘柄選別においては、個人消費、インバウンド消費ともに、その中身が変わってきていることに注目しています。具体的には、差別化された商品の開発力や、コスト競争力、変化に対応する経営力などに優れた企業への絞り込みを進めるとともに、インバウンド関連については、訪日客数の増加基調は中期的に続くとみられることから、ホテル関連の企業や、日用品の比率が高い業態などに注目した銘柄選択を行なう方針です。