本レポートは、2019年5月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 4月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国や中国の経済指標が市場予想を上回る内容となったこと、世界的にリスクセンチメントが落ち着いたこと、米FRB(連邦準備制度理事会)がハト派的な姿勢を強めたことが支えとなり、米ドル・ベースのリターンが1.9%となった。
  • 4月にアジア域内で最も堅調だったのはシンガポール株式で、銀行銘柄の大幅な上昇を受けて米ドル・ベースのリターンが6.3%にのぼった。反対に、4月のマレーシア市場は、政府による政策が投資家に嫌気され、米ドル・ベースのリターンが-1.0%とアジアのなかで最も低迷した。
  • 台湾市場は、半導体関連銘柄の大幅な上昇や消費者信頼感指数の好調さがドライバーとなり、堅調なパフォーマンスを示した。中国市場は、発表された2019年第1四半期の経済統計が市場予想を上回ったことを受けて、米ドル・ベースのリターンが2.2%となった。
  • 年初来の株価上昇を経てもバリュエーションが魅力的な水準にあることから、アジア市場については強気な見方を維持するが、一方でボラティリティの上昇を招きかねない要因が複数存在することも認識している。市場では、米中貿易戦争の早期妥結、インドのモディ政権の続投、インドネシアの選挙におけるジョコ・ウィドド大統領の勝利といった材料が既に織り込み済みだ。反対に、こうしたシナリオから少しでも逸れた場合、少なくとも短期的にはリスクプレミアムが上昇すると見られる。

アジア株式市場

市場環境

4月のアジア株式は上昇
4月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国や中国の経済指標が市場予想を上回る内容となったことや世界的にリスクセンチメントが落ち着いたことが支えとなり、引き続き上昇した。米中通商協定の早期妥結期待や米FRBのハト派姿勢の強まりも、当月の市場センチメントを押し上げた。

アジア株式市場(日本を除く)は、4月の米ドル・ベースのリターンが1.9%となり、今年に入ってから4ヶ月連続でプラスの月間リターンを記録した。米国の2019年第1四半期のGDPは前期比年率換算で3.2%増となった。中国の2019年第1四半期の経済成長率が前年同期比6.4%と予想外に好調だったことも、アジア株式市場にとってさらなる支援材料となった。しかし、アジア域内では市場間でリターンにばらつきが見られ、シンガポールと台湾が大幅に上昇する一方、マレーシアはマイナス・リターンとなった。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年4月末~2019年4月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年4月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年4月末~2019年4月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アセアン地域内ではシンガポールがアウトパフォームするもマレーシアは低迷
4月のシンガポール株式は、市場インデックスでの構成比率が高いDBS GroupやUnited Overseas Bankを中心に銀行銘柄が大幅に上昇したことを受けて、米ドル・ベースのリターンが6.3%とアジア域内で最も堅調なパフォーマンスを見せた。DBS Groupの2019年第1四半期決算は、ウェルスマネジメント、証券および投資銀行事業における手数料収入の低迷を好調な貸出しの利息収入が相殺し、純利益が高水準に達した。反対に、4月のパフォーマンスがアジア域内で最も低迷したのはマレーシアで、政府による政策が投資家に嫌気されて米ドル・ベースのリターンが-1.0%となった。同国の2月の輸出は前年同月比5.3%減となり、過去2年余りで最大の減少を記録した。マレーシアの主要輸出品である石油精製製品およびパーム油の輸出は、それぞれ3.09%と13.4%の減少となった。

アセアン地域のその他の市場については、米ドル・ベースのリターンがタイ、フィリピン、インドネシアでそれぞれ2.0%、1.4%、0.8%となった。タイでは、輸出鈍化が重石となって減速している景気を下支えするべく、218億タイバーツ規模の景気対策が閣議決定された。インドネシアでは、選挙の開票速報がジョコ・ウィドド現大統領の得票率を約55%、対抗馬のプラボウォ・スビアント候補の得票率を約44%と示し、ジョコ・ウィドド大統領の再選が濃厚となった。

台湾と中国市場は上昇
当月は台湾株式も堅調で、米ドル・ベースのリターンが4.0%となった。台湾積体電路製造(TSMC)が半導体市況の底入れは近いと示唆したことから、半導体関連銘柄が市場の上昇を牽引した。台湾の4月の消費者信頼感指数が好調で昨年5月来の最高水準に達したことや、鴻海科技集団の創業者で親中派の郭台銘氏が台湾総統選に出馬すると報道されたことも、市場の押し上げ要因となった。

また、中国株式については、発表された2019年第1四半期の経済統計が市場予想を上回ったことを受けて、米ドル・ベースのリターンが2.2%となった。4月のPMI(購買担当者景気指数)は市場予想を下回ったものの、それでも中国株式は上昇を達成した。その他の北アジア市場、つまり香港と韓国は、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ1.1%、0.4%とかろうじてプラスとなった。韓国株式は、2019年第1四半期GDPが市場予想を下回る前期比0.3%減となったことが、米ドル・ベースでのパフォーマンスの足枷となった。

インド市場は小幅に上昇
4月のインド株式は、原油価格の急上昇を受けてインドルピーが押し下げ圧力に晒されるなか、米ドル・ベースのリターンが0.6%にとどまった。インドの中央銀行は、同国経済の減速を理由に今年2度目の利下げを実施し、政策金利を6.25%から6%へと引き下げた。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年3月31日~2019年4月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2019年3月31日~2019年4月30日)

過去1年間(2018年4月30日~2019年4月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年4月30日~2019年4月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

高クオリティー企業に注目
米FRBのハト派姿勢の強まりや米国経済指標の相対的な底堅さは、世界最大の経済大国では成長が鈍化しているものの引き続き状況は安定していることを示唆している。FRBの政策スタンスはリスク資産の上昇を後押しした。当社では、年初来の株価上昇を経てもバリュエーションが魅力的な水準にあることから、アジア市場について強気な見方を維持するが、一方でボラティリティの上昇を招きかねない要因が複数存在することも認識している。市場では、米中貿易戦争の早期解決、インドのモディ政権の続投、インドネシアの選挙におけるジョコ・ウィドド大統領の勝利といった材料が既に織り込み済みだ。反対に、こうしたシナリオから少しでも乖離した場合、少なくとも短期的にはリスクプレミアムが上昇すると見られる。

中国では保険やヘルスケア、ソフトウェア・セクターを引き続き選好
中国政府が景気を押し上げるのではなく下支えするというより慎重なアプローチをとっていることは、好材料と言える。「(成長における)量よりも質重視」の動きへのコミットメントを強く示しており、過去のバラまき的な固定資産投資からの明確な決別であるからだ。減税や資本市場改革、そして米国による懸念を一部認めた習近平国家主席が最近の発言は、中国資本市場の段階的開放が真に前進することを予感させる明るい兆しだ。当社では、ポートフォリオの長期コア・ポジションとして保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターを選好するスタンスを維持している。

インド市場はモディ首相率いる与党の勝利を織り込み済み
インド株式市場に対しては、より長期的には引き続き強気な見方をしている。現在進行中の総選挙による株式市場への影響、(特に短期的な影響)が強く危惧されているが、過去の例が示唆するように、中・長期的には選挙が株式市場のリターンに大きな影響を及ぼすことはほぼない。目下の市場ではモディ首相率いる与党の勝利が概ね織り込まれていることから、それ以外の結果となれば市場に動揺が走る可能性が高いだろう。バリュエーションが悪材料を吸収できる余裕のほぼない割高な水準にあり、経済指標も冴えない内容が続いていることから、今後数ヶ月は経営基盤が強固な企業に投資する方がより有利となるだろう。そうしたなか、当社では、引き続き民間セクターの優良銀行や不動産セクターに注目している。

韓国、台湾に対しては選別的な姿勢
テクノロジー・セクターはこれまで数四半期にわたって深刻な苦境に立たされてきており、それに伴って韓国および台湾株式市場も苦戦してきた。韓国は、景気見通しが依然冴えないが、ヘルスケア、電気自動車、テクノロジー・セクターのニッチ分野、コンテンツ制作分野など、市場の一部にバリュエーションの魅力的な高クオリティー企業銘柄が散見される。台湾のテクノロジー・セクターは、在庫消化が続いておりなんらかの形での底入れが近いと窺われることから、最悪期を脱した様子である。とは言え、明確に強気な見方へと転換するのは早計だろう。競争力の高さ、ニッチ分野の製品ラインナップ、バリュエーションの水準からリスク・リターンのトレードオフが魅力的となっている銘柄は一握りに限られる。

アセアンでは選挙の影響が引き続き焦点に
アセアン地域では、選挙が引き続き注目を集めている。タイとインドネシアでは国政選挙が終わったが、フィリピンは5月に中間選挙を控えている。これら3ヵ国ではいずれも、現与党が政権を維持する見通しだ。少なくともインドネシアでは、政府が今回更新された国民からの信任を後ろ盾として、強く必要とされてきたインフラ整備を実施していくものと予想される。またインドネシアは、消費が回復に向かう可能性があるほか、金融システムが相対的に強固であるため、当社では同国市場を選好している。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。