FRB(米連邦準備理事会)の政策が世界の流動性の主な決定要因であることが再び証明されたが、明らかに2018年は引き締めの年であった。FRBの政策に対し、米国以外の国では成長と金融緩和で相殺できると考えるが、少なくとも先進国においては、ECB(欧州中央銀行)も2018年末までに量的緩和を終了し、正式には金融緩和の立場にも関わらず日銀も資産購入を減らしている昨今、FRBの方針こそが未だ最も重要であることが裏付けられた。

現在、中国もまた世界の流動性の主な決定要因となっている。信用収縮を招いた2018年の中国の改革努力が世界的な流動性の逼迫に加担したことは明らかだ。中国の司令型経済は流動性の栓を再度開け始めたが、政府主導型の大規模投資という通常の形ではない。これは改革の観点からは良いことである。むしろ、今日までの資金投入は、信用収縮とエスカレートする貿易戦争からの実体経済の保護が目的となっている。これまでのところ、その効果は微弱であるが、最終的には当局が成長促進のための正しいポリシーミックスを見つけ出すと考えている。

経済成長とタカ派的スタンスを少し改め始めたFRBにより、先進国全体に広がる緩やかな流動性の減少を克服できるというのが当社の基本的な考えである。ただ、流動性の逼迫に貿易戦争からブレグジット(英国のEU離脱)等々の未だ高い地政学的な不確実性が加わり、ボラティリティは今後も上昇し続けるであろう。けれども、すべての景気サイクルの後期がそうであるように、サイクルが完全に終わるまでリスク資産から有意な利益が得られるとみられる。以上の見通しを維持するが、今後、ボラティリティを通して見えてくる、当社の見解を裏付けるか、またはそれとは違う道を示すデータに依拠します。下記は現在当社が2019年において重要と見ている主なテーマである。

主なテーマ

安定化するドル:

景気刺激策とFRBの着実な引き締めによる米国の並外れた成長は、2017年の間、ドルの上昇と他国のリスク資産に対する相対的な強いパフォーマンスに大きな役割を果たした。現在、米国の景気刺激策によって誘発された成長が衰え、FRBの金融引き締め終了が視野に入ってきており、今後、ドルは横ばい、あるいはわずかながらのドル安の可能性が高まり、特にリスク資産と新興国市場に安堵をもたらすと見られる。この見解における主なリスクは、ドルの借り手がレバレッジの解消に追い込まれた場合に起こるドル不足、すなわち流動性の更なるひっ迫が挙げられます。

中国は景気刺激策で成長を下支え:

中国は、政策の微調整によって第1四半期の成長を促す適切なポリシーミックスを見つけると思われる。インフラ投資から消費へと焦点をシフトさせつつある中国の政策を考えれば、より現地での需要に依存したものとなる公算が高い。新興国とコモディティにとって、中国の成長向上はプラスとなるが、これまでの刺激策ほどのインパクトはない。主なリスクは、貿易戦争の再燃及び/あるいは刺激策の続行を妨げるほどのデフォルト懸念の増加である。また、中国不動産市場の悪化は、成長の妨げとなる可能性があるため、中国不動産市場の動きを注視することも重要である。

関税戦争はIT冷戦へと変化:

いつもの大言壮語にも関わらず、トランプ大統領は、関税が米国に苦痛を与えることを認知しているとみている。2020年の大統領選に向けて取引をする方が明らかに得策である。しかし、この取引は、中国が譲れないと主張していることから、「中国製造2025」の解体には至らないだろう。そのため、1度限りの政策やZTE、ファーウェイのような特定のIT企業への攻撃などをより増やすことになるとみられる。中国も同様に応戦するため、緊張は今後も持続するであろう。自身の技術、データ、IPを守るため、サプライチェーンは、再構築されることになる。見通しはポジティブではないが、結局のところ、関税の引き上げよりはマシな選択である。

ヨーロッパの見通しは不確実:

ブレグジットとイタリア財政問題は今後もくすぶり続けるであろう。但し、当社では、その両方とも最悪のシナリオは回避すると見ている。ヨーロッパにおいて、より心配なのは、不安定なドイツやイタリアの銀行制度である。ECBの量的緩和の終了と共に、銀行間のストレスの高まりと金融拡大の鈍化が成長の低迷を引き起こす可能性がある。ECBは、前回のプログラムで満期となる融資をロールオーバー(償還期間延長)させるためTLTRO(長期資金供給オペ)等のプログラムを再導入する公算が高い。そのため、差し迫った引火点はないと見られる。

流動性の逼迫と暴発は続く:

各国の中央銀行による流動性の段階的な引き締めは、外部からの流動性を最も必要とする国々に対する圧力を継続的に強めるであろう。トルコとアルゼンチンの不安定化が再燃するかもしれない。但し、その他のマクロの脆弱性がみられる国や、GEなどのファンダメンタルズが不十分な企業、そして、その他の格付けの低い企業はキャッシュフローの低さから債務のロールオーバーに苦戦し始めるかもしれない。米国の銀行は、2008年と比べてかなり健全になったが、ヨーロッパの銀行はまだリスクがある。

結局、景気刺激策の効果が薄れる米国では強くないものの、全体的な成長は前向きに捉えている。流動性は逼迫しているが、米国の健全な成長性、より安定したドル、そして、中国のポジティブな勢いにより、世界的に広義のマネーを押し上げることができるとみられる。但し、景気サイクルの後期に入り、避けるべき、あるいは適切なヘッジをかけるべきリスクと脆弱性を見定めることが重要である。間違いは起こり得るし、必ず起こるため、注意深い監視は必須である。

各アセットクラスの見通し

株式:

株式市場のバリュエーションは、その他の国々と比べて米国が最も高くなっており、かなり状況は異なっている。上記のリスク要因のバランスから、大きなテールリスク・イベントがないことを前提に、2019年は低いながらもプラスのリターンがもたらされると示唆される。バリュエーションが割安な日本と新興国市場の一部は、より割高な米国やヨーロッパのコア市場よりも、上値が見込まれ、市場が下落した場合にも、下振れに対するカバーに優れた良い組み合わせであると考えられる。バリュー重視の投資哲学ではあるが、バリュー株をグロース株に対して、もしくはディフェンシブ銘柄をシクリカル銘柄に対して完全にオーバーウェイトするのは時期尚早と考えている。

バリュー株は、現在、様々な評価基準において、グロース株と比べて大変割安である。但し、このバリュエーション・ディスカウントが、金利と成長リスクの両方が高まる環境下で、借り入れ比率の高い銘柄やシクリカルな銘柄の所有を意味するなら、不経済以上のものではないかもしれない。当社の株式運用チームと同じく、こうした銘柄の代わりに安定したキャッシュフローの増加が見込める企業に着目している。小型株も多国籍の大型株と比べれば世界的な貿易リスクとの関係が希薄化されるとみられる。

ソブリン債:

先進国のソブリン債のほとんどは依然として割高であるが、米国債はよりニュートラルなバリュエーションで例外的である。2018年の米国の金融引き締めと米国債利回りの上昇が、他のより利回りが低い市場と比べて米国の債券の大幅なアンダーパフォーマンスを引き起こした。しかし、今後は、ヨーロッパの債券市場が、特にアンダーパフォームした米国債に対し、役割の逆転が起こると見ている。ECBが資産購入プログラムから撤退することにより、中央銀行による買いが無くなった分、ヨーロッパの債券利回りはみずからの均衡水準を見出さなくてはならなくなるだろう。その結果、この資産クラス全体がプラスのリターンを生み出すことに苦戦することが見込まれ、短期のデュレーションと、ポートフォリオの観点においては、ソブリン債に近い保護特性を持つ利回りの良い投資適格債を選好する。

クレジット:

スプレッドの拡大がバリュエーションの改善をもたらしたことに加え、米国債の利回りの上昇により、米国とアジアの投資適格債が魅力的となっている。米国では、社債インデックスでトリプルB格が急増しており、5割以上を占めるまでになっている。そのうちのかなりの部分がレバレッジ過多で、景気刺激策の効果が薄れ、キャッシュフローが悪化すれば、ジャンク級に格下げされる恐れがある。そのため、質の高い債券を選好する。高いレバレッジに対するキャッシュフローの悪化という同様の懸念から、スプレッドにおけるリスクの埋め合わせが充分にできていない米ハイイールド債を敬遠する。結果として、米ハイイールド債は未だ割高である。アジアのハイイールド債の価格はより魅力的であるが、アジアの社債インデックスのほとんどが、悪いファンダメンタルズに苦しみ、さらなる逆風の恐れにさらされている、中国の不動産開発企業で占められているため、敬遠したい。米国やアジアとは違い、ヨーロッパの企業は、改善したキャッシュフローから実際に債務を返済している。但し、当社のヨーロッパのソブリン債に対する弱気な見解から、投資適格債はあまり魅力がない。価値が出始めているのはヨーロッパのハイイールド債である。

コモディティ:

ファンダメンタルズは未だ原油を下支えしているように見えるものの、投機的なポジションによる価格への多大な影響が動きを読み難くしている。10月初めの大幅な下落は、ファンダメンタルズはまだ強かっただけに理解し難い状況だった。主な懸念は、原油価格の下落が需要ショックと関連しているかもしれないことであり、世界経済にとって非常にマイナスである。当然注意深く見守っていかなくてはならない。ドルと実質金利の上昇という逆風にも関わらず、金は激動の時代の安全資産であることが証明され魅力的である。

結論

米国は景気サイクルの拡大後期にあり、バリュエーションも割高であることは確かだが、世界の他の国々では、成長の鈍化と強まる流動性の逼迫がネックとなっている。ただし、成長によって景気サイクルが世界的に拡大するような改善が起きないと結論付けるのは時期尚早である。タカ派的スタンスから一歩退くFRB、全面的な貿易戦争の回避、景気刺激策の成果が期待される中国のより建設的な成長を前提として、今後、状況の改善が見込まれる。このような環境下では、新興市場はかなり高いパフォーマンスが期待できるが、流動性の逼迫が今後も弱いファンダメンタルズに影響を与えることから、質へのこだわりがカギとなる。主な下振れリスクには、貿易戦争のエスカレート、レバレッジの解消を強いるようなドル高、中国の景気刺激策が失敗に終わることなどが含まれる。ヨーロッパも、ECBが資産購入プログラムの終了を決定したが、未だ不安的な銀行システム、鈍い成長性、大衆迎合主義(ポピュリズム)の高まりなどを注意深く見守っていく必要がある。上振れリスクには、リスク資産全体に追い風となる、安定的なドル安、力強い中国の成長が含まれる。これらの軌道を投資に活かすには、どんな兆候も見逃さないよう注意深く見守っていくことが引き続きカギとなる。