本レポートは、2019年7月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 6月のアジア株式は、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ期待や米中間の貿易交渉再開が支援材料となり、リリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)を見せた。アジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは、市場センチメントの改善を受けて米ドル・ベースで6.6%に上った。
  • アジア域内でパフォーマンスが最も堅調だった市場はシンガポールとタイだった。シンガポール市場では、銀行銘柄や電気通信サービス銘柄が上昇を牽引する一方、タイ株式は、原油高を受けたエネルギー・セクター大型銘柄の急伸が押し上げ要因となった。また、韓国および中国株式も堅調なパフォーマンスを示した。
  • 反対に、アジア域内でパフォーマンスが最も振るわなかったのはインド市場で、モンスーン(雨季)入りの遅れが農業生産の重石になるとの懸念から小幅に下落した。インド準備銀行は、経済成長の勢いの弱さを理由に挙げ、レポ金利を0.25%引き下げて5.75%とした。
  • 世界経済が成長減速の兆候を見せていることから、世界中の中央銀行はハト派色を増してきた。とは言え、現在の緩和の波が貿易関連の不信感が世界的に引き起こしている経済面の逆風をそれなりに軽減するのに十分かどうかは、まだわからない。しかし、前向きな改革や消費のランクアップなどを特徴とするアジアの構造的成長ストーリーの長期シナリオは、引き続きその軌道にある。

アジア株式市場

市場環境

6月のアジア株式は上昇
6月のアジア株式は、米FRBによる利下げ期待や米中間の貿易交渉再開が押し上げ要因となり、リリーフ・ラリーを見せた。ECB(欧州中央銀行)や他の主要中央銀行がハト派姿勢を強めていることを受けて、多数の先進国の国債利回りがマイナス圏へと低下したことも、株式などのリスク資産の魅力を高めた。アジア株式市場(日本を除く)は市場センチメントの改善を受けて上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで6.6%に上った。

また、6月下旬開催のG20大阪サミットに合わせて米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談が予定されていたことも、市場センチメントのさらなる改善につながった。米中首脳会談は、両国が貿易交渉の再開に合意するなど、市場の期待を裏切らない結果となった。また、トランプ大統領は中国からの輸入品に対する追加関税発動を当面見送るとともに、米国企業による華為技術(ファーウェイ)への製品販売再開を容認した。中国側は、米国からの輸入拡大を確約した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年6月末~2019年6月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年6月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間) 2009年6月末~2019年6月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

シンガポールおよびタイ市場が上昇を牽引、インド市場はマイナス・リターン
アジア域内で特に堅調なパフォーマンスを示したのはシンガポールおよびタイ株式市場で、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ10.3%、9.6%に上った一方、インド株式市場は域内の他国市場の上昇基調に逆行し、米ドル・ベースのリターンが-0.3%となった。

シンガポールでは、銀行および電気通信銘柄がアウトパフォームした。電気通信サービス・セクターのなかでは、同国株式市場指数で大きな構成比率を占める代表銘柄Singapore Telecommunicationsが、損失を出しているデジタル事業の投資解消・売却を検討していると発表したことを受けて、特に堅調なパフォーマンスを示した。また、銀行銘柄は、貿易をめぐる楽観ムードを受けて上昇した。

タイでは、原油高を背景としたエネルギー・セクター大型銘柄の急伸が株式市場全体を押し上げた。新たに発足した同国議会は、総選挙後に長らく続いてきた連立工作を経て、軍事政権で暫定首相を務めてきたプラユット・チャンオーチャー氏を首相に選出した。タイの中央銀行は、政策金利を1.75%に据え置く一方、2019年の経済成長率予想を3月時点の3.8%から3.3%へと引き下げた。

韓国および中国株式市場も堅調に推移し、6月のリターンは米ドル・ベースでそれぞれ8.8%、8.0%となった。輸出関連企業やテクノロジー企業が大きな比率を占める韓国株式市場は、G20サミットを控えた米中貿易交渉の進展期待や世界の半導体市場の回復をめぐる楽観ムードを受けて、前月の低迷から一転して上昇した。一方、中国株式は、米中貿易交渉をめぐる緊張緩和の兆しを受けて上昇した。上海・ロンドン間で株式市場の相互接続が新たにスタートしたことに加え、FTSEエマージング・マーケッツ・インデックスへの中国A株の組入れが開始されたことも、中国株式を押し上げた。

香港では、物議を呼んでいる逃亡犯条例改正案(中国本土への犯罪容疑者引き渡しを可能にする改正案)に反対する大規模デモにもかかわらず、株式市場がアジア域内の他国市場と同様に上昇基調を辿り、6月のリターンが米ドル・ベースで7.0%に上った。その他の北アジア市場に目を向けると、台湾株式市場は、輸出関連銘柄や電子機器関連銘柄を牽引役として上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで5.2%となった。

6月にアジア域内でパフォーマンスが最も低迷したのはインド市場であった。原油価格の上昇や、農業生産に悪影響を及ぼし得るモンスーン入りの遅れが押し下げ要因となった。インド準備銀行は、経済成長の勢いの弱さを理由に挙げ、レポ金利を6.0%から0.25%引き下げて5.75%とした。

アセアン市場は軒並みプラス・リターン
アセアン地域では6月、インドネシア株式市場のリターンが米ドル・ベースで5.4%となる一方、マレーシアおよびフィリピン株式市場のリターンは米ドル・ベースでそれぞれ2.9%、2.3%と比較的小幅に留まった。インドネシアの中央銀行は主要政策金利を7ヶ月連続で据え置いたが、貸出拡大に向けて十分な資金流動性を確保するために市中銀行の預金準備率を引き下げたほか、将来的な利下げ実施を示唆した。マレーシアでは、5月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が48.4と前月の49.4から低下するなど、製造業の減速がより鮮明となった。フィリピンでは、中央銀行が政策金利を4.5%に据え置く一方、2019年と2020年のインフレ予想を下方修正した。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年5月31日~2019年6月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1ヵ月間(2019年5月31日~2019年6月30日)

過去1年間(2018年6月30日~2019年6月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年6月30日~2019年6月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックスに基づく。株式リターンは現地通貨ベース、為替リターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

アジアの構造的成長ストーリーには依然変わりなし
世界経済が成長減速の兆候を見せていることから、世界中の中央銀行はハト派色を増してきた。その結果、資本輸入への依存度の高さから以前に圧力のかかっていた一部の新興国は、足元で幾分かの安堵感を味わっている。とは言え、現在の緩和の波が貿易関連の不信感が世界的に引き起こしている経済面の逆風をそれなりに軽減するのに十分かどうかは、まだわからない。しかし、アジアの構造的成長ストーリーの長期シナリオは引き続きその軌道にあり、なかでもそれを特徴づけているのが前向きな改革や消費のランクアップだ。前者が特に際立っているのは、インド、インドネシアおよびタイで選挙結果がポジティブな内容となったためで、これらの国々では成長重視型の改革が中長期的に主要な成長ドライバーになると見ている。

中国の保険、ヘルスケアおよびソフトウェア・セクターを有望視
中国が抱える対米貿易問題は、月末には一時休戦となったものの、長期化するとともに複雑化するものと予想される。中央政府は足元のマクロ環境における同国の成長リスクを十分に認識しており、戦略的に優先度の高い分野において慎重で的を絞った一連の景気刺激策を賢明に講じている。当社では、これまで経済全体にわたる幅広い景気刺激策をとらずにいる自制心が、「量よりも質を優先」する政策スタンスへの政府のコミットメントを示していると考える。それとは別に、香港の「一国二制度」ステータスに対する中国のコミットメントは、直近の逃亡犯条例に対する大規模な抗議デモにも見られるように、より疑問視されるようになってきている。香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、スタンスを大幅に軟化させて公に謝罪しており、これを受けて当社では、同氏の政治的過ちから生じた緊張が遠からず消えてなくなるものと確信している。地政学的な展開は懸念材料であるものの、保険、ヘルスケア、ソフトウェアおよび一部の消費関連サブセクターに関して長期的に有望視するスタンスには依然変わりはない。

インドに対して強気、韓国および台湾については選別的
インドで最近行われた選挙においてモディ首相率いるインド人民党が圧勝し過半数を獲得したことは、中期にわたって市場志向型の改革や成長重視型の政策がさらに実施されていくと見込まれるため、同国経済にとって明らかなプラス材料だ。政策面で行う必要があることは多いが、明らかに達成しやすいのはインフラ、住宅、ヘルスケアである。また、都市化と生産性の向上も、取り組まなければならないより長期的な課題だ。経済へのリスクは引き続き潜在しているが、吉報として、金利環境が世界的に緩和しているのに加えインドは貿易への依存度が低いことから、外的圧力が過去1年に比べて大きく軽減している。当面は財務基盤が良好な民間セクターの銀行や不動産開発会社への強気の見方を維持するとともに、最近では消費関連分野に対してポジティブな見方を強めている。

一方で、テクノロジー・ハードウェア・セクターは良いニュースが少なく、ここ数四半期は厳しい状況に耐えており、またその影響で韓国および台湾の株式市場も同様の状況が続いている。貿易環境が困難であるのに加えて、国内経済は両国ともに圧力に晒され続けている。そのようななかにあって最近有望な分野としては、テクノロジー・サプライ・チェーンが韓国および台湾に回帰する動きから恩恵を受ける立場にある不動産所有会社などが挙げられる。また、市場の一部においては、例えばヘルスケアや電気自動車、テクノロジーのニッチ分野の企業など、株価バリュエーションが魅力的な水準にあるクオリティの高い企業が散見される。

アセアン市場ではインドネシアを選好
アセアン地域では、選挙後の政府の政策や改革から恩恵を受けるインドネシアを選好する。あらためて得られた大きな信任を武器に、政府は今や障害を排除し必要性の高いインフラ・プロジェクトを全国展開することができる。より長期的には、インドネシアが域内での競争優位性を維持するためには、労働法の改革が必要不可欠だ。しかし、これは引き続き実施するのが最も困難な改革の1つだ。より短期的には、選挙が終わって政治面の見通しが立てやすくなっていることから、消費支出や産業の設備投資において一定の景気循環的改善が期待できる。金利の低下やソブリン債格付けの予想外の引き上げがさらなる追い風となり、消費回復の可能性や銀行システムの優位性向上につながるものと想定される。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所) 信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。