本レポートは英語による2019年7月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 6月の米国債市場は価格が上昇した。月初、経済指標が雇用拡大ペースの減速を示したのに加え、貿易に関して悲観的なムードが広がったことから、米国債利回りは押し下げられた。その後、米中間の貿易をめぐる緊張が緩和するとの期待が浮上したものの、市場は米FRB(連邦準備制度理事会)議長やECB(欧州中央銀行)総裁のハト派的発言により強く反応し、米国債利回りは低下基調を辿った。月末時点の米国債利回りは、2年物で前月末比0.17%低下の1.76%、10年物で同0.12%低下の2.01%となった。
  • 6月のアジアのクレジット市場は、トータル・リターンが1.59%となった。主に寄与したのは米国債利回りの低下だが、リスク・センチメントの好転に伴い信用スプレッドも縮小した。投資適格債は、スプレッドが0.065%縮小し、市場リターンがトータル・リターン・ベースで1.59%となった。ハイイールド社債は、新規発行が膨らんだもののスプレッドが前月比で0.07%縮小し、市場リターンがトータル・リターン・ベースで1.58%となった。国別では、インドネシアが域内の他市場をアウトパフォームした。5月末に格付け会社スタンダード&プアーズが同国の長期ソブリン債格付けを引き上げたことや、新興国市場へ投資資金が再び流入し始めたことが追い風となった。
  • アジア域内の大半の国で、食品価格インフレの上昇を主因としてインフレ圧力が増した。RBI(インド準備銀行)は政策金利を引き下げ、インドネシア中銀は預金準備率を引き下げた。一方、中国の5月分経済統計は悪化した。中国の政策当局は、外債発行に関する新規則を定めたほか、適格インフラ投資プロジェクトの資金調達のための特別債発行を容認した。
  • 6月は、市場のムード好転を背景に新規発行が膨らんだ。新規発行は投資適格債分野で計37件(総額196億米ドル)、ハイイールド債分野では実に計56件(総額168億米ドル)に上った。
  • アジアの現地通貨建て債券では、キャリーが中~高水準で当面の金融政策に一段の緩和余地がある国の債券を引き続き選好する。特にインドネシア中銀は、通貨ルピアの安定が続く限り、昨年行った一連の利上げを2019年に巻き戻す可能性が高い。同様に、インドおよびフィリピンの中銀にも追加利下げを行う余地があると見ている。一方、アジアの通貨にはFRBのハト派スタンスが追い風になると予想される。
  • 米中貿易摩擦の最終的な解決は依然見通しが不透明であり、当面は実現しそうにない。下方リスクの強まりを背景に、主要中央銀行は現在のハト派寄りの姿勢を維持すると見られる。これがマクロ経済ファンダメンタルズの悪化を相殺し、バリュエーションの魅力度が低下するなかでもアジアのクレジット市場の信用スプレッドを下支えするだろう。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

6月の米国債市場は価格が上昇
6月の米国債はイールドカーブ全体にわたって利回りが低下した。月初、経済指標が雇用拡大ペースの減速を示したのに加え、貿易に関して悲観的なムードが広がったことから、米国債利回りは押し下げられた。月の半ばには、米国・メキシコ間の貿易協定締結を受けて、利回りが一時的に反発した。その後まもなく、米中間の貿易をめぐる緊張が緩和するとの期待が浮上したものの、市場は緩和の構えを示すFRBの発言や、経済成長やインフレに改善が見られない場合は「追加刺激策」を発表する可能性があるとしたドラギECB総裁の発言により反応し、米国債10年物の利回りは1.97%へと低下した。また、米国・イラン間の対立も米国債の買い材料となった。月末には、ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席が貿易協議の再開を合意し、トランプ大統領は中国からの輸入品に対して「当面」追加関税を課さないことに同意し、中国は米国農産品の購入を増やすことに合意した。月末時点の米国債利回りは、2年物で前月末比0.17%低下の1.76%、10年物で同0.12%低下の2.01%となった。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年5月末~2019年6月末)

過去1ヵ月(2019年5月末~2019年6月末)

過去1年(2018年6月末~2019年6月末)

過去1年(2018年6月末~2019年6月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

大半の国でインフレ圧力が増大
アジア地域の総合CPI(消費者物価指数)インフレは、食品価格インフレの上昇を主因として大半の国で加速した。インドの5月の総合CPI上昇率は前年同月比3.05%と、前月の3%(上方修正後)から若干加速した。しかし、食品・飲料および燃料価格を除いたコアインフレは減速した。インドネシアでは、ラマダン(イスラム教の断食月)の行事支出を背景に年間CPIインフレが加速した。総合インフレ率は2018年4月以来の高水準となったが、それでも中央銀行の2019年の目標レンジである2.5~4.5%内に依然収まっている。同様に、フィリピンのインフレ率も4月の3%から5月は3.2%へと加速したが、引き続き同国中央銀行の目標レンジ内に収まっている。その他では、韓国で燃料税の一時減税が期限切れとなったことから、エネルギー価格デフレが緩和した。

RBIが政策金利を引き下げ、インドネシア中銀は預金準備率を引き下げ
インドの中央銀行であるRBIは、今年3回目となる政策金利の引き下げを実施した。RBIの金融政策委員会は全会一致で0.25%の利下げを決定するとともに、金融政策スタンスを「中立」から「緩和」へと変更した。また、同金融当局は2020年度のGDP成長率予想を0.2%引き下げて前年比7.0%とした。一方、インドネシア中銀は、貸出しの拡大と経済全体の成長モメンタムを促すための動きとして、銀行の預金準備率を0.5%引き下げた。同中銀のペロー・ワルジヨ総裁は同時に利下げの可能性も示唆し、政策金利の引き下げにあたってはグローバル金融市場の状況と自国の国際収支が主に考慮するファクターとなると述べた。その他では、フィリピン中央銀行が今年および来年のインフレ予想を引き下げたが、金利については「差し当たり」据え置いた。当該金融当局の現在の総合インフレ率予想は2019年の平均で2.7%(2.9%から下方修正)、2020年の平均で3%(3.1%から下方修正)となっている。同中銀総裁によると、インフレ予想の引き下げは世界的な原油価格の下落とペソ高を受けたものだ。同中銀は今回の決定について、「預金準備率の段階的引き下げを含めこれまでの金融調整の影響を観察・評価」することができる「賢明な様子見」と表現した。

中国では5月の経済活動指標が悪化
中国の5月の経済活動指標は全面的に悪化した。鉱工業生産、固定資産投資、不動産投資、新築住宅販売額のすべてにおいて伸びが鈍化した。

今後の見通し

キャリーが中~高水準の債券を引き続き選好、アジア通貨にはFRBのハト派スタンスが追い風に
米中はG20大阪サミットでのトランプ大統領と習国家主席の会合を経て貿易協議の再開を合意したが、貿易紛争の最終的な解決は依然見通しが不透明で当面実現しそうにない。とは言え、不透明感が緩和されたことで、市場のポジティブなリスク姿勢は下支えされるだろう。そのような背景の下、当社では、キャリーが中~高水準で当面の金融政策に一段の緩和余地がある国の債券を引き続き選好する。特に強調したいのは、インドネシア中銀が通貨ルピアの安定が続く限り昨年行った一連の利上げを2019年に巻き戻す用意があると明確に示唆したことだ。同様に、インドおよびフィリピンの中銀についても、インフレ率がそれぞれの目標レンジ内に十分に収まっていることから、追加利下げを行う余地があると見ている。

一方、FRBの政策見通しが急に利下げ方向に振れたことは、アジア地域の通貨にとって吉兆と言える。米中間の貿易紛争の一時休戦も不透明感を緩和しており、その結果として安全な資金避難先を求めるドル買いの動きが弱まることから、アジア通貨にはさらなる追い風となるだろう。

アジア・クレジット

市場環境

6月のアジアのクレジット市場はリターンがプラスに
6月のアジアのクレジット市場は、トータル・リターンが1.59%となった。主に寄与したのは米国債利回りの低下だが、信用スプレッドも縮小した。投資適格債は、スプレッドが0.065%縮小し、市場リターンがトータル・リターン・ベースで1.59%となった。ハイイールド社債は、新規発行が膨らむなかでもスプレッドが0.07%縮小し、市場リターンがトータル・リターン・ベースで1.58%となった。

6月は、リスク・センチメントの好転を受けて信用スプレッドが縮小した。米中貿易摩擦の緊張緩和期待、市場参加者がともにハト派的と解釈した米FRB議長およびECB総裁の発言、中国による新たなインフラ投資支援策の発表を背景に、月を通じてポジティブな市場センチメントが持続した。国別では、インドネシアが域内の他市場をアウトパフォームした。5月末に格付け会社スタンダード&プアーズが同国の長期ソブリン債格付けを引き上げたことや、新興国市場へ投資資金が再び流入し始めたことが追い風となった。香港では、中国本土への犯罪容疑者引き渡しを可能にする条例改正案に反対するデモ行進が起きたものの、信用スプレッドへの影響はほぼ見られなかった。一方、月の後半に米国・イラン間の緊張の高まりを受けて原油価格が急上昇したことから、石油・ガスセクターの信用スプレッドがやや縮小した。

中国は外債発行に関する新規則を設定、適格プロジェクトの資金調達のための特別債発行を容認
中国NDRC(国家発展改革委員会)は、同国のSOE(国有企業)による外債発行に関して新しい指針を公表した。同規制当局によると、SOEがオフショア市場で資金調達を実施するためには3年以上の事業実績が必須条件となった。これに加え、オフショア市場での借入れに対する地方政府保証が禁止され、また、地方政府の資金調達部門による借入れは1年以内に償還を迎える既存外債の借換え目的に限定された。その他では、政策当局が(経済活動を後押しすべく)一部の重要インフラ投資プロジェクトの資金調達のための特別債発行を認めると表明した。また当月は、中国人民銀行も、小規模銀行の貸出しを支援するべく、手形再割引枠の2,000億元拡大とSLF(常設貸出ファシリティー)枠の1,000億元拡大を発表した。

6月は新規発行が膨らむ
6月は、市場のムードが好転し、発行市場が活発化した。投資適格債分野では、CNAC HK Finbridge Coのディール(4トランシェで23億米ドル)、中国工商銀行(ICBC)のディール(2トランシェで15億米ドル)、韓国およびインドネシアのソブリン債を含め、計37件(総額196億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は、スリランカのソブリン債(20億米ドル)、広州農村商業銀行(Guangzhou Rural Commercial Bank)のディール(14億米ドル)を含め、実に計56件(総額168億米ドル)にも上った。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間)2018年6月末~2019年6月末
(注)JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年6月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

当面は貿易摩擦が解決に至る可能性は低い、主要中銀はハト派寄りの姿勢を維持する見通し
米中はG20大阪サミットでのトランプ大統領と習国家主席による首脳会談を経て貿易協議の再開に合意したものの、貿易摩擦の最終的な解決は依然見通しが不透明で当面は実現しそうにない。加えて、足元では世界のマクロ経済指標が引き続き軟調に推移しており、貿易をめぐる根強い先行き不透明感が世界の輸出や設備投資の重石になると見られる。中国が継続している景気刺激策は同国経済を引き続き下支えしようが、再び表面化している外的な不透明要因が景気刺激策による好影響を弱めてしまう可能性が高い。下方リスクの強まりを背景に、主要中央銀行は現在のハト派寄りの姿勢を維持するか、明確な緩和姿勢に転じる見通しである。6月がそうであったように、こうした金融政策緩和期待はマクロ経済ファンダメンタルズの悪化を相殺し、バリュエーションの魅力度が低下するなかでも信用スプレッドを下支えするだろう。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。