本レポートは、2019年6月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • アジア株式は、4ヶ月連続でプラス・リターンを記録していたが、その上昇基調が米中貿易問題の激化を受けて5月に突如途絶えた。米国と中国が再び報復関税合戦を繰り広げたことで景気後退懸念が強まり、投資家がリスクオフ姿勢を強める逆風の環境となったため、5月のアジア株式市場(日本を除く)のリターンは米ドル・ベースで-8.5%となった。
  • アジア域内でリターンのマイナス幅が最も大きかった市場は中国、韓国、シンガポールだった。中国は、貿易をめぐる懸念が強まったことやPMI(購買担当者景気指数)が市場予想を下回ったことが重石となった。韓国は、テクノロジー企業のサプライチェーンの混乱懸念や貿易黒字の減少を受けて下落し、一方、シンガポールでは、2019年第1四半期のGDP成長率が市場予想を下回ったことが市場センチメントを冷やした。
  • 5月のインドおよびフィリピン市場は、アジア株式市場全体の下落基調に逆行し、小幅なプラス・リターンとなった。インド株式は、総選挙においてナレンドラ・モディ首相率いるBJP(インド人民党)を中心とする与党連合が圧勝したことを受けて、引き続き底堅く推移した。フィリピン株式は、主要政策金利と預金準備率の引き下げが押し上げ要因となった。
  • 地政学的緊張が一段と高まるなか、世界の経済大国に成長減速の兆しが見られている。金利環境が転換していることは、2018年通年そして2019年の初めまで流動性タイト化による強いストレスに晒されてきた多数の新興国にとって、大きな好材料だ。それと時を同じくして、アジアでは、域内有数の人口規模を持つ国の2つ、インドとインドネシアで選挙が無事に終わり、その結果も市場にとって良好なものとなっている。当社では、構造的成長やファンダメンタルズのポジティブな変化が期待される分野を引き続き有望と見て注目している。

アジア株式市場

市場環境

5月のアジア株式は下落
アジア株式は、4ヶ月連続でプラス・リターンを記録していたが、その上昇基調は米中貿易問題の激化を受けて5月に突如途絶えた。世界の2大経済大国が再び報復関税合戦を繰り広げたことで景気後退懸念が強まり、投資家がリスクオフ姿勢を強める逆風の環境となったため、世界の株式市場は大揺れの展開となった。こうしたなか、5月のアジア株式市場(日本を除く)のリターンは米ドル・ベースで-8.5%となった。米中貿易戦争の激化が世界経済の成長にもたらした先行き不透明感は、株式市場にとっての悩みの種となっただけでなく、米国債のイールドカーブにおける3ヵ月物と10年物の利回り逆転の進行も促し、景気後退入りの可能性が示唆された。

米中間の通商交渉は5月上旬に頓挫した。その後、ドナルド・トランプ米大統領が5月10日に2000億米ドル相当の中国からの輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げたことを受けて、市場センチメントは悪化に転じた。さらに、トランプ大統領は、国家非常事態を宣言して華為技術(ファーウェイ)製品の米国内での販売を制限する大統領令に署名した。これに対する報復措置として、中国は6月1日より600億米ドル相当の米国製品の関税を引き上げることを発表した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年5月末~2019年5月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年5月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年5月末~2019年5月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

最も打撃を受けたのは中国と韓国市場
5月の中国株式市場はアジア域内でも特に大きく下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-13.1%となった。月末には、中国政府が貿易戦争における報復措置として米国へのレアアース(希土類)供給を中断する可能性もあると中国国営メディアが示唆したことを受けて、市場センチメントがさらに悪化した。また、中国の5月のPMIが市場予想を下回ったことも、同国株式の重石となった。

その他では、テクノロジー企業や輸出関連企業が大きな比率を占める韓国および台湾株式市場は、テクノロジー企業のサプライチェーンの混乱や売上高の減少、国内経済の成長低迷をめぐる懸念が強まり、5月のリターンが米ドル・ベースでそれぞれ-9.3%、-7.8%となった。韓国の5月の貿易黒字額は、輸出の落ち込みを主因に、前年同月の62億米ドルから23億米ドルへと急減した。台湾では、5月の製造業PMIが景気の好不調の分かれ目となる50を引き続き下回ったほか、同月の消費者信頼感指数が大幅に低下して2017年7月来の低水準となった。

インド市場は逆行高
5月のインド株式市場は、アジア域内の下落基調に逆行し、リターンが米ドル・ベースで0.2%のプラスとなった。4月から5月にかけて実施された総選挙においてナレンドラ・モディ首相率いるBJPを中心とする与党連合が圧勝し、モディ政権による改革推進や政策継続の見込みが強まったことが追い風となり、月を通して投資家のリスクオフ姿勢が続くなかでも引き続き底堅さを発揮して堅調に推移した。

大半のアセアン市場はマイナス・リターン
アセアン地域では、シンガポール株式市場のパフォーマンスが最も低迷し、5月のリターンが米ドル・ベースで-8.8%となった。対外開放度の高いシンガポール経済は世界貿易減速の影響を受けやすいとの懸念が、投資家の間で広がった。また、世界的な半導体需要の低迷を背景とする製造業活動の縮小により、同国の2019年第1四半期のGDP成長率が前年同期比1.2%と市場予想を下回って約10年ぶりの低水準となったことも、市場センチメントを押し下げた。

インドネシア、タイおよびマレーシアの株式市場も下落し、5月のリターンは米ドル・ベースでそれぞれ-2.9%、-2.2%、-0.7%となった。これらのアセアン諸国は、シンガポールに比べると貿易の混乱の影響を比較的受けにくいものの、2019年第1四半期のGDP成長率の減速は免れなかった。インドネシア株式は、現職のジョコ・ウィドド大統領の2期目再選を受けて反発し、月の前半の下落分を一部取り戻した。選挙結果に異議を唱える対立候補プラボウォ・スビアント氏の支持者が抗議デモを起こしたが、ジョコ・ウィドド氏は年内に2期目の大統領就任を迎える予定である。タイでは、5月に発表された総選挙の正式結果によると、野党・タイ貢献党が最多議席を獲得したものの、単独で下院の過半数議席を獲得した政党がいないため、タイ貢献党が政権を握る可能性は低い。マレーシアでは、中央銀行が経済成長を押し上げるために金融政策を緩和し、政策金利を0.25%引き下げて3%とした。それに負けじとばかりに、フィリピン中央銀行は主要政策金利を0.25%引き下げて4.5%とし、続いて市中銀行の預金準備率を5月から7月にかけて合計2%引き下げ16%にすると発表した。これが追い風となって、5月のフィリピン株式市場はリターンが0.7%(米ドル・ベース)と、アジア域内でパフォーマンスが最も好調な市場の1つとなった。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年4月30日~2019年5月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2019年4月30日~2019年5月31日)

過去1年間(2018年5月31日~2019年5月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年5月31日~2019年5月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

米国の金融緩和観測はアジアにとって好材料
地政学的緊張が一段と高まるなか、世界の経済大国には成長減速の兆しが見られている。つい半年前には考えられなかった米国の金融政策緩和観測が、足元ではよりオープンに議論されている。しかし、こうしたなかでも、ファーウェイ問題の余波や規制強化の見通しが投資家心理の重石となっているテクノロジーまたはインターネット関連銘柄においては、下方圧力が一服するに至っていない。金利環境が転換していることは、2018年通年そして2019年の初めまで流動性タイト化による強いストレスに晒されていた多数の新興国にとって、大きな好材料だ。それと時を同じくして、アジアでは、域内有数の人口規模を持つ国の2つ、インドとインドネシアで選挙が無事に終わり、その結果も市場にとって良好なものとなっている。当社では、構造的成長やファンダメンタルズのポジティブな変化が期待される分野を引き続き有望と見て注目している。

中国の保険やヘルスケア、ソフトウェア・セクターを有望視
今後の地政学的動向においては、足元で愛国主義的な論調が一段と強まっている中国の出方がカギとなるだろう。貿易状況の改善見通しが立たない状態では、中国の国内経済は、第1四半期の緩和策による景気押し上げ効果が薄れ始めるにつれ鈍化するものと見られる。中国は「(成長における)量よりも質重視」の動きへのコミットメントを堅持しており、戦略的に優先度の高い分野において大規模ではなく対象を絞った刺激策が実施されると引き続き予想する。当社では、ポートフォリオの長期コアポジションとして保険、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の消費関連サブセクターを選好するスタンスを維持している。

インドに対しては強気な見方、韓国と台湾に対しては選別的な姿勢
インド株式市場に対しては、より長期的に引き続き強気な見方をしている。総選挙でモディ首相率いるBJPが圧勝して過半数議席を獲得したことにより、今後5年間において市場志向の改革や成長重視の政策がさらに進められるとの見方が広がっている。経済成長や失業率、設備投資サイクルは、モディ首相が2期目の早期に取り組む必要がある重要な分野であるが、世界的な利下げの流れやインドの貿易依存度の低さ、原油価格の安定を背景に、外的要因による圧力の厳しさは過去1年間に比べると大幅に和らいでいる。そうしたなか、当社では、引き続き民間セクターの優良銀行や不動産セクターに注目しているほか、足元では消費関連セクターに対する選好度を強めている。

テクノロジー・セクターはこれまで数四半期にわたって深刻な苦境に立たされてきており、それに伴って韓国および台湾株式市場も苦戦してきた。両国ともに国内の景気見通しは依然冴えないが、ヘルスケア、電気自動車、テクノロジー・セクターのニッチ分野、コンテンツ制作分野など、市場の一部にバリュエーションの魅力的な高クオリティー企業銘柄が散見される。

アセアン地域ではインドネシア市場を選好
アセアン地域では選挙が終わった今、大元の経済成長や新政権の政策および改革見通しに再び注目できる状況となっている。少なくともインドネシアでは、政府が今回あらためて付与された国民からの信任を後ろ盾として、強く必要とされてきたインフラ整備を実施していくものと予想されるが、同国が地域内での競争力を維持していく上で最重要課題の1つとなっているのが労働関連法改革である。金利の低下やソブリン債格付けの予想外の引き上げは、回復に向かう可能性がある消費や相対的に強固な金融システムにとってさらなる追い風になると見られる。これらの要素を総合し、当社では同国市場を選好している。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。