2019年11月19日
金は実物資産で、株式や債券と異なり、景気後退時など市場心理が悪化する局面で買われやすい傾向があります。そのため、2019年5月末以降の米中貿易摩擦の激化を受けた世界経済の鈍化懸念の高まりや、世界的な金利低下で金の相対的な魅力が高まったことなどを背景に、金価格は9月上旬、約6年半ぶりの高値水準まで上昇しました。しかしその後は、米中貿易協議の進展期待の高まりや、米国の景況感の改善などを受け、株式市場が好転するなど、世界的にリスク資産に資金をシフトする動きが顕著となり、金価格は軟調に推移しています。 金需要については、主に宝飾品、工業品などのテクノロジー向けと投資、中央銀行やその他機関の保有などがあります。今年9月にかけての金の価格高騰に新興国を中心とした通貨安が重なり、現地価格建てでの割高感が強まったことから、主要な金消費国である中国とインドで宝飾品需要の落ち込みが見られました。一方で、各国中央銀行など公的機関による金の購入量については、2018年以降、米中貿易摩擦の激化などに伴なう不確実性の高まりのほか、米ドル依存を脱却しつつ準備資産の保全を図る目的で、中央銀行などは金の保有量を増加させており、今年も、1971年のニクソン・ショック以降で最高となった昨年を上回るペースでの購入を続けています。中央銀行の購入量は、9月末時点で約540トンに達しており、金相場を下支しているとみられます。特に、ロシアや中国、ポーランドなど新興国の中央銀行による活発な購入が目立っていることに加え、ケニアやアルバニアなど、新規に金の購入を開始する中央銀行も増加しています。 米中貿易協議は、足元で進展がみられているものの、知的財産権侵害の問題やハイテク分野での覇権争いなどは解決しておらず、先行きには不透明感が残っています。また、香港でのデモが激化・長期化するなど、地政学リスクが顕在化していることから、金融市場の変動が再び大きくなる可能性も考えられ、引き続きリスク分散を図る必要性は高いとみられます。中央銀行の需要に加え、安全資産としての金の需要は今後も底堅く、金相場を支えると見込まれます。
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