KAMIYAMA Reports vol. 149

  •  ここがポイント!
  • ✔ デンマーク経済は安定的
  • ✔ 不動産市況にバブルの兆しは見えない
  • ✔ 円債代替としてのカバードボンドへの投資

デンマーク経済は安定的

7月29 日~8月2 日に、ドイツのフランクフルトとデンマークのコペンハーゲンを視察する機会を得た。各地で中央銀行(ECB(欧州中央銀行)とデンマーク国立銀行)や民間エコノミストなどの見方に接したが、以下の内容は、筆者の総合的な感想としてお伝えする。

実質GDP成長率と物価の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

デンマークの債券(特に不動産融資を裏づけとするカバードボンド)への日本の機関投資家の興味は非常に強い。為替をフルヘッジしてもプラスの利回りが出やすい状況にある数少ない先進国債券であることが理由だろう。つまり円債代替の投資先として注目されているといえる。

デンマークは、通貨ユーロではなくデンマーク・クローネを使いながら、ユーロとペッグ(おおむね固定するように金融政策を行う)している。それゆえ、ユーロ圏の金利水準や金融政策はデンマーク経済と深いつながりがある。しかし、このレポートでは、デンマークの状況に絞ってお伝えする。

デンマーク経済は順調といえる。実質GDP成長率は、2017年中ごろにいったん落ち込んだが、2018年中ごろから順調に回復しており、2019年に入っても穏やかではあるが成長を続けている。今後1.7%程度の成長(中央銀行予測、2020年)が見込まれており、減速するが健全との見方が有力だ。先進国経済全般にいえるが、アンケート結果(消費者や製造業の信頼感指数など)などは弱い傾向にあるが、経済指標はそれほど悪くない。物価は、先進国のトレンドに沿って長期的に低下傾向であるものの、景気の回復とともに安定している。

不動産市況にバブルの兆しは見えない

注目される不動産市況について、リーマンショック前から見るといったん落ち込んでいた不動産価格は2012年ごろから上昇に転じ、2017年ごろまでにリーマンショック直前のピークを抜いてきた。それゆえ、不動産価格のバブルを不安視する声もあったようだ。しかし、価格を変化率でみると、その勢いが弱くなってきている。これを現地では「ソフトランディング」とみなす声が多かった。

不動産価格(前年同月比)の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

足元、2015年ごろまで勢いのあった不動産価格はおおむね減速しており、このところやや軟調に推移している。左図は全国の状況を示しているが、特に上昇が著しかった首都コペンハーゲンのマンション価格は、2017年ごろから弱含み横ばいで、首都圏の戸建て住宅価格もおおむね似た動きとなっている。

デンマークでは、総じて家計が負債を減らす動きが強まっており、消費よりも貯蓄を増やす傾向もみられる。これは世界的な若年層の不安感に基づくとも考えられるが、デンマークの場合、社会保障や住宅供給公社的な仕組みの充実で、必ずしも家を買わねば将来が不安ということはないようだ。それゆえ、住宅価格が高くなりすぎるとニーズが減りやすいと考えられる。

また、原則として投機的な住宅投資ができない仕組みとなっており、いわゆる投資用の住宅購入へのローンの利用が極めて限定されている。つまり、値上がりを見込んだ個人がローンを利用して投資用に住宅を買うといったことが難しいことも、バブルの発生を抑える要因となる。

 

円債代替としてのカバードボンドへの投資

デンマークで印象的だったことは、多くの関係者が、住宅ローンやその証券化の一種であるカバードボンドについて、政治家がよく理解しているとコメントしていたことだ。欧州では住宅ローン債権などの資産を裏づけとしてカバードボンドを発行する国が多いが、特にデンマークでは制度が適切に運用されているように、公的な住宅供給、バブルを抑えるローンの仕組みなどがうまく設定されているようにみえた。例えば、カバードボンドを含む債券市場が、銀行破たんなどを理由に大きく揺れ動くとすれば、政府の役割が重要となる。デンマークでは、カバードボンドの発行は銀行の専門子会社(モーゲージバンク)が取り扱うことが多い。しかし、親会社の銀行とカバードボンドは基本的に切り離されている。また、デンマークの規制は相対的に厳しく、モーゲージバンクは原則として、融資を受けた人と債券を購入した人との間に入るだけで、自分たちの資金として運用したり別の目的に利用することができない。デンマークでは、このようなカバードボンド市場が大事であるときちんと認識されている印象が強かった。

デンマークのカバードボンドは、期中償還の条項がついていることから高い利回りが期待され、円フルヘッジ(為替リスクを限りなく回避)でもプラスの投資ができるとすれば、一種の裁定機会といえそうだ。厳密には、日本では同種の債券はないだろうし、日本で同じような円建て資産を探しても、利回りがマイナスになるなど、リターンが低すぎる可能性がある。

デンマーク国立銀行前にて

日興アセットマネジメント(英国)グローバル債券運用チームのSteve(左)とAndre(中央)と筆者(右)

先進国の債券を円でヘッジして、ある程度高い利回りが期待できる投資方法は、円債代替といわれる。円債代替の目的は、くれぐれも円建てでの元本保全(元本保証という意味ではない)であり、国や会社の成長によるリターンの追求ではない。ただし、投資する際は、投資対象国の制度、金融市場や不動産市場の状況、金融システムなどをプロの目でモニターしていく必要があるだろう。