本レポートは英語による2019 年3月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 2月はリスク資産市場が値を上げるなか、米国債利回りが上昇した。米FRB(連邦準備制度理事会)議長の発言や米中閣僚級貿易協議の進展を受けて、ポジティブな投資家心理が持続した。中国の貿易統計や信用統計が市場予想から上振れしたことも、市場の前向きなムードを支えた。最終的に、米国債利回りは10年物で前月末比0.09%上昇の2.72%で月を終えた。
  • 2月のアジアのクレジット市場は、リスク資産市場の上昇を追い風としてプラスのリターンとなった。米国債利回りは若干上昇したもののスプレッドの縮小がそれを十二分に相殺したため、月間リターンはアジアの投資適格債が0.68%、アジアのハイイールド債が1.61%となった。
  • アジア域内ではインフレ圧力の緩和が進んだ。第4四半期のGDP成長はタイとマレーシアで加速したが、シンガポールでは鈍化した。その他では、中国の1月の与信が大きな伸び見せる一方、インドの中央銀行は政策金利を0.25%引き下げた。インド・パキスタン間では緊張が激化したが、インドの信用スプレッドへの影響は限定的なものにとどまった。
  • 発行市場では、中国の春節(旧正月)の休暇時期であったにもかかわらず、活発な起債活動が続いた。投資適格債分野で計21件(総額125.5億米ドル)、ハイイールド債分野で計31件(総額約112.4億米ドル)の新規発行があった。
  • FRBのハト派転換は、アジア地域の債券への需要が堅調に下支えされることを示唆している。したがって、そのような背景の下、当社では引き続き、インドネシアやフィリピンの債券のように利回りの高い債券市場を選好する。また、中国の債券も、人民元建て国債のブルームバーグ・インデックスへの採用が需要を押し上げると見ていることから選好する。通貨については、FRBのスタンスがより緩和的となったことが追い風となって、アジア地域の通貨は全般的に堅調に推移するものと見られる。
  • アジアのクレジット市場は、FRBのハト派的なトーンが当面の信用スプレッドを下支えしている。また、需給バランスもより中立的になってきている。供給面では、2月はアジアの投資適格債分野で新規発行が加速した一方、1月および2月の合計発行額は過去2年に見られたよりも少なかった。ハイイールド債分野は、リスク環境がより良好となるなか、新規発行が順調に吸収されてきている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

2月の米国債市場では利回りが上昇
2月はリスク資産市場が上昇した。当月は、ジェローム・パウエル米FRB議長の発言が中銀の政策スタンスのシフトを確固たるものにしたこと、米中閣僚級貿易協議で進展があり、ドナルト・トランプ米大統領が中国輸入品に対する関税の引き上げを延期する結果となったことから、ポジティブな投資家心理が持続した。中国の貿易統計や信用統計が市場予想から上振れしたことも、市場の前向きなムードをと支えた。リスク資産市場がラリーするなか、米国債利回りは上昇し、10年物で前月末比0.09%上昇の2.72%で月を終えた。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年1月末~2019年2月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1ヵ月(2019年1月末~2019年2月末)

過去1年(2018年2月末~2019年2月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1年(2018年2月末~2019年2月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

インフレ圧力は一段と緩和
1月の総合CPI(消費者物価指数)インフレ率はアジア全体にわたって減速した。インドと中国では、食品価格上昇率の鈍化が総合CPIインフレ減速の主因となった。タイでは、エネルギー価格と運輸費の下落を受けて総合インフレ率が(前月の0.36%から)0.27%へと減速した。同様に、フィリピンと韓国のインフレ圧力緩和も運輸費インフレの鈍化が主因となった。マレーシアでは、燃料小売価格の急落により消費者物価が2009年11月以来で初めて下落した。その他では、1月のシンガポールの総合CPI上昇率が(前月の0.5%から)0.4%へと減速したが、これは電気・ガス費用の上昇ペースの鈍化がサービスでのインフレ加速を上回ったことによる。

第4四半期のGDP成長率はタイとマレーシアで加速するもシンガポールで減速
タイの2018年第4四半期のGDP成長率は前年同期比3.7%と、下方修正された第3四半期の3.2%から加速した。外需の低迷が続くなかで、民間消費の伸びがやや加速するとともに総固定資本形成の伸びも加速した。これでタイの2018年通年の経済成長率は4.1%と、前年の4.0%から若干の加速となった。マレーシアでも同様に第4四半期に成長が回復し、前年同期比4.7%を記録した。内需の拡大は鈍化したものの、純輸出の伸張が経済活動を支えた。シンガポールでは、第4四半期GDPの前年同期比成長率が製造業セクターの伸びの鈍化を主因として2.2%から1.9%へと下方修正された。その他では、インドネシアのGDP成長率が前四半期と変わらずの5.2%となり、着実な経済拡大を示した。

インドは0.25%の利下げを実施
RBI(インド準備銀行)は主要政策金利を0.25%引き下げて市場を驚かせた。また同中銀は、政策スタンスを「慎重な引き締め」から「中立」へと戻し、加えて食品および原油価格の下落を理由に、インフレ見通しを2019年度第4四半期(1月~3月)について前年同期比2.8%へ、2020年度上期について3.2~3.4%へと下方修正した。これらの決定はシャクティカンタ・ダスRBI新総裁が初めて議長を務めた政策決定会合において行われた。

今後の見通し

中国債券および利回りの高い債券市場の選好を維持
FRBのハト派転換はアジア地域の債券への需要が堅調に下支えされることを示唆しているとの見方を維持する。そのような背景の下、当社ではインドネシアやフィリピンの債券のように利回り水準が高い債券市場への選好スタンスを保持する。インドネシアについては、インフレ圧力が比較的安定しているとともに中央銀行が引き続き金融の安定に注力していることが、当社のポジティブな見方をさらに後押ししている。また、政府は債券の発行を前倒しして行っており、今年予定されている総発行量の約27%が既に発行済みとなっている。一方、フィリピンではインフレ圧力の緩和が続いており、インフレ期待が下方調整されるのに伴ってフィリピン債券への需要が下支えされるものと見られる。それとは別に、人民元建て国債のブルームバーグ・インデックスへの採用が中国債券に対する需要を押し上げると見ている。

アジア通貨は全般的に良好なパフォーマンスを予想
FRBのスタンスがより緩和的となったことが追い風となって、アジア地域の通貨は対米ドルで上昇するものと見られる。当社では、人民元建て債券のブルームバーグ・インデックスへの採用に加えて米国との貿易協議の進展が強力なサポート要因となり、人民元が域内の他国通貨をアウトパフォームすると予想している。

アジア・クレジット

市場環境

アジアのクレジット市場は前月に続いてプラスのリターン
2月のアジアのクレジット市場は、リスク資産市場の上昇を追い風として全体的にプラスのリターンとなった。米国債利回りは若干上昇したもののスプレッドの縮小がそれを十二分に相殺したため、月間リターンはアジアの投資適格債が0.68%、アジアのハイイールド債が1.61%となった。全般的に、格付けが低め投資適格債とハイイールド債との、格付けが高めの銘柄に対するスプレッド格差は、投資家心理の改善に伴って縮小が続いた。リスク資産市場がラリーするなか、米国債利回りは上昇した。米国債のイールドカーブはややスティープ化し、2年物と10年物の米国債利回り格差は0.03%拡大して0.2%となった。

中国の社会融資総量は過去最高を記録、印パ緊張の影響は限定的
中国の1月の新規人民元建て融資と社会融資総量は過去最高を記録し、対民間企業での融資アクセス緩和に向けた政策当局の推進策が実を結びつつあることを示している。詳細で明らかになったのは、社債と地方政府による特別債の発行が大幅に増えたのに加え、シャドーバンキングでの貸し出しも回復したことだ。流動性緩和は依然として政策の焦点であり、CBIRC(中国銀行保険監督管理委員会)は、政府が今年、小規模・零細企業への融資残高において30%超の増加を目指していることを公表した。CBIRCは、新規融資において民間企業向けの占める割合が確実に増えるようにする意向もつけ加えた。一方、インド・パキスタン間ではカシミールへの攻撃を受けて緊張が激化したが、これまでのところインドの信用スプレッドへの影響はある程度短期的なものにとどまっている。ハノイで行われた金正恩朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領の会談において「非核化」の合意に至ることができなかったことは、韓国の信用スプレッドや全般的な市場センチメントに全く影響を与えなかった。

発行市場の活動は中国の春節休暇時期にもかかわらず活発
発行市場では、アジアで中国の春節休暇を祝う時期であったにもかかわらず、活発な起債活動が続いた。投資適格債分野では、中国建設銀行の劣後債(18.5億米ドル)やインドネシアのスクーク(イスラム債)ソブリン債(2トランシェで合計20億米ドル)を含む計21件(総額125.5億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野では計31件(総額約112.4億米ドル)と多額の新規発行が見られた。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(出所)JP Morgan
(期間)2018年2月末~2019年2月末
(注)JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年2月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

FRBのハト派化はパフォーマンスの追い風、当面の需給バランスはより中立的
FRBのハト派的なトーンは当面の信用スプレッドの下支えとなっている。米中の貿易協議が前進していることから、当面はポジティブなリスク・センチメントが続くと見られる。一方、需給バランスは2月末にかけてより中立的になってきた。供給面では、2月はアジアの投資適格債分野で新規発行が加速したが、1月および2月の合計発行額は過去2年に見られたよりも少なかった。とは言え、ハイイールド債分野は新規発行が引き続き活発で過去何年かの水準を上回っている。これらの新規発行は、リスク環境がより良好となるなか順調に吸収されてきている。当面のリスク・イベントは印パ関係の緊張激化などであろう。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。