ここ数年、日本企業は事業の選択と集中を進めてきました。今年実施される見通しの2つの制度変更は、この動きを加速させる可能性があります。ひとつは、組織再編税制の見直し、もうひとつは機関投資家の行動規範を定めた「スチュワードシップ・コード」の改訂です。組織再編税制の見直しで注目されるのは、「スピンオフ税制」の新設です。スピンオフとは、企業が特定の事業を切り出して独立の会社とする組織再編の手法です。現行法では、スピンオフを実行しようとすると、法人や株主に譲渡益課税が生じていましたが、見直し後は一定の要件を充足すれば課税しないことになります。これによって、非中核事業を切り出して本業に専念することで経営の効率性が高まるほか、他社との事業統合を円滑に進めることができるなどの効果が期待されます。日本には、「総合電機」「総合化学」などと呼ばれる業態が多く存在し、各事業の規模が欧米の専業企業と比べて小さい傾向があります。このことが、日本企業の資本効率が低い要因の一つとされています。スピンオフを活用することで、業界再編が進み、日本企業の競争力が高まることに期待しています。

 他方、先日公表された「スチュワードシップ・コード」の改訂案にも、注目すべき内容が含まれています。主なものとしては、機関投資家に対して、議決権行使結果の開示や、スチュワードシップ活動のための体制整備、インデックスファンドなどパッシブ運用の投資先企業との対話などが新たに求められています。これによって、従来以上に機関投資家が投資先企業に対して、資本効率向上を求める対話を行なっていくことが想定されます。これによって、不採算事業からの撤退や、本業とのシナジーが少ない事業を切り離す一方で、本業を強化するための設備投資や、M&A(合併・買収)に資金を振り向ける動きが強まると見られます。

 弊社では、従来からアナリストとファンドマネージャーによる、投資先企業との対話を積極的に行なってきましたが、これをさらに推進するために、専門の部署を設けてより幅広い企業と対話を深める体制を整えました。私自身も、投資先企業の経営陣と面談する機会を多く持ち、持続的な成長に向けて、資本効率を高めるために必要な事業戦略などについて対話を続けています。企業との対話においては、短期的に利益を上げることや、過剰な株主還元を求めるのではなく、あくまでも中長期的な視点で資本効率を向上させるために、不採算事業の見直しや、成長分野への投資を行なうとともに、余剰資金については積極的に株主に還元するという方向性を共有することが重要だと考えています。今後、さらに多くの企業が機関投資家との対話の機会を増やし、企業価値の向上に向けた事業再編などに対する取り組みを加速することが、中長期的な株式市場の上昇基調を支えるものと考えています。

 これまでの日本企業の事業再編は、業績が大幅に悪化し、追い込まれてから動き出す、後ろ向きな事例が多く見られましたが、今後は税制の後押しや、機関投資家との対話を通して、より競争力を高めるための前向きな再編が活発に行なわれることが期待されます。

 ジパングの銘柄選別においても、事業再編で資本効率が高まる企業や、業界再編が進み収益性が高まる業態などに注目しています。特に、事業分野が多岐にわたる、電機、化学などのセクターでは、事業の絞り込みを行なうことで競争力を高められるポテンシャルのある企業が多く存在すると考え、経営陣との対話を積極的に行なってまいります。