毎年5月から6月にかけては、本決算の発表を終えたトップマネジメントと対話をする機会が多くなります。ここ数年、企業統治の指針を示した「コーポレートガバナンス・コード」で、企業と投資家の対話が求められていることもあって、トップマネジメントとのミーティングの件数は、増加傾向にあります。今年も多くの経営者と対話をする中で、最近の日本企業に共通したいくつかの課題や戦略が見えてきました。

 対話を行なったほとんどの企業が、今年度の経営課題として挙げたのは、「IT(情報技術)基盤の再構築」ということです。多くの日本企業は、これまで経費を抑制して利益を出すことに注力するあまり、欧米企業と比較して、IT関連の投資を十分には行なってきませんでした。しかし、あらゆるものがネットにつながるIoT(モノのインターネット化)や、AI(人工知能)、ビッグデータなどの技術革新が、ここ数年で急速に進んだことで、海外企業に比べてIT基盤が脆弱であることが大きな経営課題になってきました。従来、日本企業のIT投資は、業務の効率化によるコストダウンを目的としたものが中心でしたが、販売戦略の立案にはビッグデータの活用が不可欠となり、販売チャネルとしてはeコマースの重要性が高まっていることなど、売り上げを伸ばすためのIT投資が重要になってきました。今後は、スマートファクトリーと呼ばれるような、生産現場の機械をすべてコンピュータネットワークでつなぐための投資も増えてくることが想定されます。

 また、「働き方改革」に対応するためのIT投資も引き続き活発です。出張を減らすためのテレビ会議システムや、在宅勤務をサポートするネットワーク、事務作業を自動化するシステムの導入などが多くの企業で行なわれています。このような環境を背景に、システムやネットワークの構築を行なうITサービス関連の企業は、好業績が続く見通しです。また、積極的なIT投資を行なう企業については、短期的に見ると投資負担が業績の伸びを抑えることも考えられますが、中期的に見れば競争力を高め、コストダウンにもつながることで、成長を加速するドライバーになると考えています。

 多くの企業がもう一つの経営課題として取り組みを強化しているのが、「人への投資」です。人口減少に伴なう人手不足が深刻化していることに加えて、産業構造の大きな変化によって、AIなどの高度な技術を持つ人材や、グローバル展開を加速するための人材が圧倒的に不足しています。このため、多くの企業が専門スキルを持つ人材の採用や、社内での教育制度の充実などに積極的に費用をかけています。また、社員の定着を図るために、待遇の改善や福利厚生の充実などを進め、働く環境を改善するためのオフィスや研究施設への投資も活発になってきました。「人への投資」も、IT投資と同様に当初は費用が先行しますが、企業の持続的な成長には不可欠なものだと考えています。

 これまで、日本企業の経営は、長年にわたって余剰資金を貯めこみ、資産効率を悪化させていることが大きな問題とされてきました。ここ数年は、設備投資やM&A(買収・合併)、株主還元などにお金を使うようになってきましたが、足元でIT投資や人材投資にも資金を振り向けるようになってきたことは、企業経営の大きな変化として注目しています。

 ジパングでは、IT投資の活況で好業績が見込まれるITサービス関連企業や、「人への投資」が追い風となる人材サービスや福利厚生代行サービス、オフィス環境の整備で需要拡大が期待される不動産などに注目しています。また、業種に関わらず、将来に向けたIT投資や人材への投資によって、競争力の強化と中期的な業績拡大が見込まれる企業の選別にも注力します。今後も、マネジメントとの対話を積極的に行なうことで、その企業の投資価値を見極めるとともに、新たな投資アイデアの発掘にもつなげていきたいと考えています。