売買できるか?当初設定3,000口、純資産残高30百万円の新ETF

6月29日 弊社の新ETF、上場インデックスファンドアジアリート(1495)が東京証券取引所に上場いたしました。初日の出来高が8,270口、売買代金が86百万円と、なかなか取引所売買が盛り上がらない海外資産に投資するETFとしては活況な取引スタートとなりました。

上場日当日、当ETFに関して、次のような問い合わせが個人のお客様から弊社のコールセンターにあったそうです。
「当ETFの当初設定が3,000口、純資産残高が30百万円程度しかない。5百万円程買いたいのだが、買えるか。」です。株式の売買では、発行済み株式数が3,000株で、そのうち500株(16.7%)を買おうとしたら一大事ですが、ETFは買えるのです。実際、初日の出来高が8,270口、売買代金が86百万円となったのは前述のとおりです。

ETFは追加型の投資信託の一種ですので、ETFの買付ニーズがあれば、ETFの販売会社にあたる指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーと呼ばれる市場参加者がETFを設定して売り渡してくれるのです。ETFは株式の売買と同じように取引所で売買できると言われます。これは間違いではないのですが、株式の売買とETFの売買においては、実は大きな違いがあります。ETFにおいては発行済み受益権口数が市場の需給に応じてダイナミックに増減します。一方、株式は市場の需給に応じて発行済み株数が増減することはありません。

何故、売買できるか?当初設定3,000口、純資産残高30百万円の新ETF

前述の質問が出るようであれば、おそらく「発行済み受益権口数が3,000口、30百万円のETFの出来高が8,270口、売買代金が86百万円もできるのはなぜなのか。」という疑問があってもおかしくないと思いました。3,000口のETFが、1日で2.76回転したという数字です。仮装売買、馴合売買が禁止されているにもかかわらず、何故、このような売買が成立するのか不思議だと思いませんか。

ここで、上場アジアリート(1495)の設定日以降の発行済み受益権口数を見てみましょう。このデータは日興アセットのホームページに毎日更新されて掲示されています

上場アジアリート(1495)の設定日以降の発行済み受益権口数・純資産残高推移

受益権口数 純資産残高(百万円) 備考
2017/6/22 3,000 30 設定日
2017/6/23 3,000 30  
2017/6/26 3,000 30  
2017/6/27 3,000 30  
2017/6/28 3,000 31  
2017/6/29 3,000 31 上場日
2017/6/30 18,000 183  
2017/7/3 23,000 234  
2017/7/4 35,000 358   

実際のところ、やはりETFの販売会社にあたる指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーと呼ばれる市場参加者が売り渡してくれているので売買が成立しているのです。ただ、この仕組みを正しく理解していただくにはETFの設定フローと空売り規制の理解が必要になります。

ETFの設定と受渡、空売り規制

上場初日の6月29日にETFの販売会社にあたる指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーと呼ばれる市場参加者が上場アジアリート(1495)を売却しようとすると、上場アジアリート(1495)の受益権を売却日から4営業日目、7月4日の受渡までに入手しておく必要があります。実務的には受渡は朝一番に行われるので7月3日には準備を終えておく必要があります。

指定参加者が上場アジアリート(1495)の設定を申し込んだ場合、申込日の翌日に計算されるETFの基準価格×申込口数=設定申込金額を、申込日の翌々日の朝に払い込むことで、その日の午後にはETFの受益権を受け取ることができます (設定フロー)。 よって、7月3日までに上場アジアリート(1495)の受益権を準備するには6月29日(上場日)に設定の申込をしていなければなりません。

また、市場参加者には空売り規制があり、この手当も必要になります。詳細は日本取引所のホームページ をご覧いただければと思いますが、募集・売出等で取得することとなる数量の範囲内の売付けといった空売り規制の適用除外の要件を満たすために、売付けを行う前に上場アジアリート(1495)の設定の申込をしておく必要がありますので、6月29日(上場日)以前に設定の申込をする必要がありました。

ここで、前出の上場アジアリート(1495)の受益権口数の推移をもう一度、ご覧ください。6月30日には受益権口数が15,000口増えています。この設定の申込は6月28 日に行われています。7月3日には受益権口数が5,000口増えています。この設定の申込は6月29日に行われています。ここからもお分かり頂けるように6月29日の上場日には、売買できる受益権口数が3000口ではなく23,000口になっていたのです。上場初日の出来高、8,270口を十分に賄える受益権口数だったのです。

海外資産に投資する上場インデックスファンドアジアリート(1495)の上場

冒頭に「取引所売買が盛り上がらない海外資産に投資するETF」と書きましたが、これには訳があります。

当ETFの売買を考えている個人投資家が取引所の板を見るとスカスカなので売買をためらってしまう、そして投資家の売買が出てこないことから指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーといった市場参加者も板に売り買いを晒さなくなる、個人投資家がさらに離れて行ってしまうといった悪循環に陥りやすいからです。

たとえば米国株式に投資するETFを考えてみてください。このETFの売買取引をする時間帯は東京証券取引所が開いている日本時間になりますが、投資対象資産の米国株式の取引は米国時間で、日本の真夜中にあたります。よって、指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーといった市場参加者が当ETFを日本時間で売買しようとすると、ETFの投資対象米国株式の価値=当ETFの値段という関係を維持しながら売買することが困難になります。そこで指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーといった市場参加者はリスクを取った売買を行うことになります。売り買いの幅(スプレッド)を大きくし、また、そのリスクをカバーするための資本の厚さが必要になりますが、逆に資本に限りがあることから売買に応じる量を絞る必要が出てくるといったことが背景にあります。

上場アジアリート(1495)の直接の投資対象はシンガポールに上場するETFであり、そのシンガポールのETFの投資対象はシンガポール・香港・マレーシアに上場するリートです。時差は1時間と少なく、取引時間も概ね重なっています。当ETFは海外資産に投資するETFであるものの、指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーといった市場参加者がETFの投資対象資産の価値を知り、投資対象資産=当ETFの値段という関係を維持しながら売買しやすいETFなのです。

ただ、正直に言いますと、理論としてはそうであるものの実際はどうかという不安がありました。そのため上場アジアリート(1495)設定前の5月に日本のETFを積極的に売買しているマーケットメイカー、上場アジアリート(1495)の直接投資対象のETFの指定参加者及び指定参加者候補を往訪し、上場アジアリート(1495)の仕組みの説明とマーケットメイクのお願いをしてきました。また、設定後、上場直前にも一部のマーケットメイカー、上場アジアリート(1495)の直接投資対象のETFの指定参加者及び指定参加者候補を往訪し、マーケットメイクのお願いをして来ました。そして迎えた上場日当日、初値がつき、その後も売買が円滑に行われたのを見て、本当にほっとしました。

個人投資家向けのETF普及に関して

昨年の金融審議会の報告にある個人投資家向けのETF普及に関して、その施策のなかにETFの流動性改善が指摘されています。設定・解約(交換)、市場外取引といった手法で売買ができる機関投資家と違って、個人投資家のETF活用の環境整備において取引所内の流動性改善は必須のものです。現在、日本取引所を中心に、ETFの設定・解約方式の見直しや公的マーケットメイカー制度の導入が検討されています。しかしながら、本質的な流動性改善策は個人投資家が投資をしたくなる運用対象のETFなのかということにあり、指定参加者(証券会社)やマーケットメイカーといった市場参加者が売買しやすくする環境整備は、個人投資家ニーズの次にくるものです。

今回の上場アジアリート(1495)は多くの個人投資家の方々のニーズにマッチしたようです。6月の日興アセットマネジメントのETFホームページのアクセス分析で、商品別では断トツのページビューになっています。実は、今年の3月21日のブロガーさん達との座談会ではアジアリートに対する関心が低かったこともあり、マーケットメイカーを呼び込んだものの個人投資家の関心を引き付けられなくて、売買が低調になることを恐れていました。今回は何とかうまく立ち上がってくれそうです。これからも、このように個人投資家の皆様にもご関心を持っていただけるETFの開発を続けて行きたいと考えております。


引き続き日興アセットのETF、上場インデックスファンドのご愛顧を宜しくお願い申し上げます。