当レポートは、英語による2019年1月発行「BALANCING ACT」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

2018年にマルチアセットの投資家にとって希少な希望の光となったのは、債券と株式の間にマイナスの相関関係が戻ったことだった。12月は、債券市場のリターンがプラス(米国債で+2.3%、英国債で+2.4%、ドイツ国債で+0.6%)となる一方、株式市場は米国と日本の下落(リターンでそれぞれ-10%)の影響がその他の市場にも広がり、欧州(同-5%)や新興国(同-2.8%)にも飛び火するなど、債券が上昇し、株式が調整する展開となった。リスクオフの傾向は、金(+5%)や銀(+9%)といった安全資産と銅(-5%)や原油(-10%)のように景気循環リスクがより高い資産との間のパフォーマンス乖離にもはっきり表れた。クレジット市場では大幅な水準の見直しが起こり、米国のハイイールド債のスプレッドは1.00%超拡大した。

債券と株式の相関関係がマイナスとなったことは、マルチアセットの分散投資にとって良い兆候である。過去数年間の大半において、当社を含め多くの投資家が、この相関関係がプラスに転じて債券利回りが上昇すると同時に株価が調整するのではないかとやきもきしてきた。しかし、2018年の最後の数週間には世界的な経済成長鈍化への懸念が市場に広がったため、株価が下落するなかで債券は確実に上昇した。当社では、成長とインフレが市場を左右する主材料であり続ける限り、このマイナスの相関関係が持続し、分散されリスクのバランスが取れたマルチアセット・ポートフォリオにとって下方リスクへの効果的なヘッジを提供するものと予想する。

当社が2019年についていくらか楽観的な見通しを持つもう1つの理由は、株式市場のバリュエーションが改善したことだ。2018年は大半の資産クラスにとって大荒れの年となった。年間の下落幅が最も大きかったのは中国株式で、同国経済の鈍化や貿易戦争から債務削減まで投資家の持つ多くの懸念を背景に、上海総合指数はその時価総額の5分の1超を失った。欧州株式は同地域の経済成長鈍化と政治の混乱を受けて全体的に調整した(リターンで-10%)が、一方で第4四半期における株式市場の調整は米国の例外主義に終わりを告げた。S&P500指数は-4.4%の年間リターンで年を終え、最高値から最安値までのドローダウンは-10%を超えた。

これらの市場調整の結果として、株式のバリュエーションは大幅に改善した。例えば米国株式市場は、PER(株価収益率)が実績ベースで17倍、12ヵ月先コンセンサス収益予想ベースで15.4倍と、2018年に5ポイントを上回る改善を見せた。

当社が過去50年の米国株式市場のパフォーマンスに対して行った実証分析によると、このようなバリュエーション水準で始まる年に米国株式がプラスのリターンをもたらす確率は75%を超える。バリュエーションは他の先進国市場や多くの新興国市場ではさらに大きな追い風となっており、それがより顕著なアジアは現在当社が世界のなかで選好する株式市場となっている。

米国および世界の経済成長の反転が企業収益にある程度のリスクをもたらすことは認識しているが、当社が楽観的な見通しを持っているのは、当社のリサーチで、経済成長と企業収益との間の相関性が経済成長と株式市場バリュエーションとの間の相関性よりもはるかに低いと認識しているからだ。言い換えると、2019年に予想されている成長鈍化は、2018年のバリュエーションのリセットによってその大部分が既に織り込まれているのかもしれない。

さらに、成長鈍化や金融環境のタイト化、市場のボラティリティを受けて、米FRB(連邦準備制度理事会)がフェデラル・ファンド金利の引き上げと量的引き締めという二重の金融引き締め策を撤回することになれば、悪い知らせは今一度良い知らせとなる可能性がある。

上述の件とは別に、当社では今年の市場を左右する主要テーマが5つあると考えている。ドルの安定化、経済成長を支えるための中国の財政および金融政策による景気刺激策、米中貿易戦争のより長期的なテクノロジー冷戦への転化(そうなれば当面の相場は上昇が期待されるものの、より長期的にはリスクが増大するとみられる)、欧州での不透明感の継続、そして資金流動性のタイト化によってストレスがもたらされる金融市場の分野である。

資産クラスのヒエラルキー(2018年12月末時点)

資産クラスのヒエラルキー(2018年12月末時点)

(注)上記ポジションの合計は0になりません。現金などにより調整を行います。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセット戦略ポートフォリオの運用を担当するポートフォリオ・マネージャーの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

アジア(日本を除く)の株式については、過去数ヵ月にわたって選好順位を引き上げてきたが、その流れに続いて同株式を最上位に復帰させた。その背景となる要因は変わらず、中国の景気刺激策により予想される成長加速、米ドルの安定化、米FRB(連邦準備制度理事会)のハト派傾斜、米中貿易戦争の一時的休戦が挙げられる。

日本は、バリュエーションが魅力的な水準にあるとともに米中間の貿易をめぐる緊張の解決から恩恵を受けやすいことから、選好順位を第2位に据え置く。これにより、米国株式は2段階引き下げられて第3位となる。バリュエーションが改善したとは言っても、当社モデルによる米国株式のバリュエーション・スコアは依然としてマイナス領域だ。モメンタムも先月にマイナスに転じており、金融政策と企業収益のマクロ・スコアはともに若干低下した。

投資家や社内の声を通じて気付かされるのだが、2019年の株式への見方においてより重要なのは、株式資産クラス内の相対パフォーマンスよりも、全体として株式資産の選好順位を引き下げるのかどうかということかもしれない。マルチアセット・ポートフォリオにおける株式の役割は、成長へのエクスポージャーの提供である。したがって、経済活動の鈍化に対する投資家の懸念は確かにもっともだと言える。

チャート1は、経済活動(ISM製造業景気指数で代用)と米国株式市場のパフォーマンスとの間に、歴史的に密接なつながりがあることを示している。景気指数が急速に鈍化していることは懸念すべき兆候に見える。

チャート1:ISM製造業景気指数とS&P500指数

チャート1:ISM製造業景気指数とS&P500指数

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2003年9月~2018年12月

しかし、ISM指数と株式市場リターンの個々の構成要素(企業利益の伸びとバリュエーション水準)との相関性を見てみると、有益なことがわかる。これをやるために当社では標準的なリターン分解分析を行ったが、この分析ではいずれの期間におけるパフォーマンスも、その期間の企業利益の伸びと株式市場のバリュエーション水準の変化に分解できる。以下の2つのチャートは、ISM指数と2つのリターン構成要素それぞれとの関係を示したものだ。

チャート2:ISM製造業景気指数とS&P500指数構成企業の企業利益成長

チチャート2:ISM製造業景気指数とS&P500指数構成企業の企業利益成長

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2003年9月~2018年12月

チャート3:ISM製造業景気指数とS&P500指数のバリュエーション

チャート3:ISM製造業景気指数とS&P500指数のバリュエーション

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2003年9月~2018年12月

これらから2つのことを読み取ることができる。

1つ目は、経済活動と企業利益成長の間の関係は経済活動とバリュエーションの間の関係よりも弱いことだ。当社の分析期間におけるISM指数の企業利益に対する相関性は実績利益ベースで18%、12ヵ月先コンセンサス予想利益ベースで38%だが、一方でバリュエーションの変化に対する相関性は50%を超えている。これは将来を反映しようとする株式市場の特性を考えれば驚くことではなく、考え得る経済成長の減速は市場参加者により前もって十分に織り込まれていることがこれをもって確認できる。

2つ目は、足元のバリュエーション水準に対する当社の確信度を強めるものだ。チャート3が示す通り、バリュエーションの見直しは経済活動の鈍化に対して過度であった可能性がある。

この分析を拠り所として、当社は、経済成長をめぐる懸念はあるものの、資産クラスとしてのグローバル株式に対し適度にポジティブな見方を引き続き維持する。資金流動性タイト化の反転や経済成長支援が見られた場合は、株式保有からのリターンの上振れを一段と促すだろう。

グローバル債券

グローバル債券では、カナダのソブリン債においてモメンタム・スコアが上昇するとともに、インフレ見通しの懸念度が後退したことからマクロ・スコアもやや改善した。これを受けて、当該債券の選好順位をオーストラリアのソブリン債に次ぐ第2位に引き上げた。

チャート4が示す通り、カナダの賃金上昇率は2018年の半ばにピークを付けた後、カナダ銀行の公式なインフレ率目標である2%を下回る水準へと鈍化した。同中銀は12月5日の定例会合で政策金利を据え置く一方、声明で今後の利上げ見通しについてより慎重な姿勢を示した。市場では、1月の会合における利上げの可能性が60%から5%未満へと即座に引き下げられた。

チャート4:カナダの時間当たり平均賃金(前年同月比)

チャート4:カナダの時間当たり平均賃金(前年同月比)

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2015年1月31日~2018年12月31日

オーストラリアのソブリン債を最上位に据え置くほか、米国、イタリア、英国のソブリン債に対する中立の見方、およびドイツ、フランス、日本のソブリン債に対する相対的により慎重な見方についても、そのまま維持することとした。

株式への投資配分に関するものと同様の大きな問題が、債券についても言える。債券利回りが足元で大幅に低下している一方で、インフレや更なる利上げをめぐる多くのサイクル終盤の懸念は変わらない。そのような環境下でソブリン債を保有することに果たして意味があるのか。冒頭で暗に示したとおり、当社ではもちろんそのように考えている。チャート5はグローバル・ソブリン債とグローバル株式の間の相関性を6ヵ月のローリング・ベースでプロットしたものだが、最近付けた高水準である+20%から-40%を下回る低水準へと急低下しており、ある程度の利回りによる支えがある高格付けのソブリン債の保有によって、株式保有に対するリスク分散としての恩恵が享受できることを示している。

チャート5:債券と株式の相関性

チャート5:債券と株式の相関性

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2002年7月5日~2019年1月4日

グローバル・クレジット

12月は、リスクオフ・センチメントが市場で優勢となるなか、信用スプレッドの拡大が続いた。しかし、ベースとなるソブリン債市場が上昇したことから、クレジット市場も全体として良好なパフォーマンスを示した。投資適格債のスプレッドは、小幅なところでは欧州投資適格債の0.05%から大幅なところでは米国投資適格債0.15%までの拡大を見せた。このようなスプレッド拡大にもかかわらず、米国投資適格債の月間トータル・リターンは1.5%となった、一方でハイイールド債は低調な相場展開となり、米国ハイイールド債は1.04%のスプレッド拡大を受けて月間トータル・リターンが2%を超えるマイナスとなった。アジアのハイイールド債はスプレッドが0.2%拡大したが、トータル・リターンはどうにか1.6%のプラスとなった。

チャート6:オプション調整済みスプレッド

チャート6:オプション調整済みスプレッド

出所:ICE BofAMLなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成

米国の投資適格債については、スプレッドは拡大したものの、ベースとなるソブリン債の利回りが当社の尺度で中立水準から割高水準へと移ったため、選好順位を引き下げた。国債市場の大幅な上昇を受けて、米国投資適格債の月間リターンも堅調なものとなった。当社では依然、スプレッドに一段の拡大余地があるとともに、ベースとなるソブリン債の利回りにもおそらくここからまた上昇する余地があると考えており、したがって米国の投資適格債の選好順位をアジアの投資適格債の下へと引き下げる。アジアの投資適格債は、スプレッドがより大きくデュレーションがより短いことが相対的な追い風になるものと見ている。

チャート7:過去3ヵ月の投資適格債のトータル・リターン

チャート7:過去3ヵ月の投資適格債のトータル・リターン

出所:ICE BofAMLなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2018年10月1日~2018年12月31日

通貨

2018年の大きな特徴は、米国経済がそれ以外の国々よりも速いペースで成長し、そのため他の先進国では金融政策が緩和的に維持される一方で米国の金融政策は引き締めが続いたことだと言えるだろう。このような環境下、米ドルは年初から数ヵ月は低迷したものの、通年では他のほとんどの通貨をアウトパフォームする結果となった。最も打撃が大きかったのは低コストのドルの借入れによって財政を賄っていた国々で、その中心はアルゼンチンやトルコといった双子の赤字を抱える国だったが、通貨の下落はまもなくその他の新興国にも広がり、オーストラリアドルのように新興国通貨の代替と見なされている通貨も巻き込まれた。当社では、2019年は米ドル高と米国金融政策の継続的な引き締めの可能性が低いと見ており、したがって新興国通貨に対する見方をよりポジティブに変えつつある。

当社の新興国通貨に対する見方には複数の理由がある。第1に、FRBの政策スタンスのシフトと米国での経済成長の鈍化はドル安をもたらすと思われるが、これは新興国市場のような世界のリスク資産にとってうってつけの追い風となる。第2に、米国と中国が貿易協定の合意・締結についてやっと真剣になっており、これが投資家心理の回復を促すと想定される。第3に、新興国の経済指標は中国を中心に依然として低迷しているものの、継続的な政策調整によって経済成長は向こう数四半期に加速すると考えられる。当社では、新興国通貨は9月初旬に底を打った可能性があると見ているが、一方でその回復の道程はスムーズなものにはならないと予想している。それでも、新興国の現地通貨建て債券は先進国市場のソブリン債に比べて大幅に高い実質利回りを提供しており、投資家は2019年を通じて新興国市場へと資金を移し始める可能性がある。

コモディティ

12月に市場センチメントが非常に弱気となるなか、コモディティの運命は他の資産とは異なって典型的なシナリオを辿り、安全資産として買いが集まった貴金属以外はすべて下落した。2018年通年では、コモディティ全体としてはチャート8が示す通りリターンがマイナスとなった。

チャート8:2018年のコモディティ(スポット価格)のパフォーマンス

チャート8:2018年のコモディティ(スポット価格)のパフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成

原油市場は、米国の対イラン制裁が供給不安を増大させ「OPEC(石油輸出国機構)プラス」(加盟国と非加盟主要産油国で構成)が増産で対応するなか、2018年の大半において供給関係のニュースが相場を左右する展開となった。米国がイラン産原油の禁輸措置について国々に一時免除を認め、イランからの原油輸入を継続できることとなった展開に市場は失望し、大量の投機的ポジションが巻き戻され原油は激しく売り込まれた。相場調整を経た現在、2019年の見通しはより明るいものとなっている。供給面では、OPECプラスが減産へのコミットメントを2019年も継続する可能性を示しているとともに、一部の国では生産障害が続いており、また対イラン制裁の免除は期限切れとなる。一方で、米国の経済成長は潜在成長率を上回るペースが続くと予想され、中国では関税不安が和らぐなかでさらなる景気刺激策が提供されている。したがって、原油価格は当面は需要に下支えされるものと想定される。

上昇相場を経た金は、実質金利と比較すると割高であるように見受けられる。しかし、FRBがよりハト派寄りに転じてきているなか、実質金利がここから上昇するかについては以前ほど確信がもてず、またドル安は金にとって追い風となる。政策ミスのリスクは依然としてあり、金は妥当なヘッジになると言える。

チャート9:金と実質金利の比較

チャート9:WTI原油の投機的ポジション

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2014年2月7日~2019年1月11日

2018年はベースメタルにとっては困難な年となった。中国では、シャドー・バンキングによる資金調達が圧迫されるのに伴って投資の伸びが急速に衰え、また貿易関税もセンチメントを悪化させた。本稿執筆の段階では、中国政府が景気刺激策をてこ入れするとともにインフラ支出を安定化させようとしており、ベースメタルへの逆風は追い風に転じつつある。貿易交渉においてもポジティブなニュースが増えてきており、中国が米国からの農産物の輸入を再開すれば、農作物にとっても追い風となるはずだ。

チャート10:中国のクレジット・インパルス(与信の対GDP比伸び率)

チャート10:中国のクレジット・インパルス(与信の対GDP比伸び率)

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2011年1月~2018年12月

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。