KAMIYAMA Reports vol. 135

  •  ここがポイント!
  • ✔ 円ヘッジ付き外債への投資は「円債代替」
  • ✔ 裁定機会はどの程度あるのか
  • ✔ 日本との相関は低い

円ヘッジ付き外債への投資は「円債代替」

円ヘッジ付き外債への投資が注目されている。そもそも、金利や償還金の支払いが米ドルやユーロなど円以外の通貨で行われる債券を円で「フルヘッジ」すると、理論的には円建ての債券(以下、円債)と利回りなどが同じになる。それゆえ、円ヘッジ付き外債は円債と同じと考えることができる。しかし、「円債代替」と呼ばれるだけあって、円ヘッジ付き外債に選ばれる通貨と債券は、円ヘッジしても同種の円債よりも少し高い利回りが期待されるのだ。

主要国の10年物国債利回りの推移

* 上記は過去のものおよび予測であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

このように「円建てで少し高い利回り」が期待できるということは、理論的にどこかでゆがみが生じていることになる。これは、同種の円債よりも高い利回りの円ヘッジ付き外債は、一種のアービトラージ(裁定取引)を利用していることにほかならない。

日本の国債の利回りは、主要国の中でおおむね最も低い水準だ。例えば、米国債の利回りが3%で日本債が0%であれば、米国債を買うほうが良い。しかし、3%の金利差があるならば、投資家は3%の円高が進むことで、日米金利差がなくなることを恐れる。そのため、理論的には金利差の3%がなくなるまで投資家は米ドルを買って円を売る(裁定取引)はずだ。

為替の先物市場では、このような取引が実際に行われている。1ヵ月先に円で米ドルを買いたい人が価格を決めてしまおうとする(ヘッジする)ならば、誰かが金利差分(米国債利回り-日本債利回り)を受け取ってポジションを取ることを想定すると良い。したがって、買いたい人の為替水準は円高になる。これは、為替変動リスクを抑制できるが、1ヵ月分の金利差(米国債利回りの方が高い)を受け取ることができないからだ。

このような仕組みがうまく機能せずに、裁定機会を生むケースがある。それは、ある通貨が別の通貨と政策的にペッグ(特定の通貨と自国通貨との為替レートを一定に保つ)しているが、それぞれの通貨国の成長率が異なるため、金利の上下動がずれてしまう場合などだ。円と他通貨の間でヘッジしても、期限などが同条件の円債の金利よりも高い場合がある。これが、「円債代替」でも高い利回りが期待できる仕組みだ。

裁定機会はどの程度あるのか

ここで、よく取り上げられる、北欧のカバード債券(金融機関が発行する、住宅ローンなどの融資債権が担保に用いられている債券、質の高い担保と発行体による信用補完を兼ね備えている)の過去の推移をみてみよう。

各証券の円ヘッジ後のリターンの推移

*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

日本や米国は同種の債券がないため、類似のMBS(住宅ローン債権を担保として発行される証券)のパフォーマンスと比較した(データがそろう04年6月から)。日本のMBSに比べて、円ヘッジ後でも高い利回りが実現できるデンマークのカバード債券のパフォーマンスは、相対的に好調だ。

このパフォーマンスの源泉は、純粋に金利差と為替水準から得られるだけではなく、国によるクレジット市場のサイクルのずれなどもあるだろう。デンマークやスウェーデンの通貨は、ユーロと実質的にペッグ制を採用しているが、ユーロ圏とは成長率などが異なるため、為替への需要が生じて機会も増えているのだ。

日本との相関は低い

日本国債の過去15年程度の平均リターンは年率2.041%で、MBSも同2.036%とあまり変わらなかった。しかし、デンマークのカバード債券は2.576%とリターンが高く、リターン/リスク比でも1.172と日本のMBS(1.062)よりも高い。

各証券の円ヘッジ後のリターン・リスク特性比較

*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

また、「円債代替」として、日本とのクレジット市場などのサイクルのずれから、リターンの相関が低いことも興味深い。日本のMBSと国債の相関は0.859だが、日本のMBSと円ヘッジ後のデンマークのカバード債券の相関は0.252だ。円ヘッジ後のリターンが高いかおおむね同程度であるにもかかわらず、相関が低いことが運用上の魅力となっている。