注目を集める日経平均のレバレッジ・インバースETF

7月7日に台湾で行われたETFのカンファレンスに出席し、アジア地区のETF市場の発展について、特に日本のETF市場の現況を紹介してきました。アジア地区の証券取引所やETFプロバイダー、機関投資家が集まって、様々な議論・情報交換が活発に行われました。
アジア地区でレバレッジ・インバースETFが解禁されている市場は、日本・韓国・台湾の3市場になっています。このレバレッジ・インバースETFが解禁された市場では、レバレッジ・インバースETFの売買高が急増し、ある意味、市場が活性化し喜ばしいことではありますが、残高が大きくなるにつれて、その市場への影響が気にされてきています。今回のETFカンファレンスの出席者、とくにレバレッジ・インバースETFを導入していない取引所の方からも質問を受けました。実は、このような質問が来ることが予想されたため、日本のレバレッジ・インバースETF、特に代表的な日経平均のレバレッジ・インバースETFの市場への影響について簡単な分析をしてみました。また、直近(2015年7月第2週)は中国市場等の影響で日本市場も大きな動きとなったことから、データを2015年7月10日まで延ばしたものでご紹介したいと思います。

資産残高の増減を繰り返しながら、成長する日経平均のレバレッジ・インバースETF

東京証券取引所のETF・ETNレポートからすると、東京市場のETF・ETN売買代金の概ね80%がレバレッジ・インバースETFの売買によるもので、活況売買に沿って、日経平均のレバレッジ・インバースETFの純資産残高も大きくなり、2015年7月10日は過去最高の6,302億円となっています。

日経平均のレバレッジ・インバースETFの純資産残高推移(2012年4月11日~2015年7月10日)

(信頼できると判断したデータを基に日興アセットマネジメントが作成)

日経平均のレバレッジ・インバースETFの運用方法

では、日経平均のレバレッジ・インバースETFの運用はどのようなものでしょうか。
レバレッジは日経平均の1日の動きの2倍の値動き、インバースは▲1倍、×2インバース(ダブル・インバース)は▲2倍の値動きを目指します。そのため運用を担当するファンドマネージャーは、運用ファンドの純資産に対して、レバレッジは×200%、インバースは×▲100%、×2インバースは×▲200%になるように日経平均先物(ミニ先物)を保有します(正のポジションは買い持ち、負のポジションは売り持ち)。

これは、追加設定や一部解約がなければその日のETFの純資産残高を想定しながら、ファンドマネージャーは先物の売り買いを行うことで済むのですが、追加設定や一部解約がある場合は、設定・解約代金のネット値をその日の純資産残高に加えて売買することになります。ここで、注意すべき点は、前日の純資産残高をもとに作られた先物ポジションと本日の設定・解約代金のネット値を本日の純資産残高に加えたものとの差分が売買を行わなければならない先物の金額になる点です。

日経平均のレバレッジ・インバースETFの市場への影響

次のグラフは、日経平均のレバレッジ・インバースETFによる先物の日々売買代金を推定したものです。上方向は買い、下方向は売りになります。但し、設定・解約分については、投信計理上、ETFによりその申込日の翌日、または、翌々日の計上になるので、計算の都合上、純資産の計上日に売買をするものと仮定して集計しました。おそらく実際の売買より1日後ずれしていることが考えられますが、傾向値をつかむものとしてご理解ください。

日経平均のレバレッジ・インバースETFの先物の日々売買代金推移(推定)(2012年4月11日~2015年7月10日)

(信頼できると判断したデータを基に日興アセットマネジメントが作成)

上記グラフでは1日あたり1,500億円を超える売買を行っている日も出てきており、市場への影響も相応のものになってきているものと思われます。そこで、この売買の先物市場の出来高に対するインパクトを見たものが、次のグラフになります。 ここではレバレッジ、インバース、ダブルインバースの先物売買をネッティングして計算しています。

日経平均のレバレッジ・インバースETFの先物の日々売買代金の市場シェア(推定)(2012年4月11日~2015年7月10日)

(信頼できると判断したデータを基に日興アセットマネジメントが作成)

このグラフから見ると10%にも満たないこともあり、そんなにインパクトが無いようにも見受けられますが、前述のようにファンドマネージャーの売買は当日のETFの純資産残高を想定して売買を行いますので、引け間際にその売買が集中すると思われます。
次のグラフは2015年6月4日の日経平均先物の時間帯別売買分布になります。意図的にこの日としたのではなく、たまたま、台湾のカンファレンスの準備をしていた日のデータを見たものですが、特別なイベントがあったということではない、通常、典型的な日として捉えて構わないと考えました。

日経平均先物の時間帯別売買分布上場(%)(2015年6月4日)

(信頼できると判断したデータを基に日興アセットマネジメントが作成)

そこで、日経平均のレバレッジ・インバースETFの先物の売買が14:45以降大引けまでに行われると仮定して、その売買のインパクトを見たものが次のグラフになります。

日経平均のレバレッジ・インバースETFの先物日々売買代金の市場シェア(14:45~15:15)(推定)(2012年4月11日~2015年7月10日)

(信頼できると判断したデータを基に日興アセットマネジメントが作成)

直近では20%を超える日も多くなり、最大では、2014年12月25日の50%近くになった日も出てきております。 日経平均先物の流動性はたいへん高いうえに、アンダーライングアセットの現物株式の流動性の高さと、先物・現物市場、日経平均株価に連動するETFの取引市場の奥深さを考え、これらの市場の間を取り持つ裁定取引業者の存在も考えると、実際はどの程度のインパクトなのか、なかなか評価が難しいところかと思います。

これからの日本のETF市場と日興アセット

2015年6月末では、日本のETFの純資産残高は14兆3,675億円となっており、当社のETFセンターが発足した2008年8月(3兆3千億円程度)と比較すると隔世の感があります。

先日は楽天投信投資顧問さんが日経平均のレバレッジ・インバースETFでETF市場に参入されました。前回のコラムでも書きましたが、上場廃止・償還スキームといった日本のETF制度の整備も進み、市場参入のハードルが下がり、新規参入を図られる会社も増えてくるかと思います。そのようななかで、新規参入会社はその独自性を出すために様々なアイディアを盛り込もうとされますし、既存の会社も負けないように対抗して、健全な競争と共に日本のETF市場が発展するなかで、今度は大きくなることによる問題、問題になるであろうこともあるかと思います。今回のレバレッジ・インバースETFの市場への影響もその一つになるかと思います。

当社は日本の代表的なETFの管理会社の1社として、健全な市場の発展の一助となれたらと思っています。また、これからも、市場特性をよく勘案した新ETFを開発していきたいと考えています。引き続き日興アセットマネジメントのETFを宜しくお願いいたします。