サマリー

2019年のクレジット市場パフォーマンスにとって、アジア各国のマクロ経済環境はほぼ中立だろう。主要国のGDP成長は緩やかに減速するが、ハードランディングのシナリオの実現はないと考える。

多くのアジア諸国、とりわけ中国の財政政策は引き続き成長に対してサポーティブであり、外需と国内民間需要との鈍化に対する安定剤としての役割を果たすだろう。インドとインドネシアでは国政選挙を控えて財政赤字がいくらか拡大するであろうが財政健全化の傾向は大筋で変わらず、今後数年に渡って軌道に戻っていくだろう。大切なことを言い忘れていたが、インフレが抑制され続ければ、多くのアジア諸国の金融政策が中立から緩和に維持されるだろう。

2019年は、国・セクターレベルでのクレジット選択が重要になるだろう。 経営がしっかりしていて、厳しい事業環境や資金調達環境での実績がある企業のクレジットを選好する。アジアの投資適格債とハイイールド債の両方で、全般に残存期間の短いクレジットを引き続き選好する。中国のハイイールド債では、工業セクターよりも残存期間の短い不動産セクターの債券を選好する。

2018年の市場振り返り

2018年はアジアのクレジット市場においてボラティリティが高い年となった。世界経済に対する楽観がもたらした1月の力強いラリーはつかの間で終わった。その後のインフレの高まりを示唆する経済指標と原油価格の高騰がFRB(連邦準備制度理事会)の利上げ加速観測を呼び、米国債の利回りが急騰すると共に、アジアを含む新興国からの資金流出を招いた。間もなく米国が報復的な貿易上の争いをあちこちで繰り広げた。米トランプ大統領の強硬姿勢は、とりわけ中国に対して目立った。世界貿易の見通しに関する不確実性が米国債利回りの重石となった。一方、トルコとアルゼンチンとに対する特有の懸念がリスク資産への逆風となった。これに伴ってインドのルピーとインドネシアのルピアを含む複数の新興国通貨が急落、投資家の懸念は増大し、信用スプレッドを押し拡げた。インドネシア銀行は、ルピアを安定させることを主眼に、合計175bpsの利上げを行った。

激化する貿易摩擦に加えて、中国のデレバレッジ努力が本土の金融環境を引き締め、特に投資と消費の分野で国内成長の妨げになっているとの懸念が浮上した。国内の景気低迷が予想よりも悪いと見た中国政府は(金融と財政両方で)緩和措置を打ち出した。この中国の緩和政策は、7月と8月のセンチメントを上向かせ、2018年2月から広がっていたいくつかのスプレッドの巻き戻しにつながった。しかし、米国での期待外れの企業決算が世界の株式市場での大幅な調整要因となり、ひいては米国債のラリーをもたらしたため、アジアのクレジット市場は、9月と10月に再び売りを浴びた。年末に向けては、FRBが利上げサイクルの終盤に近づいているという期待感と、米国と中国が貿易摩擦の緩和に向けた交渉を再開したというニュースにより、市場のトーンはより建設的になっている。

この1年間、需要と供給の力関係のシフトが、またもやアジア・クレジット、特にハイイールド債の逆風となった。オンショア人民元市場での流動性の低下により、オフショアの債券供給が増加を続けており、同時にオンショアの投資家からの需要は抑えられている。結果的に、JACI(JPモルガン・アジア債券総合指数)コンポジットのリターンは年初来で-1.63%となった。アジアの投資適格債は、スプレッドが48 bpsから206 bpsに拡大し、リターンは-0.95%だった。アジアのハイイールド社債は、 スプレッドが164ベーシスポイントから620ベーシスポイントに拡大したためアンダーパフォームし、リターンは-3.92%だった。

2019年アジア・クレジット市場で注視すべき主なリスク:

  1. 貿易と米中関係: 米中は、2019年3月1日を暫定的な合意期限として、貿易摩擦の解決に向けた交渉を進めている。貿易やその他の戦略的な課題において双方が歩み寄りできない場合は、信用スプレッドとリスク環境全般とにおいてマイナス要因となる。
  2. 中国:外需の弱さと本土の資金調達環境の引き締まりによる予想よりも急激な中国の低迷は、投資家のセンチメントを大きく弱めかねない。
  3. 商品価格: 低い原油価格は経常赤字を抱える純石油輸入国にとっては恩恵であるが、突然かつ急激な原油価格の下落は、より大きな不確実性要因となり、投資家のリスク選好に水を差す。商品価格の下落も、石油、ガス、金属、鉱山といった川上産業のクレジット・ファンダメンタルズに影響を及ぼす。
  4. 無リスク金利の上昇: 年末に米国債券市場に広がったハト派的な市場センチメントにも関わらず、予想を上回る賃金と物価との上昇による米国債利回りの急激な反発は、2019年の主なリスクであり続ける。
  5. 発行: 新興国ハードカレンシー市場への資金フロー環境は一段と厳しさを増すが、アジア・クレジットへの需要はまずまずと予想される。オンショア資金調達コストの高止まりやオンショアの投資需要の低迷があった場合アジアの発行体が米ドル建て調達に切り替えることで、新規発行圧力が継続するだろう。しかし、2019年には償還期限を迎える債券が相当額控えていることから、純供給量としては対応可能と見る。

2019年アジア・クレジット市場の見通し

ファンダメンタルズ

マクロ
2019年のクレジット市場のパフォーマンスにとって、アジア各国のマクロ経済環境は、ほぼ中立だろう。主要国のGDP成長は緩やかに減速するが、ハードランディングのシナリオの実現はないと考える。既に導入された関税の影響がより強く出てくるため、輸出の成長は鈍化するだろう。 しかし、特に世界的な成長懸念から商品価格が横ばいから少し弱含みとなる場合には、輸入の成長も同様に鈍化するだろう。そのため、純輸出のGDP成長率への貢献度は、2018年と比べてわずかに下がる程度だろう。クレジット市場の投資家は、米ドル、米金利、原油価格の高騰に引き続き脆弱な、大きな経常赤字を抱える国々の動向に注意を払い続ける必要がある。

多くのアジア諸国、とりわけ中国の財政政策は引き続き成長に対してサポーティブであり、外需と国内民間需要の鈍化に対する安定剤としての役割を果たすだろう。インドとインドネシアでは国政選挙を控えて財政赤字がいくらか拡大するであろうが財政健全化の傾向は大筋で変わらず、今後数年に渡って軌道に戻ってゆくだろう。大切なことを言い忘れていたが、インフレが抑制され続ければ、多くのアジア諸国の金融政策が中立から緩和に維持されるだろう。これは特に、2018年にオンショアの資金調達の逼迫がオンショアとオフショアの両方の米ドル建てクレジットのパフォーマンスにとってマイナスの圧力となった中国に当てはまる。民間セクターと地方政府のインフラプロジェクトに対する充分な資金供給に焦点を当てた最近の政策対応により、2019年の中国のクレジット環境は改善すると見る。

2019年はGDP成長とそれ以外のソブリン・クレジット指標が緩やかに悪化する年と見ており、アジアのソブリン格付けにはあまり変化がないものと考える。

クレジット
アジア企業クレジットのファンダメンタルズは、概ね安定を維持すると見ている。引き続き堅調な経済、強固な資本基盤、安定した資産の質を前提として、アジアの銀行のクレジット・プロファイルは概ね安定するものと見ている。信用供与に対する銀行の能力と意欲は引き続き底堅い。中国では、主要な銀行を統治する規制の枠組み強化が続いており、それが、流動性の引き締まりとオンショア社債のデフォルトのこれまでの低水準からの増加にも関わらず、金融システム全般におけるシステミックリスクの軽減に役立っている。

アジアの投資適格社債セクターでは近年、レバレッジとDSR(負債返済比率)とに改善が見られる。中立的なマクロ経済環境にあっては、利益成長は減速し、調達コストは上昇するであろうため、デレバレッジのトレンドがこれ以上続くとは考え難いものの、アジア投資適格社債のクレジット・プロファイルに大きな悪化は見込んでいない。そのため、格付け判断は2019年を通して概ね安定すると見込む。

ハイイールド債では、セクター間及びセクターの中でも格差が広がるだろう。2019年、中国不動産セクターの成長は減速するだろう。しかし、2018年の好調な売上げ、低水準の土地在庫と国内の厳しい資金調達環境の軟化などからリスクは抑制されている。資金調達が容易で売りやすい在庫を数多く持つ大規模な開発業者が小規模な業者と比べて健闘することは間違いないだろう。中国のハイイールド工業銘柄のクレジット指標の傾向にはばらつきがあり、未だ国内の厳しい資金調達環境がセクター全体に圧力を及ぼしている。アジアのハイイールド金属・鉱山セクターには、2018年平均比商品価格が弱含みとなる見通しから、ある程度下方圧力がかかると見ている。

厳しい経営環境とタイトな調達環境が発行体によっては流動性の逼迫をもたらすため、アジアハイイールドのデフォルト率は歴史的な水準よりも高い2%から3% のレンジで推移することが見込まれるものの リファイナンス・リスクは全体的に対応可能な範囲と見ている。

バリュエーション

投資適格債とハイイールド債とのスプレッドは2018年を通して拡大した。投資適格債のスプレッド、206bpsは、世界金融危機後の平均に近い水準である。ハイイールド債は2018年にアンダーパフォームしたことで、そのスプレッドは620bpと2016年以来の水準となっている。米国債が売り込まれたことで、投資適格債の利回りは、2013年のテーパー・タントラム以来見られなかった4.9%という魅力的な水準まで上昇した。同様に、高格付社債の利回りも9.05%まで上昇、 2012年の欧州債務危機以来の水準となっている。

チャート1:アジアの投資適格債のスプレッド

チャート1:アジアの投資適格債のスプレッド

出所:2018年12月現在、J.P. Morgan、ブルームバーグ

チャート2:アジアのハイイールド社債のスプレッド

チャート2:アジアのハイイールド社債のスプレッド

出所:2018年12月現在、J.P. Morgan、ブルームバーグ

2018年、米国クレジットに対して、アジア・クレジットは2018年末にいくらか巻き戻したものの、概ねアンダーパフォームを続けた。高格付けクレジット対比低格付けクレジットがアンダーパフォームした。 2018年を通してのアンダーパフォームが続いたものの、アジアと米国のA格債間のスプレッド差は3bp縮小した。BBB格債のスプレッド差は18bp拡大して72bpとなった。アジアハイイールドは、アンダーパフォームし、BB格債のスプレッドが122bp拡大して156bp、 B格債が238bp拡大して240bpとなった。現時点では、投資適格債のBBB-格とここ数年で見るとスプレッド格差が大きくなっているハイイールド債に相対的バリューがある。

需給

アジア・クレジットの需給環境は、2019年も引き続き精彩を欠くと見られる。現状のマクロ経済に対する懸念と金融引き締め環境にあって、新興国債券ファンドへの海外からの資金流入は弱い。新発債の吸収状況を見る限り、年を通した環境の弱さにも関わらず、アジア・クレジットに対する現地の需要はしっかりしている。しかし、特に中国のハイイールド銘柄についてオンショアの流動性が未だタイトであるため、米ドル建て債券供給がセカンダリー市場のスプレッドに重くのしかかるだろう。総発行額は2018年と同じく約2,260億米ドルと見込む。約1,490億米ドルという多額の既発債償還が予定されているため、この額は消化可能と考える。

期待リターン

特にハイイールド債でバリュエーションは改善したものの、米国の金融引き締めの続行、米中貿易摩擦によるマクロ経済への逆風の高まりにより、2019年のアジア・クレジットのリターンは抑制されるだろう。無リスク金利は、2018年よりは穏やかなペースとなるものの、引き続き上昇すると見込まれる。アジアの投資適格債は、様々なマクロのリスク要因が割安なスプレッドと年初の高水準のオールイン利回り(債券発行時の国債利回り、スプレッド、発行価格のディスカウント、手数料等をすべて勘案した利回り)により相殺され、2019年は小幅なスプレッド拡大で終わるだろう。米国債利回りの持続的な上昇が引き続きリターンに悪影響を与えることから、キャリーが再びリターンの主な牽引役となる。アジア投資適格債のリターンは、一桁台前半の控えめなプラスになると予測する。

アジアハイイールド債のスプレッドは、現在の620bpから若干拡大して2019年を終えると思われる。2019年、デュレーションの短さとキャリーの高さから、アジアのハイイールド債は投資適格債をアウトパフォームすると見込む。投資適格社債をハイイールド社債と比較した場合、スプレッド・レシオは中央値の約2.50より高い2.81となることから、これもハイイールド社債に傾く傾向にあるとみる。

投資戦略

アジアの投資適格債とハイイールド債の両方で、全般に残存期間の短いクレジットを引き続き選好する。中国のハイイールド債では、工業セクターよりも残存期間の短い不動産セクターの債券を選好する。 2019年は、国・セクターレベルでのクレジット選択が重要になるだろう。 経営がしっかりしていて、厳しい事業環境や資金調達環境での実績がある企業のクレジットを選好する。アジアの投資適格債とハイイールド債の両方で、特に2018年末に向けての市場全般の下落により、いくつかのクレジットにおいてバリュエーションがファンダメンタルズから逸脱しているが、我々は引き続き残存期間の短いクレジットを選好する。中国のハイイールド債では、工業セクターより残存期間の短い不動産セクターの債券を選好する。

イールドカーブ戦略としては、長期ゾーン信用スプレッド拡大リスクと米国債利回りの2018年末水準からの反発リスクを考慮し、ベンチマーク対比デュレーションのアンダーウェイトを継続する。

シンガポールや香港のような強い銀行制度を有する国々の金融劣後債は引き続きオーバーウェイトとする。また、中国のインフラと準ソブリン中のより強いセクターとを選好する。ヘッドラインリスクのあるテクノロジーに関しては引き続き慎重な構えを継続する。バリュエーションの観点からフィリピンのソブリン債と韓国のクレジットをアンダーウェイトとする。インドネシアの投資適格債はニュートラルであるが、ソブリン債を準ソブリン債とその他のセクターに対してオーバーウェイトとする。

国・セクター別アウトルック

中国
2019年の中国の経済成長は、金融引き締めのタイムラグ効果により一段と減速する構えだ。しかし、当局が実体経済と国内金融市場における悲観の深刻さを認知し始めたため、中国経済はハードランディングを回避するだろう。 米国との貿易停戦により、中国が大規模な財政措置を導入する緊急性は弱まった。しかしながら、最近の経済への下方圧力の増大に対応すべく共産党中央政治局常務委員会が適時の対策の必要性を叫んだことは、政府が同国経済に向けて大規模な財政・金融両面での支援を開始する準備ができていることを示唆する。既に金融政策は明らかに緩和バイアスへと移行した。

当社では、最近のインフレの反発は一時的なものと見ており、成長鈍化により2019年のインフレ圧力は抑制可能と見ている。中国人民銀行による支援的な金融政策と相まって、インターバンクレートを押さえ込み、財政赤字の増加によって起こりうる国債利回りの上昇に歯止めをかけるだろう。

インド
2019年、インド経済は、4月〜5月に総選挙を控えた中央政府による支出の増加と投資環境の改善が功をなし、力強い成長を続けるだろう。一方、食品価格上昇が鈍化あるいは安定化することから、インフレはピークに達していると考える。それでもなお、インフレ総合指数は前年比で4%近くを維持すると予想する。食品価格に季節的なショックがないことを前提に、RBI(インド準備銀行)による金融政策の変更はないと見る。2019年4月〜5月に予定された総選挙については、接戦となる可能性を残しつつ、現在の与党が政権維持すると見ている。

インドネシア
2018年のBI(インドネシア中央銀行)による計175bpsの利上げが徐々に効いてきており、2019年のGDPの成長は穏やかなものになるだろう。さらに、いくつかの投資案件が延期/取り消しされたことで2019年の国内投資が鈍化するだろう。 これらの要因にも関わらず、引き続き堅調な経済成長を見込む。政府はインフレの安定を目指すとともに世帯に対して的を絞った援助実施する方針であり、4月の大統領選挙に向けての選挙関連支出と相まって、民間消費を下支えするだろう。

BIによる先制利上げのお陰で、インフレは2019年には非常に落ち着いた状態を維持すると見ている。政府によるインドネシア全土に渡る食品供給管理強化策も、2019年のインフレ抑制を保証する。これ以上の新興国通貨売りがなければ、BI は2019年中金利を維持できるというのが当社のメインシナリオである。

2019年4月の大統領選の選挙キャンペーンが本格化する中、政治に注目が集まり始めている。選挙は波乱無く終わり、ジョコ・ウィドド大統領が再選して2期目を務めることになると見る。

セクター

金融
引き続き堅調な経済、強固な資本基盤、安定した資産の質を前提として、アジアの銀行のクレジット・プロファイルは概ね安定するものと見ている。中国では、シャドーバンキング活動や銀行間取引を制限することで、システミックリスクの軽減に一定の成果を上げている。厳しいマクロ 経済状況を乗り切るにはより規模の大きい中国の銀行の方が優位な立場にあると見ている。香港では、銀行は不動産市場の調整の可能性に耐え得る充分な資本バッファーを有していると確信する。韓国とシンガポールについては、安定した運営環境が資本、収益性、資産の質に恩恵を与えると見込む。

上記により、中国、韓国、香港、シンガポールの劣後債をオーバーウェイトとする。中国の銀行が2014年に発行した劣後債をコール償還して借り換える可能性が高く、供給増が見込まれるものの、こうした国々の資本調達手段は上位債と比べて未だ魅力的なバリュエーションを提供すると確信する。

中国リース企業のシニア債については、対銀行シニア債スプレッドがワイドサイドで25bpsから同40bps へ拡大しているため、前向きに見ている。これら銀行の関連会社であるリース企業の定款には、必要な場合は親会社である銀行から確実な流動性/資本援助を適時受けられると決められている。中国資産管理会社、AMCは、伝統的な不良資産事業に再度注力し、デレバレッジを行うよう当局から規制を受けている。AMCの伝統的資産管理という中核事業の回帰をクレジットポジティブと見ている。中国経済の今後数年に渡るスローダウンが見込まれることから、AMCのシステム上の重要性は高まるだろう。AMCを中長期的視点から引き続き選好する。

石油&ガス
石油価格は2018年第4四半期に大幅に下落した。北海ブレントは、10月に1バレル$86でピークを付けた後、30% 下落し、現在では、1バレル$60近辺でもみ合っている。急落はしたものの、2018年の北海ブレントの平均価格は1バレル$70であり、これは前年より 25% 高い。石油の上流企業は、2018年決算でかなりの増益が見込まれている。下流企業は、石油価格下落による原料コスト抑制の恩恵を受けるだろう。運転資本の必要額も下がり、結果的にマージンが改善する。短期的には、下流企業は、石油価格の大幅な変動による棚卸損を計上することになるだろう。これらは大抵1回限りのものであり、これらの企業の長期的なクレジット・ファンダメンタルズに何ら影響を与えない。

2019年を見通せば、原油先物市場が現在の1バレル$60近辺のレンジに価格が留まる見通しを示唆している。サウジアラビアとロシアは、最近、G20首脳会議にて2019年に向けた協調減産の継続に合意した。 これがこれ以上の価格の下落を食い止めるだろう。

現在の価格水準では、アジアの石油・ガス企業にとって、格付けへの影響はほぼ無く安定したクレジット・プロファイルを保つと見込んでいる。アジアの石油メジャーの多くは、政府からの強力な支援を享受する国営石油会社である。そのため、石油価格の下落による収益の低下にも関わらず、こうした企業のクレジット・ファンダメンタルズは、強固で安定を保つと見込む。

石炭&鉱業
2019年には中国の経済成長鈍化が見込まれる。減退する経済活動がエネルギー需要を押し下げ、石炭価格に影響を与える。11月半ば、中国のNDRC(中華人民共和国国家発展改革委員会)は、原料炭と一般炭に対して港湾での輸入量に制限を課した。海上輸送される石炭に強い価格圧力がかかっている。

輸入制限の影響は、主にインドネシア産の低品位炭において最も顕著である。これは、オーストラリアのニューキャッスル石炭指数とインドネシア石炭指数(ICI)との価格差に現れている。ニューキャッスルの石炭価格が1 トン当たり$100 超を維持しているのに対し、インドネシアの4,200kcalクラスのICI-4石炭指数は、7月のピークからほぼ40%下落しており、1トン当たりほぼ$30で取引されている。低品位炭の価格がこの水準で続けば、インドネシアの小規模の石炭採掘業者には圧力がかかるだろう。契約採掘業者については、クレジット・プロファイルの悪化はわずかと見込む。彼らは上流の採掘企業と比べて収益と石炭価格との相関関係が薄く、利益が見通しやすい。

全体的に2019年にはこのセクターの企業のクレジット・プロファイルが主に石炭価格の軟化により弱まることが予想される。しかしながら、2年間にわたる石炭価格の高騰による資本の改善が緩衝材の役割を果たすだろう。今後12ヶ月の間に特に目立った償還期限も予定されていないためリファイナンスのリスクも最小限である。

チャート3:

チャート3:

出所:2018年12月6日現在、日興アセットマネジメント、ブルームバーグ

不動産
2019年は、約2年間続いた政府の引き締め政策後の安定の年になるはずである。 政策の微調整がいくつかの都市で始まっており、市場のセンチメントがさらに悪化すれば、さらに多くの都市へと広がるだろう。不動産セクターに対する貸出方針の引き締まりが続けば、セクター内の統合の動きが加速する。2018年は国内住宅市場の売上高が12兆元に迫る、不動産開発業者にとって稀に見る良い年となった。しかし、2019年には、住宅価格の安定は続くものの、売上件数の減少により国内住宅の売上高は少し落ち込むと見込んでいる。在庫調整が成功し貧民街の再開発も減少するため、売上件数の減少は主に三線都市以下の都市で起こるだろう。ここ数年、不動産税の導入が検討されてきた。2019年中の導入の可能性は低いが、2020年から2021年には実施の可能性が高まる。いずれにせよ、上海や重慶での試験的導入のケースに鑑みれば不動産税の導入の影響は最小限になると思われるが、現時点では中国中央政府からの詳細待ちである。国家発展改革委員会が不動産開発業者に対して債券発行を制限する可能性も2019年は低い。2019年のリファイナンスの需要は、償還期限を迎える147億米ドルとコーラブル債の108億米ドルの合計約255億米ドルである。2019年の不動産セクターに対しては、慎重でありながら楽観的な見方をしている。異なる事業サイクルを通して財務力を発揮してきた質の高い開発業者の残存期間の短い債券を選好し、高レバレッジの小規模な発行体は避ける。

チャート4:

チャート4:

出所:2018年10月30日現在、日興アセットマネジメント、中国国家統計局

テクノロジー
2019年、中国のインターネット企業の収益は順調に成長すると見込んでいるが、2018年と比較すれば鈍化する。新しい事業計画への投資とコンテンツ、顧客獲得・維持への支出の増加で、利益は引き続き抑えられる。ファンダメンタルズの観点からは、高い現預金残高とキャッシュフローの範囲内での投資活動により、インターネット企業のクレジット・プロファイルは安定すると見ている。バリュエーションの観点からは、中国のインターネット・セクターは、同格の中国の国有企業(SOE)や米国のテクノロジー関連企業と比べて魅力が増している。テクニカルな観点からは、主要幹部についてのリスクの高まり、当局による締め付け、解決には長期を要する可能性のある米中貿易の緊張の継続により、セクターに対するセンチメントは大変弱くなっている。

ファンダメンタルズにおいては、米中貿易の緊張が中国のインターネット企業の業績にもたらす直接的な影響はあまりなく、ハードウェアを扱うテクノロジー企業への影響の方が大きいと考えている。過去の水準や同業者との比較感から、ハードウェアIT企業のバリュエーションは現在非常に魅力的であるが、この傾向は米中の緊張関係が和らぐまで続く可能性がある。そのため、インターネットとハードウェアの両方のテクロノジー・セクターのアンダーウェイトを推奨する。