「何が分からないか、分からない!」方のためのFAQ

投信積立を停止したんですが、ダメでした?

公開日2025年06月02日

今福 啓之

日興アセットマネジメント

結論

  • 積立の停止と再開を繰り返すことは、長期資産形成にとってマイナスになる可能性が大

  • 積立初期に下がったり、上がらなかったりすることは実は嬉しいことにも

今年2月以降の株式市場の下落の際に、新NISAで始めた毎月の投信積立を「一時停止」にしてしまい、その後の再開について悩んでいるという声をネットで見つけました。

私のアドバイスを結論だけ言うと、

(1)停止だけで全売却してなくて、まだ良かったです。
(2)市場動向と関係なく、すぐに再開を検討しましょう。

となります。

あくまでアドバイスですから、ご自身で納得してからアクションを起こして欲しいのですが、その説明の前に、ここ数ヵ月のストレスフルで不愉快な市場の動きを振り返っておきましょう。

株は「右肩上がり回帰」を期待し、為替は仕方なく(?)受け入れる

まず先日のコラムで見たグラフを足元までアップデートしてみました。トランプ氏勝利の直前である2024年11月1日を100として、S&P500とオール・カントリー指数を5月23日まで示したグラフです。

期間:2024年11月1日~2025年5月23日
上図のS&P500とオール・カントリー指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)は米ドルベース(配当考慮せず)、下図はそれぞれを日興アセットマネジメントが円換算。
グラフ起点を100として指数化。信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

「トランプラリー」とその後の動き

上は「米ドルベース」といって、要はアメリカ人が日々見ている動きそのもの。下はその日々の数値にその日の円/米ドルの為替を掛け算して求めた「円換算」の動きです。日本人の私たちがインデックスファンドを通じてS&P500やオール・カントリーに投資している場合は、こちらのような動きを見てきたことになります。

見て分かるように、高値から4月までの下がり方も、またそこから5月下旬にかけての上がり方も、「円換算」の方が不利だったことが分かります。

「米ドルベース」の直近では、S&P500もオール・カントリー指数も横軸のオレンジ線、つまりトランプ就任時の水準を上回っているのに、「円換算」ではまだ上回れていません。そう、もうお分かりの通り、為替の円高が足を引っ張ってきたのです。困ったものです。

さて、では今後の株式と為替はどうなるのでしょうか。

残念ながら明確な答えはお示しできません。しかし、当「20年後ラボ」のあちこちでお伝えしている通り、そもそも数ヵ月とか1年程度の予想は本当に困難で、結果としてアテにならないものです。

耳に入ってくる市場解説はもっともらしく聞こえますが、市場での売買が仕事の「市場参加者」による、その人たちの世界のための「ゲーム実況中継」みたいなものも多く、そうでない私たちが観ても読んでも、却って悩みを深くするだけのことも。

「将来のために資本市場を利用するが、決してそこで勝負やゲームをしたいわけではない」普通の“市場参加者”である私たちは、もっと大きな理解でいるべきです。株式については、以前のコラムでも書いたような「来年11月の中間選挙も意識されるようになるこれからにおいて、トランプ氏が米国の株価が崩壊するようなことをし続けるだろうか?」といった楽観論でもいいですし、当社がずっと言ってきた「短期の株価は予測不能だが長期の株価はシンプル。利益成長とリンクして右肩上がりとなるもの」といった骨太な信念みたいなものでもいいと思います。

一方で、為替については「長期で見れば右肩上がりになるはず」という期待をすべきではありません。ちなみにこの場合の「右肩上がり」とは、海外投資をしている日本人にとって有利な円安になり続けるということです。

しかし日本以外に投資したいなら、為替のリスクは避けて通れません。その動きが読めない以上、あくまでメインは株式の方であり、為替は仕方なく付き合うしかないオマケ要素と整理すべきです。「円高になるのを待って始め、円安になったらいったん売って・・・・・・」などといった「オマケ要素」の方の相場観で投資信託を売買すべきでないことは、言うまでもありません。

停止していると「稲妻が輝く瞬間」に居合わせられないから

個人的な話で恐縮ですが、私はそれまでの証券会社勤務から2000年に投資信託業界に転職しました。その時に勉強しようと買い漁った本のひとつに『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス著/日本経済新聞出版社)というものがあります。

私が買ったのはちょうど前年1999年に出た初版本でした。その後幾度も版を重ねて今や世界100万部を超える名著となった本の初版本を持っていることが、私の(つまらない)自慢ですが、あちこちに引かれた蛍光ペンのひとつに、「(市場タイミングに賭けて売買する人は)“稲妻が輝く時”に市場に居合わせられないのだ」といった一節があります。

市場を見て出たり入ったりする人は、突然上がるその時に上昇の恩恵を受けられない可能性があることへの警鐘です。

まさにその通りで、トランプ関税を受けた暴落で怖くなって積立を停止してしまったり、全部を売却してしまったりした人は、4月からのこれまた急な“稲妻のような”反発劇に居合わせることはできなかったはずです。

そういえばコロナ・ショックの時もそうでした。まさにショック的な下落に皆があ然として何もアクションできないうちに、急角度で反発していきました。

株式は突然下がり、上がるのも往々にして突然です。その突然の上昇を逃すことが普通の人の資産形成にとって一番恐れるべきことだ、だから下げも上げも全部付き合うべく、何も考えず市場に居続けよ――それがチャールズ・エリス氏のメッセージでした。

とはいえすぐに急反発してくれるケースばかりではないのが悩ましいところ。ガンと下がった後にズルズル下がり、ずっとその状態が1年2年と、場合によってはもっと長く続くこともあります。

好調一辺倒だったと思われがちなS&P500ですが、下のグラフをよく見てみてください。ここ10年を見るだけでも、下落後に元の値を上回るまでにそれなりに時間がかかったケースが何度もあることが分かります。

期間:2015年1月2日~2025年5月23日
S&P500は米ドルベース(配当考慮せず)
信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

S&P500の過去約10年間の動き

その度に積立を停止したり全売却したりして、何度もの“稲妻”を逃し、結局は自分が売った値段よりも高いところから再参入するような愚を演じた人はたくさんいたはずです。

積立投資をいったん停止してしまっていた人は、すぐに再開を検討しましょう。くれぐれも“稲妻”を逃さないよう、上げも下げも付き合う覚悟を改めて強めた上で。

「下がっても嬉しい投信積立」なら、すぐに上昇モードに戻らなくてもOK

上げも下げも付き合う覚悟に加えて持っておくと勇気が出る知識をひとつ。それは、「投信積立は下がっても嬉しい仕組み」ということです。

下のグラフは、(こんなことはあり得ませんが)変動がまったくなく直線的に増えていった「優秀なファンド」の推移と5年間の積立の結果を示しています。

「最終評価額」は上記のファンドに毎月1万円を積立投資した場合の5年後の評価額(手数料や税金を考慮せず)です。積立投資によって必ず利益があがることを保証するものではありません。

① ブレなく上がる「優秀なファンド」への積立

毎月1万円ずつを60ヵ月(5年間)積み立てると60万円の積立元本が最終的に75万5千円になることを示しています。

次のこのグラフは、前半の3年間はずっと横這いで冴えず、後半にようやく上がって先ほどのグラフのファンドと同じ到達点まで行ったというケース。

「最終評価額」は上記のファンドに毎月1万円を積立投資した場合の5年後の評価額(手数料や税金を考慮せず)です。積立投資によって必ず利益があがることを保証するものではありません。

② 「前半不調で、後半に盛り返すファンド」への積立

前半の動きにはイライラしましたし、後半盛り返したといっても①の優秀なファンドと同じ到達点ですから「あっちにしておけばよかった」といったところです。

しかしグラフ中に書いてあるように、最終評価額は85万9千円と、①よりも増えているのです。

さて次は、もっとストレスが多かったケースです。

「最終評価額」は上記のファンドに毎月1万円を積立投資した場合の5年後の評価額(手数料や税金を考慮せず)です。積立投資によって必ず利益があがることを保証するものではありません。

③ 「前半絶不調で、後半も元本に戻っただけのファンド」への積立

なかなか酷い動きです。積立を始めた途端に下がり続け10,000円の基準価額がなんと4,000円にまで暴落しています。後半で盛り返すものの、時間切れで元本の10,000円まで戻って終わり、です。

でも最終評価額は②よりも多い91万6千円なのです。驚くべきことに。元本に戻っただけなのに。

もうお分かりの方も多いかもしれません。投資信託の積立は毎月1万円とか5万円といった定額で毎月買える口数を「仕込んで」いく仕組みであるため、②や③の前半では下がっている過程で安い値段でたくさんの口数を仕込んでいたのです。それが後半の盛り返し時に花が開く、ターボがかかって増加スピードが増すことに繋がっているのです。

当社はずっと、「投信積立は下がっても嬉しい仕組み」、「上がるのはもっと後でいい。今はできるだけ口数を仕込みたいんだから!」といった表現を使ってきました。

順調に含み益が増えていたのに、一転マイナスの日々が続くようになると不安になるのは当然です。でも、こうした「仕組みへの深い理解」で不安を跳ね飛ばし、マイナスが続く中でも平気で積立を続けられる境地に早く入った者勝ち、なのだと思います。

最後にもう一つだけ、こんなケースを見てみます。

「最終評価額」は上記のファンドに毎月1万円を積立投資した場合の5年後の評価額(手数料や税金を考慮せず)です。積立投資によって必ず利益があがることを保証するものではありません。

④ 「前半絶好調だが後半不調なファンド」への積立

前半は絶好調。①の直線的に増えていったケースを上回る上がり方を見せています。しかし後半はまったく上がらなくなって①と同じところで終わり、結果は今までのどれよりも少ない67万9千円です。

こうなった理由は、先ほどの「安い値段でたくさんの口数を仕込み・・・・・・」の逆を行っているから。割高な値段で仕込まざるを得ない状態が、大事な前半に来てしまったから。

新NISAが始まって以降、絶好調と言ってもいい推移で(しかも円安という下駄のおかげもあり)、さらに多くの人を惹き付けた世界の株式市場でしたが、もしこの④の要素、つまり「スピードオーバー」だった可能性が少しでもあったとすると、今の状況は悪いことばかりではないかもしれません。つまり後から振り返った時に、「積立初期のあの頃に大きく下がって、しばらく冴えなかったのが良かったよな~!」となる可能性があるということです。

焦らず、でも大事なことは自分で納得できるまで調べ、考えてみましょう。投信会社の責任感で社員が書いている当「20年後ラボ」は、多少なりともお役に立てるはずです。

※各指数の著作権等の知的財産権その他一切の権利は、各指数の算出元または公表元に帰属します。

今福 啓之

日興アセットマネジメント



当ページは、一部個人の見解を含み、会社としての統一的見解ではないものもあります。


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