KAMIYAMA Reports vol. 150

  •  ここがポイント!
  • ✔ 円高で米ドル建て金価格が上昇しても儲からないのか?
  • ✔ 金の価格と採掘コストの関係
  • ✔ アロケーションに含める意義

円高で米ドル建て金価格が上昇しても儲からないのか?

株式や債券など、複数の資産を組み合わせる時に金を含めることがある。この場合、できるだけ保有資産全体のリスクを減らし、安定的なパフォーマンスを目指す目的で利用されることが多い。一方で「金投資は儲からないのでは?」、「円高で米ドル建て金価格が上昇するなら、円建ての投資は必要ないのでは?」、などの疑問があるだろう。その答えは、後述する要因から、金は上昇トレンドを持ちうるので、円建て投資の一部に含めておいて良い、ということだ。

米ドル建てと円建ての金価格の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

世界的に見ると、金は米ドル建ての取引が中心だ。金は古来より貨幣として用いられてきたし、近代まで主要国は金本位制という通貨体制の下にあった。米ドルは、いわゆるニクソンショック(1971年8月の米ドル紙幣と金との兌換停止)まで、金との交換が可能であったが、それ以後、主要国で金が通貨であることはなくなった。

しかし、宝飾品や工業製品の原料としての需要に加え、金は価値を保全するための金塊としての需要がある。米ドルと金は直接交換できないにしても、例えば米国の景気悪化で米国金利が低下するとき、米ドルの価値が他通貨に対して低くなるとみれば、米ドル建てで金を買えば、より高い価値が保全されると考えることが可能だ。こうして、米国経済と米ドルが弱いときの代替として、米ドル建ての金が投資先となった。

では、単に金が米ドルの代替としての投資であった場合、円建ての金投資に意味があるのだろうか。2000年12月末からの金価格の月次パフォーマンスを米ドル建てと円建て(米ドル建てを月末の米ドル(対円)レートで円換算)で測定してみると、意外なことに、米ドル建ても、円建ても右肩上がりのトレンドを見いだしている

2008年のリーマン・ショック後の数年間は、米ドルが弱いことで(日米の金融政策のズレによる円高時期)、米ドル建ての金価格が相対的に大きく上昇した(円高で金上昇のリターンを多く得られなかった)が、そのサイクルも黒田日銀総裁の“バズーカ”(大胆な金融緩和策)などで元に戻った後は、米ドル建ても円建ても長期のパフォーマンスは類似している。

金の価格と採掘コストの関係

2000~2018年のトレンドが今後も続くとすれば、円建ての金投資は、単なる米国の景気サイクルの逆のリターンが期待できるだけでなく、何かの価値を代替する投資対象かもしれない。

金価格(米ドル建て)と米ドル(対円)の推移

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

米ドル建ての金価格は、2002 年に313 米ドル/トロイオンス(月次平均)であった。その当時の総生産コスト(減価償却を含む)は、233 米ドル/トロイオンス程度であった。10年後の2012 年に金価格が1,678 米ドル/トロイオンス(月次平均)であったころは、総生産コストは、970 米ドル/トロイオンス程度になっていた。
(ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズの資料などより)

 

つまり、掘り出すコストを決める物価の水準が金価格を下支えする、といえそうだ。鉱山会社の総コストには、総生産コストに間接費用などが加わるので、現時点で1,200~1,300 米ドル/トロイオンス程度のコストが想定される。それゆえ、金価格が長期的に300 米ドル/トロイオンスなどに下落するとは考えにくい。

 

もっとも、鉱山会社の総コストが1,200~1,300米ドル/トロイオンス程度でそれほど変わっていないとすれば、2012年ごろの1,700米ドル/トロイオンスを中心とした価格推移は割高だった可能性が高い。その後の価格推移だけをみると、トレンドを失った金価格が、米ドル(対円)のトレンドの逆の動きをしているようにも見える。金そのものは古来から掘り出されてきた分が消費されて無くなるわけではないので、掘り出すほどに地上で使うことができる金の総量は増える。それでも世界経済の発展で、金の宝飾品として、あるいは価値保全の資産としての需要が総量で増えるのであれば、現時点の金を掘り出すコストが、現時点の金価格に強い影響を与えるはずだ

 

アロケーションに含める意義

このように考えると、保有資産の組み合わせを決める(アロケーション)際に、金を含める意味は大きく二つある。まず、金への需要が世界の人口増や経済拡大とともに安定して高いのであれば、金価格は掘り出すコストの増加とともにトレンドをもって上昇すると期待できる。もちろん、金利や景気サイクルの影響を受けて、為替の影響が強くなる時期もあるが、長期でみるとコストに基づくトレンドはありそうだ。

もうひとつは、金が持っている、米ドルや株式と逆の動きをする性質だ。長期的には、それぞれが価値を生み出すと期待できるが、短期的には逆方向に動く(つまりサイクルをお互いに打ち消しあう傾向)ことで、リスクを抑えて安定的なリターンを得るためのアロケーションに貢献する可能性が高いことだ。

企業が努力や工夫で生み出した価値の中から、配当や金利で投資家に分配される株式や債券などの証券と違い、金は商品取引なので投資とは言えない、といった意見がある。しかし、幅広く世界の成長に期待する株式やREITへの投資と、元本の保全を目的とする債券への投資に加え、金のような代替的な資産を投資の一部に含めることには意味がありそうだ。