内容については英語による原本が日本語版に優先します。
富裕層はあらゆる世代で環境や社会に影響を与える投資に関心を抱いているが、特にミレニアル世代はそのような運用戦略の評価や実際の要請において非常に積極的である。
彼らは親であるベビーブーマー世代が蓄えてきた何十億米ドルもの資金を受け継ぐことになるが、この新しい投資家層は、自分の資金が運用される方法に対して従来と異なる期待を持っている。これらの投資家は、リターンが「どのようにして」もたらされているかをますます重要視するようになってきているのだ。
グローバル株式戦略(以下「当運用」)ではこの潮流を長期的なものとみており、本レポートでは、当運用がESG(環境・社会・ガバナンス)を運用プロセスのあらゆる面に取り入れることでどのように顧客に付加価値を提供するかを解説する。
要旨:
この分析は、当運用における「フューチャー・クオリティ」に関するレポートを土台として、その中でESGファクターを運用プロセスに取り入れている方法および理由をまとめたものである。当運用における経験に加え、数多く閲覧されている学術研究を考察した結果、最終的に至った結論は、ESGはファンダメンタルズに基づく投資にとって不可欠な一部であるということだ。
フューチャー・クオリティに基づく投資手法には4つの柱があり、それぞれが投資理由に寄与している。企業のバランスシートの強さといったようなファンダメンタルファクターは、ある時点での財務面の健全性を示す。しかし、企業の価値の大部分は将来生み出す利益を反映しており、だからこそ当運用ではフューチャー・クオリティに焦点を当てる。将来の利益は企業の事業の質(Franchise)と経営陣の質(Management)の両方の強さを反映していると考えており、この重要な流動的要因の分析に多大な時間をかけている。
図表1.フューチャー・クオリティの4つの柱:事業の質(Franchise)および経営陣の質(Management)の主観的性質
バランスシートのデータのように、ESGのレーティングはある時点での企業の状況を示すことによって付加価値をもたらす。しかし、ESGファクターは標準化されていない偶発的な債務または資産であり、往々にして測定するのが難しい。重大な場合は企業の将来の利益、ひいては企業価値に影響を与えるものであり、したがって、ESG分析がファンダメンタルズ運用にとって必要不可欠な一部となっているのは、ESGが将来の利益に影響を与えるかもしれないからである。
当運用における結論の詳細は以下の通りである:
相関性:ESGスコアの高さと財務パフォーマンスの良好さの間には強い相関性があることを示す証左が増えてきている。しかし、ESGデータには限界があり、データそのものではESGが重要な理由は説明されない。
企業価値:ESGファクターは様々な方法で企業価値に影響を与える。企業の将来の利益における持続可能性は 環境および社会ファクターに影響を受ける一方、ガバナンスは資本配分方法を構築するメカニズムとして働く。つまり、経営陣が将来どのような資本配分を行う可能性が高いかという判断に影響を与える。
意思決定:議決権行使まで続く経営陣との調査的な議論という形でのエンゲージメントにより、長期スタンスの投資家は、どのESGファクターが重要で、結果として、より付加価値をもたらしやすいかを判断する独自の立場を確保できる。
ESGの高まり
ESGは幅広い分野で、倫理的除外やインパクト投資、全面的なESGの取り入れなど、様々な異なるアプローチがある。何が確かでどれを選好するとしても、ESGに対する関心が高まってきていることは間違いない。だが、それはなぜなのか。
資産運用会社のような資産管理者に尋ねれば、単に顧客からの要請だからと答えることもあれば、ESGファクターの分析によって変化と利益成長加速の可能性を特定しやすくなるからとの答えもあるだろう(チャート1参照)。確かに関心の高まりは世界中で見られる堅調な資金フローiに反映されているが、このいずれによってもアセット・オーナー(資産保有者)の姿勢の変化を説明できない。
チャート1:「主流」投資家を対象としたESGアンケート調査(2017年)での「投資判断にあたってESG情報を重視しますか」との問いに対する回答
出所Amel-Zadeh, AとGeorge Serafeim共著の研究報告書「Why and How Investors Use ESG Information: Evidence from a Global Survey」(2017年)ii
ミレニアル世代の時代
人口動態傾向は、膨大な富が世代間で移動しようとしていることを示している。ミレニアル世代は親であるベビーブーマー世代が蓄えてきた何十億米ドルもの資金を受け継ぐことになるが、この新しい投資家層は、自分の資金が運用される方法に対して従来と異なる期待を持っている。彼らの投資は、毎日の消費財の購入と同様、彼らの人柄を反映するとともに評判を守る必要性を反映している。これらの投資家は、リターンが「どのようにして」もたらされているかをますます重要視するようになってきているのだ。
以下のアンケート調査データを検討してみよう:
- 米国の全消費者の66%が、ブランド企業がハラスメントや差別、多様性といった問題に対する立場を明確にすることが重要であると考えている。
- ミレニアル世代の44%が、自分の会社のCEOが盛んに議論されている問題に対して立場を明確にした場合、そのCEOにより忠誠心を感じる。
- ミレニアル世代の76%が、投資判断は自身の社会的、政治的および環境的価値観を表現する方法だと考えており、また87%が、そのような分野における企業の影響が投資判断において重要なカギになると答えている。
チャート2:ミレニアル世代はどこに投資するか
出所:Bank of AmericaのUS TrustによるWealth & Worth Report(2018年)
富裕層はあらゆる世代において環境や社会に影響を与える投資に関心を抱いているが、特にミレニアル世代はそのような運用戦略の評価や実際の要請において非常に積極的である。当運用ではこのシフトを長期的なものとみており、本レポートでは、当運用がESG(環境・社会・ガバナンス)を運用プロセスのあらゆる面に取り入れることでどのように顧客に付加価値を提供するかを解説する。まず、リサーチの概要から始めよう。
ESGデータの価値
ESGデータの報告は比較的新しい分野だ。MSCIが企業のレーティングを始めたのは2006年にすぎない。同分野への関心が高まっていることから、ESGファクターと運用パフォーマンスとの間の関連性を分析する研究が増えてきている。研究は豊富にあり、この主題でメタ検索iiiを行うと1,000を超える研究が出てくるが、その結論はネガティブなものから中立、ポジティブなものまで様々である。手短に言えば、コンセンサスを見出すのは難しいということだ。
それでESGの取り入れをやめてしまう向きもあるが、当運用ではフューチャー・クオリティのリサーチにおいて、ESGが付加価値をもたらすと考える分野をいくつか見出している。例えば、キム氏らはサステナビリティ(持続可能性)・スコアと企業利益の質の間の関係を分析したivが、その結論は決算で報告された利益の質と社会的責任行動を実践していると見なされている企業との間に関連性があることを示唆している。当該研究結果によると、強いESG特性を示している企業は、(1)利益を裁量的な会計で操作する、(2)正味の営業活動を操作する、(3)SEC(証券取引委員会)の調査対象になる、といった可能性がより低い。これらはフューチャー・クオリティ投資で見出したい特性ではない。
その他の学術研究(Gompers et al, 2003)を見てみると、様々な有効コーポレート・ガバナンスの指標を用いて、株主権利および経営アカウンタビリティ(説明責任)がより強い企業は時とともにそのファンダメンタルズがより良好なパフォーマンスを示したことが示されたv。
より最近では、MSCIが2017年に発表した研究(Cass Business school; Giese et al 2017)において、収益性で測った場合、ESGのレーティングが高い企業は下位の企業に比べてより質が高い企業であるという主張を支持するデータが示されたvi。
簡潔に言うと、経営がしっかりしている質の高い企業は、ESGリスクの管理を効果的に行なえるということだ。この連鎖の経済合理性は、各種研究(Godfrey et al(2009)vii, Jo and Na(2012)viii & Oikonomou et al(2012)xiで説明されている。 これら一連の研究は、ESGスコアが平均を上回る企業は通常、平均を上回るコンプライアンス基準とリスク管理を備えており、株価の大幅下落につながるような深刻な出来事から受ける打撃がより小さいことを示している。
その他の研究(Giese et al, Gregory et al(2014)x & Nagy et al(2015)xi)でも、ESGファクターの動きにはかなりの予測力があることを見出した。当運用にとっては、運用プロセスの一環としてESGの動きをモニターしたいと考える根拠として十分である。
ESGデータの限界
研究を選別的に検討してみると、ESGレーティングは付加価値をもたらすことが示されているが、当運用では、運用プロセスでESGデータに過度に依存することに慎重を期している。
第1の限界は、経営陣によるデータの定量化や開示は標準化されておらず法的根拠も付与されていないということだ。数十年にわたって判例法に裏打ちされた標準化を経てきた会計の世界とは異なり、ESGは依然として初期段階にある。
会計の世界における主要な柱の1つは重大性の理解である。重大なESGファクターの日々の証左は、異常気象や原油流出事故、児童労働など、多岐にわたる。しかし、これらを容易に特定できるのは事後だ。重大なESGファクターを前もって特定し、それが企業価値をどのように変えてしまう可能性があるのか、そしてそれを開示すべきかどうかを把握するのは、より問題が大きい。環境・社会・ガバナンスの柱の間における共通点は、その偶発性だ。そして偶発的な出来事を予測し、開示させたりすることは本質的に難しい。この問題は、SECの重大性解釈に基づいたESGファクターの開示を目指す専用の枠組みである米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の存在からも明らかだ。
第2の問題は、今日までの研究においてより頻繁に取り上げられるものだが、相関関係を因果関係から分けることが不可能だという点だ。学術研究では、相関マイニングの統計的問題(Harvey et al, 2016)xiiや相関関係と因果関係の区別の不在(Kruger et al, 2015)xiiiが明らかにされている。研究のなかには高ESGスコアが財務パフォーマンスの改善につながり得る理由を裏付ける波及メカニズムの検証を試みたものもあるが、研究者達はデータの不足に悩まされたxiv。ESGが付加価値をもたらすことを統計的に証明する必要がある者にとっては、ESGデータ業界の新しさがネックとなっている。
最後となるESGデータの第3の問題は、その大半が過去を振り返るものだという点である。今日高い利益を上げている企業が5年後も高い利益を上げるとは限らないのと同様に、今日のESGスコアが高い企業が明日のクオリティ企業とは限らない。利益の高い業種の企業やESGスコアの高い企業を特定するだけでは不十分だ。高いパフォーマンスを持続できる優れた事業を見出すには、その企業が事業を営む状況を徹底して理解し経営陣およびガバナンス体制を査定する必要がある。
当運用では、ESGは、ESGスコアの高さとクオリティの間に高い関係性があり得る理由を裏付ける波及メカニズムを理解することにおいて、より大きな価値をもたらすと考える。Giese, Lee et alは、この問題への対応として、キャッシュフロー創出、テール・リスク管理、規制強化などのシステマティック・リスクという3つの異なる波及メカニズムを検証した。しかし検証内容は、MSCIのレーティングのデータが10年超分しかないことから、データセットが小さすぎて因果関係と相関関係を区別することは難しいとの結論となった。
波及のメカニズムおよび背景が重要なのは、それがないと、ESGスコアの高さが利益の向上またはリスクの低減につながったのか、それとも高利益が経営陣にそれらのリスクに対応する資源をもたらしたにすぎないのかが判断できないからだ。波及経路を理解することなく、ESGがどのようにして利益を向上させ得るのか、あるいは経営陣が将来に向けて高い利益を持続させるために資本をどのように配分するのかを理解することはできない。
企業の適正価値(そして最終的には株価)はそのような将来の利益の現在価値に等しくなるはずであり、したがってESGは、想定される将来の利益を把握するのに必要な主観的分析の一部として不可欠だと言える。
これが重要な理由は、企業が将来達成すると想定されるキャッシュフロー・リターンを決定づけるのが、企業の競争優位期間(「事業の質」)と資本の投資配分(「経営陣の質」)だからだ。
事業の質:ESGと利益の持続可能性
当運用ではESGと企業の将来の利益には直感的に関連性があると考えており、したがってESGは、フューチャー・クオリティ投資の4つの柱の一つである事業の質(Franchise)の把握において、中核の一部を成している。
図表2:フューチャー・クオリティの4つの柱:事業の質
ポーターの5フォース:競争優位期間
マイケル・ポーター氏の5フォース・フレームワークxvは、競争優位期間の分析と、業界内の外的要因が企業の将来の利益特性(当運用における事業の質)をいかに左右し得るかの把握において、代表的な手法と見なされている。
図表3:業界の構造を形成するマイケル・ポーターの5フォース
出所:Bank of AmericaのUS TrustによるWealth & Worth Report(2018年)
重要な点として、この枠組みは、企業が閉ざされたループのなかで事業を営んでいるわけではないことを示している。外的要因は、サプライヤーまたは消費者がどのような行動をとるかなど、間違いなく影響を及ぼす。
グラハム氏とドッド氏の共著「Security Analysis」に基づく伝統的な理論は、投資判断を行なうための論理的なアプローチを提供するとともに、財務パフォーマンスと企業価値の定量的評価の必要性を説いている。経験豊富な投資家による幅広い公開情報の分析は、経営陣との面談に補完され、合わせて長期投資へのモザイク状のアプローチを生み出す。
このアプローチの歴史的な基盤は企業価値が純資産価値と連動していることを前提としているが、資本集約度が低下し社会におけるテクノロジーの影響力が根付くなか、企業価値と純資産価値の関係性は過去数十年にわたって薄れてきた。ブランド価値、評判、信頼、研究・開発パイプライン、従業員離職率、平等性などといった無形資産はすべて、経営陣の行動と企業の利益に与える影響が増していった。
Mauboussin et al(2013)xviによると、付加価値には広く分けて生産優位性、消費者優位性、外的要因の3つの源泉がある。生産優位性は背景がより説明しやすく、資源または生産におけるスケールメリットが含まれるかもしれない。消費者優位性は、今日のテクノロジー的に進化した社会では企業に生来のネットワーク効果が伴うことから、より広がりを見せている。
Mauboussin et alは価値に影響を与える最後のファクターを「外的」と呼んでいる。ここでの問題は、補助金、関税、割り当て、そして競争と環境の両方に関する規制などだ。政府の政策における変更は企業価値に重大な影響を与える。航空業やトラック輸送業での規制緩和、金融サービス業に対するバーゼルIII、あるいは太陽エネルギー産業への補助金などの影響を考えてみればわかるだろう。
ポーターの5フォースとESG
ESG分野で明らかに焦点が当てられてきた領域は、炭素汚染関係を中心に環境関連立法によって生み出された外的圧力と、その法令による企業や業界の利益への影響だ。この問題については多くの投資家が投資を行なわないという方針(除外方針)で対応するにとどまっているが、そのようなアプローチでは十分ではないかもしれない。
除外方針については、競争優位期間と環境関連立法の影響に関するポーター氏の研究が議論を呼んでいる。ポーター氏の研究は、厳しい環境関連規制は競争優位期間を遅らせることはなく、むしろ更なる進歩につながることが多いと示唆している。
このことは、Ambec et alxviiでまとめられているように幾度も検証されており、規制とイノベーション(革新)の間には程度の差こそあれプラスの関係性があると結論付けられている。このような研究は、ESGの取り入れはリスクの最小化のみにとどまるものではなく投資機会をも提示し得るという当運用の見方を裏付けている。
もちろん、「外的」という言葉を使うのは誤りだ。規制、環境、廃棄物、多様性、従業員の安全などは、すべて企業のエコシステムの一部である。
図表4:競争優位期間と企業のエコシステム
出所:日興アセット、Michael PorterとMark Framerの共著「Creating Shared Value」(Harvard Business Review)
企業は外界から隔離された狭い世界で事業を営んでいるわけではなく、ソーシャルメディアの浸透が進むなか、経営陣は環境・社会・ガバナンス要因がいかに将来の利益に影響を与え得るかに対する意識を強めている。また、経営陣が資本投資を行なう方法および理由も、利益に大きな影響を与える。
経営陣の質:ガバナンスと資本配分
ガバナンスは企業がその目的をどのようにして達成するかのメカニズムであり、それと経営陣の役割を把握することが資本が効果的に配分されるかを判断する鍵となる。
図表5:フューチャー・クオリティの4つの柱:経営陣の質(Management)
ビジネスの世界は刻々と変化していることから、企業は常にトレードオフを査定し困難な決断をしなければならない。明確な戦略・目的は、すべての利害関係者に、会社の見通しの査定やパフォーマンスの評価を行なうにあたっての出発点を提供する。
企業の行動は各国の法令や慣習、文化からも影響を受ける。通例として、英米法(主にアングロサクソン系)の下で運営される企業は株主保護が最も強固である一方、大陸法の下で運営される企業は株主保護がより弱く、債権者などその他の利害関係者の保護がより強い。
このように出発点が異なることが、おそらく、株主価値をより重視する国々の企業がより均衡的な利害関係者アプローチをとる国々の企業に比べて上げる利益もより高い理由であろう。しかし、よくあるように、統計がすべてを物語っているわけではなく、ある国やアプローチを選好すると結論付けるのは間違っている。
そのような相違があるものの、ガバナンス・経営の分析の枠組みは長年にわたって変わっていない。グラハム氏とドッド氏xviiiは、その有名な共著である「Security Analysis」の初版において、株主と企業経営陣間の潜在的利益相反を強調することにより、ガバナンスの問題に一石を投じた。「エージェンシー問題」として知られる「外部」投資家が対面する情報あるいは管理の欠如は周知されており、20世紀初めに見られた問題の本質は今日でも依然変わっていない。
エージェンシー理論は、経営陣が株主の利益と一致しない行動をとることがある理由の典型的な説明方法だ。資本の配分においてそのような利害相反が生じ得る領域は、以下の3つが挙げられる:
「時価総額規模がすべてではない」:企業の時価総額規模は報酬のざっくりとした目安に用いられることが多く、経営陣が「帝国」拡張に走ることがある。
「大穴狙い」:経営陣のリスク許容度は株主と異なっていることがあり、報酬目標を達成するためにリスクの高い戦略をとる可能性がある。
「短期主義」:タイム・ホライズン(見通し対象期間の長さ)の違いも望まれない行動につながることがある。最もよくあるのが短期的な利益や目標の重視。
企業にとっての適切な報奨制度を判断することは難しい。長期投資家にとっての懸念材料としては、報奨制度において利益ベース(特に「調整後利益」)の尺度が多いことは確かに指摘できる。
チャート3:米国企業1,721社における報奨基準の使用
出所:CSFB Holt Governance Database, ISS
短期的な報奨の重視(そして失敗)は、期間の長さについていくら議論しても最終的に意味はないことから、特に懸念すべき点である。目指すところは1つであるべきで、それは価値の創出だ。これは経営陣が短期と長期の両方で価値を生むと予想する活動に当てはまる。xix
最終的には優れたESG開示や適切な長期報奨制度、株主の利益を守るガバナンス体制はすべてポジティブな兆候だが、それら自体が経営陣とのエンゲージメントから生まれる価値の代わりになるわけではない。
エンゲージメント:エンゲージメントから価値が生まれる理由
ESGがどのようにして将来の利益に影響を与え得るかをより良く把握するために、経営陣とのエンゲージメントはすべてのファンダメンタルズに基づく投資にとって主要な目標であるべきだ。経営陣と定期的に議論することで、将来の資本配分判断の想定される成果やESGファクターが将来の利益に影響を与え得る流れを、その背景に照らして解釈しやすくなる。
今日までの研究は、限定的ではあるものの、エンゲージメントと長期の企業価値に関係性があることを示している(Blackrock & Ceresxx & Dimson, Dimson, Karakas & Lixxi)。適切なエンゲージメントから得られる価値の全体像は、カス・ビジネス・スクールのオサリバン氏およびゴンド氏が責任投資原則のために作成した以下の表(O’Sullivan & Gond from Cass Business Schoolxxii)に非常によくまとめられている。
図表6:エンゲージメントからどのように価値が創出されるか
Value Creation Dynamics | Corporations | Investors |
---|---|---|
Communicative Exchanging Information |
Clarifying expectations and enhancing accountability | Signalling and defining ESG expectations |
Managing impressions and rebalancing misrepresentations | Seeking detailed and accurate corporate information | |
Specifying the business context | Enhancing investor ESG communication and accountability | |
Learning Producing and Diffusing Knowledge |
Anticipating and detecting new trends related to ESG | Building new ESG knowledge |
Gathering feedback, benchmarking and gap spotting | Contextualising investment decisions | |
Developing knowledge of ESG issues | Identifying and diffusing industry best practice | |
Political Deriving Political Benefits |
Enrolling internal experts | Advancing internal collaberation and ESG integration |
Elevating sustainability and securing resources | Meeting client expectations | |
Enhancing the loyalty of long-term investors | Building long-term relationships |
出所:責任投資原則、O’sullivan & Gondxxiii(Cass Business School、2018年)
当運用はアクティブ運用であるが、アクティビストの活動は行なわない。当運用が行なう経営陣とのエンゲージメントは、彼らがどのようにして高い利益を達成できるかを把握することを目的としており、それによって彼らが当運用の顧客から託された資金を責任を持って活かしてくれるかを評価することができる。当運用では、変化を起こそうと闘うよりも、経営陣と建設的に協働する道を選びたいと考える。ただし、利益の持続可能性がリスクに晒されていると感じた場合は、変化を求めていく。
議決権行使もまた、エンゲージメントの重要な分野の1つである。当運用では、株主に提示されたすべての議案に対し、当社の議決権行使ガイドライン、運用哲学、そしてもちろん顧客の意向に沿って投票を行なう。通常の状況では当運用では会社経営陣を支持するが、支持を差し控えるか経営陣に反対した方が顧客の利益に最も資すると考える場合は然るべく行動する。
結論
フューチャー・クオリティ投資を実践する者として知りたいのは、その企業が持続可能な競争優位性を持っているか、経営陣がその競争優位性を維持・強化するのをサポートする組織およびガバナンス体制や、アカウンタビリティ(説明責任)と付加価値をもたらす強いインセンティブ(動機)をともに経営陣に提供する体制が整っているかどうかだ。当運用ではまた、経営陣が会社の将来について、組織が向こう10~15年でどのような姿になっているかについて考えている証しも探している。
投資分析におけるESGの関連性を疑問視する向きに対しては、重大性をめぐる議論が続くであろうと言わざるを得ない。しかし、長期的には、アクティブ運用にはESGファクターを分析に取り入れることによって付加価値をもたらす機会があると考える。当運用では、ESGはそれを通じてフューチャー・クオリティ哲学を実践できるもう1つのレンズだと考えている。
i Global Sustainable Investment Alliance, 2017 Industry Report
ii Amel-Zadeh, A., and George Serafeim, 2017. “Why and How Investors Use ESG Information: Evidence from a Global Survey.” Working Paper, SSRN
iii For example see Carpenter et al (2009); and Fulton et al (2012) Kim et al, 2012
iv Kim et al, 2012
v P. Gompers, J. Ishil, A. Metrick, Quarterly Journal of Economics, Vol. 118, No. 1, February 2003.
vi Giese, Lee, Melas, Nagy & Nishikawa, Foundations of ESG Investing, November 2017
vii Godfrey, Merrill & Hansen, 2009, The relationship between corporate Social responsibility & shareholder Value, Strategic Management Journal, Vol 30, pages 425 - 445
viii Jo & Na, 2012, Does CSR Reduce firm risk, Journal of Business Ethics, Vol 110, pages 441-456
ix Oikonomou, Brooks & Pavelin, 2012, The Impact of Corporate Social Performance on Financial Risk & utility, Financial Management, Vol 41, Pages 483-515
x Gregory, Tharyan & Whittaker, 2014, Corporate Social responsibility and Firm Value; Strategic Management Journal, Vol 30, pages 633-657
xi Nagy, Kassam & Lee, 2016, Can ESG add Alpha? An analysis of ESG Tilt and Momentum Strategies, Journal of Investing, Vol 25, No.2 , pages 113-124
xii Harvey, Liu and Zhu, 2016, Review of Financial Studies, Vol 29, No.1, pages 5-68
xiii Krueger,P 2015, Corporate Goodness and shareholder Wealth, Journal of Financial economics, Vol 115, No. 2, pages 304 - 329
xiv Giese et al, 2017, as above, page 26
xv Porters Five forces, Michael E. Porter, Competitive Strategy (New York: The free Press, 1980).
xvi Mauboussin, Callahan & Majd, Capital Allocation: Evidence, Analytical Methods, and Assessment Guidance, October 2016
xvii Ambec, Cohen, Elgie & Lanoie, 2010, The Porter Hypothesis at 20: Can environmental regulation enhance innovation and competitiveness,
xviii Graham & Dods, Security Analysis, 1934
xix Alfred Rappaport , 2011‘ saving capitalism from short termism: how to build long term value and take back our financial future (NY: McGraw Hill, 2011, pages 140-142)
xx Blackrock & Ceres, (2015), 21st Century Engagement, Investor Strategies for Incorporating ESG Considerations into Corporate Interactions
xxi Dimson, Karakas & Li (2015) Active Ownership. Review of Financial Studies
xxii A Cass Business school and PRI paper, ‘How ESG engagement creates value for investors and companies’
xxiii (O’sullivan & Gond , 2018)