『投資の余白』 VoL.58 【2005年11月29日】





光琳・IT・茶の湯



「フジワラぁ。さぁ雁金屋のボン見に行こうぜぇ!」
友人は上機嫌である。
以前にもこのコラムに登場している彼はついに己の夢を実現させ意気揚々と上京してきた。
“京都に終の栖を構える”それが叶ったのだ。
東山のもう二度と出ないような素晴しいロケーション。そこに来年完成するマンション。
それを手に入れた。

物件の図面を広げながら様々な生活プランの話で花が咲く。
メゾネットの吹き抜けに設置する大きな書棚、半地下のスペースに作る坪庭…そして二十四季全てを楽しむ生活のあり方…
ひとしきり語り終えてから今年二度目の光琳との邂逅に出かけたのだった。

南青山の根津美術館。
四年半に亘る保存修復の作業を経て国宝『燕子花図』が公開されていた。
今年二月、熱海で同じ尾形光琳の国宝『紅白梅図』を見ている。
「…」
その色彩その意匠その構成のリズム感。
時がそこだけ止まり空間が吸い付けられたような…素晴しい魅力を放つ。
現代人の手によって修復されたのち大きく惹きたつのは、光琳という天才職人の作った工芸品だからだろう。
「芸術」などというつまらない高尚な観念の存在しない時代、顧客の用と美への求めに応じて純粋に己の腕によりをかけて作り出した職人技の粋。

「いやぁ、京都のマンションに置きたいねぇ…」
溜息まじりに友人が云う。
現代の我々が心から欲しいと思わせるのが光琳の仕事の凄さだろう。

根津美術館を辞し、新しく日本橋に出来た三井記念美術館に出かけた。
もともと中野にあったもので10年以上前に秘蔵の茶道具の展覧会が開かれたときに観にいったことがある。今回日本橋再開発の目玉として新たに生まれ変わって登場した美術館。
なるほど…三井家伝来の凄い茶道具の超名品が展示されている。
しかし、確か青山二郎だったと思うが…骨董は美術館に入ったら御仕舞。という言葉が頭を離れないでいた。
みな素晴しいのだが…生気や艶が無い。器ではなく「芸術品」として鑑賞されるだけの存在になっているから、愛玩されている妖しい魅力はどこにも感じられない。
一握りの大金持だけの楽しみ物だったものを皆で見られるのだからいいじゃないか…というのが現代の「常識」だろう。で、いいのだろうか…

いまIT企業家などを中心に新しい大金持が登場してきている。
彼らがかつての堺の町衆のようにあるいは戦国武将のように茶道具を競って奪い合ったらどうなるか…
面白いと思う。いい道具を揃えれば茶会を開きたくなる。墨蹟を求めれば漢詩や和歌の勉強をしたくなる。そしてなにより歴史を深く知ろうとするに違いない。
中には斬新な美の世界を創造する数奇者も現れるだろう。
そして…モノを所有し使用する。そのモノに値段をつける。ということの意味。
茶の湯・骨董の世界は“美”を賭ける人間の、凄まじく恐ろしく血生臭いやりとりによって「道具」という宇宙がますます妖しく生き生きとした美しさを放つように出来ている。

「経済人の交流の場が茶室からグリーンに代わってからどんどん品が無くなっていった」とよく言われる。
野村得庵(徳七)小林逸翁(一三)松永耳庵(安左衛門)原三渓(富太郎)…
かつて優れた経済人たちは皆、茶の湯を競い奪いそして更なる次元に人間が磨かれた。
そこには常に己と美のインターフェースがあったからだ。

まぁこうして、他人のことばかり云っていてもしょうがない。

よぉぉしっ!こうなったらヘッジファンドに転身して何十億と儲けて大名物を買い漁り、死んだら全部綺麗さっぱり美術館に寄付って…あっ!?それじゃ駄目か。



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