本レポートは英語による2019 年4月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 3月は、先進国の中央銀行が明らかにハト派に転換したことから、世界的に債券高となった。米FRB(連邦準備制度理事会)が急激にハト派化したことをきっかけに、米国債市場もイールドカーブ全体にわたって急上昇した。その後発表された欧米の経済指標が製造業の不振を示したことから不況懸念が強まり、米国債のイールドカーブでは長短の逆転が生じた。最終的に、米国債利回りは2年物で前月末比0.25%低下の2.26%、10年物で同0.31%低下の2.41%で月を終えた。
  • アジアのクレジット市場は、スプレッドの縮小と米国債市場の上昇を受けて3月も続伸した。世界経済の成長懸念が信用スプレッドに及ぼすマイナスの影響は、世界中の主要中央銀行におけるハト派傾斜の強まりがもたらすプラス効果によって十二分に相殺された。アジアの投資適格債はスプレッドが0.04%縮小し、トータル・リターン・ベースの市場リターンが1.80%となった。アジアのハイイールド社債はスプレッドが0.32%縮小して市場リターンが2.84%となり、投資適格債をアウトパフォームした。
  • アジア諸国の2月の総合CPI(消費者物価指数)がまちまちの内容となる一方、中国は2019年の経済成長率目標を昨年よりも低い「6.0~6.5%」に設定した。域内の中央銀行は政策金利を据え置いた。その他では、フィリピン中銀の新総裁にベンジャミン・ジョクノ氏が任命され、またタイでは総選挙が実施された。
  • 発行市場では、企業の決算発表シーズンが始まったことも一因となって、起債活動が若干鈍化した。鈍化がより目立ったのは投資適格債分野で新規発行は計23件(総額113億米ドル)となったが、一方でハイイールド債分野では計34件(総額134億米ドル)の新規発行があった。
  • アジアの現地通貨建て債券では、キャリーが中~高水準で当面の金融政策にハト派シフトの余地がある国の債券を選好する。インドネシア、フィリピンおよびマレーシアの中央銀行について、年内により緩和的な金融政策を採用する可能性があると見ている。通貨では、中国人民元に対して強気な見方をする一方、韓国ウォンは劣後すると予想する。
  • アジアのクレジット物への需要は、FRBのハト派スタンスと経済成長の鈍化見通しに下支えされるものと予想される。一方、米中貿易協議の結果は依然として予測不可能だ。タイ、インド、インドネシアの来たる選挙の結果は注視していく必要がある。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

債券市場は世界的に上昇
3月は、先進国の中央銀行が明らかにハト派に転換したことから、世界的に債券高となった。ECB(欧州中央銀行)は経済成長見通しを、潜在成長率を下回る水準へと下方修正し、金融危機後で初となる利上げの時期を(早くても)来年へと先延ばしにするとともに、新たなTLTRO(貸し出し条件付き長期資金供給オペ)の実施を決定した。しかし、米国債市場がイールドカーブ全体にわたって急上昇するきっかけとなったのは米FRBの急激なハト派化で、同中銀は年内の想定利上げ回数を従来の2回からゼロに引き下げるとともに、バランスシートの縮小については9月までに終了する意向を発表した。その後発表された欧米の経済指標が製造業の不振を示したことから不況懸念が強まり、米国債のイールドカーブでは長短の逆転が生じた。月末の米国債利回りは2年物で前月末比0.25%低下の2.26%、10年物で同0.31%低下の2.41%となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年2月末~2019年3月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1ヵ月(2019年2月末~2019年3月末)

過去1年(2018年3月末~2019年3月末)

アジア現地通貨建て債券のリターン過去1年(2018年3月末~2019年3月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア諸国の2月のインフレ圧力はまちまち
アジア諸国の総合CPI(消費者物価指数)はまちまちの内容となった。インフレ圧力は、インド、タイおよびシンガポールで高まった(しかし穏やかな水準にはとどまった)一方、中国、韓国およびフィリピンでは和らいだ。タイの総合CPIは、原油と生鮮食料品の価格上昇を受けて上昇率が3ヵ月ぶりの高水準となった。インドでは食品価格デフレのペースが緩んだことから総合CPI上昇率が加速し、またシンガポールでは民間道路輸送費と住居費の低下ペースの鈍化が主因となって総合インフレが若干加速した。反対に、中国では食品価格インフレの鈍化を受けて小売物価インフレが減速し、また韓国では原油と生鮮食料品の価格の下落から総合CPI上昇率が減速した。フィリピンではCPI上昇率が減速して中央銀行の目標レンジ内に戻った。インフレ緩和は幅広い分野にわたっており、1年ぶりの水準へと低下した。その他では、マレーシアが燃料価格の下落を受けて2ヵ月連続でデフレを記録した。

金融当局は政策金利を据え置き
タイ中央銀行は全会一致で政策金利の据え置きを決定するとともに、2019年のGDP成長率見通しを0.2%引き下げて3.8%、2019年のコアインフレ見通しを0.1%引き下げて0.8%とした。インドネシア中央銀行も政策金利を維持し、その理由として経済の「外部環境に対する安定性を強化」し「経常赤字を対応可能な水準まで」削減する取り組みの継続を挙げた。フィリピンでは、同国の中央銀行が、インフレが鎮静化しているなかでは現行の政策スタンスは「引き続き適切である」と述べた。一方、マレーシア中央銀行は、政策金利の据え置き決定に伴う声明において、経済成長の下方リスクを警告しハト派トーンを示した。市場はこれを、同中銀がまもなく行う利下げへの地ならしと受けとめた。

フィリピン中銀の新総裁にベンジャミン・ジョクノ氏、タイは選挙を実施
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、2月にガンで他界したネストル・エスペニリャ中銀総裁の後任として、ベンジャミン・ジョクノ前予算管理相を任命した。新総裁は、まだ同大統領の内閣の一員であった時には成長重視政策スタンスで知られていたが、物価・経済の安定性と中銀の独立性の担保を最優先していくと述べた。市場は概してジョクノ総裁をハト派寄りとみなしており、同総裁の監督下で金融政策が緩和されるとの織り込みが進んだ。その他、タイでは2014年のクーデター以来で初となる選挙が実施されたが、その後も政治的不透明感の強い状況が続いている。非公式の開票結果は軍事政権のリーダーであるプラユット・チャンオチャ氏が首相に返り咲く可能性が高いことを示しているが、政権の樹立は長く困難なプロセスになるものと想定される。

今後の見通し

キャリーが中~高水準で金融政策がハト派転換する可能性がある国の債券を選好
先進国の中央銀行が利上げに対してさらに忍耐強い姿勢を示していることから、アジアの債券への需要は順調に下支えされると予想する。当社が先行するのは、キャリーが中~高水準で当面の金融政策にハト派シフトの余地がある国の債券だ。インドでインフレが減速するなか、RBI(インド準備銀行)はアジアで政策金利を引き下げる最初の中銀となった。今後については、総合インフレ率がRBIの目標水準を下回り続ける限り、同中銀はハト派姿勢を継続すると予想している。このハト派スタンスはインド債券市場のサポート要因になると見ており、また年内に追加利下げが行われる可能性も残っていると考える。その他で年内に中銀がより緩和的な金融政策を採用する可能性がある国として、インフレ見通しが落ち着いているインドネシア、フィリピンおよびマレーシアに注目している。

人民元に対して強気、ウォンは劣後を予想
通貨では、米中貿易協議において進展が続いていることに加え、MSCIがグローバル株式インデックスにおける中国A株の構成比率を引き上げる動きを見せていることが、中国人民元への需要を下支えする要因となっている。反対に、韓国ウォンについては、世界貿易の継続的な鈍化、国内経済の低迷、米朝間の非核化協議の行き詰まりを背景に、域内の他通貨をアンダーパフォームすると予想する。

アジア・クレジット

市場環境

3月のアジアのクレジット市場は上昇
アジアのクレジット市場は、スプレッドの縮小と米国債市場の上昇を受けて3月も続伸した。アジアの投資適格債はスプレッドが0.04%縮小し、トータル・リターン・ベースの市場リターンが1.80%となった。アジアのハイイールド社債はスプレッドが0.32%縮小して市場リターンが2.84%となり、投資適格債をアウトパフォームした。

当月は、中国の輸出統計の低迷、米国の雇用統計の軟化、ECBによる経済成長率見通しの大幅な下方修正を含め、発表された経済指標等が予想を下回るケースが世界的に続いたことから、世界経済の成長減速が悪化するのではとの懸念につながった。しかし、この成長懸念が信用スプレッドに及ぼすマイナスの影響は、世界中の主要中央銀行におけるハト派傾斜の強まりがもたらすプラス効果によって十二分に相殺された。中国の政策当局が国内経済の成長を支援するための的を絞った政策の続行を再確認したのに加え、アジア企業の収益が全体的に予想を上回ったこと、また発行市場の起債活動が比較的穏やかであったことなども追い風となり、スプレッドは月を通じて着実に縮小した。国別では、インドで与党が世論調査での支持率において目覚ましい改善を見せたのに伴い、同国市場の選挙リスク・プレミアムが著しく低下して、インド・クレジットに対する心理を支えた。一方、タイでは、2014年以来初となる選挙を経ても政治的不透明感が依然として強い。政権の樹立は長く困難なプロセスになるものと想定されるが、速報ベースの選挙結果がタイの信用スプレッドに与えた影響は最小限にとどまっている。

中国は2019年の経済成長率目標を引き下げ、LGFVの債券発行要件を緩和
中国の李克強首相は年次の全国人民代表大会で、2019年のGDP成長率の政府目標を昨年の「6.5%程度」を下回る「6~6.5%」に設定することを発表した。同首相は、経済の下方圧力への対策として、とりわけ減税と社会保険料負担引き下げの規模拡大を実施することを宣言した。10日間の開催期間を通じて、様々な政策担当者が金融と財政の両政策において一段の緩和が必要であるとの認識を示した。注目すべき点として、同首相の2019年の政府活動報告では、満期を迎えるLGFV(「地方融資平台」、地方政府が資金調達のために設立する事業体)債務の問題に対応し、資金不足を補うためそのような債務で資金を賄ったプロジェクトについて遅延や作業の延期を回避するために、市場アプローチを用いることが奨励された。報道によると、これを受けて、中国の証券取引所に対し一部のLGFVによる社債発行の要件を緩和するよう「窓口指導」が行われた。これによって、オンショアとオフショアの両米ドル建て債券市場でLGFV債券に対する投資家心理が改善した。

新規発行のペースはやや鈍化
3月の発行市場では、企業の決算発表シーズンが始まったことも一因となって、起債活動が若干鈍化した。鈍化がより目立ったのは投資適格債分野で、新規発行は計23件(総額113億米ドル)となった。一方、ハイイールド債分野では、スリランカのソブリン債(2トランシェで24億米ドル)を含めて計34件(総額134億米ドル)の新規発行があった。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(出所)JP Morgan
(期間)2018年3月末~2019年3月末
(注) JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年3月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジアのクレジット物への需要はFRBのハト派スタンスと成長鈍化見通しが追い風に
最近の世界の経済指標は製造業を中心に鈍化方向に転じており、特に欧州ではそれが顕著となっている。しかし、大半の主要国では雇用市場が依然堅調である。米国は賃金の伸びに加速の兆候が見られており、これが家計所得と消費を下支えするものと想定される。世界の債券市場で現在織り込まれているリセッション(景気後退)・リスクは、過剰であるように見受けられる。とは言え、米FRBや他の主要中銀を足元のハト派傾斜から方向転換させるのに十分なほど経済指標が好転するには、時間がかかるかもしれない。FRBのハト派スタンスと世界経済の成長鈍化(リセッションを起こすほどではないが)見通しは、(アジアや他の新興国を含む)グローバル・クレジット市場のパフォーマンスと同資産クラスへのモメンタム主導の資金流入にとって追い風である。加えて、中国のマクロ経済指標は進行中の景気刺激策に反応して安定化の兆しを見せており、アジアの2018年下期の企業収益は全体的に良好であった。したがって、年初からの急上昇を経てバリュエーションは長期の平均対比で魅力度のより低いレンジに戻ったものの、アジアの信用スプレッドは、新発債供給が急増して現在の良好な需給バランスが崩れることがなければ、当面下支えされた状況が続くと見られる。

米中貿易協議は引き続き不確実要因、域内の選挙は注視が必要
進行中の米中貿易協議の結果は依然として予測不可能だ。関税の廃止や規模縮小といったポジティブな結果になれば、米国債の利回りが上昇するとともに信用スプレッドが縮小する可能性があるが、一方で交渉が決裂すれば逆の影響が増幅されて起こる可能性が高い。また、タイ、インド、インドネシアの来たる選挙の結果は注視していく必要がある。ただし今のところは、各国の信用スプレッドに対する影響は大きくはないだろうというのが基本シナリオだ。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。