先日も新しい日本のETFが設定・上場しました。さまざまな投資対象のETFが増えて、ますます投資家の選択肢が広がります。日本の市場に上場しているETFは、その純資産価値の変動率を特定の指数や価格の変動率に一致(連動)させることを目的としています。海外市場には連動対象のないアクティブETF(現在、米国のみ)や、レバレッジがきいたものや逆連動するETFも上場しています。このようなETFの運用目標を達成するには色々な手法があるため、ファイナンシャル・プランナーの方向けのETF勉強会でもこの件に関するご質問を頂戴しました。一歩、踏み込んでETFをご理解いただくには、避けて通れないトピックなので、今回はETFの運用手法・特徴について書いてみたいと思います。

現物資産等を組入れる手法

指数の構成銘柄を全て保有し、指数と同じ比率で保有する手法があります。完全法と呼ばれ、指数に連動させる運用手法としては手堅い運用と受け止められると思います。国内市場に上場している日本株及びJリートのETFのほとんどが、この手法を使っています。しかし、この運用手法を実行するには、まとまった資金が必要になります。指数によってはその構成銘柄が数百から数千にのぼり、構成比率の低い銘柄まで保有する必要がある一方、構成比率の高い銘柄の保有額が多額にのぼることがあるためです。そこで、構成比率の低い銘柄、そのような銘柄は流動性も低いことが多いので、それらの組入れを省略する場合があります。このような運用手法は準完全法とも呼ばれます。

指数の構成銘柄には、銘柄同士似たような値動きをするものがあります。そこで、過去の値動きを計量的に分析し、流動性の高い銘柄で、指数の構成銘柄より少ない銘柄の組み合わせを上手く行なって指数に連動させる最適化法もあります。この手法は、かなり大胆に銘柄を省くことがあるので、指数への連動性が落ちることもあります。

なお、債券に投資するETFにおいて、層化抽出法(サンプリング法と呼ばれることもあります)と呼ばれる運用手法があります。これは、指数を構成する各債券を、国別、種別、残存期間別といったマトリックスに整理し、そのマトリックス内の代表銘柄を抽出してポートフォリオを作る手法です。同じカテゴリーの債券はほぼ同じ価格変動をするといった債券の値動きの特性に着目した運用手法です。

派生商品を組入れる手法

代表的な3つの派生商品(スワップ、仕組債、先物等)を使ったETFの仕組みをご紹介します。欧州籍や米国籍(レバレッジ・逆連動)のETFに見られる運用手法で、スワップを組み込むものです。香港籍ETFには、スワップに近い形態のワラントを活用するものもあります。

スワップは、一例をあげると、金利を支払い、株式のリターンをもらうといったような収益の交換をする金融手法です。投資が困難な資産を投資対象とするスワップの場合、ETFが保有している資産(現金)をスワップの相手方に全て渡す場合もあります。また、スワップの相手方は1社であることが多いのですが、近年、スワップの相手方が複数になっているETFも出てきています。スワップの相手方がデフォルトすることなどに備え、ETF側は投資資産やスワップの評価益の保全のために株式等の担保を受け取ります。そのためエマージング株に連動するETFなのに、実際の保有資産が日本株といったことも起こります。スワップは投資が難しい資産へ連動するETFの組成が容易なことが大きなメリットです。課税関係の問題も回避しやすいというメリットもありますし、スワップの相手がしっかりと履行してくれる分には指数との連動性も高いというメリットもあります。しかしながら、投資の裏付けとなる資産が保全されていない場合もあり、スワップの相手方の信用リスクが問題となります。担保があるといっても、それが流動性の低い銘柄であるとか、外国株で時差があるため担保でとった株式等の売却などの現金化がスムーズにいかない場合もあります。

現在、欧州・アジア市場ではスワップを組入れるETFの信用リスクに関する議論が盛んになっています。しかしながら、現物株等に投資しているETFでも、保有株式の貸し出しを行なっているケースもあって、取引の相手方の信用リスクは派生商品を組入れるETFだけの問題ではないのが現実です。

2つ目の派生商品を組入れる手法として、仕組債(リンク債)に投資するものがあります。投資が難しい資産へ連動するETFの組成が容易なのが大きなメリットです。さらに、スワップにおける契約、個々のETFの審査、日々の担保管理の手間がないことも魅力です。日本籍のETFの管理・運営ルール上、扱いやすい投資対象なのです。この手法ではその債券発行体の信用力が重要になります。さらにその仕組債の価格変動の裏付けがスワップになっていることから、スワップの相手方の信用リスクは債券の発行体が負担することになりますので、債券の発行体の信用力がさらに重要であることがご理解いただけると思います。ただ、信用力の高い仕組債の発行は高い組成コスト(高い手数料)がかかるので、信用力の高さとコストの見極めが必要になります。スワップや仕組債については発行・組成コストが外部から見えないことも問題かと思います。

最後の派生商品を組入れる手法として、上場先物等を使うものもあります。上場先物に関しては、その履行が取引所等によって保全されているので、相手方の信用力が問題になることはありません。ただし先物には清算期限があるので、その乗換のオペレーション時に、投資対象・市場環境によってはコストが多くかかってしまうこともあります。

ETF運用手法のまとめ

あくまでもイメージですが、前述のETFの各運用手法を、を使って整理してみました。の多い方がメリットが多いことを表しています。どの手法がいいのかといった議論が多くなりがちなのですが、それぞれの手法にメリット・デメリットがあり、運用対象に応じて手法を選んでいくことが、ETFの組成には大事なのではないかと思っています。

運用手法ごとのメリットとデメリット
指数との
連動性の高さ
コストの安さ 相手方の
信用リスクの低さ
管理のしやすさ
完全法 ★★★ ★★★ ★★★★ ★★
準完全法 ★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★
層化抽出法 ★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★
最適化法 ★★★★ ★★★★ ★★★
スワップ ★★★★ ★★ ★★ ★~★★
仕組債 ★★★★ ★★★
上場先物 ★~★★★★ ★★~★★★★ ★★★★ ★★~★★★

運用会社としての責務は、投資家の方々に安心して投資していただけるように、選択した運用手法によく精通し、もし非常事態が起きた場合の対応手法をしっかりと考え、準備しておくことだと思います。また開示もたいへん大事であると思います。日興アセットマネジメントでは、運用部門・管理部門・商品部門が連携して本件にあたっています。当社のホームページにあります目論見書(請求目論見書)を始めとする様々な開示を、お時間のあるときにぜひご覧ください。
引き続き日興アセットの上場インデックスファンドをよろしくお願い申し上げます。

以上