KAMIYAMA Reports vol. 153

  •  ここがポイント!
  • ✔ 弾劾成立の可能性は低い
  • ✔ 法律の専門家の要請と政治的な意味は違う
  • ✔ 2020年米国大統領選の見方

弾劾成立の可能性は低い

トランプ米大統領の弾劾調査が、野党・民主党が多数派である下院で行われる。内部告発者は、米大統領がウクライナ大統領との電話協議において、2020年の米大統領選挙で自分が有利になるような発言を行ったことが法的に不適切だと考えた。トランプ政権側は、バイデン前副大統領が、同氏の次男が幹部を務めたウクライナのガス会社への捜査に介入したかを単に調べようとした、と主張した。

(米国大使館などの情報をもとに日興アセットマネジメントが作成)

民主党のペロシ下院議長は、この件が共和党大統領を攻撃するチャンスとみたわけではない。民主党の次期大統領選候補と目されるバイデン氏に関わる問題でもあり、実態解明が民主党に有利に働くとは限らないだろう。しかも下院が弾劾訴追したとしても、弾劾には上院で3分の2の賛成が必要で、共和党が過半数の上院では弾劾が通る可能性はほとんどない。仮に有罪になったとしても、大統領職は共和党のペンス副大統領に移るにすぎない。

法律の専門家の要請と政治的な意味は違う

なぜ、ペロシ議長は弾劾調査開始に同意したのか。そもそも上でも述べたように、内部告発者は電話内容を知ることができた政権の官僚だったとすれば、もともとの告発者は法律の専門家だったかもしれない。

(米国大使館などの情報をもとに日興アセットマネジメントが作成)

政治家というよりも法律の専門家のほうが、大統領の電話内容が「疑わしい」と強く感じた可能性がある。大統領選を控えて、対抗馬と目されるバイデン氏の家族に関わる問題を、大統領以外の者が簡単にはできない他国大統領への電話内容を話題にしたからだ。現在のウクライナは米国への依存が大きいので、トランプ氏の発言に力があるともいえる。もっとも、明確に何かと引き換えに要求をしたのではないだろうし、分かりやすく犯罪的ともいえない。しかし、法律的には疑義があるのだから、専門家として告発しなければ、良心が痛みかねない内容だったのではないかと思われる。

一方で、政治的には、この電話内容はそれほど重要にみえない。選挙戦の争点にするには二つの問題がある。一つは、バイデン氏が次期大統領選の民主党候補の一人であることだ。このこと自体はバイデン氏が「シロ」であるとしても、有権者には「どっちもどっちだ」と思われかねない。ただし、その後出てきた豪州首相との電話会議での疑惑を含めると、政治的にも攻撃すべきとの判断に変わってきた可能性はある。

もう一つは、民主党が勝ち目のない弾劾で単なる反対野党とみなされてしまうリスクがあることだ。弾劾調査から始まる手続きの中で、当然のことながら他の法案審議などが停滞し、予算審議の遅れや国民が不便を感じるような問題が起こりかねない。共和党が過半数を占める上院で3分の2の賛成が必要とはいえ、仮にトランプ大統領に決定的な問題があれば、共和党議員も弾劾に賛成するかもしれない。しかし、今回のように直接の被害者がいないような事案で、日本で言えば「忖度」問題のような内容(ウクライナへの捜査依頼に対して見返りの提示などをしていないとみられる)であるがゆえに、共和党議員が造反する可能性は低い。

結局、トランプ大統領の電話内容は、法的には専門家が疑問を感じる内容とはいえ、ウクライナの件のみであれば政治的には追求に値するとは言えず、いわば民主党が「筋論」でやるべきことをやっておくことにした、ということなのかもしれない。好意的に言えば、ツイートや話題提供で人気を獲得しようとするトランプ大統領に対して、ポピュリズムで対抗する(どっちもどっちだとか、単なる反対野党とみられることを避ける)ことを止めて、下院で多数派を獲得した政党として筋を通してやるべきことをやった、と歴史の判断を待つということなのかもしれない。

2020年米国大統領選の見方

次期大統領選はまだ1年ほど先だが、このところ投資家の話題として盛り上がってきている。それは、トランプ氏が「思ったより再選される確率が低い」という話題だ。

(JETRO資料や報道などの情報をもとに日興アセットマネジメントが作成)

最近の世論調査では、トランプ氏支持について農業が盛んな州(以下、農業州)と「スイング・ステート」で陰りが見られるといわれる。スイング・ステートとは、大統領選のたびに共和党か民主党か勝敗が揺れ動く州のことだ。

まず、農業州は、米中貿易摩擦で本来中国が輸入していた大豆などについて、中国からの報復にあったことで現政権への不満が強い。次にスイング・ステートには、ミシガンやペンシルベニアなど不調な産業の集積地が含まれる。トランプ氏が2016年の大統領選で、中国などで不公正に生産された輸入品が原因だとして、関税などで対抗するとしたたことが勝利の一因となった。ところが、2018年以来の貿易摩擦の後に、このような産業が好調になったとは言えず、スイング・ステートの雇用が改善したとも言いにくい。このような理由から、トランプ氏の再選の確率が下がってきたと考えられる。

今後、共和党候補はトランプ氏に一本化されると見られる。共和党員のトランプ氏支持は絶大といえ、9割程度に達しているようだ。国民全体の支持率はこれまでの大統領と比較して低く推移しているが、党内では支持されているのだ。 スイング・ステートでは顕著ではないとはいえ、国内の雇用は増え、賃金上昇と消費拡大がみられる経済の好調は現政権に有利な材料となる。

6ヵ月以内に民主党候補が見えてくるだろう。バイデン氏のほか、ウォーレン氏、サンダース氏が並ぶ。足元ではウォーレン氏の支持率が拡大しており、興味深い。ウォーレン氏は金融市場に敵意があるなどといわれるが、オバマ大統領も候補者の時にはウォール街を強く批判していた。民主党候補は総じて法人税の引き上げ、エネルギー政策見直し、国民皆保険導入などを政策として掲げている。法人税引き上げはネガティブに見えるが、対中関税を緩めれば、大きな影響はないだろう。