本レポートは、2019年3月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 2月のアジア株式市場(日本を除く)は米ドル・ベースのリターンが2.1%となった。しかし、域内ではリターンにばらつきが見られ、北アジア地域とオーストラリアがアセアン地域をアウトパフォームした。米FRB(連邦準備制度理事会)による金利据え置きの決定や米中間の通商交渉進展の兆しが、市場センチメントを押し上げた。
  • 中国市場はアジア地域全体を上回るパフォーマンスを示した。中国政府による景気刺激策を受けて同国経済の資金流動性が高まったことが好感されたほか、MSCIが新興国株式インデックスにおける中国A株の組入れ係数について4倍の20%への引き上げを決定したこともさらなる追い風となった。反対に、韓国株式市場は、ベトナムで開催されていた米朝首脳会談の突如の打ち切りを受けて下落した。
  • アセアン市場は概してリターンが低迷した。マレーシア市場は、2018年第4四半期GDP成長率が市場予想を上回ったことや貿易黒字が拡大したことを背景に、アセアン地域で唯一のプラス・リターンとなった。反対に、インドネシアおよびフィリピン市場はパフォーマンスが最も低迷した。
  • アジア株式市場(日本を除く)は反発を示しているが、2018年の終わりにかけて中国A株を中心に市場を覆っていた悲観ムードは行き過ぎで、バリュエーションが魅力的な水準となっていたことから、当社の見方においては想定内の動きだ。当社では、ここ数四半期において、長期的に持続可能な潜在成長性を有するクオリティの高い企業を多数見出すことができていると確信している。また注目すべき点として、年初からの株価反発を経ても、史上最低に近い水準にあったバリュエーションはわずかに上昇しただけであり、当社では大幅な上昇余地が残っていると考える。

アジア株式市場

市場環境

2月のアジア株式は上昇
2月のアジア株式市場(日本を除く)は今年の好調な出だしを維持し、米ドル・ベースのリターンが2.1%となった。しかし、域内ではリターンにばらつきが見られ、北アジア地域とオーストラリアがアセアン地域をアウトパフォームした。米FRBは金利を据え置くとともに、世界経済の成長減速リスクの高まりに言及し、追加利上げについては腰を据えて判断していくことを示唆した。また、トランプ米大統領が3月1日を猶予期限としていた中国からの輸入品に対する関税引き上げを延期するなど、米中間の通商交渉進展も市場センチメントを押し上げた。中国が政策の緩和を継続していることや、MSCIが新興国株指数での中国の構成比率引き上げを決定したことも、当月の市場センチメントに好影響を及ぼした。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年2月末~2019年2月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年2月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年2月末~2019年2月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

中国、香港、台湾市場は相対的に堅調、韓国市場は劣後
中国および香港市場は米ドル・ベースのリターンがそれぞれ3.5%、5.9%となり、アジア地域全体のパフォーマンスを上回った。米中間の通商交渉をめぐる楽観ムードに加え、中国政府による一連の景気刺激策も年初来の市場センチメントを下支えしてきた。社会融資総量は1月に4.6兆元と過去最高水準に達し、信用の伸び鈍化をめぐる不安はある程度和らいだ。月末にかけては、MSCIが新興国株式インデックスにおける中国A株の組入れ係数を4倍の20%へ引き上げることを決定したことも、株価上昇要因となった。

その他、北アジア地域では台湾株式市場が上昇し、米ドル・ベースのリターンが4.8%となった。米国の対中関税引き上げ延期が株価上昇の一因となったほか、消費者信頼感の改善も市場センチメントを押し上げた。反対に、2月の韓国株式市場は米ドル・ベースのリターンが-1.9%となった。株価下落の大部分が起きたのは月の終盤で、ベトナムで開催された米朝首脳会談において両首脳が北朝鮮非核化で合意に達することができず、会談が突如打ち切られたことが嫌気された。主要銘柄のなかでパフォーマンスが劣後したのは、サムスン電子(Samsung Electronics)やハイニックス(Hynix)といった半導体関連銘柄などであった。経済面では、韓国の1月の失業率が4.4%と9年ぶりの高水準へ上昇した。

インド株式は前月末比で横這い
2月のインド株式市場は、インドとパキスタンの対立激化をめぐって懸念が高まるなか、前月末比横這いで月を終えた。インドの2018年第4四半期GDP成長率は6.6%と前期の7%から低下し、1年超ぶりの低水準となった。インド準備銀行は、インフレの鈍化、原油価格の下落、世界経済の減速を理由とし、6ヵ月ぶりに利下げを実施した。1月の総合インフレ率は、食品価格の下落を受けて2.05%へと鈍化し、同中銀の中期目標の4%を下回った。

アセアン市場は概してリターンが低迷
アセアン域内では、2018年第4四半期GDP成長率が市場予想を上回るとともに貿易黒字が拡大したマレーシア市場が唯一のプラス・リターンとなった。反対に、インドネシアとフィリピンはパフォーマンスが最も低迷し米ドル・ベースのリターンがそれぞれ-4.6%、-2.8%となった。インドネシアでは、1月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が49.9へ低下し、景気拡大・縮小の分かれ目となる50を1年ぶりに割り込んだ。フィリピンは、政府支出の急増により2018年の財政赤字が事前予想を上回った。フィリピンとインドネシアの両中央銀行は2月は金利を据え置いた。その他、タイでは3月の選挙を前にして政治にドラマ的展開が見られ、異例にも国王の姉が首相候補に名乗りを挙げたが、国王からの反対表明を受けてそれを撤回した。シンガポールでは、銀行セクターの決算発表が低調な内容となり、特にOCBCは2018年第4四半期決算が純利益で11%の減益となった。根強い地政学的リスクや中国経済の減速を背景に、2019年は融資の伸びが鈍化するとの見通しが示されている。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年1月31日~2019年2月28日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2019年1月31日~2019年2月28日)

過去1年間(2018年2月28日~2019年2月28日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年2月28日~2019年2月28日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア株式はバリュエーションが引き続き魅力的
2019年のアジア株式市場(日本を除く)は、中国が主に牽引する形で概して素晴らしい出だしとなっている。2018年の終わりにかけて中国A株を中心に市場を覆っていた悲観ムードは行き過ぎで、バリュエーションが極めて魅力的な水準となっていたことから、年初来の株価上昇は当社の見方においては想定内の動きだ。米FRBによる追加利上げの先送り、中国の金融および財政政策の緩和、米中通商交渉をめぐる楽観ムードの高まりといった複数の要因が合わさって、株価反発の原動力となっている。これらのトップダウンの株価ドライバーとは別に、当社ではここ数四半期において、長期にわたって持続可能な潜在的収益成長性を有するとともにバリュエーションが非常に魅力的な水準にあるクオリティの高い企業を多数見出すことができていると確信している。これらは、今後5~10年間保有できる銘柄であると期待している。また注目すべき点として、年初来の10%近い株価上昇を経ても、史上最低に近い水準にあったバリュエーションはわずかに上昇しただけであり、大幅な上昇余地が残っていると考える。

中国では保険やヘルスケア、ソフトウェア関連セクターに注目
中国は明らかに景気支援策を強化しており、銀行の預金準備率を引き下げたほか、融資の伸び加速や対象を絞った財政政策に取り組んでいる。中国当局は経済成長の重点を「量」から「質」へシフトするという目標を引き続き堅持しており、適切でない分野への大量の信用供給につながった従前の景気刺激策に回帰しているわけではないと見ている。当社では引き続き、ポートフォリオの長期コア・ポジションとして保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターを選好するスタンスを維持しつつも、ボトムアップ・アプローチによってここ数四半期でより良好な長期投資機会を見出した中国A株銘柄の比重を高めていく方針である。

インドでは民間セクターの銀行および不動産セクターを選好
インドについては、長期的な視点から引き続き選好しているが、2019年はマクロ環境が強弱混合の状況にあるなかで選挙シーズンを迎えるという、同国の先行きを大きく左右する年であることは留意している。最近のパキスタンとの国境紛争によって注目がそれているが、野党第一党の国民会議派の盛り返しが続いている。その他では、インド準備銀行が新総裁の下で明らかにハト派に転じているが、インドの財政状態を考慮すると、これはルピー安が一段と進行する見通しを強めると見られる。当面の成長見通しが不透明であるのに対してバリュエーションが割高な水準にとどまっていることから、当社では慎重なスタンスを維持しつつ、規制当局主導の業界再編が最も優れた企業に非常に大きな機会をもたらすと考える民間セクターの優良銀行や不動産セクターに注目している。

韓国と台湾は選別的な姿勢を維持
韓国と台湾の両株式市場に占める比率が高いテクノロジー・ハードウェア・セクターは、米中間の貿易問題や需要の伸びの鈍化、生産能力の拡大継続といった複数の逆風要因による押し下げ圧力に晒され続けており、この先も厳しい状況が続く可能性が高いと窺われる。それに加え、韓国では、文大統領のポピュリスト(大衆迎合主義者)的な政策の悪影響によって同大統領の支持率が低下しており、経済見通しも不透明感が強まっている。したがって、当社では両市場について、ヘルスケア、電気自動車、テクノロジー・セクターのニッチ分野、コンテンツ制作分野に注目しながら、選別的な姿勢を維持する。

アセアンについては弱気な見方を維持
2019年のアセアンは、タイとインドネシアで国政選挙、フィリピンで中間選挙と幾つかの選挙が予定されていることから、当社では同地域について慎重な見方を維持している。特にタイは、4年前のクーデター以降で初の国政選挙となる今回が試金石になると見られる。インドネシアは、消費が回復の初期兆候を示しているほか、金融システムにおいて過去3年余りで不良債権サイクルへの対処が進んできており、成長のための潤沢な資本が確保されているため、アセアン諸国のなかでは引き続きインドネシアを選好している。フィリピンは、急激な金融政策引き締めが国内消費や銀行セクターのアセットクオリティに影響を及ぼし始めると見られ、投資回避姿勢を維持する。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。