本レポートは英語による2019 年2月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 1月の米国債市場は上昇した。中国での追加緩和政策や米FRB(連邦準備制度理事会)のハト派的発言などから市場に再び楽観ムードが広がった。FRBは政策金利を据え置き、追加利上げを休止する可能性を示唆した。最終的に、米国債利回りは2年物で前月末比0.03%低下の2.46%、10年物で同0.06%低下の2.63%で月を終えた。
  • 米国債利回りの低下もサポート材料となったが信用スプレッドの縮小が主な追い風となり、アジア・クレジット市場は大きく上昇した。アジアの投資適格債は、スプレッドが0.13%程度縮小してトータル・リターンが1.60%となった。ハイイールド社債はそれをアウトパフォームし、スプレッドは0.49%程度縮小してトータル・リターンが3.24%となった。
  • アジア諸国の12月のインフレ圧力は、原油価格が世界的に調整したこともあり、概ね和らいだ。第4四半期のGDP成長率はフィリピンと韓国で加速したが、シンガポールと中国では減速した。一方、中国の中央銀行は銀行の預金準備率を一段と引き下げるとともに、中銀手形スワップを導入した。
  • 発行市場では活発な起債活動が続いた。投資適格債分野で計26件(総額133.5億米ドル)、ハイイールド債分野で計43件(総額約153.3億米ドル)の新規発行があった。
  • FRBがハト派化したことを受けて、当社ではインドネシアやフィリピンなど高利回り債を有望視する。加えて、人民元建て国債がブルームバーグのインデックスに採用されることから、中国債券への需要が高まると考える。また、アジアの通貨は全般的に良好なパフォーマンスを示すと予想するが、フィリピンペソは相対的に劣後するかもしれない。
  • アジアのクレジット市場は、FRBのハト派姿勢が当面パフォーマンスの追い風となる。しかし、リターンは米中間の貿易協議の進展にも左右されるものと想定され、市場は何らかのポジティブな結末を概ね織り込んでいる。2019年はこの先、米国経済が引き続き堅調な動向を示せばFRBが政策を引き締める可能性が残っている。一方、1月に見られた需給バランスの好転は2月も続く見通しだ。オールイン利回り(債券発行時の国債利回り、スプレッド、発行価格のディスカウント、手数料等をすべて勘案した利回り)もある程度魅力的な水準にある。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

1月の米国債市場は上昇
1月は、中国での追加緩和政策や米FRB(連邦準備制度理事会)のハト派的発言を主に受けて、市場で新たに楽観ムードが広がった。また、米国の政府機関閉鎖が一時解除されたことや中国が米国での貿易協議に閣僚級代表を送ることとなったことも、リスク・センチメントの回復をさらに促した。月末には、FRBが政策金利を据え置くとともに、声明において今後の利上げに関する明確な言及をやめることにより、追加利上げを休止する可能性を示唆したことで、米国債利回りは急低下した。最終的に、米国債利回りは2年物で前月末比0.03%低下の2.46%、10年物で同0.06%低下の2.63%で月を終えた。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2018年12月末~2019年1月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1ヵ月(2018年12月末~2019年1月末)

過去1年(2018年1月末~2019年1月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1年(2018年1月末~2019年1月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

第4四半期の経済成長はフィリピンと韓国で加速、シンガポールと中国では減速
2018年最終四半期のフィリピン経済は、建設、自動車および家庭用品の売買・修理、その他のサービス・セクターにおける回復が主な牽引役となり、成長が若干加速した。この結果、2018年通年のGDP成長率は6.2%となり、ドゥテルテ政権の通年目標である6.5~6.9%を下回った。同四半期の韓国経済は前年同期比3.1%の拡大となり、政府支出の急増を受けて前四半期の2%から加速した。昨年通年の経済成長率は2.7%となったが、これは過去6年で最も鈍いペースの成長である。対照的に、2018年の最後の3ヵ月における中国経済では、サービスおよび農業セクターの低迷から成長鈍化がさらに深まった。2018年通年の中国の経済成長率は6.6%と、年間では1990年以来で最も鈍いペースを記録した。同様に、シンガポールの第4四半期のGDP成長率も、速報値ベースで前年同期比2.2%と前四半期から若干減速した。成長の牽引役は製造業で、特に電子製品やバイオ医薬品といったサブセクターが大きな伸びを見せた。この結果、2018年通年のシンガポールのGDP成長率は3.3%となった。

インフレ圧力はアジア全般で緩和
12月の総合CPI(消費者物価指数)インフレの数字は、原油価格が世界的に調整したこともあり、アジア全般で鈍化した。フィリピンの総合CPI指数は一段の大幅減速を見せた。輸送費の伸びが大きく鈍化した他、食品価格インフレの鈍化も手伝って、総合インフレは前年同月比5.1%へと低下した。タイの12月の総合インフレは、食品およびエネルギー価格が重石となるとともにベース効果が有利に働いたことから、0.4%となった。同様に、韓国のインフレ圧力もガソリン価格の下落を受けて和らいだ。その他の国では、中国の総合インフレが食品以外のインフレの鈍化を主因として減速し、また原油価格の下落がインドのインフレ率低下を促した。一方、マレーシアの12月の総合CPIインフレ率は前年同月比0.2%と11月と同ペースとなり、またシンガポールの総合CPIは住居費の低下ペースが緩んだことから加速した。

ブルームバーグ・インデックスが中国の人民元建て債券を採用へ
月末にかけて、ブルームバーグ社が、2019年4月からブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスに中国の人民元建て国債および政策銀行債を採用することを発表した。同データ提供会社によると、この採用は20ヵ月かけて段階的に行われるが、現在推定2.5兆米ドル相当のファンドのベンチマークとなっている同インデックスへの採用が完了すると、人民元は4番目に大きい構成通貨となる。

今後の見通し

中国、インドネシア、フィリピンの債券を有望視
FRBの引き締めスタンスがより忍耐強く消極的なものに傾いたことは、アジア地域の債券にとってのサポート要因になると考える。そのような背景の下、当社ではインドネシアやフィリピンなど高利回り債を有望視する。インドネシアは、インフレ圧力が比較的安定しているのに加えて中銀が政策金利を据え置くと想定されるため、同国債券の提供する魅力的な実質利回りに注目が向けられるにつれ需要が高まると思われる。インドネシア当局は引き続き、外的リスクが高まった際の安定性を最優先とすることを示唆している。フィリピンについては、ここ数ヵ月の総合CPIの低下に見られるようにインフレ圧力がピークアウトしており、したがってインフレ期待が下方調整する可能性が高く、これがフィリピン債券にとって追い風になると見られる。一方、人民元建て国債がブルームバーグのインデックスに採用されることから、中国債券への需要が高まると考える。

アジア通貨は全般的に良好なパフォーマンスを予想するも、フィリピンペソは劣後の可能性
アジアの通貨は、FRBの引き締めペースの鈍化を市場がますます織り込むにつれ、全般的に堅調なパフォーマンスを示すと予想する。なかでも人民元は、同通貨建て債券のブルームバーグ・インデックスへの採用に加え、米国との貿易協議の進展が同通貨の強力なサポート要因になると見ており、域内の他国通貨をアウトパフォームすると予想する。反対に、フィリピンペソは、同国でのインフラ構築を背景に経常収支の悪化継続リスクが根強く残ることから、域内の他国通貨に劣後すると予想する。

アジア・クレジット

市場環境

2019年は堅調なスタート
1月のアジアのクレジット市場は、米国債利回りの低下もサポート材料となったが信用スプレッドの縮小が主な追い風となり、大きく上昇した。アジアの投資適格債は、スプレッドが0.13%程度縮小してトータル・リターンが1.60%となった。ハイイールド社債はそれをアウトパフォームし、スプレッドが0.49%程度縮小してトータル・リターンが3.24%となった。

中国の経済成長は6.6%に減速、政策当局は預金準備率の再引き下げを発表
中国経済の鈍化は2018年の最終四半期にさらに深まり、サービスおよび農業セクターの低迷が主な足枷となって第4四半期の経済成長率は前年同期比6.4%となった。2018年通年の中国の経済成長率は6.6%と、年間では1990年以来で最も鈍いペースを記録した。一方、同国の中銀は預金準備率を1.00%引き下げることでさらに資金を開放した。最初の0.50%は1月15日付けで、次の0.50%は10日後付けで引き下げた。この動きの直前には、同国の李克強首相がより積極的な政策緩和とより有効な預金準備率の引き下げを求めていた。それとは別に、中国人民銀行は新たに中銀手形スワップの実施を発表した。商業銀行発行の永久債を中銀手形と交換できるこの動きにより、同中銀は「実体経済への金融支援を増強する」ことを望んでいる。

発行市場の活動は引き続き活発
発行市場では活発な起債活動が続いた。投資適格債分野では、フィリピンの15億米ドルのソブリン債を含め、計26件(総額133.5億米ドル)の新規発行があった。ハイイールド債分野の新規発行は計43件(総額約153.3億米ドル)となったが、同分野では、中国の恒大集団(Evergrande)による30億米ドルの3トランシェ・ディールを含め、中国の不動産開発企業からの発行が活発であった。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(出所)JP Morgan
(期間)2018年1月末~2019年1月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年1月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

FRBのハト派化は当面のパフォーマンスの追い風、需給バランスも当面の好材料
FRBがハト派的トーンを打ち出したことは、信用スプレッドにとって当面の追い風である。しかし、向こう数ヵ月のリターンは米中間の貿易協議の進展にも左右されるものと想定され、市場は何らかのポジティブな結末を概ね織り込んでいる。2019年はこの先、米国経済が引き続き堅調な動向を示せばFRBが政策を引き締める可能性が残っている。貿易緊張の緩和と中国経済の立ち直りは米国債利回りとパフォーマンスへの支えが弱まることにつながる。一方、1月に見られた需給バランスの好転は2月も続く見通しだ。ハードカレンシー建て新興国債券への資金流入は1月に急増しており、需要面を支えている。供給面では、アジアの投資適格債での新規発行が予想されたよりも少なく、過去2年に見られた発行額を下回った。ハイイールド債での新発債供給は活発であったが、これはリスク環境が好転するなかで順調に消化された。中国当局が新たに中銀手形スワップを導入したことも、これによって中国の銀行にとっては足元でより優位な状況にある国内市場のプライシングを享受することができ魅力度がより高くなることから、特に中国の米ドル建て金融永久債の需給バランスにとってプラス材料となっている。

バリュエーションはより中立的、オールイン利回りはある程度割安な水準
スプレッドの観点からは、1月の縮小を経て、バリュエーションはより中立的に見える。投資適格債のスプレッドは世界金融危機後の平均値を若干下回る水準まで縮小しており、一方でハイイールド社債のスプレッドは平均を若干上回っている。投資適格債のオールイン利回りは、ここ数ヵ月のリスクフリー・レートの低下を受けてピークの約5.07%から4.59%まで大幅に低下しており、2018年4月に見られた水準に戻っているが、過去の平均は上回っており依然ある程度魅力的な水準にある。ハイイールド社債も金融危機の期間以外ではあまり見られたことがない水準の利回りを提供している。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。