本レポートは英語による2018年12月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 11月の米国債市場は上昇した。月中、米国株式市場が不安定な動きを見せたのに伴って利回りが低下した。米中の貿易交渉における対立のニュース、中国の経済指標の低迷、世界的な原油価格の急落が、利回りを一段と押し下げた。月末にかけては、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長のハト派的発言を受けて、リスク資産がラリーした。最終的に、米国債利回りは2年物が前月末比0.08%低下の2.79%、10年物が同0.16%低下の2.99%で月を終えた。
  • 11月のアジアのクレジット市場は、スプレッドが拡大したものの米国債利回りが低下したことから、リターンがプラスとなった。アジアの投資適格債のスプレッドは0.09%拡大したが、リターンは0.57%となった。スプレッドが0.28%拡大したハイイールド社債はそれに劣後し、リターンが0.10%にとどまった。
  • アジア諸国のGDP成長率は第3四半期に減速した。インドネシア、韓国、フィリピンの金融当局が政策金利を引き上げる一方、マレーシアは拡張的な内容の2019年度予算案を発表した。また、中国では習国家主席が民間セクターへのさらなる支援を公約した。
  • 年末を控えた駆け込み発行により、11月の発行市場では起債活動が活発化した。投資適格債分野で計35件(総額約166億米ドル)、ハイイールド債分野で計23件(総額約72億米ドル)の新規発行があった。
  • 現地通貨建て債券では、債券の供給面の改善とリスク・センチメントの安定化が追い風となっているインドネシアの債券を選好する。また、フィリピン債券については、石油の小売価格がここ最近繰り返し引き下げられたことにより同国のインフレ圧力がピークを打った可能性があると見込まれるため、ポジティブな見方に転じた。
  • 通貨では、国外のフィリピン人からの送金が大きく増加する季節であることから、フィリピンペソを有望視する。一方、マレーシアリンギットは、原油価格の下落や同国景気の低迷を受けて、域内の他通貨に劣後するものと予想する。
  • 2018年の最終月にかけて、アジアの信用スプレッドはボラティリティの高い状況が続くと想定されるが、12月最終週には市場の活動と流動性が次第に落ちていくだろう。ブレグジット(英国のEU離脱)交渉の進展やイタリアと欧州委員会の間で継続中の予算バトルは、12月もリスクイベントとして残る。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

11月の米国債市場は上昇
月の初めは、米国労働市場の逼迫が賃金に上昇圧力を加えるのではないかとの不安から、米国債10年物の利回りが数年ぶりの高水準を試す展開となった。しかし、その後まもなく米国株式市場が低迷したため、利回りは低下に転じた。米中の貿易交渉における対立のニュースや中国の経済指標の低迷に世界的な原油価格の急落が加わり、利回りを一段と押し下げた。月末にかけては、ジェローム・パウエルFRB議長が金利は長期的に落ち着くべき水準の「すぐ下」に来ていると述べた。市場はこれをFRBが今回の利上げサイクルの終盤に近づいていることを示すものとして受け取り、リスク資産が上昇するとともに米国債10年物の利回りは3%を割り込んだ。最終的に、米国債利回りは2年物が前月末比0.08%低下の2.79%、10年物が同0.16%低下の2.99%で月を終えた。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2018年10月31日~2018年11月30日)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1ヵ月(2018年10月31日~2018年11月30日)

過去1年(2017年11月30日~2018年11月30日)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1年(2017年11月30日~2018年11月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

10月のアジアのインフレ圧力は国によってまちまち
アジア地域の総合CPI(消費者物価指数)インフレの数字は国によってまちまちとなった。インドネシアと韓国では、食品価格および輸送費インフレの加速が一因となってインフレ圧力が高まった。中国では、食品価格インフレが減速するもそれ以外の価格インフレの加速に相殺され、結果として10月の総合インフレは前月から変わらずの前年同月比2.5%となった。フィリピンの総合CPI上昇率も同様に、食品価格インフレの緩和がエネルギー関連構成品目の価格上昇によって相殺され、(水準自体は高いが)前月と変わらない6.7%となった。一方、インドとタイではインフレ圧力が緩和された。インドの総合CPI上昇率の減速は食品価格の下落が主因となった。タイのCPI上昇率減速は、エネルギー関連構成品目のベースが高いことによる効果も一因だが、生鮮食料品価格のさらなる下落も要因となっている。

第3四半期はGDP成長率が減速
第3四半期はアジアの大半の国で、輸出の鈍化を主因としてGDP成長率が減速した。フィリピンでは、家計消費と輸出の鈍化を受けて、第3四半期のGDP成長率が前年同期比6.1%と第2四半期の6.2%(上方修正後)から減速した。同様に、タイの第3四半期の経済活動は外需の鈍化を主因として大きく減速したが、内需が堅調であったことによって幾分相殺された。インドネシアの第3四半期のGDP成長率は第2四半期の5.3%から5.2%へと減速し、マレーシアのGDP成長率も同期間に4.5%から4.4%への減速を見せたが、両国とも経済活動減速の主因は輸出の鈍化であった。その他の国では、インドの第3四半期のGDP成長率は、消費と純輸出の鈍化が一因となって、第2四半期から大きく減速した。

インドネシア、韓国、フィリピンの金融当局は政策金利を引き上げ
フィリピン中央銀行は11月、主要政策金利を再度0.25%引き上げ、この動きの主因としてインフレ期待の高まりを挙げた。全体的な政策声明のトーンは引き続きタカ派的で、同金融当局は経済見通しを「全般的に良好」であるとし、したがって「インフレ期待を抑制しさらなる二次的影響を未然に防ぐべく、政策金利の慎重な調整を行う余地をもたらしている」と述べた。同様に、インドネシア中央銀行も当月、政策金利を0.25%引き上げたが、今年6回目となる同中銀の利上げはほぼ予想外で、「経常赤字を安全な水準に達するまで縮小させる取り組みを強化する追加措置」の必要性から実施された。韓国中央銀行も、経済への下方圧力が強まっているにもかかわらず、自身の政策金利である7日物レポ金利と米国のフェデラルファンド金利との差を縮小させることを優先し、同じく0.25%の政策金利引き上げを発表した。

マレーシアは拡張的内容の2019年度予算案を発表
マレーシアのリム・グアンエン財務大臣は拡張的な内容の予算案を公表し、2019年の財政赤字見通しを対GDP比3.4%とした。加えて、2018年度の財政赤字見込みは同3.7%と、前政権下の元の予算における2.8%から大幅に上方修正されたが、これは以前「予算外項目」とされていた支払いを新政権が明らかにして考慮した結果である。2019年度に財政赤字がやや縮小する主な要因は歳出の削減だ。新たな歳入確保策が発表されたものの、歳入基盤は著しく狭まっており、政府は原油関連の歳入に再び大きく依存し始めた。2018年度および2019年度の原油関連の歳入について、政府はそれぞれ4.8%増、4.9%増を見込んでいる。

今後の見通し

インドネシアとフィリピンの債券を有望視
インドネシア債券に対してはポジティブな見方を維持する。財務省が2018年は年内の債券入札を取り止めると発表したため、債券の供給面が一段と改善した。全般的にリスク・センチメントが安定化してきているなか、市場の注目は徐々にインドネシア債券が提供する魅力的な実質利回りに向けられるようになり、同債券への需要がさらに押し上げられるものと考える。インドネシア当局は、外的リスクが高まった状況にあるなか、安定性が最優先事項であることを引き続き示している。また、2019年が選挙の年であるにもかかわらず、政府は財政赤字が削減される予算を組んでいる。これらの要素は、併せて考えると、投資家にとって安心材料を提供していると言える。一方、フィリピン債券については、石油の小売価格がここ最近繰り返し引き下げられたことをにより同国のインフレ圧力がピークを打った可能性があると見込まれるため、ポジティブな見方に転じた。

通貨はペソを有望視、マレーシアリンギットはアンダーパフォームすると予想
通貨では、国外のフィリピン人からの送金が大きく増加する季節であることから、年内はフィリピンペソに対してポジティブな見方を維持する。一方、マレーシアリンギットはアジア域内でパフォーマンスが劣後すると予想する。原油価格の下落がマレーシア政府にとって財政収支目標を達成する能力のリスク要因になると想定され、同国のソブリン債格付け引き下げの可能性に対する懸念が高まるかもしれない。さらに、同国景気の低迷を受けて、マレーシア中央銀行が今後ハト派姿勢に転じる可能性もある。

アジア・クレジット

市場環境

アジアのクレジット市場は月間リターンがプラスに
11月のアジアのクレジット市場は、スプレッドが拡大したものの米国債利回りが低下したことから、全体としてリターンがプラスとなった。アジアの投資適格債のスプレッドは0.09%拡大したがリターンは0.57%となった。スプレッドが0.28%拡大したハイイールド社債はそれに劣後し、リターンが0.10%にとどまった。

中国の国家主席は民間セクターへのさらなる支援を公約
中国の習国家主席は月初、40超の民間事業主と会談を持ち、政策当局が民間企業への支援策を打ち出すことを確約した。なかでも習国家主席は、「大幅な」減税、民間セクターと公的セクターの公平な取り扱い、金融市場の参入障壁の低減に加え、民間企業の資金調達チャネルの拡大に言及した。その1週間後、中国銀行保険監督委員会の郭樹清主席が、向こう3年間の銀行の新規企業貸し出しは少なくとも50%が民間企業に向けられると公約した。

発行市場の活動が活発化
年末を控えた駆け込み発行から、11月の発行市場では起債活動が活発化した。11月の総発行額は、前月の約195億米ドルに対して約288億米ドルに上った。投資適格債分野では、インドネシアの準ソブリン発行体Asahan Aluminiumが同社初の債券発行として行った40億米ドルの超大型ディールを含め、計35件(総額約166億米ドル)の新規発行があった。ハイイールド債分野の新規発行は、中原銀行(Zhongyuan Bank)の14億米ドルのディールやScenery Journey Ltd(中國恒大集團(China Evergrande Group)の子会社)の16億米ドルのディールを含め、計23件(総額約72億米ドル)となった。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(出所)JP Morgan
(期間)2017年11月30日~2018年11月30日
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2017年11月30日を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

年末にかけてボラティリティの高い状況が続く見通し
2018年の最終月にかけて、アジアの信用スプレッドはボラティリティの高い状況が続くと想定されるが、12月最終週には市場の活動と流動性が次第に落ちていくだろう。12月における2つの主要イベントの1つ目は、G20サミットにおけるドナルト・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の注目の会談であったが、両首脳が90日間の休戦で合意したものの、長期的な見通しは依然不透明だ。加えて、当月半ばに行われた直近のFOMC(連邦公開市場委員会)でFRBの発言のタカ派トーンが弱まったことにより、リスクフリー・レートのボラティリティが幾分高まった。ブレグジット(英国のEU離脱)交渉の進展や、イタリアと欧州委員会の間で継続中の予算バトルは12月もリスクイベントとして残る。ここ数ヵ月の展開で明らかなように、先進国のクレジット市場を含む世界のリスク資産市場でボラティリティが高まれば、これもアジアのクレジット市場に対する投資家心理に影響を及ぼす。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。