KAMIYAMA Reports vol. 147

  •  ここがポイント!
  • ✔ 国際的なガバナンス会議に参加:総じて日本の改善が評価される
  • ✔ 日本株にとって重要な稼ぐ力の回復
  • ✔ 今後の課題は、投資家と企業の対話の強化

国際的なガバナンス会議に参加:総じて日本の改善が評価される

先日、ICGN(International Corporate Governance Network)の総会が東京で行われ、パネル討論のセッションに参加した。パネル討論では「グローバル化が進む日本:スチュワードシップ・エンゲージメントを効果的にする-グローバル、ローカル、文化間の観点から」という趣旨の議論を行った。今回の総会では、遠藤金融庁長官の基調講演を含むすべてのセッションにおいて、総じて日本のコーポレート・ガバナンスは改善している、というトーンが強く感じられた。このレポートでは、筆者の意見のみを記すことにする。

日本企業の資金余剰と物価は逆相関

(日本銀行、総務省のデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

筆者は、まず日本のデフレと企業の資金余剰の関係を披露した。興味深いことに、日本企業が資金を蓄積(簡単に言えば、設備投資は利益の範囲内)して貯蓄するときは、物価が下落している場合が多い。ここでは示していないが、このような時期は政府の財政支出が増える傾向にある。

企業が資金を貯め込むからデフレになるという因果関係はないが、外国人投資家が日本株を買わない理由になりやすいデフレは、企業がもっと配当を出すことで解消される可能性がある。企業が、デフレ環境で設備投資や研究開発に資金を使わないのであれば、投資家に配当した方が良い。人々が消費を拡大し、いずれ会社の売り上げを引き上げることになる。これは、需要の拡大を通じて物価上昇の刺激となり得る。企業がお金を経済に回さない状態では、日銀がお金を刷っても物価は上がりにくい。そうであれば、投資家の消費を促す方が良い。十分な配当増は、市中に消費税増税の影響を上回る資金が流れ出すほど、大きな影響を持ち得る。

もっとも、日本企業の配当支払い総額も自社株買い総額も、まだ足りないとはいえ歴史的な高水準に達している。この背景には、機関投資家が自らを律するためのスチュワードシップ・コードを導入して企業と対話をはじめ、東証上場ルールとなったコーポレートガバナンス・コードによって、上場企業も資本効率を把握し改善しようとし始めていることにあるとみる。上のグラフでも分かるように、いまだ企業の資金余剰は多すぎるといえそうだが、2018年以降の輸出の伸びなどから企業が積極的に投資を行う一方で、不要な資金を投資家に還元することで、効率の高い経済となり、デフレ脱却と海外からの投資資金が回帰することに期待したい。

日本株にとって重要な稼ぐ力の回復

筆者は、ICGNのパネル討論で、グローバル化の進展という観点から、日本企業のROE(自己資本利益率)が欧米企業と比べてまだ低いことを問題と考えていることを述べた。短期的な(例えば今年度の)ROEが大事なわけではないが、日本企業の通常の状態で稼ぐ力は、利益率で見ればおおむねいつも欧米企業より低い。

日米欧株式の主な指標比較

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

いわゆる伊藤レポート(一橋大学の伊藤邦雄教授を座長とする経産省プロジェクトの最終報告書「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」、2014年8月)は、日本企業の「稼ぐ力」が不足していると指摘した。

上のグラフをみると、日本企業のROEが継続的に低い理由は、大半が利益率(稼ぐ力)の低さで説明でき、負債比率の低さ(資本効率)ではさほど説明できないことが分かる。上述のように日本企業の資金循環はデフレ的といえるが、日本企業が世界に伍して事業の競争力があることを示していないことの方が、もっと大きな問題だ。

今後、日本は人口減が見込まれる。人口減でGDP総額は減るかもしれないが、それ自体は株価下落要因と考える必要はない。株価は一株当たりであり、GDPでいえば一人当たりで考えることと似ているからだ。企業の利益率が保たれ、適切に資本効率が維持されれば、仮に日本国内の経済規模(GDP)が低下しても、株価は低迷しないと考えられる。この点から、今後、日本の課題解決のために、企業の利益率と資本利用の改善が求められる。規模と安定から、成長と効率を求める社会へ変わる必要がある。

 

今後の課題は、投資家と企業の対話の強化

では、余剰資金の使い道を、投資家は企業に提案できるだろうか。機関投資家は、一般にアナリストなどの専門家を抱えており、企業の経営課題などを把握できる立場にある。そこで、投資家と企業の対話の強化が課題解決の一助となる。

パネル討論の様子

注:左から2 番目が筆者

投資家は企業からみて外部者であるから、経営の詳細を把握する力は限られる。しかし一方で、機関投資家は「比較し選択する」ことの専門家だ。企業と投資家は世界との比較に基づく対話をすることが望まれる。

また、スチュワードシップにおけるエンゲージメント(機関投資家と企業の目的ある対話)は、例えば余剰資金を適切に利用することについて、過当競争の削減のための事業再編や新興国への投資機会を、議論のために提示するかもしれない。企業と投資家が企業の経営ビジョンやビジネスモデルを共有することが、そのような対話の条件となるだろう