KAMIYAMA Reports vol. 152

  •  ここがポイント!
  • ✔ ESGのメインストリーム化を感じるPRIコンファレンスへの参加
  • ✔ フランス国債投資、マイナスの利回りで新規に買いにくいが投資継続

ESGのメインストリーム化を感じるPRIコンファレンスへの参加

2017年7月、2018年9月に続きフランスを訪問し、PRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)のコンファレンスへの参加、さらにフランス政府の国債庁でヒアリングする機会を得た。コンファレンスの内容や出席者のコメント、政府担当者との対話内容を直接伝えることはできないので、以下では、筆者の総合的な感想を記す。

日興アセット(アジア)のESGスペシャリストと
日興アセット(アジア)のESGスペシャリストと

コンファレンス会場にて、筆者撮影

PRIとは、国連事務総長であったコフィ・アナン氏の提唱で2006年に作成した投資原則のことで、ESG(環境、社会、企業統治)の課題を投資の意思決定や株主としての行動に組み込む際に支援を提供することを目的としている。弊社は運用会社として2007年にPRIの原則を受け入れる署名をした。今回のコンファレンス「PRI in Person 2019」には、弊社グループからは日興アセットマネジメント アジア リミテッド(シンガポール)のESGスペシャリスト、Wong Dan Chi(写真右)も参加した。コンファレンスには、投資家のほか日本の金融庁や取引所からの参加者を含む1,700名以上(主催者発表)が世界中から参加し、この問題に関わる主要プレイヤーやリーダーの講演を聞いたり、関係者のパネル討論などを通じて世界のベストプラクティスを学んだ。また、多数の参加者との会話から、世界の状況を把握する機会を得た。

今回のコンファレンスを通じて、ESG投資がメインストリーム化(普通の投資プロセスに含まれてきた)する感触が強まった。例えば参加者の質について、環境と経済の問題を考える専門家よりも、データ提供や運用プロセス強化の宣伝などに関わる参加者が増えているようだった。さらに、環境や社会課題に起業家と投資家がどう対応するかという話題から、企業の財務諸表の開示で環境や社会問題解決への努力をどのように扱うかなど、投資の現実に対応しようとする議論が増えており、今後も幅広い投資家の参画が続くとみる。また、今回のPRIでは、政府や規制当局への働きかけが企画として新しい、との指摘があった。PRIとしては、企業と投資家の対話活動の支援だけではなく、今後、経済・環境政策や取引所などを含む上場・取引規制にも働きかける必要性が高まっているとみているようだ。

PRIなどを通じて行われる今後の投資家と企業との対話の課題は、将来の企業の売上増、コスト減、リスク低下など企業価値に直接つながる問題としてのESGに関わる対話と、環境、人権や社会問題などでしばしば取り上げられる企業ごとの配分が難しい社会コストの計測や企業価値評価への配分の問題になってくるだろう。前者は、ESG投資のメインストリーム化をけん引してきた。経営者が経営の目的やビジョンを非財務情報として投資家に提供する意味を持たせることにも貢献した。しかし後者については、企業ごとの価値を判断するためにどのように情報を集めてコスト計上するのか、という投資の観点での議論が不足している。緊急性が高く法制度の充実などを待てない部分について、企業や金融機関が社会的責任の認識に基づき行動すること(例えば多国籍企業が新興国で環境を適切に守ろうとするなど)は適切だが、そこで必要となるコストと社会的便益の改善とが個別企業の将来価値に計上可能かを考える視点は、金融機関と投資先企業のみならず、政府や規制当局、国際機関などを含んだ議論を必要としている。

フランス国債投資、マイナスの利回りで新規に買いにくいが投資継続

フランス国債には、日本から「イールド・ハンター」の資金が流入し続けていた。例えば日本の地方銀行は、日銀のマイナス金利が預金金利を下回ることにさいなまれ、少しでもプラスの円建ての利回りを求めて世界の投資機会を探してきた。フランス国債は欧州の中でもクレジット(格付け)が高い割りに利回りが高く、円ヘッジしてもプラスの利回りを確保できることが多かった。

(信頼できると判断したデータをもとに日興アセットマネジメントが作成)
*上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

しかし、足元のフランス10年国債利回りは、ドイツの金利低下とともにマイナス利回りの域に達してきた。期間損益を気にする機関投資家としては、円建て(フルヘッジ)で必要な利回りを確保できないことが多くなった。ここからの追加の買い付けは難しい状態となっている。

発行側のフランス政府は、日本の機関投資家が今後どのような方向に投資先を変えていくかに興味を持っているようだった。日本の投資家は、米国ではクレジットリスクを増やすことで利回りを高めることが多いが、欧州では一部を除き国によって仕組みや法制度が違うので、クレジットリスクを取りにくいと考える向きが多い。利回りの高い年限を選ぶなどの動きが増えるかもしれない。また、クレジットリスクを増やす場合、利回りの高いイタリアなどに資金が向かいやすくなる。

フランスの経済状態はドイツより少し高い成長率が予想され、サプライサイド改革で1.3%程度と期待される潜在成長率よりも高い成長率も期待できる。景気サイクルは減速しているものの、企業の利益率はリーマンショック前の水準に戻っていることから、総じて健全な経済といえそうだ。また、改革による労働者の教育プログラムの進展が賃金の成長につながっているとすれば、実質的な成長が期待できる。

財政状況は経済改革の一環で一時的に社会保障費が拡大するが、一度限りとされており、今後の財政状況の改善が期待できる。ただし、政府に抗議する黄色いベスト運動やストライキの頻発などが社会不安を増長した場合、その対応策として財政支出の増加は引き続き懸念されるが、PRI参加者の声などを含めると、今後抗議拡大の恐れは縮小しているようだ。ブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)の影響はネガティブだが、フランス政府の財政を変えるほどのインパクトがあるとは想定していない。マイナス金利でも新規の買い付けが良い投資になるかは、投資家の目的次第だが、保有継続に問題は感じられなかった。