チーフ・インベストメント・オフィサー 西澤賢から皆様へのメッセージ
2008年10月8日号 最新!
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バブルの崩壊とソロスの警告

 9月は激動の月になりました。特に米国では、大手証券会社の経営破綻にはじまり、大手銀行による大手証券会社の救済買収、大手保険会社に対する公的資金投入、大手貯蓄金融機関の経営破綻など、まさに1929年の大恐慌以来と思われるような厳しい環境でした。

 今回の一連の出来事から私たちは何を学んだのでしょうか。2~3年前から米国の住宅バブルに警告を発し、「2008年のうちに世界経済は、大恐慌以来の巨大バブル崩壊を迎えることになる」と言い切った人物がいます。世界的に有名な投資家ジョージ・ソロスです。ソロスは、「信用膨張のあくなき肥大化と、行き過ぎた市場原理主義とによって成長した超バブルがはじける」と警告してきました。

 若き日に哲学者をめざしていたソロスが語りかけていることとはどんなことでしょうか。ソロスは「再帰性」(「相互作用性」と訳されることもあります。)という言葉を彼の著書の中などでよく使っています。再帰性とは、個人が市場取引に参入するとき、市場に対する偏見や先入観を持って参入しているようであり、それが潜在的に経済のファンダメンタズを変化させてしまうという考え方です。そして、再帰性理論とは、金融市場は、それ自身が市場へ影響を与えてしまうため、将来を正しく織り込むことはできないという理論です。ある特定の状況下では、金融市場は、それ自身が再帰的に、いわゆる、経済の基本部分といわれるような部分へ影響を及ぼすことがあります。そして、それが起こると、市場はダイナミックに不均衡状態に入って行き、効率的市場の理論で語られる通常の状態とは全く異なった振舞いを始めます。例として最近の原油価格の高騰を考えてみましょう。

 最近の原油価格の高騰には、投機的な資金が大量に流れ込み、昔とは違うメカニズムが働いています。市場へ参加しようとしている人は、原油が上がっているという事実を踏まえて、これからも上がるだろう、という仮説のもとに原油への投資を開始します。するとそのような思惑を持つ投資家が多くなるにつれ(これが市場に対する偏見や先入観、いわゆるバイアス)原油価格はどんどん高騰していき、この先入観が正しいということを逆に市場(原油価格)が証明しているかのような状況がつくられます。こうして、先入観は強化され、これが将来の市場の展開に大きな影響を与えることにより、ブームという現象をつくり出します。このブームが続いている限り、市場参加者は利益を上げることが出来るのですが、その加速度がどうにも説明のつかないポイントにまで達すると崩壊することになります。このように突如として沸き起こったブームによる経済のファンダメンタルズの移り変りは、均衡の変化というよりもむしろ不均衡と捉えるべきであり、従来の経済学上の均衡理論や株式市場での市場原理主義を否定しています。ソロスは西洋哲学の根本となっている二元論は否定しないものの、2つの存在は互いに影響を与えながら変化していくという考え方を持っています。

 現在の世界市場は先進国と中国、インド、中東諸国などの新興経済大国が相互に影響を与えながら、徐々に両者の優劣関係が逆転している変化点にあります。サブプライム(信用力の低い借り手向け)ローン問題に端を発した今回のバブル崩壊は米国を中心とする先進国に深い傷跡を残しています。米国の株式市場が回復するまでには数年の時を要するのかもしれません。今回の米国政府や中央銀行による政策出動は、システミックリスク(ある金融機関が経営破綻したり、決済資金が不足したりして債務不履行になった場合に、決済システムに参加するほかの金融機関が連鎖的に決済不能となる危険性のこと)を防ぐために必要な措置だったと思います。しかしながら、ある意味、市場原理を否定してしまったことにもなり、先進国政府と中央銀行の自信喪失に繋がってしまうかもしれません。

 このような世界の変化のなかで、気になるのは日本のポジショニング(競争上の位置づけ)です。厳しい言い方かもしれませんが、パラダイムシフトの中で、日本の存在感は極めて希薄と考えられます。日本は政治、経済ともになかなか閉塞感を打開できない状態が続いていますが、今は忍苦の時であると思います。世界市場を牽引していくほどのパワーがないとしても、日本の個々の企業がグローバルな舞台で活躍できる場面は沢山あると考えています。最近銀座に日本第1号店をオープンさせて話題の「H&M」は、実はスウェーデンのファッション・アパレル会社ですが、世界32ヵ国に約1,600店舗展開し、最大市場はドイツという、正真正銘のグローバル展開企業です。日本も国内経済は成熟し、人口も減少傾向に転じることですし、このようなグローバル展開をしていける企業が現れても不思議はありません。そのうちに日本の機械メーカーだけれども、最大の市場はアフリカで、生産拠点はアジアの10ヵ国、本社機能はヨーロッパにあり、社員も全世界に5万人というような会社が出てくるかもしれません。私たちは次なる雄飛に向けて、世界の変化に適応していける会社を探していく努力を継続していきたいと思います。

 

シニア・ファンドマネージャー 柏谷 成彦

※本資料では、個別銘柄に言及していますが、これは関連する銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。

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