「眼前の恐怖も想像力が生み出す恐怖ほど恐ろしくはない」とはシェイクスピアの言葉。2018年の終盤は、それまで2桁のリターンを生み出していた株式市場が損失に転じ、金利の急激な上昇、そして、世界二大経済大国間を巡る緊張の高まりを認識する状況となった。世界のGDPのプラス成長にも支えられ、米国が第二次世界大戦後最長の景気拡大期の端にあるという事実にも変わりはない。各国の中央銀行が利上げのペースやガイダンスのトーンを抑える中、年末にかけてのボラティリティの高まりを受け市場ではより頑健なリスクプレミアムが再現された。これは、信用スプレッドの拡大と低い株価を背景に、2019年の潜在リターンがより高くなるカタリストになると考えている。さらに、2018年の金利正常化と比べてペースは落ちるものの、弾力性のある経済は引き続き長期金利の重石になると考えている。

ヨーロッパの見通し

ヨーロッパの政治的リスクは、2019年も継続したテーマとなるだろう。2019年半ばの欧州議会の選挙は、初めてマーケットイベントと見なされることとなりそうだ。また2019年は、EU 加盟国でも複数の国政選挙が予定されている。ヨーロッパの選挙の焦点は引き続きポピュリズムとなるだろう。ポピュリズムは、赤字削減や銀行セクターでの改革に制限を加え、統合の代わりにさらなる分断を引き起こし、今後もヨーロッパ市場のリスクプレミアムの一因となるだろう。ポピュリズム政党のアジェンダが脆弱な連立政権のいくつかにとってリスクとなる可能性があることから、解散総選挙のリスクも市場の安定性における根強い脅威となり続ける。

他の場所に目を向けると、ブレグジット(英国のEU離脱)が未解決であるため、英国の見通しに重くのしかかっている。今のところメイ首相の留任は決まったが、これから決まるのは離脱条件であり、メイ政権がEUと合意した離脱案が英国議会を通過するか否かも分からない。当社は、協定案はいずれ可決されると見ているが、そこに辿り着く前にまだまだ一悶着ありそうだ。メイ政権が議会で必要な票を集めるには離脱期限の3月29日よりもずれ込む可能性が高く、さらに2度目の国民投票の可能性も示唆されている。現在の協定が締結されるならば、ポンドにとっては好材料となり、1ポンドが1.40米ドルに上昇することが予想される。しかし、合意できずに離脱となれば、レンジは1.15米ドル以下も視野に入る。

流動的なブレグジット交渉により、ますますBOE(英国中央銀行)の政策の方向性を予想することが難しくなっている。もし、合意に至れば、2019年には5月と11月にさらなる利上げを予想し、政策金利は1.25%となるであろう。明らかなリスクはブレグジット交渉が決裂し、経済成長が失速した場合で、もしそうなれば利上げどころではなく、さらなる景気刺激策が検討される可能性も出てくる。反対に離脱協定案が通れば、英国経済にプラスとなる波及効果が生まれ、政策金利のスケジュールが早送りされる可能性も出てくる。

より広い視野で見てみると、ユーロ圏は抑制されたインフレのなかで緩やかな成長を続けると見ている。2019年10月に任期を満了するドラギ欧州中央銀行総裁(ECB総裁)の後任に本命候補がいないことにも留意したい。後任が誰になるにせよ、ハト派的なトーンを維持し、少なくとも2020年まで利上げの可能性はないとみられる。2018年末に量的緩和を決定したものの、2017年10月までの4年間にわたってFRBが安定したバランスシートを維持したのと同様に、ECBもしばらくの間はバランスシートの維持を優先させるだろう。ECB の保有債券、特にドイツ国債が大量に満期償還を迎えることを考えれば、満期分の再投資を分散化させる必要性が出てくると思われる。 当社では、ECBがツイスト・オペを行い、コアとセミコア両方の国債のイールドカーブのフラット化を促していくと思われる。

米国の見通し

米国では、FRBの政策決定においてデータ依存度が高まっていること、米中貿易戦争の政治的リスク、ならびに鈍化傾向の経済成長などへの配慮から、FRBは厳格な四半期毎の金融引き締め路線から一歩退くであろう。インフレ減速と成長見通しの鈍化から、2019年上半期に米国の長短金利はほぼ逆転すると思われるが、エネルギー価格の回復と2018年の設備投資拡大の波及効果により、下半期にはイールドカーブのスティープ化が見込まれる。ボラティリティの復活とデータ依存度の高まりは、米国経済の見通しを巡る不確実性の高まりを受けたFRBのより慎重な姿勢を反映しており、今後も米国市場を形作っていくであろう。主なリスクは、フェデラル・ファンド(FF)金利の長期誘導目標(ターミナル・レート)に関して、FRBと市場のどちらが正解なのかということであるが、当社は市場を信用している。

現在の米国経済は史上2番目に長い成長サイクルにあり、最長に向けて進んでいる。この景気サイクルの終焉がいつになるのか議論され始めている。世界金融危機後の緊急時対応レベルから金融政策を正常化するために、FRBは2015年12月以来8回の利上げを行ってきた。これが現在の成長循環の持続性議論に拍車をかけている。米国では不均衡がいくつか出始めているものの、今後12ヶ月から18ヶ月においては、景気後退リスクよりも持続的な成長が続くことを示す肯定的な兆候の方が多く見受けられる。ニューヨーク連邦準備銀行の景気後退確率モデルの確率は最近上昇してはいるものの14.5%に留まり、実際の景気後退前の歴史的水準から見れば未だ低水準である。

米国でのイールドカーブのフラット化が景気サイクルに対する懸念を大きくしている。長短スプレッド(2年、10年)は2014年の260bpsから約 25bpにまで下がっている。リセッション(景気後退)はFRBの利上げサイクルと逆イールドカーブに続いて起こる傾向がある。FRBは、最近このような懸念を重要視せず、量的緩和とデュレーションへの需要がタームプレミアムの欠乏を招き、長期金利が低水準になっているとの見解を示した。当社もこの見解に賛同するが、イールドカーブのスティープ化、もしくは少なくとも安定化し、逆イールドにはならない可能性が最近高まったと考える。現在の米国の供給動向、2018年末でバランスシートの拡大を停止したECBの方針による需要の低下、日銀の資産買入額縮小という最近の決定は、イールドカーブの長期サイドへの圧力となるはずである。こうしたイベントの組み合わせにより、投資家はより高いタームプレミアムを要求する可能性があり、そのため、デュレーションが長い債券がアンダーパフォームし、イールドカーブはスティープ化すると考えられる。

米国経済の景気後退リスクは低く、成長のモメンタムは続くと信じる理由は多くある。その中の主な要因は、現在の堅調な労働市場 、力強い設備投資、穏やかなインフレなどである。さらに、FRBの金融引き締めサイクルにも関わらず、米国の金融情勢は全体的に適温状態に保たれているということが挙げられる。それに加えて、財務的には、政府支出の増加と制度環境の継続的な改善が挙げられる。こうした状況は成長にとってプラスであり、米国企業の財務レバレッジが現在史上最高額の9兆ドルを超え、その一方で、企業業績も過去最高の水準となっている。2018年末に向けて社債のスプレッドに拡大が見られたが、現在スプレッドがプラスの長期超過リターンと均衡するレベルに近づきつつあることから、信用リスクに加えるタイミングだと考えている。景気後退の可能性が限定的である中、社債が提供する追加的なキャリーは、米国債券の潜在的な利回り上昇リスクを回避することになるとみている。