当レポートは、英語による2019年7月発行「Multi-Asset Monthly」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

当月は月を通じてリスク選好度が強まる展開となったが、その背景にあったのは、G20大阪サミットにおけるトランプ大統領と習国家主席の首脳会談によって米中の貿易協議が軌道に戻るとの期待の高まりだった。これが最終的に結実したのが月の最後の週末で、相場の上昇に最後の一押しが加わったが、その後は一服感が出ており、ニュースが相場に完全に織り込まれた可能性を示唆している。

市場参加者にとって、交戦と休戦を繰り返す貿易戦争の状況は、はらはらして疲れるものとなっている。当然ながら、市場がより高い確実性を織り込むのは、着実に前進している証しが見られてからとなるだろう。5月5日にトランプ米大統領が関税引き上げの意向を示すツイートを投稿して貿易戦争を再燃させた際のショックは、記憶に新しいところだ。

当社の基本シナリオは、依然として貿易協定が締結されるというものである。克服できない対立点があるかもしれないように見受けられるものの、交渉の範囲や合意点の度合いからすると、両国首脳が望みかつ必要としているからこそ協定合意に至るであろうことが示唆されている。交渉が一時中断されている間に、中国は行うことになるかもしれない譲歩を優位に進められるような改革努力に力を注いできた。

米国政府における貿易戦争の形勢の変化は、リスクの増大要因だ。トランプ大統領お決まりの「取引術」流儀では、一部を取り下げることになるのを見越して山のような要求を突き付けるのが、交渉合意に漕ぎつけるための重要な戦略である。しかし、中国に対し厳しい態度で臨むことを求める声が両党から強まっているため、同大統領が掲げた要求を取り下げられる余地は少なくなりつつあるかもしれない。

交渉再開を促すべく、トランプ大統領は米国企業に対するファーウェイへのハードウェア販売規制を緩和したが、この禁止令は貿易関連問題というよりも国家安全保障として位置付けられていたため、国会議員達は当該規制を緩和できる同大統領の権限を制限しようとしている。もし同大統領が一定の要求を取り下げる権限を失えば、中国にとっては交渉決裂要因となる可能性がある。

もう一つの重要な注目点は、トランプ大統領の5月5日のツイートで始まり2カ月近く続いた不透明感のなかで経済が被った悪影響の度合いである。債券市場は、そのダメージがかなりの規模でおそらくは経済をリセッション(景気後退)に陥らせるのに十分であることを示唆しているが、一方で株式市場は、単純に将来の金融緩和の確実性が強まったとの見込みから上昇相場となっている。

経済指標は弱いが、米国は利下げを行う用意があり、中国もより質の高い成長を達成するために景気刺激策を微調整していることから、金融政策と財政政策による景気刺激策のバランスは、足元の景気サイクルを引き延ばすのにちょうど良い具合であるように見える。現サイクルがだいぶ年月を経ているのは確かだが、次の景気下降局面の種をまく典型的な現象である過剰なリスクテイクの「あぶく」は見られておらず、サイクルの終焉が近づいているとは思われない。ただし、世界の債務が記録的水準にあるなかで協調緩和へと回帰すれば、「あぶく」が生じてサイクルを急変させる可能性は高く、当社ではこれを注視していく。

資産クラスの選好順位(2019年6月末時点)

資産クラスの選好順位(2019年6月末時点)

(注)株式、ソブリン債およびクレジットのスコア合計は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセット戦略ポートフォリオの運用を担当するポートフォリオ・マネージャーの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

米中貿易協議の再開と間近に迫った金融緩和は、株式市場に対して当社が先月とっていた中立スタンスよりもポジティブな見方を裏付けている。株式について注視すべき重要点は常に企業収益であり、当社では最近の不透明感がもたらす影響を注意深く見守っている。

先月の本レポートで論じた通り、当社では、米中両国のマクロ環境は貿易戦争のいざこざを超えた理由によって悪化していると考えている。懸念すべきは、発表されている経済統計で続いている弱さだけではない。引き続きより大きな懸念材料なのは、政府および消費者ともに経済成長を押し上げるための支出余力に限界があることだ。資金流動性は幾分緩和されたものの、依然タイトな状況にある。流動性が再び追い風となるには、実際のところ数回の利下げを経る必要があるかもしれない。

したがって、株式への資産配分自体を増やすよりも、株式における地域別配分のローテーションを行う方が、ポートフォリオのリスク値を上げるより賢明な方法かもしれない。当社では、これを反映させるべく、中国の国内A株とオーストラリアおよびカナダを株式の選好順位の最上位へと引き上げた。これらの3市場はすべて、中国のクレジット・インパルス(新規与信の対GDP比の伸び率)の加速から恩恵を受けると想定される。また、オーストラリアとカナダについては、国内の不動産セクターの安定化(チャート1およびチャート2を参照)やエネルギーおよびコモディティ価格の底入れも下支え要因となっている。

チャート1:オーストラリア5大都市の住宅時価総額の変化率(前月比)

チャート1:オーストラリア5大都市の住宅時価総額の変化率(前月比)

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年7月13日~2019年6月30日

オーストラリアドルは過去12ヵ月で5%下落しているが、オーストラリア準備銀行は政策金利を過去最低の1%へと引き下げた。これらがともに追い風となって、同国の国内株式市場は世界の先進国市場のなかで最も強い株価および企業収益モメンタムが続いている。

一方、英国および欧州株式については、ブレグジット(英国のEU離脱)をめぐる不透明感が継続していることから最下位に据え置く。

グローバル債券

ここ数ヵ月におけるグローバル債券の大幅な上昇は、「上げ潮はすべての船を持ち上げる」(上昇トレンドに乗っていれば利益を出せる可能性が高いとの意)ということわざ通りとなっている。カナダ国債も確かにこの状況から恩恵を受けているが、より良好なパフォーマンスを見せている他国市場にはついていけていない。その結果として、当社ではカナダのスコアを中立へと引き下げた。

数ヵ月前、カナダ中央銀行のポロズ総裁は、景気の足を引っ張っている主な懸念材料として住宅市場の低迷、原油安、世界の貿易をめぐる不透明感の3つを挙げた。住宅市場については、2018年に新築住宅価格が急落したことから、同中銀の懸念に何の疑念も持っていない。これは昨年に消費者心理の重石となったが、2019年に入ってからは住宅価格が安定化し始めており、消費者心理も然りだ。より最近の統計では、消費者心理に楽観的ムードの復活が見られている。

チャート2:カナダの住宅価格と消費者心理

チャート2:カナダの住宅価格と消費者心理

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2016年4月1日~2019年6月30日

また、カナダは原油および天然ガスの主要産出国であるため、その経済はエネルギー市場に対しても感応度が高い。この点に関しては、原油価格は50米ドルを下回る水準への大幅な下落から回復しており、カナダの石油企業に待望の安堵をもたらした。この原油価格の回復が市場に歓迎されたのは間違いないが、一方ではインフレを押し上げるという影響も伴っている。中銀のコアインフレの平均的尺度は今年に入って上昇しており、足元ではインフレ目標である2%を超えるという、先進国ではほぼ見られないケースの1つとなっている。

チャート3:カナダのコアインフレと原油価格

チャート3:カナダのコアインフレと原油価格

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2017年7月31日~2019年6月30日

投資家の注目は米中の貿易交渉に集まっているが、カナダは自国特有の貿易懸念を抱えている。NAFTA(北米自由貿易協定)交渉をめぐる不透明感と昨年課された鉄鋼およびアルミニウムへの関税は、企業にとって深刻な懸念材料となった。しかし、より最近では貿易に関するニュースはポジティブな内容となっており、カナダは米国およびメキシコとの間でNAFTAに代わる協定の合意に漕ぎつけ、米国はカナダ産の鉄鋼およびアルミニウムに対する関税を撤廃した。このように、ポロズ中銀総裁が挙げた3つの懸念要因すべてについてニュースが好転したことから、同中銀は当然ながら経済見通しにおいてよりポジティブになっており、世界的な金融緩和トレンドに追随することは当面ないだろう。

グローバル・クレジット

世界中の中央銀行が金融緩和の構えを見せているなか、クレジット市場はより安心できる状況にある。予想される資金流動性の向上が「上げ潮」をもたらすことにより、例のことわざで言うところの「水着」を身に着けていない者も、人に見られることのないまま気楽に泳ぐことができるからだ。少なくとも当面はそう言える。新たにもたらされた流動性と利回りを求める動きの間で、信用スプレッドは縮小すると予想され、実際既にそうなっている。

6月中旬には、マリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁が賭けに出た。必要となればECBは流動性支援を行う意向と余力があるというハト派的発言で、利上げ予想をきっぱり退け利下げの可能性を示したことにより、市場を驚かせたのだ。過去1年、厳しさを増す経済見通しのために拡大兆候を示してきた信用スプレッドは、ドラギ総裁のスピーチを受けてまもなく2018年半ばの水準まで縮小した。またもや、バリュエーションに裏打ちされた投資機会はすぐに消えてなくなった。当社は欧州クレジットに対し、ドラギ総裁のスピーチ以前は、ファンダメンタルズが低迷している一方でバリュエーション面でのある程度の魅力がサポート材料となっていたことから、中立のスタンスとしていた。足元では、リスク・リターン特性が魅力に乏しい一方で金融緩和が信用環境の悪化懸念を排除する可能性を認識していることから、中立スタンスとしている。

チャート4:欧州の投資適格債のスプレッド

チャート4:欧州の投資適格債のスプレッド

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年5月1日~2019年7月1日

当社では依然、より伝統的な金融政策がとられているわりにバリュエーションの魅力度がより高いオーストラリアのクレジット市場を選好しており、また米国のクレジット市場の見通しもある程度魅力的だと考えている。企業収益には幾分悪化が見られているが、2015年の景気悪化局面に比べれば依然良好であり、2015年の場合はその後に利上げが続いた一方で現在は利下げが予想されている。

通貨

米ドルはここ数ヵ月間、選好順位において着実に順位を上げ、前月に最上位となるに至ったが、当月は順位をやや戻して引き下げた。この背景には、貿易戦争休戦のニュースに伴って中国、延いては新興国全体への圧力が緩和されることばかりでなく、ファンダメンタルズ全体がここから一段のドル安の可能性を示していることがある。

米ドル高の主要なドライバーは、米国が2017年序盤の財政出動により世界の他の国々に比べ経済成長面で相対的に優位に立っていたことにあった。この優位性は、中国の引き締め政策と貿易戦争の激化を受けて世界の他の国々で景気が鈍化したことにより、さらに顕著となった。

しかし実際のところ、経済活動の定義で見た米国の成長は、加速分が2019年第2四半期にはすっかり消えてなくなり、財政出動以前の水準に戻ってしまっている。つまり、資金の流入という米ドルの追い風も消えてしまう可能性が高いということだ。加えて、中国は景気刺激策の効果が実際の成長に表れるまでに時間がかかっているが、刺激策の着実な調整や小幅な増加によって2019年後半には成長の加速が見込まれる。

チャート5:米国と世界の他の国々との成長格差

チャート5:米国と世界の他の国々との成長格差

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2006年3月1日~2019年6月30日

米FRB(連邦準備制度理事会)がハト派転換したのは昨年終盤だが、債券市場の上昇は2019年第2四半期に加速し、3回の利下げを織り込んだ結果イールドカーブの長短逆転を引き起こした。ハト派転換が追い風となったのは債券市場ばかりでなく、金にとっても同様である。各国中銀が、停滞気味の貿易高において市場シェアを獲得しようと、通貨安を誘導する新たな通貨戦争に備えている様相だからだ。もちろん、このようなゼロサム・ゲームでは明確な勝者はいないものだが、価値の保蔵手段であり続ける金はおそらく例外と言えるだろう。

実際、債券が上昇した一方で、金はそれ以上に上昇している。チャート6は金に対する債券の相対パフォーマンスを示したものだが、米ドルのパフォーマンスに追随する傾向がある。最近のように金が債券をアウトパフォームする場合は、リフレの可能性か、あるいは少なくともインフレ・リスク上昇の兆候を示しており、これはドル安要因となりやすい。中国の経済成長が2019年後半に加速し、世界中の中銀が緩和し始めるとなれば、リフレ的な見通しを想定するのは難しいことではない。

チャート6:金に対する債券の相対パフォーマンスと米ドル(インデックス)のパフォーマンス

チャート6:金に対する債券の相対パフォーマンスと米ドル(インデックス)のパフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2016年6月27日~2019年6月28日

コモディティ

コモディティの選好順位では当月、幅広いコモディティを金の上位へと引き上げた。金の上昇スピードが速くバリュエーションが割高なゾーンに入ったのに加え、市場におけるFRBの利下げの織り込みが行き過ぎた可能性があり、そうであれば債券利回りが上昇し金にとって当面の逆風となりやすいからだ。加えて、中国は6月上旬に新たな景気刺激策を発表したが、今回はインフラ投資に向けられている。これで内需が大きく押し上げられるとは見ていないが、多少なりとも改善はするはずだ。

金は6月に投資家の注目を集めて8%上昇し、重要な抵抗水準である1オンス=1,350米ドルを突き破って1,400米ドル超えで月を終えた。当面のところ、特に債券利回りが上昇した場合には金はこの上昇分を一部吐き出す可能性があるが、より長期的には、世界同時金融緩和への動きは価値保蔵手段としての金の魅力度を高めるものだ。

重要な点として、債券市場の多くの利回りがマイナス圏へと押し下げられることにより、金のキャリー・コストは相対的に低下する。チャート7が示すように、マイナス利回りの債券の価格が利回りのマイナス度の拡大によって実際に上昇すると、金もまた市場で買い上げられる。リスク・リターンの観点からは、経済成長またはインフレの上振れを想定するならば、マイナス利回りの債券よりも金を選好することは全く理に適っている。

チャート7:金とマイナス利回りの債券

チャート7:金とマイナス利回りの債券

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年12月31日~2019年6月28日

ベースメタルとエネルギーも中国の景気刺激策を受けて需要の改善が見込まれるが、米中が交渉のテーブルに戻ることから不透明感も後退している。エネルギーについては、OPEC(石油輸出国機構)プラス(OPECと非OPEC主要産油国で構成)が減産の9ヵ月延長を合意するとともに先進国での在庫水準削減を約束したため、相場にとってポジティブな供給見通しとなっている。米国で原油在庫が今年初めて減少に転じたことも、エネルギー価格にとって色よい兆候だ。

チャート8:米国の原油在庫

チャート8:米国の原油在庫

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年7月4日~2019年6月28日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

Disclaimer

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。