KAMIYAMA Reports vol. 132

  • 貿易戦争とFRBへの注目が続こう
  • 日本では消費税率引き上げに注目
  • 経済成長の減速でも株価指数の上昇は見込める

貿易戦争とFRBへの注目が続こう

世界の経済問題として、2019年も貿易摩擦が引き続き注目されるだろう。1月に日米貿易協議が始まるとみられ、その後に米国から示される自動車輸入に対する態度の変化が注目されるだろう。現時点での予想としては、米国が日・独に対しても、対中国と同じ態度を示す可能性は低い。そもそも対中国への米国の厳しい態度は、トランプ政権に始まったのではなく、20年以上ともいわれる長期にわたる米国政府の中国への不公正取引(不十分な知的財産権保護、国営企業優遇、補助金供与)の批判から始まっている。日・独などはおおむね解決済みで、批判の程度は低い。

2019年の主な予定
※上記内容は一部であり、すべてではありません。また、将来変更される場合があります。(報道などをもとに日興アセットマネジメントが作成)

中国と米国の3月1日までのいわゆる「休戦期間」の後、多くのエコノミストは、先送りされていた2,000億米ドル相当の中国輸入分への関税が「10%から25%に引き上げられる」と織り込んでGDPを予想しているようだ。それゆえ、市場でも摩擦継続がメイン・シナリオとみて良いだろう。仮に関税が10%のままで交渉継続が確認されれば、ポジティブ・サプライズといえる。

これに加え、米中のハイテク摩擦の高まりが懸念されている。米国が安全保障の観点で、“中国からの携帯電話やハイテク商品を輸入しない” “これらの関連部品や製造装置を輸出しない”ことなどが検討されている。仮に日・独を含む米国の同盟国が、中国に半導体製造装置を輸出してはならない、などとなれば問題は拡大するが、その可能性は低いだろう。なぜなら、中国が米国のみならず先進国の製造拠点になることで、バリューチェーンの根幹の一つとなっているからだ。一部関連製品の輸入制限程度では、日・米・独などのGDPへのインパクトが大きくなるとは思えない。

次に、FRBの政策金利の引き上げの先送りが注目される。今年3、6月など2回程度の利上げを予想する向きが多いのだが、先日のパウエル議長の経済学会での発言は、以前よりもフレキシビリティ(柔軟性)を増したと受け止められた。つまり、成長減速を懸念した急激な株価下落が続けば、景気指標だけに縛られず、金利引き上げの見送りや引き下げもあり得るということを、市場が期待し始めた。もともと、FRBは市場を裏切って利上げをすること自体を失敗とみる。経済が期待を通じて動いているとの考えが強いので、期待(あるいは懸念)の表れでもある市場の反応を重視するからだ(引き下げの場合は、サプライズも容認される)。

弊社では、FRBが2019年に2回利上げをすると予想している。しかしこれは、2018年のようにおおむね四半期に1回の機械的なペースではなく、景気指標や市場の反応に依存した機動的なものとなろう。裏返して言えば、経済指標と市場の反応に発言などが揺れ、市場のボラティリティ(変動性)が高まる可能性がある。ただし、FRBのみならず中央銀行は、経済を壊そうとして政策を立てることはない。仮に引き締め過ぎだと判断すれば、機動的に緩和的な対応をすることができる。それゆえ、FRBの動向には神経質になり過ぎないようにしたい。

日本では消費税率引き上げに注目

日本では、10月に予定されている消費税率引き上げが注目されるだろう。経済に対する影響は不確実なのだが、今回の8%から10%への引き上げは、2014年の5%から8%への引き上げ時よりも“まだ良い”と予想している。なぜなら、税率引き上げ幅が小さく、今回の方が経済状況が良く、政権が増税対策を準備しているからだ。ただし、一時的に税収増以上の政府支出を行っても、国民が消費を増やすかどうかは分からない。付け加えるなら、市場参加者は分からないこと自体を嫌って、リスク資産を増やさないかもしれない。

統一地方選や参院選については、現与党が過半数を失わないとみており、議席数の増減があっても政策の執行に影響はないだろう。憲法改正などには影響があるかもしれないが、安倍首相が退陣に追い込まれるほど負けるとは想定していない。そうであるならば、アベノミクスを基礎とする経済政策の大幅変更を考える必要もないだろう。

経済成長の減速でも株価指数の上昇は見込める

2019年の経済や相場を語る際に、「減速」という表現は増えるだろう。なぜなら、経済成長率は経済の正常化に伴い低下する傾向にあるからだ。成長率が低かった年の翌年の成長率は高くなりやすいし、リーマン・ショック後の正常化のプロセスでは、平均的に高い成長率だった地域でも、その後の正常化で成長率は低下しやすくなる。

しかし、EPS(1株当たり純利益)がプラス成長であれば、株価がマイナスになると予想するのは論理的ではない。もちろん、長期的な成長率の見方が変わってPER(株価収益率)が低下したり、EPSの予想がマイナス成長となれば、株価は低下するかもしれない。株価は、EPS自体かその成長率やリスクの見積もり(PER)の想定をどのようにみるかで、ある程度の予測はできる。「株価 =PER×EPS=①利益に対する株価の倍率×②利益」なので、①倍率(利益の確からしさと成長の見積もりに依存)と②利益に分解して考えていけば良い。

最近の株価指数の大きな下落は、経済成長の減速(スローダウン)と後退(リセッション)を混乱してしまったことが背景にあるかもしれない。企業収益は、経済が減速しても、賃金上昇などがよほど悪くならない限り、プラスと見て良いだろう。それゆえ、論理的に、株価指数は経済成長の減速局面でも上昇は見込める、ということができる。