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預金金利が上昇!それでも資産運用は必要?

公開日2025年3月25日

加集 勇夫

日興アセットマネジメント

結論

  • 預金金利は十数年ぶりの水準に上昇

  • それでもインフレを踏まえると実質金利はマイナス

  • 資産保全にも意識を向けて低リスクのバランスファンドも取り入れてみよう

最近、預金金利が上昇しています。少し前まで「預金しても増えないから、資産運用をした方が良い」と言われていたのとは、少し様子が変わってきたようです。そうした中でも、リスクを取って投資をした方が良いのでしょうか?本コラムでは、金利のある世界での資産運用の必要性について考えてみたいと思います。

ほぼゼロから上がり始めた預金金利

日本では、平成不況やリーマン・ショック、コロナ・ショックなど、様々な要因が重なって、預金金利は長らく0.001%のような超低金利で推移していました。それが、ここ数年のインフレなどを背景とした政策金利の引き上げによって、0.1%や0.2%に上昇し始めました。一部の銀行では、定期預金で0.5%程度の金利を提示するところも出てきています。

100万円を1年間預けても10円程度にしかならなかった世界から、1,000円や2,000円の利息が受け取れるというのは、大きな変化です。景気や物価動向に大きく左右されるため、預金金利がこれからも上昇を続けるかは分かりませんが、まとまったお金を定期預金に預けようという人は出てきているようです。

安全性の高い預金の金利上昇は、一見すると良いニュースです。最近の不安定な相場状況もあって、リスクを取って資産運用をしようと思っていた人の中には、考え直した人もいるかもしれません。

では、預金金利の上昇は、資産運用を避ける理由になるのでしょうか。むしろ、こうした大きな環境の変化が起こっている時ほど、冷静に見極める必要があるでしょう。

意識したいインフレの存在

多くの人にとって資産運用の目的は、「お金を増やすこと」だと思います。一方で、利息がつくとうれしいものの、預金の主たる目的は、「お金を保管する」というものではないでしょうか。財布や金庫にすべては入れられないので、銀行に預かってもらい物理的に保管をしてもらう訳です。

しかし、物理的に保管できたとしても、価値まで保管してくれるわけではありません。「価値の保管」とは、今、1万円で買えるモノやサービスが10年後や20年後も1万円で買える、いわゆる「お金の価値の目減り」が起こらないことです。そして、預金で見過ごされがちなのは、お金の価値の目減りが起こらないことは保証されていないという点です。

ここで、総務省が毎月公表している日本の物価動向を示す指標「消費者物価指数(総合)」を見てみましょう。

期間:1970年1月~2025年1月、起点を100として指数化
出所:総務省
上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

消費者物価指数(総合)の推移

約50年にわたる動きを大まかにまとめると以下のようになります。

  • ● 1970年代~1990年代前半(インフレの時代)
    バラツキはありますが、物価は概ね上昇していました。高度経済成長期や平成バブルを謳歌した時代ということもあり、様々なモノの価格が上がりました。


  • ● 1990年代後半~2020年頃(デフレの時代)
    物価はほぼ横ばいで推移し、時には下がる時期もありました。バブル崩壊以降の経済停滞やグローバル化による諸外国から安い製品が輸入されたことなどから、モノやサービスに価格引き下げ圧力が働いていました。


  • ● 2021年頃~現在(インフレの時代?)
    物価が再び上昇に転じています。コロナ禍からの回復やロシアによるウクライナ侵攻、円安などにより、農産物や原材料、物流など、幅広いモノやサービスの価格が上昇しています。

インフレの状況が続くということは、今は1万円で買えるモノでも、何年後かには1万2千円になっているかもしれないということです。そのため、物価上昇率(インフレ率)を上回る利息がつかない限り、預金しているだけではお金の価値は目減りしてしまうことになります。

預金だけでは越えづらいインフレの壁

実際、預金だけでインフレに打ち克つのは、なかなか困難です。定期預金金利と、そこからインフレ率(前年同月比)を差し引いた値「実質金利」の推移を比べてみると、1990年前後に2%以上の金利がついていた時期以外は、インフレに負けていた様子がうかがえます。

期間:1988年2月~2025年1月(実質金利は2024年1月まで)
出所:日本銀行、総務省
定期預金金利:1年以上2年未満・預入金額300万円未満、実質金利:定期預金金利からその後1年間の消費者物価指数(総合)(前年同月比)を差し引いたもの。上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

定期預金金利と実質金利の推移

特に注意したいのは、ここ数年のインフレが進んだときの動きです。インフレが進むと、しばらく経って政策金利が引き上げられ、預金金利はその更に後に上がっていきます。

昨年3月に日本銀行がマイナス金利の解除を決め、昨年7月と今年1月にも政策金利の引き上げを行ないました。それを受けて、預金金利は上昇し冒頭にご紹介したように0.2%程度の預金金利が実現していますが、2024年のインフレ率は前年比+2.7%と預金金利を上回っていました。

  • ※インフレ率:消費者物価指数(総合)(年平均、前年比) 出所:総務省

今後、インフレが落ち着き、預金金利がインフレ率を上回って推移する可能性もあります。しかし、少なくとも足元の状況はそうなっておらず、冷静に考えると、少し上がった預金金利で満足してはいけないという気持ちになってくるのではないでしょうか。

株式100%がインフレに備えるための唯一の正解?

「インフレに備えて資産運用をしましょう」というのは、金融機関から発信されてきたメッセージですが、最近では、メディアやSNSなどでも見かける機会が増えました。ただ、多くの場合、株式や株式を主要投資対象とする投資信託といった、比較的リスクの高い資産を前提に話が展開されている印象です。

長い時間をかけて資産を増やし、その結果としてインフレにも勝つことができるという「資産形成」を目的としているなら、それで問題は無いと思います。一方で、インフレに負けないことを重視して、増やすことに重点を置かないのなら「資産保全」が目的になってきます。

資産保全というと、「すでにお金を蓄えた人だけ考えればいいこと」だと思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。私も含めた資産形成層であっても、資産保全という考え方は取り入れた方が良いと思っています。

なぜなら、資産形成層の投資というと「リスクを取って株式100%」という意見を目にする機会が多いですが、全ての人がそのリスクに心理的に耐えられるわけではないからです。

理屈の上では、生活防衛資金とも言われる「減っては困るお金」をしっかりとキープしたうえで、残りの全てを株式100%の投資に充てるというのが正解だと言われることがあります。しかし、長い目で見れば報われる投資だと頭では分かっていても、評価損が日に日に大きくなる局面や、逆にどんどん資産が増えていく局面でも、心がざわざわしてしまう人は意外と多いのではないでしょうか。

心がざわつくならリスクを抑えたバランスファンドを

そうした心のざわつきを減らしながらも、インフレに負けない資産運用をするにはどうしたら良いのでしょう。そんなときに検討していただきたいのが、リスクを抑えたバランスファンドです。1本の投資信託で複数の国や資産に分散投資できるもので、株式などに比べてリスクが抑えられているのが特徴です。

すでに資産形成を終えて資産保全に移行したい人なら、このバランスファンドを運用の中核に据えるといいと思います。また、まだ資産形成をしている途中という方なら、リスクを取れる資金の中でグラデーションを付けて、株式ファンドなどとバランスファンドを組み合わせるのも有効な戦略だと思います。これは、投資に回すと決めたお金を、資産形成と資産保全という異なる目的に分けて金額を振り分けてみるというイメージです。

2025年は年初から株式市場で波乱の展開が続いています。私の持っているいくつかの投資信託の中にも、評価損益がマイナスになったものもありますが、やはりバランスファンドの下落幅は相対的に小さいものとなっていました。

とはいえ、一口にバランスファンドといってもその中身は千差万別です。20年後Lab.でもいくつかのバランスファンドをご紹介していますが、敢えて高いリターンを期待するものもあれば、安定性を重視した低リスク志向のものもあります。

これからもインフレが継続するのかは分かりませんし、預金金利が上昇してもそれだけでは不十分かもしれません。だからこそ、自分自身が耐えられるリスク(リスク許容度)や資産運用の目的に応じて、いくつかの投資商品の組み合わせを考えてみてはいかがでしょうか。

加集 勇夫

日興アセットマネジメント



当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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