本レポートは英語による2019年8月発行「ASIAN FIXED INCOME OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 7月は、好調な米国経済指標を受けて、将来予想される米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げの度合いに対する市場の期待が後退したことに伴い、米国債利回りが上昇した。しかし、FRBの発言ではハト派的なトーンが維持されたことから、利回りの上昇は限定的なものとなった。月末には、FRBが0.25%の利下げを実施したほか、ECB(欧州中央銀行)が利下げの可能性を示唆した。最終的に米国債利回りは、2年物で前月末比0.12%上昇の1.87%、10年物で同0.009%上昇の2.02%で月を終えた。
  • 7月のアジアのクレジット市場は、米国債利回りが上昇する一方で信用スプレッドの縮小がプラスに寄与し、トータル・リターンが0.58%となった。スプレッドの縮小幅は投資適格債で0.07%、ハイイールド債で0.02%となり、トータル・リターンはともに0.58%となった。
  • インフレ圧力はアジア域内の大半の国で和らいだ。6月の総合CPI(消費者物価指数)の伸び率は、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイにおいて減速した。また、インドネシアおよび韓国の金融当局が政策金利を引き下げる一方、インド政府は財政健全化路線の2020年度予算案を発表した。
  • 中国では、NDRC(国家発展改革委員会)が不動産デベロッパーのオフショア市場での債券発行要件を厳しくした。李克強首相は、中国はすべての企業が平等に競争できる環境の創出に取り組んでいるとし、国内金融業界の開放について新たな計画を発表した。
  • 新規発行は7月も引き続き膨らみ、投資適格債分野では計33件(総額176億米ドル)、ハイイールド債分野では計41件(総額143億米ドル)に上った。
  • アジアの現地通貨建て債券では、キャリーが中~高水準で当面の金融政策に一段の緩和余地がある債券を引き続き選好する。インドネシア中銀は金融政策の緩和サイクルを開始し、以前の一連の利上げを巻き戻す余地が増していると示唆した。同様に、インドおよびフィリピンの中銀にも追加利下げを行う余地があると見ている。通貨では、シンガポールドルおよび韓国ウォンについて慎重な見方をしている。
  • アジアのクレジット市場については、当面、信用スプレッドが小幅に拡大すると予想している。また、主要中央銀行はハト派寄りの姿勢を維持するか強めると見られ、これによって貿易面でのネガティブな動向の影響が一部相殺されるだろう。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

FRBが0.25%の利下げを実施
米国では、6月の堅調な雇用統計、市場予想を上回る2019年第2四半期のGDP成長率、インフレの小幅な加速など、好調な経済指標を受けて、将来予想されるFRBの利下げの度合いに対する市場の期待が後退した。これが要因となって米国債利回りは上昇したが、ジェローム・パウエルFRB議長による年2回の議会証言と6月のFOMC(連邦公開市場委員会)議事録の両方を含め、FRBの発言ではハト派的なトーンが維持されたことから、利回りの上昇は限定的なものとなった。月末には、FRBが0.25%の利下げを実施したほか、ECBが利下げの可能性を示唆した。最終的に米国債利回りは、2年物で前月末比0.12%上昇の1.87%、10年物で同0.009%上昇の2.02%で月を終えた。

<アジア現地通貨建て債券のリターン>
過去1ヵ月(2019年6月末~2019年7月末)

過去1ヵ月(2019年6月末~2019年7月末)

過去1年(2018年7月末~2019年7月末)

過去1年(2018年7月末~2019年7月末)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)リターンはMarkit iBoxxアジア・ローカル・ボンド・インデックス(ALBI)およびその各国インデックスに基づく。各国インデックスの債券のリターンは現地通貨ベース、各国インデックスの通貨とALBIのリターンは米ドル・ベース。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

域内の大半の国でインフレ圧力が緩和
フィリピン、インドネシア、シンガポールおよびタイでは、総合CPIインフレが鈍化した。フィリピンの6月の総合CPI上昇率は、比較的広範な品目における物価の伸びの鈍化を受けて、前月の前年同月比3.2%から同2.7%へと減速した。インドネシアでは、ラマダン(イスラム教の断食月)が終わってモノやサービスの価格が通常の水準に戻るなか、6月の年間インフレ率が減速した。タイでは、食品価格が上昇するもそれを相殺する以上に輸送費の伸びが鈍化したことから、6月の総合CPIが前年同月比0.9%と前月の同1.1%から減速した。また、シンガポールでは、原油価格や車両購入権(COE)価格の下落を主因に総合CPIの伸びが鈍化した。その他、韓国と中国の総合CPI上昇率は前月の水準から横ばいとなった。

インドネシアおよび韓国の金融当局は政策金利を引き下げ
インドネシア中銀は当月、政策金利を0.25%引き下げて緩和サイクルを開始した。同中銀のペリー・ワルジヨ総裁は、今回の利下げ実施の背景として、インフレが低水準にあるとともに国内経済の成長押し上げが必要である一方、外的要因による圧力は和らいでいると述べた。注目すべきは、ワルジヨ総裁が金融政策には引き続き追加緩和余地があると付け加えたことだ。その他では、韓国銀行も0.25%の利下げを発表するとともに、2019年についてGDP成長率予想を2.5%から2.2%へ、通年のインフレ率予想を1.1%から0.7%へと下方修正した。今回の政策決定後に発表された韓国銀行の李総裁のコメントは明らかにハト派的な内容で、同総裁は経済成長見通しを下方修正した要因の1つとして韓国の日本との対立を挙げ、「景気回復を下支えする必要性が増している」とした。

インド政府は財政健全化路線の2020年度予算案を発表
インドのニルマラ・シタラマン財務相は就任後初となる連邦予算案を発表したが、これが財政赤字を対GDP比で3.4%から3.3%に削減する内容であったため、市場にとってはポジティブ・サプライズとなった。同財務相の予算教書演説によると、住宅関連の税金や小規模企業の法人税が引き下げられる一方、高所得者に対する税金や輸入関税は引き上げられるほか、インフラ投資の拡大にも重点が置かれ、政府は民間の参加を拡大させる意向だ。一部の国営銀行に対する7000億インドルピー規模の資本注入や、シャドーバンキングを行う金融機関をサポートするための信用保証も発表された。さらに、同国政府が小売、保険、メディアおよび航空業界における外資規制緩和を進める意向であるとの言及もなされた。注目すべき点として、シタラマン財務相は、財政赤字の一部を同国初となる海外市場でのソブリン債発行によって賄う予定であることを明らかにし、それを受けてインド国債の価格は上昇した。

中国は一部のオフショア債券発行要件を強化、国内市場の開放推進計画を発表
李克強首相は、中国はすべての企業が平等に競争できる環境の創出に取り組んでいると言明し、国内金融業界の開放について新たな計画を発表した。国務院金融安定発展委員会によると、まず、生命保険会社、証券会社、先物取引業者および資産運用会社を対象とする外資規制撤廃が、当初予定よりも1年早い2020年に実施される。また、NDRCが不動産デベロッパーのオフショア市場での債券発行要件を厳しくした。中国の不動産会社によるオフショア債券の新規発行が認められるのは、その調達資金の使途が向こう1年以内に満期を迎える中期または長期のオフショア債券の借り換えである場合に限定されることになる。

今後の見通し

キャリーが中~高水準の債券を引き続き選好
当社では、キャリーが中~高水準で当面の金融政策に一段の緩和余地がある国の債券を引き続き選好する。特に強調したいのは、インドネシア中銀が金融政策の緩和サイクルを開始したことだ。同中銀のペリー・ワルジヨ総裁は、FRBが金融政策を緩和する見込みであること、インフレが引き続き落ち着いていること、通貨ルピアと経常収支が比較的安定していることから、以前の一連の利上げを2019年に巻き戻す余地が増しているとも示唆した。これらの要素に加えて良好な需給バランスにより、インドネシア債券は堅調に下支えされると見られる。同様に、インドおよびフィリピンの中銀についても、インフレ率がそれぞれの目標レンジ内に十分に収まっていることから、追加利下げを行う余地があると見ている。

シンガポールドルおよび韓国ウォンに対しては慎重な見方
通貨においては、シンガポールドルおよび韓国ウォンに対して慎重な見方をしている。シンガポールの製造業および電子機器業界の景況感指標は直近、さらなる悪化を示している。このことを受けて、シンガポールドルの名目実効為替レートは再び圧力に晒されており、MAS(シンガポール金融通貨庁)による為替政策緩和のリスクが高まっている。外需依存型であるシンガポール経済は、貿易をめぐる悲観ムードに引き続き苦しむ可能性がある。さらに、ECBのハト派姿勢やブレグジット(英国のEU離脱)をめぐる先行き不透明感による下方圧力に晒されているユーロや英ポンドとの相関性が高いことも、シンガポールドルに対するセンチメントにさらなる悪影響を及ぼすと見られる。同様に、韓国ウォンについても、日韓間の貿易をめぐる緊張の高まりや依然として弱い世界の貿易環境を背景に、軟調な推移が続く見通しだ。

アジア・クレジット

市場環境

7月のアジアのクレジット市場はリターンがプラスに
7月のアジアのクレジット市場は、米国債利回りが上昇する一方で信用スプレッドの縮小がプラスに寄与し、トータル・リターンが0.58%となった。スプレッドの縮小幅は投資適格債で0.07%、ハイイールド債で0.02%となり、トータル・リターンはともに0.58%となった。

米国の非農業部門雇用者数の好調さや米中貿易戦争の休戦に下支えされたリスク選好ムードを受けて、信用スプレッドは月初から縮小した。その後、FRB高官がハト派的な発言を行ったことも追い風となり、スプレッドの縮小傾向が続いた。中国の第2四半期GDP成長率は20年超ぶりの低水準となる前年同期比6.2%へと減速したものの、6月の経済活動やマネー・信用関連の指標が持ち直したことから、景気減速の長期化懸念は和らいだ。月の中盤には、インドネシアのクレジットものに関する個別要因が嫌気され、ハイイールド債分野を中心に地合いが軟化しスプレッドはじわりと拡大した。しかし、投資適格債については、FRBの金融緩和と米中貿易交渉の両方について楽観的な観測が広がったことが支援材料となり、月末にかけてスプレッドが再び縮小に転じた。国別では、インドネシアのソブリン債および準ソブリン債が新興国市場への継続的な資金流入の恩恵に浴し、同国のハイイールド債が個別要因による悪影響を受けるなかにあっても、アウトパフォームした。また、インドのクレジット市場も、政府が予算教書演説のなかでノンバンク金融会社に対する資金調達支援策を明らかにしたことや、海外市場でのソブリン債発行が検討されており、それが実現すれば同国投資適格債のプライシングの見直しにつながる可能性があることなどを受けて、好調なリターンとなった。

7月も新規発行が引き続き膨らむ
新規発行は7月も引き続き膨らんだ。投資適格債分野では、いずれもインドネシアの準ソブリン債であるPt Pertamina (Persero)のディール(2トランシェで15億米ドル)とPerusahaan Listrik Negaraのディール(2トランシェで14億米ドル)を含め、計33件(総額176億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計41件(総額143億米ドル)に上った。

<アジア・クレジット市場の推移>

アジア・クレジット市場の推移

(期間)2018年7月末~2019年7月末
(注)JPモルガン・アジア・クレジット・インデックス(JACI)(米ドル・ベース)を、2018年7月末を100として指数化。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

追加金融緩和が実施され貿易面の悪材料が一部相殺される見通し、当面はスプレッドが小幅に拡大する見込み
米中間の貿易交渉に再び急展開が訪れ、トランプ米大統領は8月1日、米国へ輸入される約3000億米ドル相当の中国製品に9月1日より10%の関税を課すと発表した。当社では、貿易摩擦の最終的な解決は依然見通しが不透明で当面は実現しそうにないと見ていたが、市場にとっては今回の動きは概ね予想外の展開であり、リスク・センチメントに明らかに悪影響を及ぼしている。しかし、このように貿易摩擦がエスカレートしていることに加え、世界的に製造業景況感が引き続き弱いことから、主要中央銀行はハト派寄りの姿勢を維持するか強めると見られる。追加金融緩和観測は貿易面でのネガティブな動向の影響を一部相殺するであろうが、当面のアジアのクレジット市場では、特にバリュエーションの魅力度が低下しているため、スプレッドが小幅に拡大すると依然予想している。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。