KAMIYAMA Reports vol. 142

  •  ここがポイント!
  • ✔ 金価格は引き続き生産コストが下支え
  • ✔ 株式市場がリスクを感じるほど、金価格は上昇しやすい
  • ✔ ポートフォリオのバランスを良くする効果

金価格は引き続き生産コストが下支え

金は貴金属として古来から人々に好まれている。さらに腐食などがないため、価値の“貯蔵”としても利用されてきた。長らく通貨としても利用され、現在も世界の中央銀行が資産として保有している。世界的に資産運用として貴金属を保有する投資家は多く、先物取引もある。それゆえ、金は宝飾品などの実物としての需給よりも、金融商品としての需給が価格に影響を与えがちだ。

株式や債券などの証券投資と異なり、金に投資しても配当や金利が得られるわけではない。それゆえ、金の価値の源泉について考えることは、投資の観点から重要だ。

株式ならば企業の努力や工夫の成果が株価上昇の源泉となるが、金にはそのような仕組みはない。金は石油のように消費されてしまうことはないので、古来から掘り出されてきた金に、新しく掘り出された分が上乗せされていく。

一方で、経済成長により宝飾品需要が増える面もあるが、現実にはそれほど需要の伸びが認識されているとも言い難い。このような需給で強いトレンドが生まれ、上昇トレンドを生むことはないはずだ。ところが、現実には長期にわたり金価格は上昇してきた。この背景には、生産コストの上昇があると考えられる。

金価格の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズの資料などから、金価格が2002 年に313 米ドル/トロイオンス(月次平均)であったころの総生産コスト(減価償却を含む)は、233 米ドル/トロイオンス程度で、2012 年に1,677 米ドル/トロイオンス(月次平均)であったころは、総生産コストが970 米ドル/トロイオンス程度になっていた。つまり、掘り出すコストを決める物価の水準が金価格を下支えする、といえそうだ。

鉱山会社の総コストには、総生産コストに間接費用などが加わるので、現時点で1,200~1,300 米ドル/トロイオンス程度のコストが想定される。つまり、金価格が上がるからインフレになるという因果関係は乏しいが、限界的な(追加的な)金の生産コストが価格を決めるという長期的なメカニズムは働いているようだ。それゆえ、金価格が突然1,000米ドル以下に大幅に下がるとは考えにくく、コスト水準での下支えが期待される。

株式市場がリスクを感じるほど、金価格は上昇しやすい

よく知られているように、金価格は株式市場で経済見通しなどに不透明感が強まったときに上昇する傾向がある。2014年5月から2019年4月までの過去5年間を見ると、米国株価指数(S&P 500、月末値)は1,923.57から2,945.83まで、おおむね上昇傾向にあった。

金価格と米国株式のリスクプレミアムの推移

※金価格は、ニューヨーク商品取引所の先物価格、米ドル建て
(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

過去5年間について、金価格のトレンドはそれほど強くないが、下値がコストに支えられるかのようにレンジの中で推移した。ここで、株式市場のリスク認識について、PERなどから算出されるリスクプレミアムと金価格を比較してみよう。

金の基本的な性格は、価値の保全にある。経済成長への不透明感が強まると、価値を保全したいと考える投資家が資金を金に振り向けることが想定される。一方、株式市場への不透明感が強いほど、PERは低下する。現在の利益水準(PERの分母)が一定でも、センチメント(投資家心理)が悪化すれば株価は下がるので、PERも下がりやすい。本当に経済環境が悪化すれば利益が減少し、先行していた株価水準と整合的になるので、PERは元の水準に戻ることになる。逆に経済成長への不透明感がなければ、株価は上昇して元の水準に戻る。さらに、不透明感が強まって株式を売る場合、投資家は価値を保全するために現金や金などにお金を振り向けようとする。

ポートフォリオのバランスを良くする効果

株式市場へのセンチメント悪化が金価格を押し上げる効果があるとすれば、アセット・アロケーションにおいて、金を持つことに意味がある。なぜなら、分散効果が期待されるからだ。

金価格と米国株式のリスクプレミアムの相関

※金価格は、ニューヨーク商品取引所の先物価格、米ドル建て
(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

リスクプレミアムが上昇するとき(PERが下落するとき)、金価格は上がりやすい。逆に株式市場が強気になり、リスクプレミアムが低下するときには、金価格が下がりやすいことが分かる。

完全に経済成長や世界の趨勢を予測できるのであれば、ポートフォリオ運用の必要はない(一番良いものだけ持てばいい)が、これは現実的ではない。投資家は、投資を通じて、世界の人々が努力と工夫をして成長していくことの便益を、自分のものにしていきたい。一方で、未来のことは誰にも分からないので、タイミングや投資先の集中を避け、さまざまな状況に応じて投資を続けられるようにしておきたい。そのように考えると、金はポートフォリオのバランスを良くする効果を持っているといえそうだ。

上図の「米国株式のリスクプレミアム」について
S&P 500指数のPERの逆数(益回り)から、米国10年国債利回りを差し引いて算出。