まずは「基礎工事」から 。そして「ぶれない土台」

まずは「基礎工事」から。

これまでの話で一緒に考えたのは、60歳で5,000万円は預貯金だけでは難しい、であれば預貯金の一部を投資に振り向けて、合計で5,000万円に到達することを考えよう、ということでしたよね。したがって、今持っている預貯金のところから考え始めなければダメです。だからこの絵の一番下にあるのはコンクリートの基礎なんです。

図:預貯金

家を造る時も、まずはコンクリートの基礎工事をします。そこがしっかりしていないことには始まりません。いざという時に使える預貯金を残さず無理な金額で投信やETFを買ったり、「本気の積立」とは言ったものの生活に支障のある無理な金額の積立をしていたりでは、「家」は完成する前に崩れてしまいます。

「ぶれない土台」

基礎がある程度しっかり工事できたら、本格的に商品を考えます。逆に言うと、いつまでもコンクリの基礎ばかりを厚くしていても、将来のための家は建ちません。地震が怖いからと家を建てず、いつまでも基礎工事のまま野ざらしにしていては意味がありませんよね。

家を建てるためには、まずコンクリの基礎の上に土台を組むところから始めるはずです。「ぶれない土台」とある通り、ここは安定こそが命。いわゆるバランスファンドが有力候補となります。

図:預貯金+資産運用のぶれない土台

前回言った3×3のマスの複数を1つの投信でカバーしている投信のことをバランスファンドと言います。もちろん別々に、日本株の投信、世界債券の投信・・・と自分でマスを1個ずつ埋めてバランス型の状態を自分で作ることもできますが、こと「ぶれない土台」の作り方としてはお勧めしません。あれこれ考えず、どんと構えて放っておけることが大事だと考えるからです。

というのも、3×3の9個をバラバラに持っていると、どうしてもひとつひとつが気になってしまうはずだし、申込の手続きや報告書などの書類や手間が9個分かかってくるわけです。「土台」部分にそれは相応しくない気がするので、1つの基準価額しか出ない1つの投信を、1つか2つシンプルに持つのが良いのではないかなと思うわけです。

ただ悩ましいのは、バランスファンドと一口に言っても、投信によって結構性質が違う点です。3×3のマスの複数を組み合わせているのがバランスファンドなんですが、その配分の仕方が投信によってかなり違うんです。大きな意味では安定運用を目指すのがバランスファンドなのですが、どの程度までのリスクを許容して、どの程度のリターンを目指すかという設計思想はそれぞれに異なっており、実は投信選びで一番難しいのが、このバランスファンドだと言えます。

ですので、大きく2つに分けて考えることをお勧めしています。それは、株式比率が高めの「前向きバランス」と、値動きが小さくなることにより重きを置いた「守りバランス」の2つです。

「前向きバランス」と「守りバランス」の2つがある。

「いくら『ぶれない土台』でも、預貯金とさほど変わらないような成果しか得られないのなら預貯金でいいじゃん。せっかくリスクを取るなら、バランスファンドとはいえ少しはリターンを期待したいよ」と考えるのは自然で、それが「前向きバランス」の役割です。コンクリ部分の預貯金がしっかりしていればしている人ほど、「土台」の方では守りよりも攻めの要素を強めてもいいという考え方です。

それはつまり、バランスファンドの中でも相対的に株式比率が高いものを選ぶということになります。既にお分かりの通り、株式比率が高くなればなるほど、日々の値動きのぶれが大きくなります。そのぶれを許容する代わりに、「土台」の高さが少しずつ高くなることを期待するわけですね。

そしてもうひとつが「守りバランス」です。その名の通り値動きが小さく、マイナス状態が続くようなことを避けるのを最優先した設計のバランスファンドです。その目的を達成する方法は投信によって千差万別で、何に投資するかという資産配分で行なうタイプもあれば、配分比率を変更するテクニカルな方法のところで行なおうとするものもあります。

一般に株式比率は低めになります。したがって、株式市場が好調な時などには「何で私のこれは上がらないのよ!」と文句を言われてしまったりするタイプでもあります。しかし、それに対する答えはこうです。「“守りバランス”ですからそれでいいのです。今もし他と同じように上がっていたら、下がる時も同じように下がっている可能性が高いわけですから」あるいは「この投信の元々の目的を思い出してください。これは“ぶれない土台”のための投信でしたよね。だからこれでいいんじゃないですか」

――やはり最初の設計図の理解が大事だということです。