本レポートは、2019年1月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 12月のアジア株式市場(日本を除く)は、世界経済の成長減速や金融政策の引き締め、地政学的な緊張の高まりに対する懸念が市場センチメントを引き続き悪化させるなか、米ドル・ベースのリターンが-2.6%となった。
  • 米FRB(連邦準備制度理事会)が年内4回目となる利上げを決定したことが幾分か不安を引き起こす一方、原油価格は供給過剰や世界経済の低迷に対する懸念から下落基調が続いた。
  • 中国市場は米ドル・ベースのリターンが-5.1%と、月間および年間のパフォーマンスにおいてアジア域内最低となった。債務削減の取り組みが引き続き悪影響を及ぼすなか、経済指標は低迷した。
  • 韓国および台湾市場も、米中貿易戦争やスマートフォン需要の鈍化が両国のテクノロジー・セクターに打撃をもたらしたため下落した。
  • 反対に、インド市場は、原油価格の下落によって同国の経常赤字懸念が緩和されたため、小幅なプラス・リターンとなった。しかし、中央銀行のウルジット・パテル総裁が辞任したことから、同国の金融政策の方向性をめぐって不透明感が強まった。
  • アセアン域内では、フィリピン市場が最も良好なパフォーマンスを示す一方、シンガポールおよびタイ市場はリターンがマイナスとなった。タイの中央銀行は、2011年以降で初となる主要政策金利の引き上げを行なう一方、2018年のGDP成長率予想を4.2%に引き下げた。
  • ここ数ヵ月、市場の焦点は構造的なストーリーよりもリスクの織り込みに当てられてきた。その結果、アジア(日本を除く)の広範囲でバリュエーションが極めて魅力的となっており、特に中国、インドネシア、そしてインドの一部セクターではそれが顕著である。
  • 投資ホライズンがより長期の投資家にとって、現在の状況は、構造的な追い風の恩恵を受けるクオリティの高い企業に割安に投資できる機会をもたらしている。

アジア株式

市場環境

12月のアジア株式は下落
12月のアジア株式市場(日本を除く)は下落し、-2.6%の月間リターン(米ドル・ベース)で苦戦の1年を終えた。世界経済の成長減速や金融政策の引き締め、地政学的な緊張の高まりに対する懸念が、月を通じて市場センチメントを引き続き悪化させた。米FRBが年内4回目となる利上げを決定したことが幾分か不安を引き起こすと同時に、米国の政府機関閉鎖によって不透明感が一層強まった。一方、原油価格は供給過剰や世界経済の低迷に対する懸念から下落基調が続いた。月末には、ドナルド・トランプ米大統領が中国との貿易戦争の解決において「大きな進展」が見られていると述べたことを受けて、市場は月中の下落分を一部取り戻した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2017年12月末~2018年12月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2017年12月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2008年12月末~2018年12月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

中国市場は月間および年間のパフォーマンスが最も劣後
中国市場は12月の米ドル・ベースのリターンが-5.1%と、月間および年間のパフォーマンスにおいてアジア域内最低となった。中国の債務削減の取り組みが引き続き悪影響を及ぼすなか、経済指標は低迷し、12月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が2年超ぶりに低下を見せるとともに、鉱工業生産および小売売上高は伸びが鈍化した。中国人民銀行は、指標金利を据え置くと同時に2019年は大幅な金融緩和に訴えない意向を示唆したものの、中小企業向けの融資を促進すべく新たな中期貸出ファシリティを創設した。企業ニュースでは、中国が9ヵ月間凍結してきたオンラインゲームの認可を再開したことを受けて、騰訊控股(Tencent)の株価が反発した。香港市場は-0.3%と小幅なマイナス・リターンとなった。不動産セクターの低迷が続く一方、失業率は過去20年の最低水準に留まった。

韓国および台湾市場はテクノロジー・セクターが重石に
韓国および台湾市場も、米中貿易戦争やスマートフォン需要の鈍化が両国のテクノロジー・セクターに打撃をもたらしたため下落した。1月2日に発表された台湾の12月のPMIは3年ぶりの低水準となる47.7に低下し、消費者信頼感指数も落ち込んだ。また、韓国の製造業PMI不況を示唆する領域に留まった。韓国の中央銀行は、低いインフレ圧力と経済成長の鈍化を受けて、金融政策を緩和的に維持していく意向であると述べた。

インド市場は原油価格の下落が下支えに
反対に、インド市場は、原油価格の下落によって同国の経常赤字に対する懸念が緩和されるなか、米ドル・ベースで0.5%と小幅なプラス・リターンとなった。しかし、ウルジット・パテル中央銀行総裁がモディ政権との対立によって辞任したことを受けて、同国の金融政策の方向性をめぐり不透明感が強まった。同総裁の後任には、2016年にモディ首相の高額紙幣廃止プログラムを統括したシャクティカンタ・ダス氏が就任した。

アセアン市場はまちまち
一方、12月のアセアン市場の動向はまちまちとなった。フィリピンが域内で最も良好なパフォーマンスを示す一方、シンガポールとタイはリターンがマイナスとなった。フィリピンは、原油安の恩恵を受けるという点以外に、政府による米価格安定化の取り組みによってインフレ懸念が後退したことも追い風となった。同国の中央銀行は、インフレの緩和やフィリピンペソの上昇を受けて、6会合ぶりに政策金利を据え置いた。その他の国では、タイの中央銀行が、2011年以降で初となる主要政策金利の引き上げを実施する一方で、2018年のGDP成長率予想を4.2%に引き下げた。シンガポールの株式も、世界的な市場の下落に加えて失望的な製造業関連指標が重石となった。同国の貿易産業省が発表した2018年第4四半期のGDP統計(速報値)は、成長率が前年同期比2.2%とエコノミスト予想を下回った。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2018年11月30日~2018年12月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2018年11月30日~2018年12月31日)

過去1年間(2017年12月31日~2018年12月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2017年12月31日~2018年12月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア株式のバリュエーションは引き続き魅力的
2019年を見通すと、慎重なスタンスを取るべき理由として、世界貿易の見通しをめぐる不透明感、世界経済の成長鈍化、世界的にタイトな流動性環境が引き続き挙げられる。アジア市場が上昇するとすれば、その材料となるのは米FRBおよび中国当局双方の政策の方向性だろう。投資家はまた、アジア市場の約半数で実施される重要な国政選挙にも大きな注目を向けていくと見られる。当社では、好ましくない予想外の結果となるリスクを認識しつつも、これらの選挙の大半は市場にとって好材料となるような結果をもたらすと予想しており、そうなれば域内の改革の勢いが一段と増す可能性がある。

ここ数ヵ月の市場では、当然の成り行きとして、いかなる構造的なストーリーよりもリスクの織り込みに焦点が当てられてきた。その結果、アジア(日本を除く)の広い範囲でバリュエーションが極めて魅力的となっており、特に中国、インドネシア、そしてインドの一部セクターではそれが顕著である。投資ホライズンがより長期の投資家にとって、現在の状況は、構造的な追い風の恩恵を受けるクオリティの高い企業に割安に投資できる機会をもたらしている。

中国では国内消費やヘルスケア、ソフトウェアに関連するセクターに注目
当面の循環的な景気動向を経た後も、中国は引き続き改革への取り組みに断固とした姿勢で臨むものと見ている。成長の量から質への転換は中期的に継続していくだろう。しかし、進行中の債務削減措置については、短期的にある程度の安定を図るために政府が手綱を緩める可能性があると予想している。特に、最近の漸進的な政策変更からも明らかなように、消費支援が最優先されるだろう。2019年に入り、同国の構造的な成長分野に対する規制圧力も緩和されると見られる。こうした分野には、当社がポートフォリオの長期コア・ポジションとして選好している保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターが含まれる。世界の主要インデックスにおける中国A株採用の加速は、中国の構造的なストーリーがあらためて見直されるきっかけとなり得る多くの材料の1つとなる可能性がある。

インドでは民間セクターの銀行および不動産セクターを選好
2019年はインドにとって極めて重要な年と言えるが、これはマクロ環境が強弱混合の状況にあるなかで選挙シーズンを迎えるからだ。特に一連の州議会選挙で与党BJP(インド人民党)が敗北する結果となったことで緊張が高まってきており、また国政選挙に向けて財政緩和を行う余地も限定的だ。経済成長が減速しつつある一方、企業景況感は引き続き良好で、企業は業績見通しが今後上向くと予想している。ここ数年にポジティブな構造改革が数多く実施されてきたことから、当社ではインドに対して長期的に強気な見方を維持している。その一方で、金融セクター内のストレスや国政選挙に向けての経済成長の不透明感については、慎重に注視している。当社では、規制当局主導の業界再編が最も優れた企業に機会をもたらすと考える、民間セクターの優良銀行や不動産セクターに引き続き注目している。

韓国と台湾は選別的な姿勢を維持
韓国では、市場の焦点が北朝鮮との和解から国内経済の低迷に移るなか、市場センチメントが悪化している。文大統領のポピュリスト(大衆迎合主義者)的な政策への懸念から同大統領の支持率が低下するなど、同国の政治見通しも不透明感が強まっている。最低賃金引き上げの動きが失業率上昇の一因となっているのに加えて、政治主導の財閥解体が経済にとって有望な新興産業に対する極めて強硬な姿勢を通じて行なわれていることも、長期的に経済にさらなるマイナスの影響を及ぼす可能性がある。テクノロジー・セクターでは、貿易問題に加えて需要の伸びの鈍化と生産能力の拡大が、韓国・台湾市場に占める比率の高いメモリーおよびハードウェアの両セクターにとって、さらなる下落圧力につながると見られる。したがって、当社では両市場について、ヘルスケア、テクノロジー・セクターのニッチ分野、電気自動車に注目しながら、選別的な姿勢を維持する。

アセアンについては弱気な見方を維持
2019年はアセアンでも幾つかの選挙があり、タイとインドネシアでは国政選挙が、フィリピンでは中間選挙が予定されている。特に、タイは4年前のクーデター以降初の国政選挙となることから、今回は試金石になると見られる。初期の世論調査ではこれらの国々で現状体制の維持を示唆する結果が示されており、ネガティブ・サプライズがなければ域内の安定や資金流入再開に好材料となるだろう。インドネシアなどの国では、消費が徐々に回復を見せるなど、国内の状況も回復の初期兆候を示しつつある。フィリピンは、出遅れた金融引き締めの効果がまだ経済に及んでおらず、静観姿勢が妥当だろう。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。