静かに盛り上がる国内籍ETF投資

しばらくコラムを書いていなかった間に、ETFという金融商品のさらなる可能性を求めて、多くの機関投資家に話を伺いました。最近は、投資をする際、個別銘柄で投資をするよりは国内籍ETFを使いたい(使っている)ということを聞く機会が多くなってきました。理由としては、(1)個別銘柄は当たり外れが大きいので、外した場合説明が難しい。(2)個別銘柄の業績やパフォーマンスを追いきれなくなっている。(3)ファイヤーウォールを整備しているものの、やはりインサイダー規制に抵触することが気にかかる。(4)ETFは流動性を提供している指定参加者がついているので、一般的に個別銘柄より流動性が高く、市場内だけでなく市場外の売買も行ないやすい、ということがあげられます。国内機関投資家の間で国内籍ETF投資の普及が静かに進行していると感じています。

国内籍ETF投資というと日本株式のETF、代表的な日経225やTOPIXに連動するETFの活用が中心であることに変わりはないのですが、徐々にこの2種類のETF以外にも関心が広がってきています。たとえば、世界的な配当株への関心の高まりに歩調を合わせるように、日本株式の高配当株式(一部Jリートを含む)をパッケージにした上場高配当(1698)に、証券会社、機関投資家、海外投資家からのお問い合わせが増えています。これを受けて、ホームページに掲載している資料を更新しました。(ご参考:ETF資料

最近では、上場Jリート(1345)を投資ツールとして実際にご活用していただくケースが多くなってきています。2008年10月20日に11億円あまりで設定されたETFの2012年9月末の純資産残高は112億円と約10倍に成長しました。今年に入ってから複数の機関投資家の方々に新規でご投資いただいているのが大きな理由です。
Jリート投資の関心の高まりに関しては、不動産セクターのファンダメンタルズが徐々に好転していることや比較的高い配当利回りが選好されていることもあると思われます。

(ご参考:楽読)
Vol.571 J-REIT市場で注目度が高まる海外投資家の動向
Vol.572 東証REIT指数が1,000ポイント台を回復

2012年10月現在、東京証券取引所に35銘柄のJリートが上場しています。その各Jリートに投資をする「個別リート投資」と、ETF(上場Jリート(1345))を通じてJリートに投資を行なう「JリートETF投資」にはどのような差異があるか、整理してみたいと思います。

機関投資家の個別リート投資の実際

それぞれのJリートはオフィス、商業施設、住居といった様々な種類の不動産を保有しています。リートが保有している不動産の収益性・価値、また管理会社の評価に関して、現地往訪調査をしておられるようですが、なかなかたいへんな調査になります。また、将来個別リートもインサイダー規制の対象となる方向ですので、その調査の有り方についても一考を要するようになってきます。

Jリート投資をする目的に配当利回りの獲得がありますが、概して配当利回りの高いJリートは売買における流動性が低く、流動性の高いJリートは配当利回りが低くなります。収益性と流動性がトレードオフの関係にあり、銘柄選定はなかなか難しいものです。

また、流動性が高いJリートでも、少しまとまった売買で市場の板を崩してしまうことも多く、機関投資家の中には苦労をされたご経験をお持ちのところも少なくないようです。

選定したJリートの売買ですが、価格は市場における需給で変動します。リートが保有している不動産価格情報や、リートの債権債務状況はリアルタイムには把握できません。それはリートの純資産価値、1口の投資口当たりの純資産価値もリアルタイムに把握することができないことによります。よって、需給の集中・離散で本来価値から乖離した価格で売買しても、その状況の把握はできません。

JリートETF投資の特徴

一方、JリートETFは、連動対象としている指数(東証REIT指数)に採用されている36のリートを指数のウエイト通りに保有しています。指数の仕様通りに個別リートが組入れられています。指数=市場通りの分散投資が実現されており、個別リート投資の個別銘柄選定のような煩わしさはありません。さらにETFはインサイダー規制の対象外ですので、それも気にする必要はありません。

JリートETFは、指数通りに個別リートを保有しているので、指数とほぼ同じ配当利回りの収益力を持っています。ETFの運営費用である信託報酬がかかりますので、その分が減殺されますが、それでも2012年10月現在、5%弱程度の配当利回りがあります。ただし、JリートETFの場合、投資している個別リートから分配金を受け取る権利が確定した後に、大きな設定・解約が入ると、分配金の希薄化や濃縮化(詳しくはコラムNo.2)が起こることにご留意ください。しかしながら、決算・分配回数が多い方が、その影響を抑制することができます。上場Jリート(1345)の隔月分配(年6回分配)は、それを意図しています。

そんなJリートETFの売買ですが、ETFは日本の市場に上場する際、必ず取引所に流動性供給を約束した2社以上の指定参加者(証券会社)がつきます。また、その流動性供給を約束していない指定参加者(証券会社)であっても、積極的に売買に応じるところもあります。(ご参考:上場Jリート(1345)の指定参加者)直接、その指定参加者にお問い合わせいただければ、個別リートよりも大きな金額の売買がより容易にできることがご確認いただけると思います。

さらに、その売買を行なうにあたって、ぜひご参考にしていただきたい指標として、「推定一口当たり純資産価格(i-NAV: アイナブ、インディカティブNAV)」があります。これはETFが保有している個別リートを、その時の時価で評価替えして、JリートETFの現在の純資産価格を計算したものです。取引所が15秒毎に計算、発表をしています。現在の純資産価格に対して、どのような水準でETFの売買を行なうのがいいか確認できます。こちらは、東証のホームページでご覧いただくことが可能で、QuickやBloomberg等の情報端末からもご確認いただけます。

収益の会計処理は同じ

個別リート投資の場合、配当金は有価証券利息配当金に計上し、売買損益は国債等債券売却損益で計上します。JリートETFの配当金、売買損益は個別リートと同様に扱ってよいようです。JリートETFの売買損益は、株式のETFと同じく株式等売買損益としなければならないということではありません。

(ご参考)
「日本のETFの現状と課題」、月刊資本市場 2012.3(No.319)
ETFの会計処理について
「旬刊経理情報 2012年7月1日号(No.1318)」

Jリート投資にETFを活用する

透明性、流動性を確保しつつ期間収益を確保するという多くの機関投資家がめざす運用は、決して簡単なものではありません。しかしながら、期間収益獲得に配当利回りの期待できる「JリートETF投資」は、その実現の一つの方法ではないでしょうか。ETFには特別分配の概念が無いことから、常に分配収益を認識できるといった特徴があります。そして、先ほど個別リートよりもJリートETFは流動性が高いということをお話ししましたが、これは、市場の急変に応じて、すぐに売買することが可能ということです。また、取引所の空いていない時間滞でも、店頭市場やPTS(私設取引システム)でも売買が可能になっています。これは非上場の投資信託との大きな違いで、リスク管理の観点からも有益なことと思います。

次に透明性ですが、上場Jリート(1345)は、毎日、最新のポートフォリオ状況をFund Dataで開示しています。“ポートフォリオ”をクリックしてください。 さらに、バーゼル規制向けの開示も大口投資家の皆さまのページで掲載しています。

Jリート投資にETFを活用する環境はどんどん整備されてきています。一度、ご活用いただき、その便利さを実感していただきたいと思います。