4月5日、東京証券取引所にTOPIXのレバレッジ(2倍)とインバース(逆連動)のETFが上場しました。そして4月12日、大阪証券取引所にも日経平均株価指数のレバレッジ(2倍)とインバース(逆連動)のETFが上場しました。2007年12月の金融庁の資本市場強化プラン発表前後から規制緩和が進み、日本のETF市場もここまで来たのかと感慨深いものがあります。取引所はじめ関係当局、関係者の多大なご努力が結集して、ETFの種類としてはアクティブ型以外のすべての種類のETFが日本の市場でも揃いました。

市場活性化のために期待されるレバレッジ・インバースETFの役割

上場以来、これらのETFは比較的活発な商いが続いています。この活発な売買がその他のETFの売買に繋がり市場全体が盛り上がってくれたらと、取引所はじめ関係当局、関係者は期待して、当該ETFを導入したのだと思っています。つまり、レバレッジ・インバースのETF売買がそのETFの投資市場の先物の売買に、その先物の売買がレバレッジ・インバースではない通常のETFの売買に、そのETFの売買が現物株の売買に広がっていくことです。この実現には、市場参加者の裁定取引が容易に行なわれる環境が必要で、ETFの日々のポートフォリオのディスクロージャーが必要になります。

現在、当社はレバレッジ・インバースETFの組成・上場をしていませんが、当社の21本のETFの組成・上場・売買促進活動においてディクロージャーの重要性を強く理解しています。そこで、今年3月30日から全ETFの日々のポートフォリオの開示を始めました。この開示は、特に海外の投資家にたいへん好評をいただいています。このポートフォリオの日々開示については、取引所経由で開示しているETFを除くと、現在日本のETF運用会社では日興アセットだけです。規則上の開示義務はないのですが、他のETF運用会社でも、ETF市場の活性化のためにはぜひご検討いただきたいと思っています。

レバレッジ・インバースETFの検討

さて、レバレッジ・インバースのETFに関して、国内外の関係者から、当該ETFを立ち上げないのかといったお声をいただきますが、状況を見ながら組成・上場の検討を続けています。一番乗りでないと、市場を押さえられない、また、後から参入しようとしても指数(インデックス)の利用権が他社に取られて、立ち上げられないといったこともあるので、当初は一番乗りをめざして開発を進めていました。商品を立ち上げていないというのは、市場に参加していないということなので実に不安です。当初開発の目的としては、先物等に投資することを内規などで制限されている投資家に、代わりの投資ツールとして提供することでした。その仕様を考えるにあたって、投資家や取引証券会社の方々にヒアリングを続けましたが、その使われ方が比較的短期の売買であって、中長期の投資ではないということが明らかになってきました。また、レバレッジ・インバースETFの先進国である欧米市場では、特にレバレッジがかかったETFに関して投資家が正しく理解をせずに投資をしていることが問題になっていました。

さらに、当該ETFを中長期投資すると悪影響が出てくることもわかってきました。レバレッジ2倍のETFのパフォーマンスの特性をご説明しますと、対象とする指数の1日の騰落率の2倍の騰落率になるように運用されます。これは、2営業日以上離れた期間におけるレバレッジ2倍のETFの騰落率は、複利効果により一般に対象指数の2倍とはならず、差(ずれ)が生じる可能性が高くなります。さらに、その差(ずれ)は、当該期間中の指数の値動きによって変化し、プラスの方向にもマイナスの方向にもどちらにも生じる可能性がありますが、一般に、指数の値動きが上昇・下降を繰り返した場合に、マイナスの方向に差(ずれ)が生じる可能性が高くなり、また、一般に、期間が長くなれば長くなるほど、その差(ずれ)が大きくなる傾向があるのです。

日本のレバレッジ・インバースETFのルールと課題

このような事例を踏まえて、日本においては、まずレバレッジ・インバースの指数を作り、その指数に連動するETFを組成するというルールになりました。前出の日経平均のレバレッジ(2倍)ETFは、日経平均の1日の騰落率の2倍の騰落率になるという建付けではなく、日経平均の1日の騰落率の2倍の騰落率で計算された日経平均レバレッジ・インデックスに連動するものとなっています。しかしながら、まず、日経平均のレバレッジ(2倍)ETFが日経平均レバレッジ・インデックスに連動するものであることがきちんと理解されるかも不安になることがありました。証券会社のETFをご担当されている方から、当社に当該ETFの組成計画があるかとお電話でご質問をいただいたときに、その方は日経平均のレバレッジ(2倍)ETFが欧米のレバレッジETFと同じ建付けになっていると思われていました。プロでも勘違いする商品ですから、今度は、本質的な事項、2営業日以上離れた期間におけるレバレッジ2倍のETFの騰落率は、一般に対象指数の2倍とはならず、差(ずれ)が生じる可能性が高いということを、投資家、特に一般の個人投資家にどこまでご理解いただけるのか。また、どのように開示等をすればよいのか。さらに運用手法も上場先物を使うものからスワップを使うものまで、様々なものが考えられることから、選択した手法をどう説明・開示していくのか、ということが課題となります。この問題については、IOSCO(International Organization of Securities Commissions: 証券監督者国際機構)による市中協議報告書「ETFの規制に係る原則」にも触れられており、運用手法・商品特性について正確かつわかりやすく開示、販売者は適切に説明が必要といわれています。

ETFを組成・運用する立場の者としては、ETFを正しくご理解、ご利用いただきたいと思っています。考えていた商品とは違っていたと後で思われることのないようにしたいものです。新商品についてはもちろんのことですが、既往の商品でもディスクロージャーを改良していきたいと考えています。引き続き日興アセットのETF、上場インデックスファンドをよろしくお願い申し上げます。