本レポートは、2019年2月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 1月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースのリターンが7.3%となった。月末には、米FRB(連邦準備制度理事会)が政策金利を据え置くとともに市場予想よりもハト派色の強いトーンを示し、市場のリスク選好意欲が高まった。米中間の通商交渉進展の兆しも市場センチメントを押し上げた。大半のアジア諸国の通貨が対米ドルで上昇し、原油価格も上昇した。
  • 中国および香港市場は、経済指標が引き続き冴えない内容となったにもかかわらず、通商交渉をめぐる楽観ムードを背景にパフォーマンスがアジア域内の他市場を上回った。また、韓国市場も、サムスン電子(Samsung Electronics)やハイニックス(Hynix)などの半導体関連銘柄に牽引されて堅調に推移した。反対に、台湾市場は米ドル・ベースのリターンが1.7%となり、域内の他市場に劣後した。
  • アセアン諸国の株式市場は、概してアジア株式市場全体と整合する上昇を見せた。フィリピン市場は、前月までの原油安を受けたインフレ緩和や政府による米価格安定化策の恩恵を享受した。一方で、マレーシア市場は米ドル・ベースのリターンが1.4%と小幅にとどまった。インドについては、原油価格の反発が通貨ルピーの重しとなり、1月の市場リターンが域内で唯一マイナスとなった。
  • 大半のアジア株式市場(日本を除く)はバリュエーションが魅力的でリスクリターン特性が良好である一方、地政学的なイベントを受けてボラティリティの高い局面が訪れるものと見られる。長年にわたり調達コストの安価な資本が潤沢にもたらされてきた局面は過ぎ去っており、今後は株式市場のリスクプレミアムが上昇していくだろう。また、アジア地域では各国の国内政治動向も大きな影響を及ぼすと見られる。当社では引き続き、中・長期的な投資ホライズンで投資を行い、持続可能な競争優位性を備えるクオリティの高い企業にオポチュニスティックに投資していく方針である。

アジア株式

市場環境

1月のアジア株式は上昇
1月のアジア株式市場(日本を除く)は上昇に転じ、米ドル・ベースのリターンが7.3%となった。そのなかでもテクノロジー銘柄は、12月の急落から特に顕著な回復を示した。一部については、ユーロ圏の成長鈍化懸念や米中通商交渉を控えた警戒ムードが株価上昇を抑える要因となった。米国が中国の華為技術(Huawei)を米国技術の窃取や対イラン制裁の違反で起訴したことを受けて、両国間の緊張が高まった。しかし、月末には米FRBが政策金利を据え置くとともに市場予想よりもハト派色の強いトーンを示し、市場のリスク選好意欲が高まった。米中間の通商交渉進展の兆しも市場センチメントを押し上げた。1月は大半のアジア諸国の通貨が対米ドルで上昇し、原油価格も過去3ヶ月間続いた下落基調を脱して上昇した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年1月末~2019年1月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年1月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年1月末~2019年1月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

中国、香港、韓国市場は相対的に堅調、台湾市場は劣後
中国および香港市場は米ドル・ベースのリターンがそれぞれ11.1%、7.8%となり、アジア域内の他の市場のパフォーマンスを上回った。通商交渉をめぐる楽観ムードを受けて市場センチメントが大きく改善したが、一方で経済指標は引き続き冴えない内容となった。中国では、債務削減の取り組みや貿易戦争の影響を主因に、第4四半期のGDP成長率が6.4%となった。また、1月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は49.5と、12月の49.4からわずかに上昇したものの、景気の好不調の分かれ目である50を引き続き下回った。しかし、一連の景気刺激策を受けて、2018年通年の固定資産投資の伸びが安定化したほか、12月の小売売上高や鉱工業生産は回復に転じた。1月上旬には、中国人民銀行が市中銀行の預金準備率を1.0%引き下げた。その他、北アジア地域では韓国株式市場が1月に大幅に上昇し、米ドル・ベースのリターンが10.3%に上った。サムソン電子やハイニックスなどの半導体関連銘柄のパフォーマンスが特に好調であった。台湾市場は、米ドル・ベースのリターンが1.7%となり、パフォーマンスが域内の他市場を下回った。個別企業の動向としては、台湾積体電路製造(TSMC)がスマートフォン需要の低迷を理由に、2019年の売上高成長予想を下方修正するとともに投資削減計画を発表した。

アセアン市場は概してアジア市場全体と同様に堅調なパフォーマンス
アセアン域内では、タイ市場のリターンが9.7%に上り最も高いパフォーマンスとなる一方、マレーシア市場はパフォーマンスが劣後しリターンが1.4%にとどまった。アセアン諸国の12月のインフレ率は概ね減速を示し、フィリピン、タイ、インドネシアでは食品価格インフレが鈍化した。また、2018年後半に金融政策を引き締めてきた各国の中央銀行は、当月は金利を据え置いた。フィリピンの2018年第4四半期の経済成長率は6.1%となったが、通年の経済成長率は政府目標を下回った。タイバーツは、好調な外国直接投資や同国の経常黒字、前月までの原油安を受けたインフレ緩和を背景に、アジア諸国通貨のなかで最も良好なパフォーマンスを示した。再三先延ばしされてきたタイ総選挙の3月24日実施が発表されたことも市場に歓迎された。

インドは唯一のマイナス・リターン市場に
反対に、インド市場は米ドル・ベースのリターンが-1.9%となり、1月にマイナス・リターンを記録した唯一の市場となった。原油価格の反発が通貨ルピーの重しとなったほか、インドの2019年度予算の発表を控えて投資家の間で慎重ムードが広がった。また、12月にはサービスおよび製造業セクターの成長が鈍化し、総合PMI(購買担当者景気指数)が11月の54.5から53.6まで低下した。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2018年12月31日~2019年1月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2018年12月31日~2019年1月31日)

過去1年間(2018年1月31日~2019年1月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年1月31日~2019年1月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア株式はバリュエーションが引き続き魅力的なるも、ボラティリティの高い状況が続く見通し
2019年の株式市場の好調な出だしは、向こう1年間の見通しを示唆するものと解釈すべきではないだろう。大半のアジア株式市場(日本を除く)はバリュエーションが魅力的でリスクリターン特性が良好である一方、地政学的なイベントによってリスクオンとリスクオフが入れ替わるボラティリティの高い局面が訪れるものと見られる。米FRBは「緩和」を迫る圧力に明らかに屈しており、インド準備銀行も追随しているが、それが金融環境の緩和を意味するとは限らない。長年にわたり調達コストの安価な資本が潤沢にもたらされてきた局面は確実に過ぎ去っており、今後は世界的に株式市場のリスクプレミアムが上昇していくだろう。これは新興国市場を中心としてすでにある程度市場に織り込まれており、中国市場で特に顕著だ。また、大半のアジア株式市場(日本を除く)では各国の国内政治動向も大きな影響を及ぼすと見られる。こうしたことから当社では、慎重な投資姿勢が必要と考えており、引き続き、中・長期的な投資ホライズンを意識した投資を行い、持続可能な競争優位性を備えるクオリティの高い企業にオポチュニスティックに投資していく方針である。

中国では保険やヘルスケア、ソフトウェア関連セクターに注目
中国の債務削減の取り組みは効き過ぎたかもしれず、予想を上回る成長鈍化を招いた。しかし、中国政府による緩和策は、手当たり次第とも言える大規模な固定資産投資に頼ってきた過去の手法とは異なっている。過去に比べてより正式な経路を通じて緩和策が実施されているという事実は、「量」重視から「質」重視へシフトする方針が引き続き堅持されている証左である。当社では引き続き、ポートフォリオの長期コア・ポジションとして保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターを選好するスタンスを維持する。世界の主要インデックスにおける中国A株採用の加速は、中国の構造的なストーリーがあらためて注目される原動力となる可能性がある。

インドでは民間セクターの銀行および不動産セクターを選好
2019年はインドにとって極めて重要な年と言えるが、これはマクロ環境が強弱混合の状況にあるなかで選挙シーズンを迎えるからだ。与党BJP(インド人民党)内、そして複数の重要州選挙で勝利したING(インド国民会議)をはじめとする野党の両方から、対立的な雑音が強まってきている。インド準備銀行は2月に入ってから予想外の利下げを実施したが、これはインドの財政状態を考慮すれば良い兆しとは言えない。企業の決算には回復の兆しも見られているが、経済成長は冴えない状況が続いている。したがって、リスクリターンの相対的なトレードオフからするとより慎重なスタンスが妥当と考えられ、当社では、規制当局主導の業界再編が最も優れた企業に非常に大きな機会をもたらすと考える民間セクターの優良銀行や不動産セクターに注目している。

韓国と台湾は選別的な姿勢を維持
韓国と台湾の両株式市場に占める比率が高いテクノロジー・セクターは、米中間の貿易問題や需要の伸びの鈍化、生産能力の拡大継続といった複数の逆風に苦しめられており、この先も厳しい状況が続く可能性が高いと窺われる。それに加え、韓国では、文大統領のポピュリスト(大衆迎合主義者)的な政策の悪影響によって同大統領の支持率が低下しており、経済見通しも不透明感が強まっている。したがって、当社では両市場について、ヘルスケア、電気自動車、テクノロジー・セクターのニッチ分野に注目しながら、選別的な姿勢を維持する。

アセアンについては弱気な見方を維持
2019年はアセアンで幾つかの選挙があり、タイとインドネシアでは国政選挙が、フィリピンでは中間選挙が予定されている。特に、タイは4年前のクーデター以降初の国政選挙となることから、今回は試金石になると見られる。インドネシアでは、消費が回復の初期兆候を示している。当社では、インドネシアとタイを相対的に選好している。フィリピンは、出遅れた金融引き締めの効果がまだ経済に及んでおらず、静観姿勢が妥当だろう。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。