本レポートは、2019年4月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 3月のアジア株式市場(日本を除く)は米ドル・ベースのリターンが1.7%となった。しかし、域内ではリターンにばらつきが見られ、インドと中国がアセアン諸国をアウトパフォームした。米国と中国が双方納得できる通商協定の妥結に向けて有望な進展を見せるとの楽観ムードが追い風となり、アジア株式は月の終盤に反発に転じた。
  • インド市場は、ナレンドラ・モディ首相の率いる与党が選挙に勝利するとの見通しを受けて市場センチメントが押し上げられ、アジア域内の他市場をアウトパフォームした。反対に、韓国株式は、同国の製造業PMI(購買担当者景気指数)が悪化して2月には好不況の分かれ目となる50を4ヶ月連続で下回ったことが打撃となり、株価が大幅に下落した。
  • アセアン諸国市場のリターンはまちまちとなった。3月の米ドル・ベースのリターンは、マレーシアが-2.8%、タイが-1.6%となる一方、シンガポールとインドネシアはともに0.6%と小幅なプラスとなった。アセアン市場のなかでリターンが最も高かったのはフィリピンで、3月の米ドル・ベースのリターンが2.1%となった。
  • 世界的な成長鈍化を受けて、米国債のイールドカーブが長短逆転するなどしたものの、2019年第1四半期はアジア市場にとって非常に堅調な四半期となった。年初来の株価上昇を経ても、史上最低に近い水準にあったバリュエーションはわずかに上昇したにすぎない。

アジア株式市場

市場環境

3月のアジア株式は上昇
3月のアジア株式市場(日本を除く)のリターンは、インドおよび中国の大幅な株価上昇によって押し上げられ、世界経済成長をめぐる根強い懸念を乗り越えて米ドル・ベースで1.7%とプラスになった。しかし、域内ではリターンにばらつきが見られ、インドと中国がアセアン諸国をアウトパフォームした。米国と中国が双方納得できる通商協定の妥結に向けて有望な進展を見せるとの楽観ムードが追い風となり、アジア株式は月の終盤に反発に転じた。中国政府が発表した2月のPMIが好不況の分かれ目となる50を上回ったことも、月の終盤にかけて域内の株式市場を押し上げる要因となった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年3月末~2019年3月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年3月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年3月末~2019年3月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

中国と台湾市場は相対的に堅調、韓国市場は低迷
中国市場は、市場開放や通商交渉に関する期待の高まりを受けて3月の米ドル・ベースのリターンが2.4%となり、2019年に入ってからの月間リターンが3ヶ月連続でプラスを記録した。中国政府が同国金融市場のさらなる自由化を確約したことが投資家に歓迎された。また、米中間の通商交渉進展に対する期待があらためて高まったことや、中国政府が発表した2月のPMIが前月の49.2から50.5へと回復したことも、中国株式を押し上げた。

3月の台湾市場は、2019年第2四半期にはメモリー分野以外の半導体市場が回復に転じるとの期待を受けて、同国市場の主要銘柄である台湾積体電路製造(TSMC)の株価が3%近く上昇するなか、米ドル・ベースのリターンが2.3%となった。その他では、香港株式の米ドル・ベースのリターンが1.3%と小幅なプラスとなった。香港では、株式市場の上昇と同時に不動産市場も反発し、2月の住宅価格が上昇を見せた。

3月にアジア株式市場のなかでパフォーマンスが最も低迷したのは韓国で、世界的な景気減速の可能性をめぐる市場の懸念が大きな打撃となり、米ドル・ベースのリターンが-3.1%となった。韓国の製造業PMI(購買担当者景気指数)が悪化し、2月には好不況の分かれ目となる50を4ヶ月連続で下回るとともに2015年6月以来の急低下となったことも、韓国株式への打撃となった。企業動向においては、サムスン電子(Samsung Electronics)が、4月上旬に予定されている決算速報を前にして、メモリーチップ価格の下落により第1四半期決算が市場予想を下回る見通しであることを発表した。

域内で最も堅調だったのはインド株式
3月のインド株式はアジア域内で最も堅調なパフォーマンスを見せ、米ドル・ベースのリターンが9.2%に上った。ナレンドラ・モディ首相率いる与党が選挙に勝利するとの見通しや、4月上旬のRBI(インド準備銀行)会合で今年2度目の利下げが決定されるとの観測が、市場センチメントを押し上げた。インドの2月のインフレ率は前年同月比2.6%へと加速したが、これは政府の目標レンジの中央値である4%を下回っている。

アセアン諸国のリターンはまちまちに
アセアン域内では、市場によってリターンがまちまちとなった。3月の米ドル・ベールのリターンは、マレーシアとタイがそれぞれ2.8%と1.6%のマイナスとなる一方、シンガポールとインドネシアはともに0.6%と小幅なプラスとなった。タイでは、2014年の軍事クーデター以降で初の総選挙が行われた。しかし、その結果ははっきりとしておらず、主要2政党(親軍派である国民国家の力党と反軍派のタイ貢献党が双方とも連立政権を発足させるのに十分な支持を確保したと主張している)。正式な選挙結果は5月初めに発表される見通しだ。シンガポールでは2月のコアCPI(消費者物価指数)伸び率が市場予想を下回って前年同月比1.5%となり、またマレーシアでは2月のCPIが燃料価格の下落を要因に2ヶ月連続で低下した。フィリピン市場は3月の米ドル・ベースのリターンが2.1%となり、アセアンのなかで最も堅調なパフォーマンスを示した。フィリピンの中央銀行は、食品価格の下落を背景にインフレ圧力が緩和するなか、政策金利を4.75%に維持するとともに、2019年のインフレ率予測を3.1%から3%へと下方修正した。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年2月28日~2019年3月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2019年2月28日~2019年3月31日)

過去1年間(2018年3月31日~2019年3月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年3月31日~2019年3月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジア株式のバリュエーションはわずかな上昇にとどまる
世界的な成長鈍化を受けて、米国債のイールドカーブが長短逆転するなどしたものの、2019年第1四半期はアジア市場にとって非常に堅調な四半期となった。中国が財政および金融政策の緩和を開始するとともに、米FRB(連邦準備制度理事会)がハト派寄りに転じるなか、株価は2018年末の期待感が極度に低下していた水準から反発した。また、米中間の通商協定の行方をめぐる楽観ムードが足元で強まっていることも追い風となっている。長期にわたって持続できる潜在収益成長性を有するクオリティー企業の株価は、同期間を通じてしっかりと下支えされた。当社では、当四半期前の6~9ヶ月間にわたる市場調整局面において、そうした高クオリティー企業で株価が割安となっている銘柄へのエクスポージャーを積み上げることに注力したが、足元ではポートフォリオの配当利回りが良好。年初来の株価上昇を経ても、史上最低に近い水準にあったバリュエーションはわずかに上昇したにすぎず、今後5~10年間保有できると期待している銘柄のポジションを維持している。

中国では保険やヘルスケア、ソフトウェア・セクターに注目
中国は過去9ヶ月間の世界需要低迷の主因となってきたが、当社では中国における楽観ムードには根拠があると見ている。現在までに累計約2,500億米ドル規模の景気刺激策が発表されているが、今回の緩和策について特徴的かつ期待の持てる点として窺えるのは、中国政府がインフラ支出の拡大だけでなく、法人および個人を対象とする減税を通じて企業の負担軽減と消費の押し上げも目指していることだ。当社は、資本市場改革を中心として年内にさらなる改革が打ち出されると予想している。構造的な経常収支赤字入りが迫っている中国にとって、改革の推進は投資資金を呼び込む上で極めて重要である。ポートフォリオの長期コア・ポジションとして保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターを選好するスタンスに変わりはないが、ボトムアップ・アプローチによってここ数四半期でより良好な長期投資機会を見出した中国A株の比重を高めていく方針である。

インドは慎重ながらも楽観的な見方、民間セクターの銀行および不動産セクターに注目
インドは、引き続きその成長ストーリーを長期的な視点から選好している市場であり、足元では米FRBのハト派寄り転換を受けてやや落ち着きを取り戻してきている。当面のマクロ環境をめぐる不透明感が徐々に和らいでいるとともに、インフレは引き続き落ち着いており、また経常収支は原油価格の下落と景気の鈍化を受けて赤字幅が縮小する見通しだ。国政選挙が近づくなか、世論調査はもはや与党議席過半数割れとの見通しを示さなくなっており、当社ではいまや、シナリオの中心が選挙後に打ち出される政府の改革案へと徐々に移っていくと予想している。歳入増加や輸出競争力強化、インフラ支出加速のための改革はみな、インドの長期的な成長ストーリーにとって極めて重要となる。しかし、当面の見通しがいくらか明るさを増しているものの、バリュエーションは割高な水準にとどまっている。したがって、当社では、慎重さをもって楽観的なスタンスを維持しつつ、規制当局主導の業界再編が最も優れた企業に非常に大きな機会をもたらすと考える民間セクターの優良銀行や不動産セクターに注目している。

韓国、台湾、アセアンは選別的な姿勢を維持
韓国と台湾のテクノロジー・ハードウェア銘柄は、引き続き複数の逆風要因による押し下げ圧力にさらされている。それらの逆風要因、つまり米中間の貿易摩擦や需要の伸びの鈍化、生産能力の拡大継続はみな、過剰在庫が完全に消化されるまでにはある程度時間がかかる可能性があることを示唆している。特に韓国では、文大統領のポピュリスト(大衆迎合主義者)的な政策の悪影響によって同大統領の支持率が低下しており、経済見通しも不透明感が強まっている。しかし、同市場の一部にはバリュエーションが極めて魅力的な銘柄が出てきていることや、韓国国内で財政出動がより積極的に実施される可能性があることから、足元の状況は韓国において一部の高クオリティー企業銘柄に投資する買い好機と捉えており、なかでもヘルスケア、電気自動車、テクノロジー・セクターのニッチ分野、コンテンツ制作分野に注目している。

2019年のアセアン地域においては、タイとインドネシアで国政選挙、フィリピンで中間選挙が行われるなど、引き続き選挙が中心テーマとなっている。タイでは、4年前のクーデター以降で初となる国政選挙の結果が依然流動的だが、現与党が他の政党と連立を組むことで政権を維持するというのが基本シナリオだろう。インドネシアは、消費が回復の初期兆候を示しているほか、金融システムにおいて過去3年余りで不良債権サイクルへの対処が進んできており、成長のための潤沢な資本が確保されているため、アセアン地域のなかでは引き続きインドネシアを選好している。フィリピンは、急激な金融政策引き締めが国内消費や銀行セクターのアセットクオリティに影響を及ぼし始めると見られ、投資回避姿勢を維持する。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。