本レポートは、2019年9月発行の英語版「ASIAN EQUITY OUTLOOK」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 8月のアジア株式市場(日本を除く)は、一時的な休戦状態にあった米中貿易戦争が再燃し両国が新たな追加関税合戦を繰り広げるなか、月間リターンが米ドル・ベースで-4.4%となった。
  • アジアの各国株式市場は軒並みリターンがマイナスとなったが、特に大きな打撃を受けたのは香港とシンガポールだった。香港では、大規模なデモ活動が続いたことが嫌気されて株価が大幅に下落し、米ドル・ベースの市場リターンが8%を超えるマイナスとなった。シンガポール市場は、政府が通年のGDP成長率の予想レンジを従来の1.5~2.5%から0~1%に引き下げたことを受けて下落し、リターンが-6%となった。
  • 台湾市場は、月末にかけて半導体株が反発したことから下落幅が抑制され、相対的に最も底堅いパフォーマンスを示した。マレーシアは、域内の経済減速傾向に反し、2019年第2四半期のGDP成長率が前年同期比4.9%と事前予想を上回った。
  • 株式市場は下落したものの、足元のアジアには、相対的に割安なバリュエーション、汎用性テクノロジー部品の価格底入れ、金融および財政政策の緩和など、見過ごされているポジティブな材料が幾つかある。

アジア株式市場

市場環境

8月は相場が下落するも好材料が増加
8月初めに、ドナルド・トランプ米大統領が、9月1日付けで3000億米ドル相当の中国からの輸入品に新たに10%の追加関税を賦課するという予想外の発表を行ったことを受けて、アジア株式市場はセンチメントの悪化に見舞われた。後に同大統領は、一部の輸入品目については追加関税の発動を12月15日へと延期した。

中国は報復的措置として、対米ドルで11年来の水準への人民元安を容認すると同時に、750億米ドル相当の米国製品に対し9月1日および12月15日付けの2回に分けて5~10%の追加関税を新たに賦課するとした。トランプ米大統領は直ちにこれに応酬し、中国製品に対する現行のすべての関税を10月1日に25%から30%に引き上げるのに加えて、9月1日に発動予定の追加関税を10%から15%に引き上げることを発表した。

アジア株式市場は数週間にわたって売りが続いたが、月末にかけては、トランプ米大統領が中国は貿易について「交渉妥結を望んでいる」と述べるとともに、中国の劉鶴副首相も米中間の貿易をめぐる緊張の緩和を求めたことを受けて、反発を見せた。月終盤には相場が上昇したものの、アジア株式市場の月間リターンは軒並みマイナスとなり、なかでも香港とシンガポール市場が最も打撃を受けた。一方、台湾およびタイ市場は相対的に最も底堅い展開となった。

株式市場は下落したが、足元のアジアには見過ごされているポジティブな材料が幾つかある。相対的に割安なバリュエーション、汎用性テクノロジー部品の価格底入れ、金融および財政政策の緩和などだ。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年8月末~2019年8月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年8月末を100として指数化(全て米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年8月末~2019年8月末
(注)アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

香港市場が大きな打撃、台湾市場は底堅く推移
香港市場は、現地で大規模なデモ活動が続いていることが嫌気されて下落し、米ドル・ベースのリターンが-8.3%と8月のアジア株式市場のなかで最も低調なパフォーマンスとなった。社会的混乱の続くなか、香港政府は、同特別行政区における政治危機の高まりや米中貿易戦争の長期化が同区経済の大きな重石となっていることから、191億香港ドル規模の景気支援策を発表した。

その他、韓国市場は、日本との貿易をめぐる緊張が高まったことを受けて下落し、米ドル・ベースのリターンが-5%となった。同国の株式指数で大きな構成比率を占めるSamsung Electronicsの株価が振るわなかったことも、市場の足かせとなった。贈賄罪に問われていた同社継承者の李在鎔副会長について、執行猶予付きとした二審判決の審理差し戻しを最高裁判所が決定したことを受け、同社株の8月のパフォーマンスは市場に劣後した。

中国では、政府が個人消費支出を押し上げるための一連の措置を発表した。しかし、米中貿易摩擦の激化や人民元の大幅下落が市場センチメントを悪化させたため、中国株式は下落し米ドル・ベースのリターンが-4.2%となった。北アジアではその他、台湾市場が相対的に底堅い展開を見せ米ドル・ベースのリターンが-2.2%となった。月末にかけて半導体株が反発したことから、下落幅が抑制された。

インド市場はルピー安を受けて下落、アセアンではシンガポール市場が最も低調なリターン
インド市場は、ルピー安を主因として米ドル・ベースのリターンが-2.9%となった。インドの2019年第2四半期のGDP成長率は、6年ぶりの低水準となる前年同期比5%へと大きく減速した。当月、インド政府は景況感を押し上げて経済を下支えするために、国内外の株式投資家に対する増税案の撤回や国営銀行の一連の合併(6行を財政基盤がより堅固な4行に統合)など、多数の景気刺激策を発表した。

アセアン内では、当月はシンガポールが最も低調なパフォーマンスを見せ、米ドル・ベースのリターンが-6%となった。シンガポール政府は、世界経済の見通し悪化を受けて、通年のGDP成長率の予想レンジを従来の1.5~2.5%から0~1%に引き下げた。マレーシア、インドネシアおよびフィリピン市場は米ドル・ベースのリターンが3%超のマイナスとなる一方、タイ市場はこれよりもややましな-2.5%となった。マレーシアは、域内の経済減速傾向に反し、2019年第2四半期の経済成長率が堅調な内需を追い風として第1四半期の前年同期比4.5%から同4.9%へと加速し、事前予想を上回った。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年7月31日~2019年8月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年7月31日~2019年8月31日)

過去1年間(2018年8月31日~2019年8月31日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年8月31日~2019年8月31日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)株式リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、過去のデータに基づく過去のパフォーマンスは将来の運用成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

見過ごされているアジアの好材料
当月は、貿易戦争の激化や経済成長率の鈍化、地政学的リスクの高まりを受けて、市場全体にとって厳しい月となったが、当社としては、足元のアジアには一方で見過ごされているポジティブな材料が幾つかあることに触れておきたい。そのような材料には、相対的に割安なバリュエーション、汎用性テクノロジー部品の価格底入れ、金融および財政政策の緩和などが含まれる。

中国は依然として「量より質」への転換とそれに伴う成長鈍化にコミットしていることから、同国が世界はもとよりアジア地域の経済成長を大きく回復させるために必要な信用や財政の拡大に踏み切る可能性は低い。同国はより抑制的な姿勢を継続している様相であり、金融システムや政策の波及経路における広範な問題の改善に取り組んでいる。経済成長率が低水準ながらも着実なペースで推移している現在の環境下、当社では、国内の構造的な成長や再編が見込まれる分野、すなわちヘルスケア、保険、ソフトウェアおよび一部の消費関連サブセクターに引き続き注目している。

興味深いことに、中国A株市場は、貿易や景気減速に関してあらゆるネガティブな報道に見舞われたにもかかわらず、依然として年初来で10%超上昇している。この非常に有望な市場では、今や中国で最もクオリティーの高い企業に投資することができるが、その多くは市場再編や消費傾向が追い風となっている。
香港の件は、特別行政区および中国本土の両当局にとって依然重大な問題だ。中国本土では現在、抗議活動に反感を持つ向きが優勢となっている。中華人民共和国の建国70周年を10月1日に控え、中国当局が混乱の収束を望んでいることは間違いない。当社では、香港市場に対して相対的に弱気な見方を維持する一方、同市場の保険および資本市場セクターから厳選した銘柄を引き続き選好する。

インドとインドネシアに対して楽観的
インドは、モディ政権が今後5年に向けてより高い信任をあらためて獲得したこと、そして政府が重要な改革を推し進める意向を示したことにより、同国がそのポテンシャルをフルに発揮するのを阻んできた根強い多くの問題(十分な資本へのアクセス、労働改革、インフラ開発など)を解決する好機がもたらされている。積極的な金融緩和に加え、財政政策の緩和や、資本増強の加速や合併を通じて経営難の国営銀行を改革する取り組みが実施されている。このような改革は、経営陣の焦点が融資ではなく合併に向けられることを踏まえると、当面は景気減速につながる可能性があるものの、より長期的にはポジティブな効果をもたらすだろう。当社では、成長加速の恩恵を受けやすく財政基盤が堅固な民間セクターの銀行に対して強気な見方を維持するとともに、不動産開発会社や消費関連分野の一部の銘柄を引き続き選好する。

テクノロジー株の比重が大きい台湾および韓国市場については、有望な投資先が見出しづらい。しかし、テクノロジー業界のリーディング企業が最近楽観的な姿勢を示していること、汎用性テクノロジー部品の価格が底入れしていること、中国がサプライチェーンのローカル化に継続して取り組んでいることから、追い風を受ける一部の銘柄については慎重ながらも楽観的な見方が妥当と考える。当社では、ヘルスケア、5Gコンポーネント、電気自動車技術など、国内の低調な景気動向の影響を比較的受けにくいニッチ分野のリーディング企業を引き続き有望視している。

アセアン地域では、引き続きインドネシアを選好する。その主な理由は、ジョコ・ウィドド政権があらためて得た信任を後ろ盾として政策の成果を出しやすいことにある。また、同国の政策当局が法人税引き下げによる財政面からの景気対策を推奨していることも、注目に値する。インドネシアが経済成長の軌道を真に上向きにシフトさせるには、インドと同様、大幅な改革が必要となるだろう。しかし当社では、名目成長率が8%と相対的に堅調であることや、経済活動が緩やかに回復していることから、他の市場と比較して魅力度が高いと考えている。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注)PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメントアジアリミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメントアジアリミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。