タイトルからすると今のアメリカ金融危機のことでも書くのかと思われるかもしれないが……ここでは、そんな野暮はしない。
映画のお話。
久々に小さな宝石のような、素敵な映画を観た。
『落下の王国』
インド人監督ターセムが4年の撮影期間をかけて作り上げた幻想と叙事詩の世界。
時代設定は1915年。(この時代設定からして洒落ている。近代産業の勃興期で第一次世界大戦の参戦前(アメリカの参戦は1917年)。人間とモノとが蜜月関係にあり、人が未知の世界に対して浪漫や希望を純粋に持てた時代……)
映画の撮影中に大怪我をして入院しているスタントマンの青年。そこに腕を骨折して入院していた5歳の少女が現れる。青年はある目的から少女の気をひくために、思いつきの冒険譚を語り始める。
それは6人の勇者が世界を駆け巡り、悪に立ち向かう……と云う物語だった。
青年は橋から落ちて入院し、少女はオレンジの樹から落ちて入院している。どちらも「落下」することで傷ついている。そのふたりの再生のありかたと青年によって語られる物語の進行が映画の枠組みなのだが、その映像美には溜息の連続となる。
現代映画で全盛を誇るCGを殆ど使わずに、全世界でロケーション撮影している。
南アフリカ、インド、フィジー、バリ、ナミビア……それ以外にも監督自身がコマーシャルフィルムの撮影(この世界でターセムは第一人者であり、ナイキやリーバイス、ペプシなどのCFでスタイリッシュな美しい映像を提供してきている)で訪れたプラハやイスタンブール、エジプトなども含め世界遺産のオンパレードが画面に登場する。
象が海を泳ぐ幻想的なシーンやトルコ・メヴラーナ教団のぐるぐる回る踊り子達が登場人物を取り囲んでゆくシーンなど……その美しさは息を呑む。
そして、登場人物たちの魅力を倍化して高めてくれるのが素晴らしい衣装の数々。
日本人・石岡瑛子によるコスチュームデザイン。彼女は北京オリンピックの開会式でも衣装を手がけている。彼女が書いた『私デザイン』と云う本はお奨め。プロフェッショナルとしてグローバルな映画の世界で一流になった人間の信念や哲学が見事に語られている。
世界で活躍する日本人の中でも本物中の本物。
役者も凄くいい。
怪我で歩けない青年役のリー・ペイスの浄感を漂わせる演技。そして少女役のカティンカ・アンタルーの無垢そのものの存在。監督の力量がこの配役を見事に描ききっている。
音楽もいい。
音楽好きの私が驚いたのは、メインテーマにベートーヴェンの交響曲第7番・第2楽章を使っていること。聴きなれた音楽がこれほど映像とマッチして魅力的になるとは……新鮮な驚きの連続だった。
原題はThe Fall.
そのまんまの、落下。
人間は誰でもどこかで落下を経験する。世界はまさに今……そうかもしれない。
しかし、そこからの再生にこそ本当の美しさがあるとすれば……。
そんな風に思わせてくれる……この秋の贈り物のような映画だった。